第11回 ホンダインサイト
第11回 ホンダインサイト
・グレード  G/L/LS (FF・CVT)
・全長  4,390mm
・全幅  1,695mm
・全高  1,425mm
・エンジン型式  LDA
・種類  水冷直列4気筒SOHC
・排気量  1,339cc
・最高出力  88ps(65kW)/5,800rpm
・最大トルク  12.3kg・m(121N・m)/4,500rpm
・電動機型式  MF6(交流同期電動機)
・最高出力  14ps(10kW)/1,500rpm
・最大トルク  8.0kg・m(78N・m)/1,000rpm
・車両本体(税込)   1,890,000 円〜2,210,000円


トヨタとホンダのハイブリッドの戦い

トヨタが初代プリウスを導入したのが1997年、インパクトは大きかったが商品性上の課題も多く、欧米のジャーナリストの間では懐疑的な見方も多かった。2003年に導入された2代目はデザイン、商品力も大幅にアップ、更に2005年のマイナーチェンジで内装の質感も向上、環境に優しいクルマにとどまらず魅力的なファミリーカーに成長した。その後のガソリン価格高騰、地球温暖化への関心の拡大などにも後押しされて日米市場で販売が拡大、2008年4月までにプリウスの累計販売台数は100万台を超えた。3代目のプリウスは5月に発表となる。

対するホンダが初代インサイトを導入したのが1999年、2人乗りというコンセプトにも関係してか、6年半の販売は1万6000台にとどまった。シビックハイブリッドが導入されたのは2005年、初代インサイトよりはるかに実用性の高いこのモデルはアメリカ市場を中心にすでに25万台が販売された。日本で余り販売が伸びなかったのは、セダンそのものの人気が低いことに加えて、ハイブリッド専用車でないこと、ガソリン車との価格差が大きいことなどにも起因していたはずだ。ホンダハイブリッド車の累計販売台数は2009年1月までに30万台を超えた。

世界をリードする日本のハイブリッド技術

こうしたトヨタ、ホンダの開発、販売努力と、もろもろの社会環境などの変化などもあり、ハイブリッド車に対する世界的な認知度は急速に上昇、欧米のメーカーも無視できない状況に追い込まれた。アメリカのミシガン州にはGM、ベンツ、BMWが共同でハイブリッド技術を開発する拠点まで出来たが、蓄積された日本メーカーのノウハウとのギャップは大きいはずだ。オバマ大統領による「グリーンニューディール」政策は、低炭素社会の実現に向けての再生可能エネルギー、断熱住宅、クリーンエネルギー自動車などに対する国を上げての支援が目的だが、自動車誕生以来、その世界をリードしてきた米国が、何としてでも次世代自動車でリーダーシップを取り戻したいという思いも読み取れる。

インサイトとはどんなクルマ?

2月はじめに導入された新型インサイトは「新時代のコンパクトスタンダード」を目指した実用性の高い5人乗り5ドアハッチバックだ。全気筒休止機能つき1.3L i-VTECエンジンと、フライホイール部に薄型のモーター兼発電機を装備した小型軽量化なIMA(インテグレーテッド・モーターアシスト)を組み合わせた「主動力のエンジン+補助駆動のモーター」というハイブリッドシステムに、シビックハイブリッドよりもかなり小型軽量化されたパワーコントロールユニット(PCU)とニッケル水素バッテリーをリアの荷室下に搭載、189万円からという魅力的な価格で登場した。今回は短時間の試乗で実用燃費も計測できていないが、まずは第一報としてお届けしたい。

いつから発売?

2009年2月から発売。

お値段(車両本体価格)は?

