・全長 4,570mm
・全幅 1,760mm
・全高 1,490mm
・エンジン形式 4B11 MIVEC
・種類 直列4気筒DOHC16バルブICターボ
・排気量 1,998cc
・最高出力 240ps(177kW)/6,000rpm
・最大トルク 35.0kgm(343N・m)/3,000rpm
・車両本体価格 2,982,000円 (税込)
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1981年のアウディクワトロ登場以来4WDとターボが必須となった世界ラリー選手権(WRC)は、1983年からはグループBというカテゴリーで選手権が争われることとなった。グループBは、連続した12ヵ月間に20台の競技用車両を含む200台を生産すればよいというもので、高性能なラリー専用車の製作が容易となった。その後1987年にグループA規定へ変更され、12ヵ月間に5,000台(1993年から2,500台)以上の生産が義務づけられたため、より市販車に近いクルマで争われることとなった。グループA規定により日本メーカーによる高性能4WD車の開発が活性化、一時期は日本メーカーがWRCを席巻した。1992年、三菱が投入したのが初代ランサーエボリューション(通称ランエボ)だ。以来ランエボは第一世代(T、U、V)、第二世代(W、X、?)、第三世代(?、?、?)と平均1年半に一回のペースで内容の充実を図り、今回のランエボX(テン)に至っている。
ランエボの活躍により、1996年から4年連続で三菱はWRCドライバー選手権を、また1998年にはマニュファクチャラー選手権とのダブルタイトルを獲得した。しかし参加車両の減少した欧州メーカーの復帰を促すべく1997年に変更されたWRカーと呼ばれるレギュレーションでは、継続した12ヵ月間に25,000台以上生産されたクルマをベースに、ワイドボディ化、4WDへの改造、サス形状の変更、ターボの付加などの大幅な改造が可能となった。この規則の変更により、WRCのドライバー選手権、マニュファクチャラー選手権は再び欧州陣営の手に戻るとともに、参戦するマシンと一般市販モデルとの近似性が著しく減少した。このレギュレーションは今日まで続くが、三菱は2005年、WRCへのワークス参戦を休止、現在ではグループN(量産車に近いカテゴリー)でのラリー(PWRC)や、国内のラリージャパン、スーパー耐久、ジムカーナなどにおける個人参加が中心だ。WRCへの三菱ファクトリーチーム復帰は果たして実現するのだろうか?
ギャランフォルティスの国内市場導入が2007年8月、ランサーエボリューションX(以下ランエボ)は2007年10月、今回評価の対象としたギャランフォルティス ラリーアート(以下ラリーアート)の導入は2008年7月だ。ランエボの双子といってもいいこのモデルは海外市場ではランサー ラリーアートと呼ばれているが、日本ではギャランフォルティス ラリーアートという発音しにくいネーミングとなった。国内でもランサー ラリーアートと呼んで欲しかったと思うのは私だけだろうか? ちなみにラリーアートとは三菱の100%子会社でかつては世界ラリー選手権への参戦も行なっていたが、現在はプライベートチームの支援、コンペティションパーツの開発、販売などが主要業務である。
ラリーアートは、ランエボと見間違いそうな外観に加えて、出力こそ抑えられているが、ランエボ用の4B11型エンジンをベースにターボチャージャーをツインスクロールからシングルスクロールに変更、240PS/6000rpmの最高出力と、35.0kg-m/3000rpmの最高トルクを発揮するエンジンを搭載している。更にランエボ同様、MTの楽しさと経済性、ATの快適性を両立させた、2ペダル&パドルシフト+フロアシフト式のツインクラッチSSTトランスミッションも採用、トラクション、旋回性能、制動性能を高次元でバランスさせた高度なフルタイム4WDシステムとともに、広範囲な走行条件下での運動性能と日常走行における快適性の高次元なバランスを目指して開発されたスポーツセダンだ。
2008年7月から発売。
298.2万円(ランエボは375万円)。
ラリーアートのフロントまわりデザインは、「ジェットファイターグリル」と三菱が呼ぶ台形のワンピースグリル、逆スラントしたノーズ、アルミ製ボンネットフードなど、細部を除くとランエボそのものと言ってもよいくらいだ。独特なフロントまわりは、冷却性能や空力特性にも貢献していると思うが、ユニーク、スポーティかつ迫力ある魅力的なデザインだ。サイドからリアにかけてのデザインは、ランエボのような前後のオーバーフェンダーやフロントフェンダー後部の空気取り出し口はないが、クリーンかつシャープで悪くない。ただしテールランプ周辺を中心に、全体にもう一歩細部にわたるデザイン上の質感のつくり込みがなされていれば、一層望ましいものになったと思う。オプションのラリーアート専用のリアスポイラーは、位置と厚みに起因して後方視界を一部阻害するのが残念だ。
