論評09 新しい扉を開ける軽自動車?


拡大する軽自動車比率

夏以降のエコカー減税や補助金の効果は見られるものの、世界同時不況の影響を受けて、2009年の日本における新車の販売台数は軽自動車を含めて458万台前後と、31年ぶりに500万台を割ることは確実だ。そのうち登録車は290万台、軽自動車は168万台(いずれも前年比約一割減)というレベルになりそうだ。ちなみに今年の軽自動車の販売ベスト3はスズキワゴンR、ダイハツムーヴ、ダイハツタントだ。

ところで現在日本にはどのぐらいの軽自動車があるのだろう? 全国軽自動車協会連合会のデータによると、軽自動車保有台数は2500万台を超えている。90年代には自動車総保有台数のほぼ1/4が軽自動車だったものが、現在ではおよそ1/3、今後の経済動向、市場動向、商品の進化、代替サイクルいかんによっては2台に1台が軽自動車という日がくるのもあまり遠くないかもしれない。


軽自動車は毎日の生活の足

軽自動車の地域別シェアーをみると10万人未満の市町村で、なんと半数が保有されている。世帯当たり普及台数は、鳥取、佐賀、島根、長野、山形がベスト5で、それらの県では100世帯当たり90台以上、ほとんどの家庭に軽自動車があるといってもいい。普及台数の一番低いのは東京で、100世帯当たり10.7台、10軒に一台だ。そして軽乗用車のユーザーは66%が女性だ。年齢別では60歳以上が20%に急増、高齢者にとっての生活必需品となっていることが分かる。使われ方は大半が「ほぼ毎日」、用途としては性別、年令を問わず「買い物」が圧倒的で、続いて「通勤」となり、レジャーへの使用は限られる。60歳以上の人の通院への利用頻度の高さも注目に値する。このように、軽自動車は公共交通機関の限られる地域における重要な交通手段であると同時に、多くの女性や高齢者にとっては必要不可欠な日常の足だ。


進化、多様化する軽自動車

こうした軽自動車の普及が、商品性や商品の多様化と大きな因果関係があることはいうまでもない。すでに『車評オンライン』でも何度か取り上げてきたが、車幅こそ1480mmと小型車(1700mm)に比べて狭いものの、最近の軽自動車の居住性(中でも後席)、シートアレンジ、小物置場を含む使い勝手は多くの普通車よりもはるかに上だ。また車種、ボディーバリエーションの多様化も見逃せない。ハッチバックセダン、トールワゴン、ミニバン、トラック、オフロードビークル、スポーツカーなど多種多様だ。過日欧州からの来日した自動車業界に精通した知人をトールワゴンで都内案内したところ、居住性に感嘆するとともに、「欧州への進出は十分にありうる」と繰り返していた。


著しい走りの進化

走りの進化も著しい。5年もさかのぼれば、自然吸気エンジン搭載の軽自動車は多くの走行シーンで「がまん」を強いられたものだが、最近の軽自動車はもはや「がまんグルマ」ではない。エンジンの改良や、より効率の良い回転数で走行できるCVTの導入などにより、高速道路を含むあらゆる走行シーンで、全く不満のない走りをしてくれるようになった。2006年のソニカから導入したKFエンジンと独自開発の3軸CVTなどでダイハツが一歩先んじたが、その後スズキも、エンジン改良、CVTの積極的な採用などを行ない、現在はほぼ互角と言っていいだろう。

走りの進化は動力性能にとどまらない。数年前までは「軽自動車のメインユーザーは女性」、「女性の求めるものは駐車など低速での扱い易さ」と女性に焦点をあてた開発が行なわれてきたためか、ハンドルが軽すぎ、まっすぐ走ることや高速道路の走行が苦手な軽も少なくなかった。しかし最近の軽、中でもスズキの軽は高速も含めて大変気持ち良く走れるようになったのがうれしい。欧州市場に焦点をあてたスイフトの開発が大きな刺激になったという。