車両本体価格1,890,000円(G)〜2,210,000円(LS)(税込)



ハイブリッドカーを、安くつくれ

元旦の全国紙をかざったインサイトの事前告知広告「ハイブリッドカーを、安くつくれ。」をご覧になった方もおられるだろう。これまでプリウスが良く売れてきたとはいえ、ガソリン車との価格差は40万円程度あり、今後のハイブリッド車の拡販、より小型なクルマへのハイブリッド技術採用の上でコストが最大のネックになるとみたホンダは、新型インサイトの目標価格を大幅に抑えるとともに、専用ボディの開発を決定したようだ。開発者にとっては実に挑戦的な目標だったに違いない。

『車評50』ではシビックハイブリッドをプリウスと比較したが、「実測燃費は15.3km/Lとプリウスの21.2km/Lをかなり下回った」、「ハイブリッドカーを見分けることが難しいのは残念」、「このシンプルなシステムはシビックよりもっと小型のモデルに搭載してこそ、更なる真価が発揮できるのかもしれない」などとコメントを残しているが、バリューフォーマネーに対する6人の車評メンバーの平均値は5点満点でプリウス3.7に対してシビック2.7と低かった。そして「シビックハイブリッドに対する耳に痛い市場評価もふまえた技術開発が、引き続き強力に推進されるものと確信する」と結んだ。


「グリーンカーなら高くてもいい」は過去に

期待をもって臨んだ試乗会での印象は、「走り、実用性、燃費(実用燃費は未測定だが)、魅力的な価格を含み、総じて期待をかなり上回るクルマに仕上がっている。デザイン、内装、後席居住性などに一言あるが、インサイトの導入により、“グリーンカーは高い”は過去のものになりそう。フィット、あるいはもっと小さいクルマへのハイブリッド技術の展開を考えるとき、ホンダシステムのメリットは一段と拡大するはずだ」ということになろう。以下それぞれの領域についてもう少し詳しくお伝えしたい。


不足のない走り

まずは走りから始めよう。シビックハイブリッドを評価した際に「1.3リッターながら低速から高速まで1.8リッター級の元気の良い走りを楽しむことが出来た」と述べたが、インサイトはシビックよりもう一段走りが良くなっているように感じた。シビックハイブリッドに比べて80kg近く軽いことや、ファイナルギヤレシオをローレシオ化したことなども貢献しているのだろう。次期プリウスはエンジン排気量が1.8リッターになるらしく、大きなモーター出力とも合わせて、走り感はかなり向上すると思われ、走りの比較では次期プリウスに分があることは想像に難くない。しかしインサイトの走りで実用上全く不足はない事は強調しておきたい。

ここで、低速はモーターのみで走るトヨタ方式と、ほぼ全域エンジン主体で走るホンダ方式の+と−に一言だけふれておこう。コストや重量は別にして、トヨタ方式の場合歩行者への注意喚起が難しいのは事実だ。逆にハイブリッド車に乗ることの満足感が得やすく、加えて今後のプラグインハイブリッドシステムへの対応も容易だろう。一方のホンダ方式は、ハイブリッド車に乗る満足感が得にくいという人もいると思うが、反面吸排気音の存在は「クルマを操る満足感」につながり得るのも事実だ。加速時などの心地良いエンジン音を作りこむことができれば、モーターによる無音に近い走行との差別化をはかれるのではないだろうか。どちらを好むかは個人次第ということになるだろうが……。


実用燃費未計測だが改善に期待

次は実用燃費だ。シビックハイブリッドのカタログ値は機種によっては31km/Lと、プリウスの33km/Lに近接していたが、車評実測燃費は前述のように、15.3対21.2とかなりな差が見られた。インサイトはカタログ値こそ30km/L(JC08モードでは26km/L)とシビックをむしろ下回るが、今回は実用燃費の向上に注力したという。空力特性の改善、エンジン単体の燃費改善、CVTの発進クラッチの早つかみ、CVTの変速レシオの最適コントロールなども含めて、通常モードでの走行でもかなり改善されているそうだし、ECONボタンを押すと、スロットル開度、エアコン制御、CVT制御、アイドルストップ領域の拡大、高速走行時の回生量制御などにより、実用燃費が一段と向上するという。遠からずぜひ車評コースで実測燃費を計測してご報告したいが、現行プリウスなみの実用燃費(自然吸気の軽自動車よりかなり良い)が得られるならば拍手を惜しまない。