内装デザインも全体にシンプル、クリーンで好感が持てる。シフトレバーまわり、メーターまわり、カーボンファイバー風のフィニッシャーなども悪くない。反面、ベースモデルの価格が180万円を切るため、コストに対するプレッシャーは相当にきつかったものと推定され、内装全体の質感は、300万円レベルのクルマとしては余りほめられない。
シートに関していえば、前席はサイズ、ホールド性、体圧分布などが適切で、長距離ドライブも苦にならないし、スポーツ走行にも十分対応できるなかなか魅力的なシートだ。シート表皮もすべりにくく、感触もいい。一方後席はサイズに不満はないが、ウレタンの特性などが最適とはいえず、後席に座っての長距離ドライブは余りうれしくない。
グローブボックスを開けると助手席乗員の膝と干渉する、NAVIのコントロール性が余り安易ではなく、都市部の地図が見にくい、Aピラーがかなり太くコーナリング時右前方がやや見にくい、NAVIやHVACへのリーチのために体をシートバックから離す必要があるなどは残念な点だ。
今回のラリーアートの長距離試乗以前に、ランエボは富士スピードウェイのショートコースと箱根で、ラリーアートは箱根で試乗する機会があったので、まずそれらの試乗の際の印象に簡単に触れておこう。2007年10月のランエボ導入後三菱自動車がまず設けてくれたのは富士スピードウェイのショートサーキットにおける試乗会だった。公道を走れる市販車としては圧倒的ともいえる動力性能と、限界領域走行に際しての、スーパーオールホイールコントロール(S-AWC)と呼ばれる電子制御による4輪の駆動力、制動力の制御による旋回性能、限界領域における車両のコントロール性の高さ、S-スポーツモードを含むSSTのプロ顔負けの見事な変速ロジックなどに脱帽、サーキット走行の頻度の高い人などには大変魅力的なクルマに仕上がっていることが確認できた。
次に試乗の機会を得たのは、ラリーアート導入後の箱根における公道試乗会だった。このときはランエボも含む一連のギャランフォルティスシリーズに試乗したが、ランエボの公道における印象は、正直言って「走行性能は素晴らしいが、一般の人が日常の使用を目的に購入するには、乗り心地を中心に快適性は許容限界を超える」というものだった。もちろんランエボは、本来日常走行に使用するクルマとして開発されたものではないはずなので納得はできる。一方のラリーアートは、性能こそランエボに一歩ゆずるが、一般のユーザーの使用シーンに対しては十分すぎる性能を発揮し、加えて日常領域の快適性はランエボに比べれば大幅に改善されていることを確認した。そして今回の市街地、郊外の一般道、高速道路、山間部のワインディングロードなどの走行を総合しての印象は以下の通りだ。なお機会をみつけて雪上や未舗装路もぜひ走ってみたいと思っている。
まず動力性能から入ろう。240PSは驚く数値ではないが、中低速領域のトルクは厚く、最高トルクも十分で、SSTトランスミッションのノーマルモードでも、日常の使用に際してはスポーツセダンとして全く不足のない走りが可能であることを再確認した。SSTをスポーツモードに切り替えると、平坦路はもちろん、登坂時にもノーマルモードよりはるかにスポーティな走りが可能となり、降坂時にはエンジンブレーキが有効に駆使できるため、山坂道にはもってこいのモードだ。今回早朝に実施した、那須ボルケーノハイウェイにおけるSSTの各種モードを駆使しての走行は実に爽快で、総じて動力性能はスポーツセダンとして文句のないレベルであることが確認できた。
富士スピードウェイではSSTの見事な変速ロジックに脱帽したが、今回の長距離、各種走行条件下でも実にスムーズかつインテリジェントな変速をしてくれることが確認できた。スポーツモードにおけるダウンシフト時のブリッピング(エンジンの回転を同期させるための回転上昇)も見事だ。ただしアクセルのオンオフ時など時としてシフトショック、駆動系のショックが気になったことも事実であり、更なる改善をぜひとも期待したい。
今回は往路、復路合わせて約600kmのドライブだったが、都内走行をかなり含む往路の燃費は9.1km/L、那須山間部のスポーツドライブを含む復路の平均燃費は10.1km/L、全平均は9.6km/Lとなった。ランエボより高速化された5、6速のギヤ比も貢献してか、これだけの走りの性能を有するクルマとしてはかなり良好な結果といえよう。ちなみに直前にほぼ同じ走行条件で約1200km走行した、アウディA4アバントの1.8L TFSIエンジン(ターボ)の燃費は10.7km/Lだった。
