・全長 4,020mm
・全幅 1,720mm
・全高 1,255mm
・エンジン形式 LF-VE[RS]
・種類 水冷直列4気筒DOHC16バルブ
・排気量 1,998cc
・最高出力 170ps(125kW)/7,000rpm
・最大トルク 19.3kgf・m(189N・m)/5,000rpm
・車両本体価格 2,860,000円(税込)
1960年代から70年代にかけてアメリカを中心に一世を風靡した2シーターオープンスポーツカーはイギリス製が大半だったが、80年代に入ると安全規制への対応なども要因となり、市場からその姿が急速に消滅、代わりに参入したのは日本製のFF、MRなどのスポーツ&スポーティーカーだった。マツダは第一次エネルギー危機で大きな打撃を受けたロータリーエンジン車の復活をはかるべく初代RX-7を78年に導入し、アメリカ市場を中心に大成功を収め、80年代半ばには第2世代にバトンタッチした。ちょうどそのころ、それとは狙いの異なるレシプロエンジン搭載のFRライトウェイトオープンスポーツカー構想が持ち上がった。
「こんなクルマが本当にマツダに必要なのか?」という社内の空気の中で、初代主査の平井敏彦さんは、FR、2シーター、オープンという様式にこだわり、「人馬一体」をキーワードにプロジェクトメンバーの情熱とノウハウを結集して初代ロードスターを開発した。初めてのお披露目の場となったのが1989年2月のシカゴモーターショーだ。あれから20年、1997年に2代目、2005年には3代目にバトンタッチされ、今日までに85万台を超えるロードスターが世界の人たちにライトウェイトスポーツカーの喜びを提供してきたが、この間も平井さんのあとを継いだ、貴島孝雄主査のリーダーシップのもとで一貫して追求し続けてきたのが入手しやすい価格と「人馬一体」だった。
3代目ロードスターは『車評50』で評価したが、全般的には高い評価の中で、フロント周りのデザイン、内装全体の質感などを要改善点として指摘した。2008年12月に導入された新型では、そのフロント周りのデザインが大きく変わり、内装も基本デザインこそ不変だが質感がかなり向上、加えて「人馬一体」にかかわる細部の改善が行なわれた。具体的にはエンジン回転限界のアップ、常用領域での吹き上がり感の向上、吸気サウンドの作りこみ、MTのシンクロ改善、ATのマニュアル制御改善とスポーツ走行時の最適シフトモードの自動選択、フロントロールセンターの低下とサスペンションの再チューニングによるステアリング・ハンドリングのリニアリティーの向上、更にはリトラクタブルハードトップ装着車の荒れた路面走行時の車内騒音低減など多岐にわたる。
2008年12月から発売。
車両本体価格2,860,000円(税込)
4〜5年をライフサイクルとする乗用車の場合、マイナーチェンジ時点では残りのライフサイクルを少しでも活性化するためにごく限られた範囲のてこ入れでお茶を濁すのが常だ。スポーツカーの場合は通常ライフサイクルがその倍近く、マイナーチェンジの内容は一般的な乗用車より濃いのが常だが、今回のロードスターの改良はフルモデルチェンジといっても良いほどの中身だ。あいにく100年に一回とも言われる経済危機の中での門出だが、一連の改良が世界中のスポーツカー愛好家に歓迎されることは間違いなく、今後どのように販売が推移するかを注目してゆきたい。
デザインの進化から語り始めるのが一般的だが、20年間にわたり「人馬一体」を追求し続けてきたロードスターであり、今回の商品改良でも「人馬一体」にかかわる改善は半端ではないのでこの領域から話を進めよう。まずエンジンだが、広報資料によると鍛造クランクシャフト、ピストンのフルフロート化、新設計バルブスプリングなどのより、レッドゾーンを500rpmアップして7500rpmにしたとある。「7500rpmは一般走行では使うチャンスはめったに無いが」と思って試乗を開始した途端、全域でエンジンが気持ちよく回るようになったことに驚かされた。上述の改良に加えて、後述の吸気サウンドの効果的な作りこみも少なからぬ効果を発揮しているようだ。気持ちよく回るエンジンがスポーツカーの楽しさの中で非常に大切な要素であることはいうまでもない。
