・全長 4,210mm
・全幅 1,790mm
・全高 1,485mm
・エンジン形式 CAX
・種類 直列4気筒DOHC
インタークーラー付ターボ
・排気量 1,389cc
・最高出力 122ps(90kW)/5,000rpm
・最大トルク 20.4kgm(200N・m)/1,500-4,000rpm
・車両本体価格 2,750,000円 (税込)
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VWゴルフの歴史は25年前にさかのぼり、今回が6代目となるが、累計生産台数が2600万台を超えるゴルフがこの間どのように進化してきたかを外観、内装写真、車体寸法も含めてまず簡単におさらいしてみたい。(カッコ内の数値は全長×全幅×全高mm)
(3,815×1,610×1,410:日本仕様LS)
第一次エネルギー危機直後の1974年、水平対向空冷エンジンをリアに搭載したビートルとは対照的な水冷4気筒の前輪駆動モデルとしてジウジアーロのデザインで登場したのが初代だ。エンジンは1.5、その後1.6、1.7Lとなる。米国にはラビットという名前で導入され、ボディータイプは3、5ドアHB、カブリオレなどがあり、GTIは1976年に登場した。
(3,985×1,665×1,415)
成功を収めた初代ゴルフの丸型ヘッドライトや独特のCピラーを受け継ぎながら、ボディーサイズを一まわり拡大し、1983年に登場したのが2代目だ。CD値は0.42から0.34へと格段に向上、基本のボディータイプは3、5ドアHBだが、各種派生車も生まれ、GTIの日本への正規輸入も始まった。1988年には累計生産台数が1000万台を突破した。
(4,020×1,695×1,420)
1991年に登場した3代目は、異形ヘッドライトや、なめらかなボディーラインのデザインに変貌、当時としては世界最高水準の衝突安全性能を実現しつつ、各種安全装備もいち早く標準装備、1.6、1.8に加えて2Lのエンジンも採用され、4ドアセダン ヴェントや、コンパクトクラスで初めての2.8L V6エンジンを搭載した「ゴルフVR6」も登場した。
(4,155×1,735×1,455)
3代目のデビューから6年後の1997年、4代目が発表されたが、このモデルから全幅が1.7mを超え3ナンバーとなった。4代目の大きなポイントは質感の向上にあり、一部にレーザー溶接を使用した高剛性ボディーの衝突安全性、操縦安定性、快適性への貢献も小さくない。このプラットフォームを活用してアウディA3、TT、ビートルなどが生まれた。
(4,205×1,760×1,485)
2003年秋に導入された5代目のゴルフは、全長、全幅、全高ともに若干成長し、ボディーパネルのレーザー溶接領域を大幅に拡大、車体剛性が格段に向上した。リアサスもトーションビームからマルチリンクに変更され、TSIツイン&シングルチャージャーエンジン、6速&7速DSGなどの革新的技術を相次いで投入、走り、燃費が大幅に向上した。
(4,210×1,790×1,485)
欧州で2008年8月に登場した6代目は、日本には2009年4月に導入された。プラットフォームは5代目がベースなので、量産効果も半端ではないはずだ。外観上はルーフパネル以外をすべて新設し、よりシンプルかつスポーティーな外観スタイルになった。それ以上に進化したのが内装で、中でも質感の向上は顕著だ。またニーエアバッグを新規に採用、9個のエアバッグが全車に標準装備された。5代目で投入済みの、シングル&ツインチャージャーTSIエンジン、ドライツインクラッチの7速DSGなどによる胸のすく走りと優れた燃費、しなやかでしたたかな足などは継承されているが、静粛性の向上も特筆に値する。
