・全長 3,395mm
・全幅 1,475mm
・全高 1,535mm
・エンジン形式 K6A
・種類 水冷直列3気筒DOHC12バルブ
・排気量 658cc
・最高出力 54ps(40kW)/6,500rpm
・最大トルク 6.4kgm(63N・m)/3,500rpm
・車両本体価格 1,029,000円 (税込)
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アルトの歴史は1979年に始まった。乗用よりも圧倒的に物品税の低かった商用カテゴリーに入るように後席の居住性を割りきり、2ストロークエンジンを搭載、シンプルなつくりと、自動車業界初の全国統一価格47万円という思い切った価格で導入された初代アルトは、市場に大きなインパクトを与えるとともに、女性を主要顧客層とする新しい市場を開拓した。以来市場のニーズ、時代の要求にこたえつつ進化、2009年12月に導入されたモデルは7代目となる。98年の5代目からはマツダへキャロルとして供給を開始、また2007年1月から2010年1月までは日産へもピノとして供給された。この間累計生産台数は2001年7月に400万台、2009年3月には1000万台に達している。
新型アルトはワゴンRのプラットフォームを活用し、従来型より40mm長いホイールベースと36mm高い全高により、ゆとりのある快適な室内の広さを実現する一方で、高張力鋼板の使用拡大などにより重量を10kg軽減している。内外装デザインもやさしさ、親しみやすさを重視したオールニューなものとなり、全車にVVTエンジンを採用、ATは従来の3ATを4AT化するとともに 、ロー/ハイ2段階の副変速機付きCVTの採用などにより、従来モデルよりかなり燃費が改善されている。今回評価したモデルはFFのグレードXという最高級グレードで新型CVTを搭載したモデルである。
2009年12月から発売。
1,029,000円
広報資料によると、今回のアルトは「愛着がわく、フレンドリーなデザイン」を目指したとあるが、やさしく、親しみのもてる外観スタイルと、シンプルなデザインに機能性をプラスした内装デザインは私の目にもなかなか好ましいものに仕上がっている。この内外装デザインが女性に愛されるキャラになっていることは、昨今TVキャスター業務が超多忙な唯一の女性「車評メンバー」、堀埜ゆかりさんのセカンドオピニオンをお読みいただければ明白だ。今後の市場への浸透に際してこの「愛着のわく、フレンドリーな内外装デザイン」はアルトの大きな魅力点になってゆくものと思う。
ただし一点、女性ユーザーに限定せず、より幅広い顧客層へのアピールを前提にするとき、私にはどうしてもデザインを改善してほしい部位がある。フロントグリル周りだ。グリル内のボディー同色のバーの形状、太さ、ならびに位置にはかなりな違和感があり、何度見ても違和感は解消しない。また顔つきに可愛さこそあるものの、凛々しさが足りない。更に全幅の狭さをむしろ強調するようなデザインでもある。スイフトやスプラッシュであそこまで見事なデザインを実現したスズキがなぜ今回のアルトのフロントグリル周りのデザインをあれでよしとしているのか正直言って理解できない。フロント周りのデザインに関しては兄弟車、マツダキャロル(写真右側)の方が、はるかに好感がもてる。また些細なことだが、ドアーミラーの形状があまりにも女性的だ。もう少しきりっとした造形のミラーはなかったのだろうか?
新型ワゴンRと共通のプラットフォームを採用した結果、ホイールベースが40mm拡大されたのに伴い、前後乗員間距離が15mm拡大されたというが、居住性はどうだろうか? 室内の広さはワゴンR、ムーヴ、タント、パレットなどとは比肩出来ないが、後席のレッグスペースは、実際に運転席を私のドライビングポジションに合わせた場合でも写真のようにこぶしがふたつくらい入る余裕があり、多くのコンパクトカーより明らかに広い。さらに後席の着座位置が高いために前席のヘッドレストが前方視界の障害にならず、後席からの前方視界が良好なのもうれしい。多くの欧州車が空力のためとはいえ、後席の着座位置が低く、ほとんど前方が見えない閉塞感にさいなまされるのに比べて後席に座ってのドライブがはるかに快適だ。
室内の使い勝手の面では、まずシート後方の荷室がワゴンRなどよりかなり広く、大型のベビーカーの搭載も可能な奥行きがあり、4人乗車してもそれなりの荷物の積載が可能だ。タイプXのみだが、後席の左右のシートバックが独立して倒せるので3人+大型貨物もOKだ。インパネ周りの小物入れ、ティッシュボックスも入るグローブボックス、ショッピングバックフック、インパネアンダートレーなどは全車に標準装備される。タイプXには運転席、助手席両方にランプ付きのバニティーミラーまでつく。また後席の開口地上高は旧型より25mmも低く、フロントサイドシルの形状は乗降の際の足抜きへの配慮もされているなど、総じて室内の使い勝手は大変良好だ。
しかしシートにはいくつか注文がある。まずは前席、後席ともクッション長が短すぎる。あと20〜30mmは延長して欲しい。また座り心地も決して誉められない。スイフト、スプラッシュ、ワゴンRやアルトラパンなど最近のスズキ車のシートはそれなりに評価してきたのに、今回はコストダウンの圧力が強かったためか残念だ。「ユーザーの大半は女性」と割り切った為かもしれないが、欧州車のシートが大きすぎるという女性の苦情を聞いたことがない。