次はそのエンジン音だ。エンジン音と一口に言っても、テールパイプからの排気音、排気系からの輻射音、バルブ作動音、クーリングファン騒音、吸気音、各種補機からの雑音などが交じり合った大変複雑なもので、マイナーチェンジ前のロードスターのエンジン音は「サウンド」とは呼びがたかった。エンジン音の作りこみの上での重要な要素のひとつが吸気音だが、今回は新開発のインダクションサウンドエンハンサーにより中速回転以上のエンジン音が大幅に改善されており、エンジンサウンドと呼んでもいい音に進化している。インダクションサウンドエンハンサーとはアクセルを踏み込んだ際の吸気管内の脈動を増幅し、気持ちの良いエンジン鼓動を室内に意図的に伝達するもので、4000rpmを超えるあたりからの効果は明白だ。比較的簡単な装置だが、ドライバーに走る喜びを与える上での価値は半端ではない。
トランスミッションもスポーツカーでは非常に大切な要素だ。広報資料によると「MTのシンクロコーンを各種改良し回転限界500rpmアップに対する対応するとともに、より滑らかなシフトフィールの実現につとめた」とある。シフトフィールは総じて悪くないが、試乗したクルマに限るのかもしれないし、慣らしが進むと良くなるのかもしれないが、冷間時のセカンドへのシフトダウンなどもう一歩シフトフィールの改善の余地が残されていると思う。一方の6速ATは、今回は短距離評価しかできなかったが、走行中にパドルシフトレバー操作のみで瞬時にマニュアルシフトに切り替えられとともに、アクティブアダプティブシフトというスポーティー走行時に自動シフトダウン/シフトアップ、シフトホールドしてくれる機能を採用しており、ATでもスポーツ走行が楽しめるようになったのがうれしい。
次がステアリング・ハンドリングだ。「フロントサスペンションのナックル側のボールジョイントの上下ピボット位置を変更してフロントのロールセンターを26mm低下させ、あわせてサスペンションチューニングを行なうことによりステアリングの切り始めからのロールをより自然に、操舵に対する応答をよりリニアにした」という。マイナーチェンジでこのようなところまで手をいれるのはマツダのスポーツカーに対するこだわりの強さ以外のなにものでもない。マイナーチェンジ前のモデルとの同時比較は行なえなかったが、昨年秋、あるメディアの依頼で初代、2代、3代(マイナーチェンジ前)のロードスターの同時比較を箱根で行なった際に、3代目では「動的な質感は明らかに向上しているが、ワインディングロードでの切れの良さには改善の余地あり」と感じた。
新型では直進状態も一段と気持ちよくなった上に、そこからステアリングをきり始めた時の反応がよりリニアリティーになり、ステアリング・ハンドリング領域における「人馬一体」感が一段と向上していることが確認できた。乗り心地は17インチの45タイヤゆえちょっと心配したが、ビルシュタインのショックアブソーバーとそのセッティングにも起因してか、高速道路の継ぎ目も含む荒れた路面での乗り心地は下手な乗用車よりも優れており、日常の使用で全く苦にならないレベルだ。ただしルーフを開けて走っているときの荒れた路面からのステアリングへの振動伝達はもう一歩改善してほしい。
『車評50』ではマイナー前のモデルに対して「残念なのはデザイン上の挑戦だ。原点復帰は理解できるし、外観スタイルはNBと大きく異なるものの、路上では区別はさほど容易ではなく、フロントのファニーフェイスもいただけない」とコメントしたが、今回のフロント周りのデザイン変更によりデザインの魅力度が大幅にアップし、マツダのデザインアイデンティティとの整合性も向上した。ヘッドランプまで変更しているのはマツダ内部にもかなり問題意識があったからだろう。一方リアバンパー、テールランプを含むリア周りのデザインも変更されてはいるが、フロントのように一目で識別しにくいのは残念だ。
マイナーチェンジ前のモデルの内装はプラスチッキー感が否めなかったが、新型の質感向上はなかなかのものだ。まず気づくのはインパネ上のパネルがピアノブラックからダークシルバーになったことだ。シルバーの方が明らかにスポーツカーに対するマッチングが良い。またドアトリム、インナードアハンドルの握り形状などが変更され、センターコンソール上のアームレストがソフト素材になり、エアコンのコントロールダイヤルにシルバーリングが追加された。これらの一連の改良により室内の質感がかなり向上した。更にメーターの目盛りが100rpm、1km/h単位から500rpm、5km/h単位に変更されのもうれしい変更だ。シートヒーターは5段階に調整可能となった。