このように初代から6代までのゴルフの進化をみてくると、まさに「正常進化」であり、サイズが大きくなりすぎたという意見も一部にはあるが、ユーザーの生活環境の変化や、ポロ(1975年に導入、最新の5代目ポロは車体寸法がゴルフ2とほとんど同一)との住み分けを考えれば、妥当なサイズアップだと思う。それよりも過去をきっちりと評価しつつ、受け継ぐべきは受け継ぎ、最新のテクノロジーを惜しみなく投入して、全ての面での進化をめざしている。まさにドイツ的なものづくりの典型といえそうだ。
昨年日本市場に投入されたモデルはTSIコンフォートラインと、TSIハイラインであり、今回評価の対象として選んだコンフォートラインは1.4LのシングルチャージャーTSIエンジン(122ps)と7速DSGを搭載した現時点でのゴルフのベースモデルだ。今後ラインアップが一段と充実することは間違いない。
2009年4月から発売。
2,750,000円
ルーフパネルを除き全てのボディーパネルが一新された割には、外観スタイル上の変化は控え目だが、歴代のゴルフの特徴は継承しつつ、シンプルかつスポーティーで、全体のまとまりも良くなった。水平ラインを強調したフロントや、テールランプを含むリア周りの造形も悪くない。このような顔つきが今後のゴルフの新しい顔になるのだろうか。おしむらくはもう一歩踏み込んだ、斬新なデザインになっていても良かったと思うのだが。
外観以上に進化したのが内装デザインだ。先代は私の表現では「ビジネスライク」、「冷たい」、「色気のない」もので、「インバイティング トゥードライブ(運転したい欲望に駆られる)」という、内装にとって非常に大切なファクターが十分とはいえなかった。今回は、派手ではないが質感の高いインパネの造形、エアコンルーバーや各種スイッチ類に施されたクロームのアクセント、ホワイトイルミネーションとなり、フォントも含めて大変見やすい丸型メーター、ステアリングホイールの握りの形状と感触、見た目、座り心地ともに良好なシートなど、先代よりもずっと運転したい欲望に駆られるインテリアーに変身している。(一部には「まだ色気が乏しい」という人もいるかとは思うが)
そしてシートがいい。決して大柄ではない私にもぴったりのサイズで、座り心地が快適で、ホールド性も良好だ。また左右のフロントシートにリフターとランバーサポートがつくのもうれしい。シートの良さは前席だけではない。「開発者はちゃんと後席に座って評価しているのか?」といいたくなる国産車が少なくないだけに、ゴルフのリアシートは開発段階で後席の評価も十分に行ったものであることを確信させてくれる。ただし後席中央のトランクスルー機能は私のようなスキーファンには大変有り難い装備だが、カタログや広報資料に一切記述がないのはなぜだろうか。
超高張力鋼板や高張力鋼板を随所に使用し、広範囲にレーザービーム溶接を採用した高剛性ボディーが衝突時の乗員保護や歩行者保護性能を高めていることはもちろんだが、前述のようにニーエアバッグを新規に採用、前面衝突時のドライバーの脚部を守るとともに、9個のエアバッグが全車に標準装備された。後席のシートベルトの着用を表示する警告灯と、警告音も後席シートベルトの装着推進に有効なはずだ。一連の安全対策により2009年ユーロNCAPにおいて最高の5つ星を獲得している。また今回から専用NAVIとのセットオプションとして採用されたリアビューカメラと、それに連動して下方が見やすくなる左側ドアミラーは後退時の後方確認のために大変便利だ。
今回のゴルフは静的領域の品質向上もさることながら、動的にも一段と気持ちの良いクルマに仕上がっている。エンジン、トランスミッションは基本的には先代からのキャリーオーバーだが、122馬力という出力ながら、市街地や首都高速の領域では、出力が倍もあるスポーツタイプのクルマにもひけを取らない走りを示してくれるし、大径の超扁平タイヤを装着して喜んでいる国産車が多い中で、16インチ55タイヤは必要にして十分に路面をとらえ、大小の凹凸も実にしなやかに乗り越えてくれる。新型ゴルフは一言でいえば「あらゆるスピードで走ることが気持ちいいクルマ」に仕上がっている。
