第13回 アウディA3 スポーツバック
第13回 アウディA3 スポーツバック
・試乗グレード  1.4TFSI (FF・7AT)
・全長  4,290mm
・全幅  1,765mm
・全高  1,430mm
・エンジン形式  CAX
・種類  直列4気筒DOHC16バルブICターボ
・排気量  1,389cc
・最高出力  125ps(92kW)/5,000rpm
・最大トルク  20.4kg・m(200N・m)/1,500〜4,000rpm
・車両本体価格   2,990,000 円(税込)


GMの連邦破産法申請

金融危機に端を発した自動車市場の世界的な低迷により、GMとクライスラーが連邦破産法第11条申請に追い込まれ、GMは国有企業として再生を図るという、ちょっと前までは誰も予想すらしなかった展開となってきた。その原因としては市場の低迷に加えて、退職者の年金や医療費の負担も重くのしかかってきたというが、むしろ最大の要因は、近年のGMのクルマに、購買意欲を掻き立てるものがほとんどなかったことにあったはずだ。また長年、欧州や日本に比べて燃料価格が大幅に安かったため、小型経済車を置き去りにして、大型SUVやフルサイズピックアップなどに資源を集中、販売が低迷すれば大型奨励金で台数のつじつまを合わせるといったことが日常茶飯事化してきたことも忘れるわけにはいかない。不良資産の削減は短期にできても、魅力的な商品群の再構築が何と言っても最大の課題であり、GMの真の再生は一筋縄ではいかないはずだ。

近年のアウディの世界市場での活躍

昨今の厳しい市場環境下にありながら世界市場で健闘を続けているのがVWアウディ・グループ、中でもアウディだ。両ブランドとも日本メーカーほどアメリカ市場依存度が高くなかったことが幸いしたのも事実だが、ハイブリッド技術でこそ日本の後塵を拝するものの、それ以外の技術や、デザイン、走りを含む魅力的な商品づくりを何よりも大切にしてきたことが今日の健闘に大きく結びついていることは間違いない。新型ゴルフの総合商品力は同クラスの日本車で比肩できるものがないといっても過言ではないし、最近のアウディ(今回評価した新型A3スポーツバック、A4、さらにはつい先日導入されたQ5など)はいずれも内外装デザイン、質感、走りなどの面で魅力あふれるクルマだ。

今回評価した新型A3スポーツバックとはどんなクルマ?

ところで新型アウディA3スポーツバックとはどんなクルマだろう? ベースとなるモデルはすでに2004年に日本市場に導入され、『車評50』では2.0Lの自然吸気直噴エンジンと6速ATを組み合わせたモデルを評価し、非常に高い評価を獲得した。昨年9月に導入された新型の最大の特徴は、1.4L、1.8L、2.0Lの3種類のTFSI直噴ターボエンジン(VW ではTSIと呼ぶ)と、6速と7速の2種類のSトロニックトランスミッション(マニュアルトランスミッションとツインクラッチを組み合わせた自動変速機で、VW ではではDSGと呼ぶ)が搭載されたことだ。今回評価したモデルは、その中でも私が最も関心をよせていた1.4L TFSI直噴ターボエンジンと、7速Sトロニックが搭載されたものだ。デザイン面ではシングルフレームグリルの左右のV字ラインが強調されるとともに、LEDポジションライトを内蔵した新デザインのヘッドランプを採用、フロントフェイスの精悍さが増した。価格も299万円と大変魅力的だ。

いつから発売?

2008年10月から発売。

お値段(車両本体価格)は?

車両本体価格2,990,000円(税込)



時代をリードするインテリジェントカー

今回の長距離評価を通じて新型A3スポーツバックに私はぞっこんほれ込んでしまったというのが正直な感想だ。1.4Lとは思えない走りと、良好な実用燃費、リニアで気持ちの良いステアリング・ハンドリング、あらゆる路面でごつごつ感のない気持ちよい乗り心地、控えめだが存在感のある外観スタイル、手に触れる部分のすべての触感が良い内装、前後シートの優れた居住性など、これ以上一体何が必要かと自問自答したくなる、「時代をリードするインテリジェントカー」とでも呼びたいクルマだ。多くの日本メーカーが、是非ともベンチマークにして欲しい一台でもある。


1.4L TFSIエンジン

ここで1.4Lの新型TFSIエンジンに関して少しおさらいをしよう。VWのTSIエンジンと同じ1.4LのDOHCエンジンは小型ターボで過給されており、過給エンジンとしては高めの10.0:1という圧縮比をもつ燃焼室内に高圧噴射インジェクターを用いて燃料を噴射、燃焼効率を極限まで高めている。過給され高温になった吸気は、エンジンとは独立した冷却システムとなるインテークマニフォールド内に組み込まれた水冷インタークーラーで冷却される。最高出力は125psと控えめだが、『車評50』で評価した2.0L直噴エンジンと同じ200Nmの最高トルクが1500rpmから発生し、4000rpmまでの幅広い回転域で維持されるのが最大の特色で、日本的な走行条件にまさにぴったりのトルク特性だ。


