・全長 4,525mm
・全幅 1,855mm
・全高 1,695mm
・エンジン形式 2TR
・種類 直列4気筒DOHC16バルブ
・排気量 2,488cc
・最高出力 170ps(126kW)/6,000rpm
・最大トルク 23.1kg・m(226N・m)/4,400rpm
・車両本体価格 3,198,000円(税込)
未曾有の経済危機とも関連し、世界の自動車市場マップは急速に塗り替えられつつある。今年世界最多の販売を記録する国は間違いなく中国となりそうだし、インド、更にはその他の発展途上国市場も存在感を増している。一方で、GMやクライスラーの破綻が大きな話題となっている米国市場の回復に際して、主導権をどのメーカーが握るかも非常に興味深い。こうした市場環境の中で、ブランド毎の個性の明確化は日本メーカーに限らず欧米のメーカーとっても急務だ。
プラットフォームの共通化による開発投資、設備投資の削減は、かつて“ビッグスリー”と呼ばれたアメリカの自動車メーカーが発信地だが、皮肉にも同一プラットフォームを活用した際のブランド毎の商品差別化不足が、ビッグスリー衰退の大きな要因になってきたことは否めない。プラットフォームの共通化が必ずしもブランド毎の個性の作りこみの障害にはならない、即ち同一プラットフォームを使っても味わいの大きく異なるクルマをつくる事は出来ると私は確信している。例えばジャガーXタイプがフォードモンデオのプラットフォームを活用していることは知られているが、意志さえあれば、もっとはるかにジャガーらしい味わいをもったXタイプを実現することが出来たはずであり、それは、メーカートップ、クルマの開発、生産、そろばん勘定を担う人達の意思、更には開発者のポテンシャルに依存しているといっても決して過言ではない。
フランス車にとって、ドイツ車との差別化は長年の課題だ。かつてのフランスに車はフランスの自動車文化やフランス独特の道路条件にも起因して、ドイツ車との明確な差別化が存在していたが、フランス車にとってドイツ市場の重要性が増すとともに、その味わいがドイツ車寄りになってきたことは否めなかった。そのような中で近年プジョーは再びフランス車らしい味わいの追求に注力していることはご存知の方も多いと思うが、ルノーコレオスの説明会でルノーが強調したのが、「フレンチシェフによる、フランス的な味わいの作りこみ」だった。彼らのいう「フレンチシェフ」とは狭義には乗り味のチューニングを行なうテストドライバーを指すこともあろうが、広義にはクルマの開発の責任を担う人も含めた、開発チーム全体をさしているはずだ。
そのルノーコレオスとはどんなクルマだろう? 日本はもとより、世界各地における自然破壊への憂慮からも、純粋なオフロード走行が許されるケースはますます少なくなっており、道なき道を走る純粋なクロスカントリービークルのニーズは非常に限定されている。未舗装路を走る頻度も決して高くない。そのような中で、日常のドライビングシーンと週末や休暇のアウトドアーライフの融合、ルノー流にいえばオンタイムとオフタイムを自由に行き来することの出来るクロスオーバービークルを目指したのがコレオスだ。2.5LエンジンとCVTの組み合わせも含み、Xトレイルのコンポーネントを最大限に活用、ルノーとニッサンのアライアンスをフルに生かしたルノー初の4WDでもある。
2009年5月発売。
車両本体価格3,198,000円(税込)から。
コレオスに大きな関心をもったのはその商品説明会だった。副チーフエンジニアだったというフランソワ ローラン氏が強調したのは、まずはこのプロジェクトがルノーとニッサンのアライアンスをフルに生かした商品であること、ルノーとしての初めての4WD車としてXトレイルのコンポーネントを最大限活用しつつ、セダンの快適性と走行性能、ミニバンの多用途性、そして4WD車がもつ走破性、安全性を合体したクロスオーバー車を目指したこと、そして最も興味を引かれたのが、「フレンチシェフによりフレンチタッチな乗り心地を実現した」という点だった。