高剛性ボディー、更には5代目から採用となったリアのマルチリンクサスペンション、適切なサイズのタイヤなどに起因し、TSIコンフォートラインの乗り心地は多くの国産高級車よりも好ましいといっても過言ではない。まさに◎だ。荒れた路面を走破する際の路面からの衝撃は見事に吸収され、世界に冠たる(?)首都高速の舗装の継ぎ目ショックも非常に少ない。乗り心地の良さは前席だけではない。後席でも上質な乗り味を味わうことができる。これなら長距離のドライブも苦にならない。
ノイズ、中でもロードノイズの低さも特筆に値する。粗粒路(舗装の表面が非常に荒い路面)でのロードノイズは、このクラスでは味わったことのないレベルだ。車体剛性の高さや、ホイールハウス内の新たな遮音材などが貢献しているのだろう。また風切音も非常に低い。フロントウィンドーには音響減衰効果のある遮音フィルムを挟み込んだものが採用され、その他にもフロントサイドウィンドーの厚さを増したり、ウィンドーガイドシールを二重リップにしたり、ドアミラーを空力特性の良いものに変えたりしていることなどが貢献しているのだろう。一方で加速時のエンジン音などは適切なレベルにあり、単に静粛性だけを追求したものではない。
第5回の車評オンラインのVWゴルフTSIトレンドライン(5代目ゴルフ)では、15インチ65タイヤを装着した同モデルを、「ステアリング・ハンドリングはセンターがクリアーで、リニアリティーが高く、多くのクルマで緊張感を強いられる首都高を気持ちよく走れる」と評したが、今回のゴルフはそれにも増して心地いいハンドリングだ。センターフィールが良好で、そこから舵角をあたえると実にリニアーに反応し、低速では適度に軽いハンドルも高速では操舵力が適切に増す。電動パワステ装着車としては最も気持ち良いステアリングフィールといってもよさそうだ。
そして先代のTSIトレンドラインで、「下手なスポーツカーも顔負けの走り感は122馬力とは信じ難い」と評した日常領域での走りの良さもそのまま引き継いでいる。7速DSGとの組み合わせにより、ゆっくりと踏み込んでゆけば次々とシフトアップしてゆくので、市街地でのエンジン回転数の低さは特筆に値する。1500rpmという低回転で最大トルクが発生するTSIエンジンの貢献は大きい。一方でその気で踏み込めばそれなりの回転数までシフトアップされずに加速するし、Sレンジでの加速は胸のすくレベルだ。
車評コースにおける実測燃費は、冬場故にエアコンのコンプレッサーがほとんど作動しなかったこともあり14.5km/L(高速だけでは15.2)を記録した。この数値は何とターボエンジン搭載の軽自動車の平均実測燃費に近い値である。カタログ値は16.8km/Lなので、達成率は88%だ。ちなみに先代のトレンドラインの実測値は12.7、カタログ値は15.4だったので、達成率は82%だが、この達成率の差には評価時期の違いに起因したエアコンの作動の差もふくまれているはずだ。先代のトレンドラインと新型のコンフォートラインではエンジン、トランスミッションは基本的にはキャリーオーバーされているはずだが、カタログ燃費が一割近くも改善されているのは、エンジンとトランスミッションのマッチングが細部にわたり見なおされているからだろうか? ただし今後は性能を若干犠牲にしてでもレギュラーガソリンOKとなることを期待したい。
「地球にやさしい」ことと「乗ることが楽しい、気持ちいい」ことは、ややもすると両立が難しいと思われがちたが、新型ゴルフはその両方を見事なまでに満たしてくれるとともに、いろいろな視点から「インテリジェンスを感じる」クルマに仕上がっており、性別、年令を問わず、クルマに乗ることが好きな人、地球にやさしいクルマを求める人、クルマのダウサイジングはしたいが、妥協はしたくない人、長距離ドライブをする機会の多い人などには大いにおすすめ出来るクルマだ。まだ乗られていない方にはまずは試乗の機会を持たれることを是非おすすめしたい。
