第9回 2008年に小早川隆治が気になったクルマ6台


商品魅力が一層大切な要素に

2008年後半から世界に激震を与えた経済危機は、アメリカはもちろん、日本、欧州、更にはアジアの経済や自動車市場をゆるがし、一年前には誰も予測すらしなかった、長年「世界一」をほしいままにしてきたGMの倒産すら視野に入るという激動期を迎え、回復の糸口が全く見えぬまま新年を迎えた。各企業によるリストラ策は次々と打ち出されているが、当面最も大切なのは市場の活性化にあることは疑いのないところであり、その面からの時限立法なども含む積極的な政策の一日も早い実現を望むが、一方で商品の魅力がますます大切な要素になることは間違いなく、世界の自動車業界地図を大きく塗りなおすためのチャンスをどのメーカーがつかむかにより、明暗を大きく分ける戦いともなるだろう。


2008年に気になったクルマ6台

今回の「車評オンライン」では2008年に導入された多くの新型車のなかから、これまで「車評オンライン」で取り上げていない「気になったクルマ6台」を選び、短評を加えたい。「気に入った」ではなく「気になった」であることに留意いただくとして、選んだ6台のうち国産車は、ダイハツタント、トヨタiQ、日産エクストレイル(クリーンディーゼル)、輸入車はアウディA4、シトロエンC5そしてフィアット500だった。



ダイハツタント

2007年末に導入された新型タントの2008年一年間の販売台数は16万台近くに達し、登録車と軽自動車を合わせての新車販売ランキングで4位という地位を確保した。タントは「幸せ家族の感動空間」が商品コンセプトだが、新型ではミラクルオープンドアと称して、左側のセンターピラーを省いて大きな開口を実現、先代より一段と拡大された室内長、前後乗員間距離、これに天井の高さも加えた室内空間は圧倒的で、助手席はもちろん、後席も左右別々に大きく前後にスライドし、リアシートを格納すればミニバンも真っ青な荷室も実現する。

人気の秘密は期待の効用?

タントがこれほど人気を博する理由はそれだけではない。「幸せ家族の感動空間」として「期待の効用」を想起させるカタログやテレビコマーシャルなど宣伝戦略も見逃せないはずだ。ただし異例とも言える頭上空間は私にはその価値を認めにくいし、運動性能上も良いわけはない。外観スタイルは、カスタムの方が好きだが、それでも6ライトの半円形状などは過度に女性を意識したものに思え、抵抗感を覚える。パッケージングはこのままに、欧州ででも最後のデザインの磨きこみをしていたらどうなっていたか興味深い。インテリアは開放感に満ち、質感も悪くないが、コントロール類やサンバイザーなどへのリーチが遠いのは気になる。また走りは、ターボモデルは総じて悪くないが、標準車の直進性、過剰なボディーロールなどは誉められない。しかしこれらは私の独り言に近いもので、「期待の効用」に共鳴する大半のユーザーにとってはほとんど気にならないポイントだろう。その証拠には近似したコンセプトで攻撃をしかけたスズキパレットの方がはるかに乗ることが気持ちよいクルマに仕上がっているが、「期待の効用」の想起の弱さに起因してか、販売台数はタントの足元にも及ばない。曲がり角の日本のクルマ社会ではこの種のクルマの存在意義が一段と増すことが考えられるので、切磋琢磨による更なる磨きこみを期待したい。



トヨタiQ

日頃は保守的なトヨタから革新的なプレミアムコンパクトカーが誕生した。3m未満という、軽自動車より40cmも短い全長と、2mのホイールベースながら、大人3人と子供一人が乗れるパッケージングを実現、最小回転半径も3.9mと軽より小回りがきく。国内向けには1Lの3気筒エンジン+CVTをフロントに搭載、安全対応も怠りなく、9個のエアバッグが標準装着される。日本カーオブザイヤー、グッドデザイン大賞、日本自動車殿堂カーオブザイヤーなどを獲得した。iQに近似したクルマとしてはスマートフォーツーがあり、欧州の街角ではかなり見受けるが、三菱製の1L 3気筒エンジンを搭載した新型からはアメリカにも輸出が開始された。はたして世界的にプレミアムコンパクトへの関心は急速に高まってゆくのだろうか?