途上にある実用燃費改善

実用燃費は現在まだ改善の過程にあるみるべきだろう。『車評』コースにおける実測燃費が日本のユーザーの平均実用燃費と非常に近似していることはすでに何回か述べてきが、軽自動車といえども誉められない実用燃費のモデルがかなりあったのは事実だ。実用燃費にこそ開発努力を集中すべきと繰り返し主張してきたが、このところ改善の証が徐々に見えつつある。なかでも最新のワゴンRやアルトラパンなどの実測燃費にはかなりな向上がみられ、もう一歩の努力でハイブリッド車に近い20km/Lを超える実用燃費が実現することも不可能ではなさそうだ。そうなれば、軽の存在意義は一段と強化されるはずだ。


燃費規制の強化はいいが

国土交通省と経済産業省は2020年度を目標に燃費規制を強化する方針を固めたようだ。2020年の燃費基準を21km/Lにしようとするもので、2007年度実績にくらべると34%の改善になるという。そのこと自体は結構だが、この際カタログ燃費と実用燃費の差異を徹底的に洗い出して、燃費測定モードを実情に即したものに是非見直すべきだ。10・15モードによるカタログ値と『車評』コースにおける実測値のギャップは国産車の場合30〜40%にも及ぶし、JC08モードにより10%程度ギャップが縮小されるものの、ECモードで開発された欧州車の方がはるかに日本における実用燃費との近似性が高いからだ。(欧州車の場合、カタログ値と実用燃費の間には平均して10%程度のギャップしかない!)地球にとって大切なのはカタログ燃費ではなく、実用燃費だ。


ダウンサイジングが必須

各種の対応が迷走する鳩山政権だが、温室効果ガスを2020年までに1990年比25%削減という目標が公表された。達成は容易ではないが、地球を守るためには、今こそ地球に生きる一人ひとりが自らの生活を根幹から見直すことが大切であり、自動車が果たすべき役割は大きく、ダウンサイジングも必須課題だ。

『車評50』、『車評軽自動車』、『車評オンライン』で測定してきた実測燃費をみると、小型乗用車が10〜13km/L程度であるのに対して自然吸気の軽自動車は14〜18km/Lとなっており、実用燃費の違いは大きい。加えて省資源という観点からの軽自動車の優位性も見逃せない。小型乗用車と軽自動車では車両重量に30%前後の相違があるからだ。今後、実用燃費が一段と改良され、軽量化が進み、更に魅力度を増した軽自動車が登場すれば、軽自動車へのダウンサイジングが社会的な正義となってもなんら不思議はない。


軽の更なる進化に期待

前回の『車評オンライン』で、東京モーターショーに展示されたダイハツのコンセプトカーe:S(イース)と2気筒の次世代軽自動車エンジンに大いに注目したいと述べた。e:Sは思い切った軽量化と、究極まで効率化したエンジンによりハイブリッド車にせまる30km/Lの燃費を追求中とのことであり、またe:S への搭載には触れられていなかったが、2気筒の次世代軽自動車エンジンは日本版のTSIエンジン(直噴エンジンとターボの組み合わせ)と言えるもので、このエンジンを搭載したe:Sなら、さらなる性能と燃費の向上が期待できそうだ。ダイハツがエコノミーとエコロジーの両面から強力に開発を推進していることは評価に値するもので、大幅な軽量化の実現も楽しみだ。スズキも東京モーターショーで「小さなクルマ、大きな未来」と主張していたが、全く同感だし、VWとの資本提携が決定したスズキのこれからの軽自動車開発にも大きな期待を寄せたい。


「クラスレス軽」

普通車から軽自動車へのダウサイジングを加速する上で大切なことは、これまで軽があまり浸透してこなかった市場、顧客へのアピールをいかに強化できるかにある。その人たちにとっては、いくら居住性がよく、実用性に富み、不満のない走りと優れた実用燃費が実現でき、価格的な優位性があるにしても、それだけでは十分ではない。その回答は「クラスレス軽」(喜んでダウンサイジングしたくなるような軽)の開発にあると思う。そのためにはデザインが一つのキーとなることは間違いない。女性に「かわいい」と言ってもらえるだけではなく、男性にも、若年層にも、また世界的にも受け入れられるデザインの実現である。BMWミニやフィアット500、更にスマートフォーツーなどはまさにその類の小型車と言っていい。この際初代のスバル360などを改めて見直すことも無駄ではないだろう。現代版のスバル360が誕生すれば、「クラスレス軽」になりうると思うからだ。


