TS(スティングレー) (FF・CVT)
・全長 3,395mm
・全幅 1,475mm
・全高 1,660mm[1,675mm]
・エンジン形式 K6A
・種類 水冷4サイクル直列3気筒
・排気量 658cc
・最高出力 54ps(40kW)/6,500rpm
[64ps(47kW)/6,000rpm]
・最大トルク 6.4kgm(63N・m)/3,500rpm
[9.7kgm(95N・m)/3,000rpm]
・車両本体価格 1,181,250円(税込)
[1,554,000円(税込)]
※[ ]内の値はワゴンRスティングレー(TS)
それまでの軽自動車の概念を打ち破る「トールワゴン」というニューコンセプトで1993年9月に導入されたワゴンRは、1993〜1994年次のRJCニューカーオブザイヤーに輝くとともに、室内空間の広さ、様々な用途に使用できる使い勝手、乗り降りと運転のしやすさ、魅力的な価格、ユニークなスタイリングなどにより、たちまちにしてベストセラー軽の地位を獲得した。98年には変更された軽自動車規格に対応した2代目、2003年には3代目が投入され、2008年6月には累計300万台を達成、1995年以降合計12回にも及ぶベストセラー軽という輝かしい実績を残してきたが、9月末に4代目ワゴンRが登場した。
4代目ワゴンRは40mm延長されて2400mmになったホイールベースをもとに、大型乗用車も真っ青な前後乗員間距離を実現、前後席の乗降性も改善された。加えて一目でワゴンRと分かるが躍動感の増した外観スタイル、造形、質感ともに大幅に進化した内装デザイン、一層便利になった使い勝手、エンジンとトランスミッションのてこ入れにより改良された走りと燃費、そして一新したプラットフォームと新開発のサスペンションにより向上した操縦安定性と乗り心地などにより一段と魅力を増した軽自動車のトップランナーだ。先代を大幅に超える商品性が評価され、2009年RJCカーオブザイヤーを獲得した。
2008年9月から発売。
車両本体価格1,181,250円(FXリミテッド、税込)、1,554,000円(TS、税込)
ワゴンRのより詳細な話に入る前に最近のスズキのクルマづくりに関して一言ふれておきたい。スズキ車の変化を初めて感じた、スズキスイフトの内外装デザインや上質な走りに感銘したのは4年前だ。2006RJCカーオブザイヤーに輝いたスイフト熟成の秘訣は欧州におけるデザインのねりこみと、開発段階での欧州における徹底的な走りこみにあったという。2002年からモータージャーナリストに転じ、数多くの国産車、輸入車の評価を通じて、「欧州生まれのクルマの日本車を越えるデザインや走りの魅力」を痛感、日本車の現状に歯ぎしりしていた私にとって、スイフトの出現は大変うれしい出来事だった。スイフトがきっかけとなったのだろう、その後スズキから導入された新型車、SX4、セルボSR、パレットなども走りの質が従来のスズキ車とは一線を画すものとなり、つい先日導入されたスプラッシュのデザインと走りの気持ちよさにも脱帽した。
このような最近のスズキのクルマづくりゆえに、新型ワゴンRにも大きな期待をよせていた。「ワゴンRを越えるワゴンR」が大命題だったというが、ヒット商品の後継モデル開発には想像を超える苦労があったはずだ。従来モデルからの継承すべきポイントと発展させるべきポイントの見極めや、スタイリング上の進化はその一例だし、室内空間の広さが大きな特徴だったワゴンRゆえに、4代目でどこまで室内の広さを追求するかが大きな議論の的となったことも想像に難くない。好調な販売が続くスイフトを横目に、運動性能の進化とそのためのプラットフォームやサスペンションシステム、更には走りと燃費の向上のためのエンジン&トランスミッションのあり方も大きな課題だったに違いない。今回の総合評価を通じて実測燃費も含み、「ワゴンRを越えるワゴンR」という命題が見事に達成されていることが確認できた。