日本でどこまで受け入れられるか

iQは欧州デザインスタジオで開発されたようだが、うなずける部分が多い。まずそのサイズだ。軽自動車は全幅規制が1480mmだが、iQの全幅は1680mmある。ミラートゥーミラーはかなりな寸法になり、日本の狭い路地での取り回し性は決してほめられない。また日本では3mという全長のメリットを見つけにくいが、欧州の市街地では駐車枠のない縦列駐車が多く、そうした条件下では短い全長が決め手となるだろう。日本の軽自動車では当たり前の各種の物入れは見事なほど限られているし、ナビもあとづけ感があるのは欧州を主眼にしたシティーコミューターだからだろうか。外観スタイルは魅力的だが、内装の質感は今一だ。1Lエンジンの走りに不満はないが、3気筒ゆえのアイドリング振動が気になる。短いホイールベースゆえピッチングを覚悟したが、欧州向けに開発されたためか、ピッチングは余り気にならず、直進性やハンドリングは高速を含めてなかなかのレベルだ。ただしファントゥードライブとは言い難い。今後軽自動車との競合も含めて日本でiQがどのように受け入れられてゆくかは注目に値するところだ。



日産エクストレイル20GT

日本の厳しいポスト新長期排ガス規制を世界ではじめてクリアーしたクリーンディーゼルエンジン搭載車が日産からデビューした。エクストレイル20GTだ。ルノーと共同で開発し、すでに欧州向けのエクストレイルやキャシュカイに搭載されているMR9エンジンをベースに、ポスト新長期規制に適合すべく開発されたもので、可変ノズルターボによる過給、1600気圧のコモンレールシステムによる燃料の微粒化、ピエゾ式インジェクターによる噴射タイミングと噴射量の精度の向上、ダブルスワールポートによる効率的な燃焼、ディーゼルパティキュレート・フィルターによる黒煙の除去、リーンNOxトラップ触媒によるNOxの無害化などが特徴だ。

気になるディーゼルエンジン車の今後

このクルマに乗って真っ先に感じるのは極低速を除き3.5Lガソリンエンジン並みというあふれるばかりのトルクで、市街地でも6速で巡航が可能だし、高速道路の登坂路を6速のままでぐいぐい加速してくれるのには驚かされた。踏み込めば5000rpm近くまでストレスなしに加速してくれるのもうれしい。実用燃費は未計測だがかなり良さそうな印象を受けた。また騒音も極低速のディーゼルサウンドこそあるが、市街地、高速走行ともに室内は大変静かだ。足回りはしなやか、かつしたたかなセッティングになっている。SUVを求める層にはお勧めしたい一台だが、このエンジンのトルクに対応できるATは目下のところないようで、MTしかないのは残念だ。国によっては乗用車のディーゼル比率が60%にも達しようとする欧州ですら、燃料価格にも起因してディーゼル化にブレーキがかかりつつあるようだし、日本市場にディーゼル版のEクラスを投入したベンツからもポスト新長期排ガス規制への対応プランは聞こえてこない。今年にも導入が予定されていたホンダのディーゼル乗用車の国内導入計画も中断されたと聞く。せっかく実現した日産からのポスト新長期排ガス規制適合車の販売にはブレーキがかからないことを祈りたい。



アウディA4

RJCの“2009年度カーオブザイヤーImport”を獲得したのが新型アウディA4だ。アウディA4の歴史は1972年のアウディ80まで遡るが、以来850万台も生産され、世界各地でミッドサイズプレミアムカーとしての地位を確立してきた。今回が8代目だが、前車軸をクラッチやトルクコンバーターの前方に移してホイールベースを伸ばし前後重量配分を改善、空力的にもすぐれた魅力的な外観スタイル、質感の高い内装、走り、ハンドリング、乗り心地を含む優れた走行性能、そして実用燃費の良さなどが特徴だ。国内市場には1.8Lの直噴ターボと3.2L直噴エンジン搭載のクワトロモデルがあるが、前者はCVT、後者は6ATと組み合わされている。