エコ走行のコーチング&ティーチング機構

最近のクルマでは平均燃費、瞬間燃費などを表示することにより、エコ運転が習得しやすくなっているが、インサイトにもタコメーター中心部に「エコドライブバー」と称する瞬間燃費インジケーターやECOスコア、更にはスピードメーター周辺色の変化でエコドライブ度をドライバーに知らせる「アンビエントメーター」が標準装備される。更にメーカーオプションのNAVIではその日の運転のエコ度、その日までの成長度を表示し、ドライバーにエコ運転をティーチングするとともに、インターナビ・プレミアムクラブの会員同士がエコドライブランキングというゲーム感覚でエコ運転を競うことが可能なサービスも提供している。


新型フィットゆずりの走りの気持ち良さ

動力性能以外の走りにも少しふれよう。新型フィットでは旧型に比べて真っ直ぐ走ることの気持ちよさを含めてステアリング・ハンドリングが大きく進化したと述べた。「真っ直ぐ走ることの気持ち良さが日常の走行シーンで非常に大切な要素」というのが私の持論だが、最近のホンダ車はいずれもこの点が大幅に改善されており、インサイトも例外ではない。新型プリウスがどのような進化をはたすか興味深いが、現行プリウスの評価結果は「高速時にステアリングのセンターが甘く、操舵力がリニアでない」のでインサイトに軍配が上がる。ただしタイヤから入ってくる振動はもう少し抑えてほしいところだ。


プリウスそっくりの外観は残念

シビックハイブリッドが一目でハイブリッド車と識別できなかったことは最大の反省点だったに違いないし、その意味からはインサイトのハイブリッド専用デザインはウェルカムであり、デザインそのものも決して悪くない。しかし全体のフォルムや、リア周りはどうみてもプリウスに酷似しており、プリウスコンプレックスと言われても仕方がないのが残念だ。理由を問うと「空力特性の追求の結果」という答えが返ってきたが、0.28というCD値はそれほど驚くほどのものではないし、全体のフォルムが近似したにせよ、細部のデザイン自由度はもっとあったはずだ。


後席居住性と内装質感にも一言

前席居住性、400リッターのラッゲージスペース、6:4分割可倒のリアシート、リアシートを倒した場合のフラットな荷室、2段式フロアボードなどを含めて「新時代のコンパクトスタンダード」にふさわしいユーティリティーだ。最近のホンダ車の例にもれず、前方視界が良好なのもいい。しかしここでも空力特性の追求に起因して後席の居住性、リアヘッドクリアランスはぎりぎりで、後席に着座した場合のサイドウィンドー上端の低さはうっとうしく、リアシートサイズも決して充分ではない。これらに限って言えば「新時代のコンパクトスタンダード」と呼ぶには躊躇(ちゅうちょ)がある。

内装デザインは最近のホンダ車にみられる「重箱」風とでも言おうか、要素の多いデザインで秀逸な造形とは言いがたい。ステアリングホイール上方に位置するデジタル速度計は座高の高い人も、低い人も、ステアリングホイールが干渉しやすいし、内装質感の作りこみに努力のあとはうかがえるものの、ナビ周辺の素材感などを含めてインパネ周りの質感はいまいちだ。


新型インサイトは誰におすすめ?