またリアシートに高さ調整付きヘッドレストが付き、シートバックが左右独立で倒せるのは最上級モデルのタイプXのみというのも、賛成できない。後席の使用比率が低いと判断したためかもしれないが、ヘッドレストのない後席には座りたくないし、家族や友人も座らせたくない。またアルトラパンにあるようなシンプルなリアのリクライニング機構がこのアルトにはないのも残念だ。新型アルトは価格を重視したモデルだからだろうが、これらの改善によるコストアップはそれほど大きくないはずで、アルトのような軽自動車が今後急速に増加してもおかしくないと信じる私の目から見て是非改善をお勧めしたい点だ。
市街地を走るアルトを見ると「小さなクルマ」という印象を受けるが、今回偶然にも新旧ミニと並べて写真を撮る機会に恵まれた。アルトは旧型ミニとBMWミニの丁度その中間のサイズのクルマであることが分かるし、旧型ミニと比べるとアルトは決して小さなクルマではない。車両寸法を比べると、全長は旧型ミニが3050mm、アルトが3395mm、BMWミニが3700mm、全幅は旧型ミニが1410mm、アルトが1475mm、BMWミニが1685mm、全高は旧型ミニが1350mm、BMWミニが1430mm、アルトが1535mmとなる。
新型アルトは全車にVVTエンジンを採用、ATは従来の3ATを4AT化するとともに、ロー/ハイ2段階の副変速機付きCVTも採用し、全てのモデルの走りと燃費が改善されているという。今回の車評コースにおける評価の最大の関心の一つが副変速機付きCVTとVVTエンジンを組み合わせた走りと燃費だった。まず走りに関しては副変速機の効果もふくめてワゴンR、アルトラパンよりも一段と発進加速が向上していると感じたし、市街地、高速、登坂など、ほとんど全ての走行シーンで不足ない走りを約束してくれることが確認できた。Sレンジでの登坂能力もなかなかのものだ。
それ以上にうれしかったのが、実用燃費の改善だ。あわよくばと期待した20km/Lは超えなかったが、19.2km/Lを記録した。冬季のためにACの使用はなかったが、これまで車評で評価した軽自動車の実測燃費のベストはワゴンRの18.5だったので、記録を更新するとともに、ホンダインサイトの20.1に肉薄する数値となった。ちなみに高速セクションは20.7だった。唯一気になったのが、20〜30km/hあたりからの急加速時に起こる変速ショック(?)で、改善は望みたいが、ひとまずは許容できる範囲としておこう。
最近のスズキ車の走りの質の進化は、スプラッシュ、新型ワゴンR、アルトラパン、パレットなどでたびたび言及してきたが、新型アルトも期待を裏切らなかった。あたり前なことではあるが、一番大切なのは、まっすぐ走るために余分な神経を使わず、そこからハンドルを操作した際クルマが思い通りに動いてくれることだが、新型アルトは前後にスタビライザーも装備していないのに、なかなか好ましいレベルに仕上がっている。前後のサスペンションに加えてボディーの剛性も貢献しているのだろう。また高張力鋼板の使用拡大などにより重量を10kg軽減していることも評価したい。このような走りの質は、クルマの経験が少ない「女性一般ドライバー」にとってはさほど重要ではないかも知れないが、最新のダイハツの軽自動車に比べても明らかに差を感じる部分だ。4.2mの最小回転半径も便利だ。
それ以外に感心したのは静粛性と乗り心地だ。まず風切り音はワゴンRよりかなり低い。そして遮音材の使用はミニマムなはずだが、145/80R13というタイヤにも起因してか、荒い路面を走行した場合のロードノイズもなかなか静かで、加えて凸凹路や舗装の継ぎ目の乗り越え時の乗り心地も良好だ。ハンドリング性能上はもう少し扁平率の低いタイヤがベターなのはいうまでもないが、日常の一般的な走行でこのように気持ちの良い走りをしてくれることこそ非常に大切であり、その意味からもこのタイヤサイズの選択に拍手を送りたい。
一部のデザインやシートの課題を除き、内外装デザイン、走り、燃費、使い勝手、乗り心地、静粛性などなかなか魅力的なクルマに仕上がっていることが確認できたが、価格もリーズナブルだ。価格帯はアルトバンの677,250円から最上級Xグレードの4WDの1,157,100円までで、今回評価したのは2WDの最上級モデルだが、100万円強だ。加えて全モデルがエコカー補助金、エコカー減税(モデルにより75%、もしくは50%)の対象となっているのもうれしい。
以上のような新型アルトは、果たして誰におすすめだろうか? 堀埜さんのセカンドオピニオンにあるように、「地に足がついていて、虚栄とは無関係な」多くの女性にアピールするであろうことは疑問のないところだが、フロントフリル周りのデザイン変更や、シート周りの再考などにより、男性も含む、多くのダウンサイジング志向層や、これまでの軽自動車には抵抗のあった都市部のユーザーにも、十分にアピールできるクルマになるのではないだろうか? 「持つこと、乗ることにインテリジェンスを感じるクルマ」にもう一段成長できれば、市場が急速に拡大しても決しておかしくないと思う。
そして最後にひとつ個人的な提案をしたい。それは「アルトアバルト」のようなモデルの実現だ。ターボエンジン、もう少しスポーティーな足まわり、着座感、ホールド性の優れたシート、タコメーターつきメーターなどを採用し、専用のドレスアップを行なえば130万円程度で買える最も楽しいクルマが実現するのではないだろうか?