好調なアウディ軍団を牽引するA4

1.8L TFSIのA4アバントを長距離評価することが出来たが、運転することの気持ちよさは最近のクルマのなかでも突出したもので、市内、高速の巡行、加速ともに動力性能は良好で、直進、コーナリングを含めてステアリングを握っての満足感も第一級だ。高速では12.0km/L、山間路を含む総平均で10.7km/Lという実測燃費も記録した。またCVTの8速パドルシフトの登降坂時の使いやすさもうれしい。私のお勧めは1.8LのTFSIだ。A4で気になるところもある。たとえば後席の閉塞感だ。ヒップポイントや前席のヘッドレストの高さにも起因して、後席の前方視界は限りなく悪い。またエアコンルーバーのメッキがサイドミラーに反射するし、センターコンソール上のNAVIのコントロールシステムはスクリーンタッチ方式に比べて操作時の目線移動がどうしても大きいなどは是非改善を期待したい。カタログに技術的な特徴に関する記述が余りにも少ないのも不思議だし残念だ。しかし新型A4は世界におけるアウディの好調な販売を牽引するモデルであり、総じて日本車の今後の課題である付加価値とプレミアム性の向上に関連して見習うべき点を多く含んだ特筆に価するクルマだ。



シトロエンC5

フランスには歴史的にもユニークな技術やデザインを誇るメーカーが多く、なかでもシトロエンはその代表格だ。そのシトロエンから新型C5が登場した。初代の導入は2001年で、2004年にはマイナーチェンジが行われ、2代目が誕生したのは2007年秋、日本市場への導入は昨年秋だ。最大の特色は伝統の窒素ガスとオイルを組み合わせたハイドロニューマチックサスペンションの進化版「ハイドラアクティブV」だ。このサスペンションは一言で言えば球形容器に入った窒素ガスをスプリングの代わりに使い、オイルをダンパーならびに車体の支持に使うもので、乗員数や荷物の積載量にかかわらず車両の姿勢を一定に保つことができ、路面や走行状態に合わせてのハイトコントロールやサスペンションのセッティングを自動もしくは手動で切り替えることができる。ステアリングのセンターが固定されているのもシトロエンならではだ。日本向けには2Lの4気筒エンジンが4ATと、3LのV6エンジンが6ATと組み合わされる。 

フランスらしさ+ドイツの匂い

なかなか魅力的な外観スタイルは、顔つきこそ明確にシトロエンだが、全体にはフランス的というよりもどこかアウディと近似したものを感じるのは私だけだろうか? フランス車といえどもドイツが非常に重要な市場なので理解できないことはないが。反面、内装はアウディを含む多くのドイツ車よりもずっと先進的なデザインであり、質感も良好で、シートのすわり心地は最高の部類に入る。またC5ツアラーのパノラミックガラスルーフも開放感がうれしい。乗り味は、速度領域が高い高速道路や高速でのワインディングロードなどでは、実にフラットで気持ちよい。総じて大変魅力的なクルマだ。ただし都内などの舗装悪路(?)での低速走行時にはもうひとつ乗り心地が良いとは言えないし、車体がかなり重いので2Lエンジン+4ATでは山坂道などはちょっときつく、C5に心を引かれる方には3Lの V6+6ATをお勧めしたい。