一部を除き、期待を上回るクルマに仕上がっていることは以上述べてきた通りだが、新型インサイトは一体誰におすすめだろうか? まず低迷する経済の中でより小型な車への移行を検討中の人たちにとって、インサイトの商品性、経済性、価格は大きな魅力と写るはずだ。またもし実用燃費が20km/L以上という軽自動車を凌駕するレベルとなるならば、4月からの優遇税制とも合わせて、軽自動車へのダウンサイジングを考えている人たちにとっても魅力ある商品となるだろう。シビックハイブリッドよりはるかに門戸が広がることは間違いない。ただし新型プリウスの価格がうわさされているようなレベルになるとすると、インサイト対プリウスの戦いは熾烈(しれつ)を極める可能性が高い。

ホンダインサイトの+と−
+ 1.8リッター級の元気の良い走り
+ 未計測だが期待もこめて実用燃費
+ 魅力的な価格
− プリウスそっくりな外観スタイル
− 後席居住性
− インパネ周りの質感


新型インサイト
シビックハイブリッドが一目でハイブリッド車と識別できなかったことは最大の反省点だったに違いないし、その意味からはインサイトのハイブリッド専用デザインは望ましいものであり、デザインそのものも決して悪くない。


プリウスとの近似性
しかし全体のフォルムや、リア周りはどうみてもプリウスに酷似しており、プリウスコンプレックスと言われても仕方がないだろう。「空力特性の追求の結果」というが、細部のデザイン自由度はもっとあったはずであり、残念だ。


ホンダハイブリッドシステム
1.3Lエンジンのフライホイール部に薄型のモーター兼発電機を装備したハイブリッドシステムとかなり小型軽量化されたパワーコントロールユニット(PCU)とニッケル水素バッテリー。走りは1.8リッター級と言える。


インパネ周りのデザイン
最近のホンダ車にみられる「重箱」風とでもいおうか、要素の多いデザインで秀逸な造形とは言いがたく、インパネまわりの質感もいまいちだ。デジタル速度計は座高にかかわりなく、ステアリングホイールが干渉しやすい。


後席居住性
空力特性の追求に起因してか後席の居住性、リアヘッドクリアランスはぎりぎりで、後席に着座した場合のサイドウィンドー上端の低さがうっとうしい。リアシートクッション(後席座面部)長も充分とは言いがたい。


トランクスペース
400リッターのラッゲージスペース、6:4分割可倒のリアシート、リアシートを倒した場合のフラットな荷室、2段式フロアボードなどを含めて「新時代のコンパクトスタンダード」にふさわしいユーティリティーだ。
糀屋大輔のセカンドオピニオン
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ホンダの未来を占うクルマ
このホンダインサイトは2代目である。初代は同じハイブリッド車でも2人乗りの小型車で、ほとんど見かけることの無いクルマだったが、2代目は100年に一度といわれる不況の中で、ホンダの未来を占うクルマとなった。外観は、横顔と後ろ姿がトヨタプリウスに酷似しており、フロントマスクのみがホンダであることを主張する。都内の道路と首都高を2時間足らず走って得た印象も、プリウスのそれと大きくは違わない。硬いタイヤとサスペンションのもたらすフラットライドと、接地感の弱いステアリング、可もなく不可もない加速性による無機質な走行感がこの2台のハイブリッド車の共通点だ。

インサイトにおける4月以降の優遇税制について
 4月以降にクルマを購入すると、クルマの環境対応レベルに応じて各種税金が減額されます。インサイトなどのハイブリッド車ではこの減額幅も大きいので、優遇税制実施以降に購入すると初期費用が大きく低減します。
 4月以降にインサイトを購入すると、今回の優遇税制の施行にともない、重量税5万6700円と取得税(タイプにより幅がありますが)5万円前後の合計11万円円弱が減税され、負担軽減となります。ただし、1回目の車検を受ける時は重量税の免除はありません。
 ちなみに、3月までに登録したインサイトの場合、優遇税制は適応されませんので、先述の11万円弱分の負担が増えることになります。しかし、1回目の車検時の重量税3万7800円が免除されることと、これとあわせてHM(本田技研工業)自身による、購入者に向けての優遇税制支援や、各販売会社の支援などで4万円から6万円程度の独自支援を行なっていることで、合計10万円弱の負担軽減となり、事実上4月以降に購入者と差がつかないように工夫して販売されています。一度車検を受けるくらいの期間乗りつづける場合においては、HMや各販売店の努力により、ほとんど差がないようになっているそうです(編集部取材まとめ)。



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