7速Sトロニック変速機

7速Sトロニックは、手動変速機のクラッチ操作と変速操作を自動化した7速トランスミッションで、VWの7速DSG同様、クラッチは乾式のデュアルだ(6速Sトロニックは湿式)。プロドライバー顔負けのシフトアップ&ダウンは脱帽ものだし、低速トルクの豊かなエンジンと7段変速を有効に活用しての市街地走行時の平均エンジン回転数の低さは特筆に価する。タイトな屈曲路の登降坂は、Sレンジに入れるとスポーティーな走行が充分に楽しめる。また上り坂でブレーキを離すと約2秒程度ブレーキが保持され、ブレーキがリリースされると同時にクラッチをエンゲージさせることによりゆるやかにクリープ(前進)するので、従来のAT感覚で運転しても違和感がない。


走りと燃費が両立

日常的な走行条件では出力が2倍もあるスポーツカーも顔負けの走り感を得ることができる一方で、すぐれた実用燃費も実現している。軽井沢往復と箱根往復を含む764kmの行程で消費したガソリンは64.1リッター、平均燃費は11.9km/Lだった。今回は「車評」コースにおける実測燃費は計測していないが、おそらく11〜12km/Lというところだろう。『車評50』で評価した2.0L直噴エンジン搭載A3スポーツバックの車評コースでの実測燃費は8.7km/Lだったので大幅に向上していることは間違いない。ただしゴルフトレンドライン(車評コースでの実測燃費が12.7km/L)に比べると、タイヤの選択にも起因してか、やや低そうだ。なお10・15モードによるカタログ燃費は15.8 km/Lだ。


ハンドルをにぎることが気持ちいい

人々がクルマに求めるものは、デザイン、走り、燃費、乗り心地、操縦安定性、静粛性、居住性、プレステイジなど千差万別だが、ハンドルをにぎることの楽しさは不要だという人はまずいないだろう。スポーツカーで最も大切な要素は決して絶対的性能ではなく、まさにこのハンドルをにぎることの楽しさにあると言っても過言ではない。新型A3スポーツバックは、最近試乗したあらゆるクルマのなかで、その点で最も高い評価が出来る一台であり、「ハンドルをにぎる楽しさ」を大切にしているスポーツカーファンにも是非試乗をおすすめしたい。


なぜ楽しいと感じるのか?

新型A3スポーツバックがなぜハンドルをにぎることが楽しいのか、以下順不同だが、何点か列記してみよう。

  • ハンドルグリップ部の断面形状や触感が抜群
  • 各種レバーやコントロール類の触感と操作感が良好
  • 前後シートのサイズ、着座感、ホールド感が適切
  • 走り始めた瞬間からの加速フィールがいい
  • プロ顔負けのシフトアップ、シフトダウン
  • 車体剛性の高さが起因してか、高質な乗り味
  • ステアリングのセンターフィールが抜群
  • 舵角を与えたときのクルマの反応がリニア
  • ブレーキフィールがリニアで安心してふめる
  • ワインディングロードの走行が爽快
  • Sレンジで走る屈曲路登降坂が楽しい
  • 荒れた路面でもばたつかず、しっとりとした乗り心地


存在感のある外観スタイル

新型A3スポーツバックの外観スタイルは、大きくは変わっていない。シングルフレームグリルの左右のV字ラインが強調され、LEDポジションライトを内蔵した新デザインのヘッドランプを採用、フロントフェイスの精悍さが増した程度だ。先般欧州のコンサルティング会社がクルマのフロントデザインに関する興味深い調査を実施し、その結果を私が「カースタイリング」第190号に「自動車の顔と人の顔」というタイトルで解説しているが、ブランドの確立にとってクルマの顔つきは非常に大切な要素の一つであることは明らかだ。ベンツやBMWのような威圧感はなく、むしろ「インテリジェンス」を感じる最近のシングルフレームグリルをテーマにしたアウディの顔つきと、近年の好調な実績とは決して無関係ではないはずだ。日本メーカーも自社のクルマの顔つきにもっと真剣に取り組む必要があると思う。


質感よく運転したくなる内装

内装デザインも大きな変更はなく、今回はメータークラスターのホワイトディスプレーなどの細部の改良にとどまるが、シンプルで好感のもてる内装デザイン、内装全体の質感の高さ、ステアリングホイールの断面形状や触感、さらには各種レバーやコントロール類の触感と操作感、メーターの視認性、前後シートのサイズ、着座感、ホールド感など、新型A3の内装は非常に好感のもてるもので、運転席に座りハンドルを握るだけで走りたいという衝動にかられる数少ないクルマだ。

私は去る4月はじめ、上述のコンサルティング会社がオーストリーで実施した「欧州市場の求める自動車の内装の調査」に参加する機会を得たが、調査対象となったCDクラスのクルマの中にあって、アウディA4が同サイズの日本車(レクサスIS、トヨタアベンシス、ホンダアコード、スバルレガシィ、マツダ6)、韓国車(ヒュンダイソナタ)はもちろんのこと、ベンツCクラス、BMW3シリーズ、シトロエンC5、VWパサート、オペルインシグニアなどの欧州車も引き離してトップの評価を獲得したのは「納得」だ。内装の魅力もアウディの好調な販売を支える一つの大きな要素になっていることは間違いない。