フィアット500

新型フィアット500は昔のフィアット500の現代版だ。初代は1936年に導入された通称「トポリーノ」という二人乗りだが、新型フィアット500のベースになったのは1957年に導入された空冷2気筒エンジンをリアに搭載した通称チンクェチェントと呼ばれたモデルだ。ただしチンクェチェント導入50周年を記念して導入された今回のフィアット500は、パンダのプラットフォームを活用した前輪駆動車であり、全長は軽自動車よりわずかに長い3.5m、欧州向けには1.3Lのディーセルターボもあるが、国内向けは1.2L、1.4Lのガソリンエンジンだ。ちなみに新型フィアット500は2008年欧州カーオブザイヤーを獲得している。

記号性こそが命

復刻版ともいえるクルマにはBMWミニ、VWビートル、アメリカではサンダーバード、ムスタングなどがあるが、ミニを除いては評価に値しなかった。しかし新型フィアット500は評価に値する一台だ。チンクェチェントのデザインテーマをうまく生かしながら、小さいことの悲哀を感じさせない、おしゃれで可愛らしい外観スタイルがいい。また高級素材こそ使ってはいないが、シンプルで、独自性のある内装デザインはなかなかエスプリのきいたものだ。決して広くはないが実用上不足のない後席居住性も備えている。1.2Lエンジンでも不満のないレベルの動力性能と、都内の舗装悪路でもばたつくことのない足回りはさすが欧州で育ったクルマといえるし、乗り心地も悪くない。クラッチレスの5速デュアロジックという変速機のギクシャク感はややつらいが、このクルマは記号性こそが命であり、日本の軽自動車メーカーにもっと記号性の作りこみに注力する必要があることを教えてくれるモデルともいえよう。低迷する経済にも起因して小型化が更に進むことが予測される日本市場で、軽自動車に抵抗感のあるユーザー層に食い込んでゆける可能性は十分にありそうだ。惜しむらくは価格がもう一歩安ければ良いのだが。アバルトバージョンの導入も楽しみだ。



ダイハツタント
2003年後半に導入されたタントはムーブやワゴンRなどとは明らかに異なり、また軽バンとも明確に一線を画し、まるでリビングルームを思わせる室内をもつ「幸せ家族空間」をテーマにした軽自動車だった。新型は一段と拡大された室内に加えて、左側のセンターピラーを取り除くことにより大変広い開口面積も実現している。




トヨタiQ
トヨタから革新的なコンセプトのプレミアムコンパクトが誕生した。3m未満という、軽自動車より40cmも短い全長と、2mのホイールベースながら、大人3人と子供一人が乗れるパッケージングを実現、最小回転半径も3.9mと軽より小回りがきく。1Lの3気筒エンジンをフロントに搭載、9個のエアバッグが標準装着される。




日産エクストレイル(クリーンディーゼル)
日産から日本の厳しいポスト新長期排ガス規制を世界ではじめてクリアーしたクリーンディーゼルエンジン搭載車がデビューしたのが、エクストレイル20GTだ。ルノーと共同で開発し、欧州向けのエクストレイルやキャシュカイに搭載されているエンジンをベースに、ポスト新長期規制に適合すべく開発されたものだ。




アウディA4
新型A4は世界におけるアウディの好調な販売を牽引するモデルであり、空力的にもすぐれた魅力的な外観スタイル、質感の高い内装、ハンドリング、乗り心地を含む優れた走行性能、そして実用燃費の良さなどが特徴だ。1.8Lの直噴ターボと3.2L直噴エンジン搭載のクワトロモデルがある。




シトロエンC5
フランスには歴史的にもユニークな技術やデザインを誇るメーカーが多く、なかでもシトロエンはその代表格だ。そのシトロエンから登場した新型C5は、外観スタイルこそややドイツの匂いがするが、最大の特色は伝統の窒素ガスとオイルを組み合わせたハイドロニューマチックサスペンションだ。




フィアット500
新型フィアット500は昔のフィアット500の現代版で、ベースになったのは1957年に導入された空冷2気筒エンジンをリアに搭載した通称チンクェチェントと呼ばれたモデルだ。ただし今回のフィアット500は前輪駆動車であり、小型車であることの悲哀を感じさせない、おしゃれな内外装デザインがいい。


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