これまでも繰り返してきたように、日本の自動車産業は生半可な対応では21世紀半ばへの確たる生き残りはおぼつかない。有効な世界市場戦略の構築とともに、今後のクルマ作りが命運を決するといっても過言ではない。現時点、日本のハイブリッド技術は世界に冠たるものがあるのは確かだし、電気自動車でも一歩先んじているとみていいだろう。生産性の高さや、品質面でのメリットもまだ失われてはいないはずだ。しかしクルマという商品はそうした領域以外に、心をとらえて離さないデザイン、運転したい欲望に駆られる内装、心高まる乗り味や音、心安らぐ乗り心地や快適性など人の右脳へのアピールが非常に大切な稀有な工業製品でもあり、そうした視点から現在欧州を代表するクルマと日本のクルマを比較すると、歴然とした格差を感じるばかりか、その差が広がりつつあると感じている。原因としてはいろいろなことが考えられるが、日本のクルマ文化の未成熟や若者のクルマ離れ、購買者はいうに及ばず、クルマづくりに携わる人たち、更にはマネージメンのクルマへの愛情やこだわりの低下、開発プロセスの効率化にも起因した現場・現物主義からのかい離などはその一例だろう。
一方で最近の韓国車(ヒュンダイ、KIA)の北米、欧州、中国、インドなどでの市場拡大はめざましく、韓国車のデザインやダイナミックスの進化のスピードも実に速い。そして昨年世界一の市場に躍り出たのが中国だ。急速に発展する自国市場を背景に、今後中国のクルマも急速な進歩を果たしてゆくだろう。そのような中で日本が自らのクルマづくりを見直してゆくことは急務であり、新型ゴルフは大きな刺激と示唆を与えてくれるものだ。
VWゴルフコンフォートラインの+と−
+ 素晴らしい走りと燃費の両立
+ 快適な乗り心地と高級車をもしのぐ(?)静粛性
+ 安全に対するきめ細かい対応
− もう一歩新しさがほしかった外観スタイル
− プレミアムガソリンが必要
− 完全満タンが至難なガソリン給油性
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■5代目ゴルフのビッグマイナーチェンジ?
1974年に発売されて以来、全世界で2600万台以上の販売を記録し、同クラスのベンチマーカーと評されているゴルフ。今回の試乗車は、2009年4月に日本導入された6代目だ。アルファロメオ156などを手掛けたワルター・デ・シルヴァがデザインしたスタイリングは、VW車の伝統である水平基調を取り入れたフロントマスクやワイド感を増したリアビューなどでガラッと生まれ変わったように見えるが、ホイールベースやCピラーまわりのデザインは先代を踏襲しているし、パワートレインやシャシーコンポーネンツもほとんど変わっていない。見た目やスペックだけで判断すると、ビッグマイナーチェンジと思われても仕方がないかもしれない。
■乗ればわかる新型の完成度
しかし、乗ってみるとその違いに気付かされる。もともとシンプルながらも質感に定評があったインテリアには、ソフトタッチのダッシュボードなど見た目や手触りにこだわった素材を随所に採用。同社のパサートクラスに匹敵すると謳うだけあり、「これがゴルフ?」と思ってしまうくらいの上質感を漂わせている。さらに変わったと感じさせるのはその静粛性だ。遮音フィルムを挟んだフロントウインドウなどの徹底的な静粛性対策が功を奏し、ロードノイズや風きり音に対しては間違いなくクラストップレベルといえるだろう。もちろんクルマとしての基本性能にもぬかりはなく、1.4リッターTFSIエンジンと7速DSGを組み合わせたパワートレインの完成度は折り紙つきだし、ハンドリングと乗り心地のバランスも抜群。先代からトップレベルにあったこの分野だが、さらに洗練された印象を受けた。また、3年間の点検整備作業を工賃無料で提供する新サービスを標準付帯させるなど、メインテナンス面での充実もうれしい。先代の優れた性能をブラッシュアップさせ、かゆいところにも手が届く新型ゴルフ。「洗練されすぎて面白みに欠けるかも」という輸入車乗りの皮肉さえ聞こえてきそうな完成度である。
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