後席含み必要にして充分な室内空間と利便性

A3スポーツバックに試乗する際には是非後席にも座ってみてほしい。A4(セダン&ワゴン)の後席はヒップポイントの低さに起因して前方視界が悪く、うずもれ感がぬぐえず、「後席に座っての長距離はごめん」といいたいが、A3の後席はひざ前スペースこそA4にゆずるものの、着座位置が適切で前方視界もA4よりもはるかに良好だ。しかもシートのサイズ、ホールド感もよく、後席に座っての長距離も苦にならない。

ラゲッジルームは決して広くはないが、必要にして充分なスペースはあり、後席は6:4で可倒する。スキーマニアの私にとってうれしいのは、VWゴルフ同様に長尺物の室内積載を前提にした後席センターアームレスト部分のダブル可倒機能が全モデルに標準装備されていることだ。ただしこの機能に対してカタログや主要装備一覧表に一言も言及されていないのは、開発者の意図がマーケッティング部門の人たちに充分に伝わっていないのか、日本のマーケティング関係者にウィンタースポーツに関心のある人がいないかのいずれかだろう。

A3で気になる点はないのか?

以上良いことばかりを述べてきたがA3で気なることは無いのか? マイナーなポイントだが以下何点かあげてみよう。まず荒れた路面でのタイヤからのノイズがかなり気になる。全体に非常にNVHのよいクルマだけに残念だ。このモデルに装着されているピレリP7タイヤに起因する可能性が大きいが、コーナリング性能を多少犠牲にしてでも、もっとロードノイズの低いタイヤを選択すべきだろう。次もマイナーなポイントだが、両サイドにあるエアコンルーバーのクロームめっきが左右のサイドミラーに光線の加減ではかなり写りこむことだ。そして左ハンドル車、右ハンドル車のドアトリムのつくりわけをしていないことに起因してか、運転席のパワーウィンドースイッチの位置が後ろ過ぎて使いにくいこともあげておこう。

またハードウェアー領域でないが、かつて自動車メーカーで広報という役割も担ったことのある私として疑問を投げかけたいポイントは、VWとアウディが同じ企業群なのに、同一技術に対して異なるネーミング(TFSIとTSI、SトロニックとDSG)をしていることだ。アウディはVWより高いブランドポジションを目指しており、差別化が大切なことは自明だが、世界に誇る新技術に2つの異なるネーミングを与えるメリットは果たしてあるのだろうか? 私にはデメリットの方が大きいように思えて仕方ない。

A3スポーツバックは誰におすすめ?

以上のように大変魅力的なクルマに仕上がっている新型A3スポーツバックは、一体誰におすすめだろうか?

  • 魅力的な小型ファミリーカーを求めている人たち
  • ミッドサイズからのダウンサイジングを考えている人たち
  • ベンツやBMWの「尊大さ」や「支配感」に抵抗感のある人たち
  • 家族や仲間との長距離走行のチャンスが多い人たち
  • 単なる移動手段としてではなく、運転が大好きな人たち
  • 知的なクルマを求めている人たち
  • これまでスポーツカーをこよなく愛してきた人たち

などには充分におすすめできるクルマである。

アウディA3 スポーツバックの+と−
+ 運転することが気持ちよく、燃費も良好
+ シングルフレームグリルを含む知的な外観
+ 質感が高く、各部の触感もいい内装
− 荒い舗装におけるタイヤノイズ
− ACルーバーのクロームメッキのミラーへの写りこみ
− 運転席用ウィンドースイッチの位置が後ろすぎ


フロント周り
フロント周りのデザインは、シングルフレームグリルの左右のV字ラインが強調され、LEDポジションライトを内蔵した新デザインのヘッドランプを採用することにより精悍さが増したことが最大の変化だ。


リア周り
立体的な造形で躍動感があり、なかなかセクシーなリアエンドデザイン。新型では光ファイバー技術を採用したテールランプが鮮やかな光の環を描く。


インパネ周り
シンプルだが質感の高いデザイン、適切なシートサイズ、着座感、ホールド感、ハンドル握り部分の断面形状や触感、さらには各種レバーやコントロール類の触感と操作感、メーターの視認性など非常に好感がもてる。


リアシート
ひざ前スペースこそA4にゆずるものの、着座位置が適切で前方視界もA4よりもはるかに良好だ。しかも後席のサイズ、着座感、ホールド感もよく、後席に座っての長距離も苦にならない。


ラゲッジルーム
ラゲッジルームは決して広くはないが、後席が6:4で可倒するし、うれしいのは、長尺物の室内積載を前提にした後席センターアームレスト部分のダブル可倒機能が全モデルに標準装備されることだ。

 
オープンスカイルーフ
オプションのオープンスカイルーフは、19.5万円と安くはないが、スカイルーフを閉めた状態でシェードをあけると後席からの前方上方視界は大きく開け、高層建築や、緑したたる木々を上方に見ながらの走行は気持ちいい。




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