「フレンチタッチな乗り心地」というとライドコンフォートに限定されそうだが、デザインも含みクルマ全体にフレンチシェフの腕前を発揮してのクルマづくりが行なわれたことは間違いない。まずは外観スタイルだ。近年のルノーのデザインはドイツ車、日本車との差別化はそれなりにあるものの、必ずしもフレンチタッチを感じるものとは言えなかった。新型のトウィンゴにしても、旧型の方がむしろフランス的な味わいがあったと思うし、メガーヌも独自性には富むが、これぞフレンチタッチとは思えなかった。それに対して今回のコレオスの外観スタイルはドイツ車的な硬質感とは異なり、ソフトで、開放的で、親しみやすさを感じる直線と曲線を組み合わせたものであり、ルノーのアイデンティティーももりこまれている。ただし欲を言えば、ドイツ車、あるいは日本車とのより明確な差別化のため、もう一段とフランス車らしい味わいのあるデザインであってほしかった。
内装デザインにも「フレンチタッチ」を感じる。一切奇はてらっていないが、ドイツ車や日本車とは一味違うデザインだ。まずインパネ中央部の波型の造形や、エアコンルーバー周りの処理が優しい。各種のコントロール類の形状や操作性もいいし、ステアリングホイールも優しさを感じる形状と触感だ。シルバー色の使い方もいい。ドアトリムのデザインも悪くなく、アームレスト部の開閉可能なモノ入れも親切な配慮だし、ドアハンドル裏側の波型の形状も、ホールドすることがうれしくなる握りの形状だ。更には大型ハンドバックも楽々と入りそうなグローブボックスのサイズにも驚かされた。
つぎがシートだ。前後ともシートのサイズと着座感、優しさを感じるホールド感がいい。リアシートバックは簡単な構造ながら、5段階にリクライニングする。リアシートクッションはワンタッチで持ち上がり、そこへシートバックを倒すことにより、簡単にフラットな荷室が得られる。助手席シートバックも前方に倒すと2.6mの長尺物の搭載も可能だ。また6:4可倒のリアシートにある長尺物搭載機能も、スキーマニアにとっては貴重な装備だ。アメリカではテールゲートパーティーといって野外でのバーベキューなどに際してリアゲートをシート代わりに使うことが少なくないが、大人二人が座れる200kgという対荷重のリアゲートは日本でも実用的だ。
走り味の面での味付けに関しては、内外装デザイン以上の関心をもって試乗に臨んだが、走り始めた瞬間から、あれっと感じるほど「リラックスして気持ちよい、優しさに満ちた乗り味」を感じた。世田谷から第3京浜でみなとみらいへ行き、帰路多摩川沿いの側道とほんの一部だが未舗装路を走り、ほぼ半日、いろいろな走行条件をトライしたが、走りの面でも人に対する優しさに満ちた、気持ちの良いクルマに仕上がっていることが確認できた。
「乗り心地」は◎だ。プジョーやシトロエンなどのフランス車も総じて言えば人にやさしい乗り心地を感じるが、「80km/h以上の速度領域」という条件をつける必要があるクルマも少なくない。コレオスの場合、走り始めた瞬間から、即ち低速の市街地走行からとても優しい乗り心地なのだ。ショックアブソーバーの動きの遅いときは必要なダンピングをすばやく立ち上げ、動きの早いときはオイルのバイパスチャンネルを開き、減衰力の過剰な立ち上がりを抑えてごつごつ感を減少するハイスピードダンピングコントロールショックアブソーバーも、コレオスの独特な乗り心地の実現に貢献しているはずだ。
ルノーにおける新型車開発にあたっては、D65と呼ばれるパリ近郊にある県道で、30年前頃までは荒れた舗装路面だったところが有効に活用されてきたそうだが、近年は当時のデーターが全てコンピューターにインプットされて、D65モードのテストが台上で行なわれるという。しかしコレオスの開発にあたっては、それだけではなく、二人のエクスパートを中心に、日本を含む世界各地のいろいろな路面を100万キロも走り回り、乗り味を作りこんだという。洋の東西を問わず、台上試験に依存した開発が多い中で、リアルワールドでの評価を重視した結果が結実した乗り味だと確信する。
乗り心地だけではなく、振動、騒音面もいい。まずロードノイズの低さは特筆に価する。荒れた舗装面を走行しても、一クラス上のセダンをしのぐほどの静かさであり、加えてエンジン音、風きり音も良く抑えられている。また単に騒音レベルが低いだけではなく、音質もいい。静粛性対策として、さまざまな部分に入れた遮音材はもちろんのこと、リアタイヤハウスからのノイズにも特別な配慮がなされているようだ。
走りの面で気持ち良いのはステアリング・ハンドリングも例外ではない。スポーティーなハンドリングではないが、低速から高速までセンターフィールがよく、そこからステアリングに舵角を与えた場合の操舵力は軽めだが、クルマの反応がリニアーで気持ちいい。また高速時や、ワンディングでの操舵に際してもロールが適度にコントロールされ、安心して走ることが出来る。総じて非常に気持ちがいいステアリング・ハンドリングに仕上がっている。大半のハードウェアーはニッサンのXトレイルと共用しつつ、乗り心地、振動、騒音、音質、ハンドリングなどの領域において、フレンチタッチな味わいを実現したフレンチシェフに乾杯だ。