まずはパッケージングの進化だ。ホイールベースの延長こそ40mmと驚く数値ではないが、室内長は105mm拡大されて1,975mmに、前後乗員間距離は140mmも拡大されて985mmとなり(いずれもダイハツムーヴにはまだ一歩ゆずるものの)、大型乗用車をしのぐ前後乗員間距離を実現、フロントドア開口幅の拡大、フラット化された床面、30mm低くなったリヤステップ地上高などにより、前後席の乗降性も改善されている。また後席の左右独立スライドやリクライニング、ワンタッチダブルフォールディング機構などは大変使い勝手がいい。
今回たまたま来日中だった知り合いのノルウェー人親子を意図してワゴンRで都内案内したが、後席の居住性に驚嘆、欧州市場への導入の可能性を何度も問われたのが印象的だった。またこれまでのワゴンRで好評だったシートアレンジ(3人+荷物、2人+長尺物、フルフラットに近いラゲッジスペース)の継承や、後席の着座位置の高さに起因しての後席からの前方視界の良さもうれしい。近未来に、もしも新型スマートフォーツーに採用されているガラスよりははるかに軽量なポリカーボネート製のスカイルーフ仕様が登場すれば、室内の開放感は向かうところ敵無しになるだろう。是非検討してみてほしいアイテムだ。ちなみにアウディA4は素晴らしいクルマだが、後席の閉塞感はワゴンRとは対照的だ。
次にデザインの進化にふれよう。まず外観スタイルだが、伝統の6ライト(リヤドア後方の窓)を廃しウェッジシェイプ化されているが、一目でワゴンRとわかる躍動感の増した外観スタイルはなかなか好感がもてる。個人的にはスティングレーより標準のワゴンRの方が好きだが、若い男女はもとより年配者も含めて、スティングレーの外観スタイルを好む人が多いことに驚かされた。モデルの作り分けの意義は大きい。ただし両モデルとも注文がないわけではない。全体にもう一歩各部の面の練りこみが欲しかったし、中でもテールゲイトの単調な造形や、リヤまわりのデザインなどには明らかに改良の余地が残されていると思う。もしもデザインの最終段階ででも欧州における練りこみが行なわれていれば、もっと高いデザインの質感が実現できたのではないだろうか。
内装デザインの進化は外観以上だ。ワゴンRもそれなりに魅力的だが、それ以上の驚きは、スティングレーのインパネまわりの質感だ。メーターは下手なスポーツカーも顔負けだし、エアコンまわりの操作感は欧州の一部高級車にも見習ってほしいほどだ。また大型化されたリヤシートを含み前後ともシートの居住性、ホールド性が改善されているのもうれしい。ただし改良してほしいところもある。ワゴンRのエアコン操作系の見た目の質感と操作フィーリングだ。また両モデルとも運転席、助手席のインパネ下部が膝と近接しすぎるため(こぶしひとつが入らない)心理的な圧迫感が大きいのも残念だ。
走りと燃費はどうだろう? ダイハツが新型3気筒エンジンを投入してかなりな月日が経つが、この間スズキのNAエンジンは苦しい戦いを強いられてきたはずで、今回のモデルチェンジに際して如何なる対抗策を講じてくるか大いに関心があった。シリンダーヘッドの改良と吸気系のレイアウトの最適化により低速トルクを向上、CVTのセッティングの改良との合わせ技により、これまでのような「我慢」は不要となり、ほとんどの走行シーンで「これなら十分」といえる走りが確認できた。
更にうれしいのは「車評」でこれまで評価してきたプリウスを除く全てのクルマの実測燃費を越える、18.5km/Lという新記録を達成したことだ。従来のワゴンRの16.4 km/L、『車評 軽自動車編』の11台のNAモデルの平均燃費値15.8 km/Lに比べて大きく前進している。これまで「車評オンライン」などで「実用燃費の重要性」と、日本車の特徴ともいえる「カタログ燃費と実用燃費の乖離に対する警告」を繰り返してきた私にとっては大きな喜びだ。
一方のターボエンジンはシリンダーヘッドの冷却性の向上、吸気系のレイアウトの最適化、高過給圧化したターボチャージャーなどにより64馬力の最高出力と中低速のトルクを両立、加えて従来の4ATに代わるCVTとの最適マッチングにより、市街地での発進加速、市街地、高速道路上での追い越し加速などが大幅に向上、ライトウェイトスポーツを凌駕するほどの走りが実現している。ただし、実測燃費は14.4 km/Lと従来の過給エンジン搭載軽の平均値にとどまった。ちなみに「車評」における過給エンジン搭載軽の燃費レンジは12.6〜15.2 km/Lだが、700ccの過給エンジンを搭載した従来のスマートフォーツーは18.0 km/Lを記録しており、過給エンジン搭載車といえどもまだ改善の余地があることを示している。実用燃費向上に向けての更なる挑戦を期待したい。