過日の某全国紙に以下のような記述があった。「昨年11月中旬、静岡空港にプライベートジェットが到着した。タラップを下りてきたのは独フォルクスワーゲン(VW)のビンターコーン会長。静岡県牧之原市のスズキの試験コースに直行した。訪日の目的はスズキとの資本提携交渉だったが、2日間の滞在日程の一日はスズキ車の試乗にあてた。ほぼ全車種約20台のハンドルを握り、軽自動車には"660ccのエンジンでこんなに走るのかね"と感嘆の声を上げた」とある。それにしても資本提携交渉にあたり丸一日をその会社のクルマの試乗にあてるというのはいかにもクルマ好きのドイツの自動車メーカーのトップらしい行動ではないか! そのような会社だからこそゴルフのような素晴らしいクルマも生まれてくるに違いない。さる12月に、スズキはVWとの資本提携を結んだ。軽自動車で蓄積してきたスズキの技術が両社にとって貴重な財産となることは間違いないだろうが、今後両社がどのような形で提携の実をあげてゆくか、大いに期待したい。
新型アルトの+と−
+ 不満のない走りと更に改善された燃費
+ 必要にして十分な室内居住性と使い勝手
+ ハンドリング、乗り心地、静粛性
− フロント周りのデザイン
− 小さすぎる前後シート
− 分割可倒とヘッドレストのない後席が大半
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■流されない賢さと可愛いらしさ
このクルマをひとことで例えるならば、ズバリ、「ペットのような存在」。小さくて、可愛くて、自分を癒してくれる生活に欠かせない相棒になりうる1台だ。特に奇抜で個性的ではないぶん、いわば万人ウケする"愛されキャラ"がロングセラーの秘訣だろう。もし、犬に例えるならば、コロッとしていて、可愛いつぶらな瞳をもちつつ、その中にキリリとした表情も見せるマメ柴犬、といったところだろうか。(間違ってもトイプードルのような西洋犬ではなく純然たる日本犬がふさわしく思う)
今は、男性っぽい箱型の軽カーが蔓延していて、このやさしいまんまるフォルムは、逆にとても新鮮だ。時代や流行に流されず、大胆な変貌を遂げることもなく、我が道を行くこのスタイルの潔さには、可愛いけれど自分というものをシッカリもった賢い女性像が重ねられる。アルトのCMに抜擢された女性の囲碁棋士や陶芸家、書家達はみんな知的で、それでいて可愛い雰囲気をもつ人達で、まさにこの新型アルトにふさわしいアンバサダーだと思う。
さらに、愛嬌のあるアニメ顔のヘッドランプに癒されつつ、スタイリッシュなルーフラインや、少しシャープなサイドウィンドウには、でしゃばりすぎない聡明さも伺える。このクルマを選ぶ人は、きっと地に足がついていて、虚栄とは無関係なところで生きている人なんじゃないかナ?! とさえ思う。
■シンプルだからできること
内装は、穏やかなベージュ系でムダを省いたシンプルで落ち着いた空間。もちろん、見やすい大型メーターを採用したり、収納などのポケット類は必要最低限のモノが入るよう賢い工夫アリ。だからこそ、カスタマイズの楽しみがあるので、オススメなのは、アクセサリーパーツ。ペットや赤ちゃんと共に快適に過ごすための充実したアイデアパーツや、ナイトドライブを楽しめるイルミネーションパーツは純正ならではのスマートさ!洋服を着替えるように、ぜひクルマもオシャレしましょう!
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