2.5L、170馬力のガソリンエンジンとCVTを組み合わせた走りは人間の感覚と良くマッチしており、CVTの違和感もなく、6速のマニュアルシフトも楽しい。発進感も含めて、動力性能は不足ないレベルに仕上がっているが、ルノーの技術説明の中にある発進加速度に対する欧州、日本のユーザーの要求値の違いは面白い。日本の場合、静止状態からの発進時に胸のすく加速を欲するユーザーが多いとのことで、日本向けコレオスはCVTとの組み合わせも生かして、0.4Gというかなり高い発進G(欧州では0.3Gで充分とのこと)を実現したという。今回、燃費の測定は出来なかったが、CVTとの組み合わせも貢献し、悪くないはずだ。
今回4WD性能を評価するシーンはなかったが、Xトレイルの悪路走破性には定評がある。2WD、AUTO、LOCKの3つのモードが選択できる「オールモード4×4−iシステム」は、2WDモードでは前輪2輪にのみにトルクが伝達されるが、AUTOモードに入れておけば、走行状態に応じて各種センサー(4輪の車輪スピードセンサー、Gセンサー、ヨーレートセンサー、舵角センサー)、更にはドライバーのアクセル操作、エンジン出力などから検出される情報をベースに、リアデフに内蔵されている電子制御式のカップリングを駆動することにより、前後のトルクを、2WD状態から直結4WD状態まで、最適に配分してくれる。また時速40キロ以下でLOCKを選択すれば4輪にトルクを配分してくれる。多くの競合車に比べて、デパーチャーアングル(リアオーバーハングと地面との角度)が大きいので、悪路からの脱出も容易なはずだし、ヒルスタートサポート、ダウンヒルコントロールもうれしい。
ドイツ車といえば、ドイツ人の国民性や歴史的、文化的背景、更にはオートバーンにおける速度無制限という独特な要件などに基づき、骨太でしっかりとして、信頼に足るハードウェアーが想起されるが、温かさ、優しさを感じるクルマは少ない。対するフランス車はフランス人の国民性、歴史的、文化的背景、更にはフランスのカントリーロードの特性にも裏打ちされて、ドイツ車よりもソフトで人に優しいクルマが求められてきた。今回のコレオスはそうしたフランス車らしさを追求した結果であり、「フレンチタッチな乗り心地」は「人に対する優しさ」と言い換えることも出来そうだ。
セダンの快適性と走行性能、ミニバンの多用途性、そして4WD車がもつ走破性、安全性を合体したクロスオーバー車がゆえに、幅広い層にアピールしてもおかしくないクルマだ。多くのセダンに比べて、快適性や走行性能面で劣るどころか、むしろ優れているし、多用途性、積載性に関しては小型のミニバンと比肩できるレベルにありながら、ミニバンほど大柄でないのがいい。そして悪路走破性は、積雪地帯での使用はもちろん、週末や休暇のアウトドアーライフにはもってこいだ。ドイツ車とは一味違い、日本車では感じることの少ない、「人に対する優しさ」は年齢や性別を問わず多くの人たちにとって魅力点になるに違いない。加えてニッサンXトレイルがベースなので信頼性、耐久性、更には長期間を通してのメンテナンスコストなども大きな安心材料だ。価格も決して高くない。
最新のいろいろな日本車に接するにつけ、開発効率の向上、コストへの圧力などにも起因してか、ブランド毎の「味わい」の徹底した追及が余り感じられないのが気になる。前述のように、「シェフ」とは開発に携わるテストドライバーだけではない。広義には、クルマの企画や開発に携わる人達、生産やコスト管理に携わる人達、マーケッティングや販売に携わる人達、更には会社のマネージメントに携わる人達も「シェフ」であり、自らのブランドとその根幹となる商品のあり方に対する明確な夢とビジョンを持つことが何よりも大切だ。また各社におけるシェフの育成プロセスも明確には見えてこないのも心配だ。コレオスは「シェフ」の育成こそが日本のメーカーの大きな課題であることを示唆してくれている。頑張れ日本メーカー!
ルノーコレオスの+と−
+ 優しさあふれる内装デザインと居住性
+ フレンチタッチな人に優しい乗り心地
+ 気持ちの良い、走る、曲がる、止まる
− もう一段フランス車らしい外観デザインに
− 低速での大きな凹凸乗り越え時のばたつき