従来のワゴンRのひとつの弱点は、センターが甘い、正確性に欠けるステアリングや細かい凹凸をひろい、舗装継ぎ目通過時のショックもかなり大きいなど、シャシー領域にあり、「気持ちよい走り」とはいえなかった。それが一年少し前に導入されたセルボSRから大きく転換、その後のパレットも実に気持ちよく走るクルマになっていたので、パレットのプラットフォームをベースに更に細部にわたって改良された新型ワゴンRへの期待は大きかった。今回の総合評価で、ステアリングのセンターフィールが従来モデルよりはるかにクリアーに、またそこから舵角を与えたときの反応もリニアーになり、市街地はもとより、首都高速などでの走りの気持ちよさが大幅に進化した。
加えて乗り心地も改善され、14インチタイヤが装着されていた今回のワゴンRはもとより、15インチタイヤ装着のスティングレーでも一部の荒れた路面以外は問題のない乗り心地が得られており、従来モデルからの改善は顕著だ。また14インチタイヤ装着車(もちろん13インチも)の場合は後席も含めてロードノイズの進入が驚くほどよく抑えられている。ただし15インチタイヤ装着車(スティングレーのTSグレード)は、20km/hから100km/hを超える幅広い速度領域でタイヤからの不快な低周波のノイズが車内に入り込み、現状では余りおすすめできない。
以上のように新型ワゴンRは大変望ましい進化をとげているが、誰におすすめかということになると、非常に幅広い層となりそうだ。日常の足としての使い勝手の良さを求める多くの女性ユーザー層、クルマが必需品である地方の方のための生活手段、すでに一線を退いた熟年カップルなど従来から軽自動車を求めてきた人たちにとって今回のワゴンRの進化はウェルカムのはずだが、加えて昨今の経済状況下、これまでのワゴンRのデザイン、走り、質感、記号性などに満足できなかった人や、軽自動車に抵抗感のあった都市生活者にも大いに検討に値するクルマになっているように思われ、今後の販売動向や地域特性にも注目してゆきたい。一方で、ダイハツが黙って見ていることは有り得ず、ホンダの軽への注力にも注目してゆきたい。引き続いての軽自動車界における切磋琢磨が楽しみだ。
スズキワゴンRの+と−
+ 大型セダンも真っ青な室内居住性
+ 進化、上質化した内外装デザイン
+ 改善された走りとNAの燃費
− ワゴンRインパネ質感と空調操作系
− もう一歩のターボの燃費
− 15インチタイヤのノイズ
■軽トールワゴンは、現在のジャパニーズスタンダードカー
・・・・・・今回、試乗したワゴンRは、初代に続いてRJCカーオブザイヤーを受賞した4代目。先代モデルに比べてAピラーをやや傾斜させたスタイリッシュなデザインの採用、プラットフォームやサスペンションを一新するなど、走る、曲がる、止まるといったクルマとしての基本性能を大幅に高めたモデルだと感じている。これまで室内の広さやユーティリティ性を重視して開発されてきた軽トールワゴンタイプを、その王者であるワゴンRみずからが、大きく方向変換したのだと思う・・・・・
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●小林謙一のワゴンR評価
■軽自動車の風雲児
スズキの軽自動車全般の商品企画を担当し、常務役員の蓮池利昭氏に4代目となるワゴンRのことを聞いた。
「ワゴンRは発売から15年が経過し、すでにワゴンRというブランドがお客様の中に出来ているわけですから、だから新型もひと目見て“ワゴンR”に見えないといけないんです」
・・・しかし、今回のモデルでは、ワゴンRの伝統的ともいえるリアドア後部のウィンドーが廃止されてしまった・・・・・
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