「グローバル化」は必須

「クラスレス軽」が登場すれば、「グローバル化」(世界市場への飛躍)も夢ではない。世界を見渡してみても、日本の軽自動車のようなクルマは非常に限られる一方で、いずれの市場でもダウンサイジングが必須だからだ。ただし「グローバル化」に際しては、エンジンの排気量を800ccまで拡大するとか、全幅を50mm程度広げるなどといった軽自動車の規格の「国際的な検証」をこの際一度行なっておくことは日本の自動車業界全体にとっても、決して無駄ではないはずだ。もちろん、現行規格の中での超軽量の軽自動車の実現も意義は大きいと思うし、そのような視点からの「クラスレス化」、「グローバル化」もありうるだろう。いずれにしても軽自動車の税制面などの優位性は絶対に守らなくてはいけない。何故ならば前述のように今や軽自動車は多くの人たちの不可欠な日常の足となっており、日本の普通車に課せられる税金はドイツの2倍、アメリカの4倍にもおよぶもので、生活の道具としては理不尽に高いからだ。


軽自動車が地球を救う!?

これまでも『車評オンライン』で繰り返し述べてきたが、今後日本車が、韓国、中国、さらにはインド製の車などとの競合を生き抜いてゆくことは容易ではなく、従来の延長戦では21世紀半ばまで生き残れないことは明らかだ。「ハイブリッド車&電気自動車戦略」、「プレミアム化路線」の推進はもちろんだが、これまで軽自動車で培ってきた、あるいは今後さらに磨きをかけてゆく、開発、生産領域の「ダウンサイジング技術」もまた、日本の優位性を保つ上で非常に大切な領域である。軽自動車によるダウンサイジング技術が一段と進展し、加えて世界的に通用する商品が導入されれば、「軽自動車が日本の自動車産業を救う」だけではなく、「軽自動車が地球を救う」ことになるかもしれない。がんばれニッポンの軽自動車!


ワゴンR、ムーヴ、タント
今年の新車販売は458万台前後、そのうち登録車は290万台、軽自動車は168万台(いずれも前年比約一割減)程度になりそうだ。ちなみに今年の軽自動車の販売ベスト3はスズキワゴンR(写真上)、ダイハツムーヴ(写真中)、ダイハツタント(写真下)だ。


タントの室内ディメンジョン物
軽自動車は全幅こそ1480mmと小型車よりかなり狭いものの、最近の軽自動車の居住性、シートアレンジ、小物置場を含む使い勝手は多くの普通車よりもはるかに上だ。ダイハツタントの最大の魅力も室内の使い勝手にある。


ダイハツ、スズキのCVT
軽自動車はもはや「がまんグルマ」ではない。エンジンの改良と共に、ダイハツ、スズキともにCVTの進化にも積極的に対応している。上はダイハツが独自に開発した3軸CVT、下はスズキが日本で真っ先に採用した副変速機付きCVT。


ダイハツe:S(イース)
e:S(写真上)は思い切った軽量化と、究極まで効率化したエンジンによりハイブリッド車にせまる30km/Lの燃費を追求中とのこと、またe:S への搭載には触れられていなかったが、2気筒の次世代軽自動車エンジン(写真下)も大変楽しみだ。


過去にインパクトを与えた軽自動車
初代のスバル360(写真上)は今見ても素晴らしい軽だ。現代版のスバル360が誕生すれば、「クラスレス軽」になりうると思う。また1979年に47万円という衝撃的な価格で投入されたスズキアルト(写真下)も大きな衝撃を与えた軽の一台だ。


クラスレス軽のベンチマーク
「クラスレス軽」(喜んでダウンサイジングしたくなるような軽)の実現には、男性にも、若年層にも、世界的にも受け入れられるデザインの実現がキーとなろう。BMWミニ(写真上)やフィアット500(写真中)、スマートフォーツー(写真下)などはまさに好例だ。


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