ロードスター用に開発されたRHT(リトラクタブルハードトップ)は12秒という世界最短といってもいい開閉時間、オープン時のトランクスペースへの犠牲の無さなど実用面でも称賛に値するものだし、世界に名だたる高級スポーツカーのリトラクタブルハードトップでこれに匹敵するものはまだない。走行時の室内ロードノイズ低減という今回の対策ともあいまってRHTの人気は一段と高まることも予測される。ただし、今後国土交通省などとの話し合いをすすめて国産車といえども是非とも低速走行時の開閉を認めてほしいと思うのは私だけではないはずだ。ポルシェの場合時速50km/h程度までは開閉操作が可能であり、その有難さは半端ではないからだ。
今回の走行距離は422km、高速道路比率は約80%と車評コースよりやや高速の割合が多いが、実測燃費は10.0km/Lと、いみじくも従来モデルの「車評コース」における実測燃費と全く同じ数値となった。ちなみにその後三樹書房メンバーによる市内約100km走行時の実測燃費は8.5km/Lだった。マイナーチェンジ前後で燃費はほとんど変わらないとみてよいだろう。実測燃費は悪くはないのだが、昨今のVWのTSIエンジンのような素晴らしい走りと燃費の両立や、ハイブリッドモデルの切磋琢磨などを考えるときにはスポーツカーといえども実用燃費(カタログ燃費などは度外視して)の一層の改善に是非とも取り組んでほしい。
このように「マイナーチェンジ」という言葉がふさわしくないほど細部にわたる改良が施された新型ロードスターは一体誰におすすめだろうか? 日本各メーカーのスポーツカープロジェクトの凍結や延期がうわさされる中で、当分の間新型ロードスターが貴重な存在として生き続けていくことは間違いなく、これまでのロードスターの代替車種としての魅力度が大幅に増していることは間違いないし、ロードスターに関心はあったが改良前のモデルには抵抗のあった人にも喜ばれそうだ。加えて団塊の世代の子離れ後の生活の潤いとして、あるいは若い人たちのクルマに乗る喜びの実現のために、是非ともそれなりの台数がはけてゆくことを心から願っている。
新型ロードスターの+と−
+ 全域で気持ちよく回るようになったエンジン
+ 人馬一体感が増したステアリング・ハンドリング
+ 力強さが増した外観デザインと、向上した内装の質感
− ポルシェなみとは言わぬが、もう一歩のシート居住性
− 改善はされているが、もう一歩のMTシフトフィール
− オープン走行時の路面からステアリングへの振動伝達
今回、マイナーチェンジを行なったマツダロードスターの試乗をする機会を得た。3代目(NC型)のマイナーチェンジということでマツダでは通称でNC2と呼んでいることを主査の貴島孝雄氏からお聞きした。フルモデルチェンジではないので、自動車雑誌などにもそれほど大きく紹介されることもないようだが、個人的に初代のNA型(1800cc)ロードスターを愛用していることもあり、ロードスターのオーナーとしての視点からこのモデルを評価してみたい。
■大きく前進した「走り感」
試乗を終えて感じたのは「走り感」が向上したことだった。エンジンはどんどん回っていくような、吹きあがりの良さがあきらかに改善されており、素性の良いオートバイエンジンの様なレスポンスである。高速道路を100kmの巡航では5速で3500rpmを示し、6速では2750rpmであった。全体にローギアードなセッティングのために、4速で1500rpmからの加速も十分にトルクがあり、どこの速度からアクセルを踏み込んでも反応は良好である。また、期待以上だったのは運転していても軽快感があり、特に空いている一般道の運転は楽しかった。車重は初代のNA型に比べれば200kg近くも増えて(試乗車は車重1150kg)いるが、ハンドリングも含めて、初代に近いと感じたし、ロードスターとしての個性は残しながら、乗り心地やブレーキ性能は明らかに進化していることを確認した。
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