箱根のワインディングロード、早朝の那須ボルケーノハイウェイなどにおいて、優れたハンドリング性能を体験することができた。スポーツセダンにおいてハンドリング性能が重要なファクター(要素)であることは言うまでもないが、同時に重要なのが、これから述べるステアリングフィールだ。その意味からはラリーアートは残念ながらほめられない。直進性は悪くないし、ハンドルを大きく切った際には問題ないが、大半の走行条件下においてステアリングのセンターフィールが甘くてだるいし、小さな舵角を与えた際のクルマの挙動が余りリニアでない。パワステのセッティング、タイヤの特性などが影響しているものと思うが、この領域を改善することにより運転の楽しさは大幅に拡大することは間違いなく、今後の改善を是非とも期待したい項目だ。
箱根でのランエボとの比較試乗において日常領域の快適性の面では大きな差があることは確認したが、今回の試乗のように広範囲な走行条件下での結論は、率直に言って「乗り心地は要改善レベル」だ。スムーズな路面なら現状でも問題ないが、市街地、郊外、高速いずれの速度領域でも少しでも路面が荒れだすと、路面の凹凸に起因した車体の突き上げ感、タイヤの踊り、舗装の継ぎ目を乗り越え時の車体の踊り、ステアリングへの振動の伝達などが気になった。
タイヤサイズの見直し、タイヤ特性の選択、ダンパー特性の見直しなどを行い、一般走行で、もっとしなやかに気持ちよく走れるようにしてほしい。そうすることによる+(プラス)とそれによる限界性能の犠牲を天秤にかけたとき、おそらく95%以上のユーザーは、より快適な乗り心地を選択するに違いない。限界領域を重視するユーザー向けにはタイヤサイズのアップ、高性能タイヤの選択、もしくはランエボをおすすめするなどの選択肢もある。ちなみに最新のポルシェ911シリーズを都内や高速の荒れた路面で乗ってみると、後輪に19インチの30タイヤをはいた911ターボですら、実にしなやかに足が動き、乗り心地の面から全く不満がないことを一言付け加えておきたい。
今回の長距離評価でもう一点気になったのが各種の騒音だ。まず荒れた路面を走る場合のタイヤノイズだ。ランエボの場合は特殊な車両として考えれば少々のロードノイズは許容できても、日常の使用が大半と思われるこのモデルの場合は改善が望まれる。それ以外にも高速道走行時のウインドノイズ(風切り音)がかなり気になり、エンジン音も全域であまり気持ちの良い音質ではない。ドアやトランクの開閉音も今一だ。スポーツセダンにとって「心地よい音」は非常に大切な要素であり、ぜひ気持ちの良い音を作りこんで欲しい。それによりこのクルマの魅力は大きく拡大するはずだ。
現在お手ごろな価格のスポーツセダンとして何があるかというと、正直言って余り思いつかない。ゴルフGTI、スバルインプレッサSTI、マツダスピードアクセラなどの名前はあがってもいずれも「セダン」ではなく、ハッチバックだ。現在の日本市場においてセダンの存在が余りにも希薄なのは不思議としかいいようがないが、セダンの中に魅力あふれるモデルが少ないというのも一因だろう。その意味からもラリーアートは貴重な存在だし、走りのポテンシャルも特筆に価するものだ。乗り心地の評価は個人によって大きく異なるはずで、たまたま私もブライアンも厳しいコメントになったが、このクルマの性能との引き換えにこの程度の乗り心地を許容する人がいても全くおかしくなく、そういった方たちには間違いなくおすすめできるクルマだ。
以上いろいろと厳しい注文もつけたが、ラリーアートは、「日常の使用範囲で非常に使いやすく、快適で、燃費も良好である一方、いったん踏み込むと圧倒的な走りを約束してくれ、舗装路のみならず、未舗装路、雪上など走るシーンを選ばない」ポテンシャルをもった稀有なクルマだ。現状でもランエボよりははるかに広範囲な顧客に支持される可能性をもっているのは確かだが、乗り心地、ステアリングフィール、NVHをもう一歩改善することにより、「一人で悦に入るクルマ」から「家族全員、あるいは仲間たちとロングツーリングを楽しみながら運転する人も悦に入ることができるクルマ」に簡単に変身することになり、ラリーアートの魅力が倍増、市場は大幅に拡大すると確信している。
三菱ギャランフォルティス ラリーアートの+と−
+ スポーツセダンにふさわしい動力性能
+ 各種性能を高次元でバランスさせたフルタイム4WD
+ 力強くて存在感のある外観スタイル
− 日常走行領域における乗り心地
− リニアリティーに欠けるステアリングフィール
− ロードノイズ、ウインドノイズ(風切り音)
セカンドオピニオン
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■エレガントさと暴力性の見事な調和
ギャランフォルティス ラリーアートを一見していえることはエレガントさと暴力的な力強さの見事な調和だ。このクルマのスタイルはテールランプの処理が私の目には完璧とは言えないことを除き、「大好きだ」といってはばからない。それゆえフィット&フィニッシュにこそ不満はないが、デザイン面での質感がドアやトランクの閉まり音の質感にまで反映されていないのが残念だ。内装に関して言えばシフトレバー周辺は実に美しいのだが、ダッシュボードの下端は低すぎ、助手席に乗員が座った状態でグローブボックスを開けるのは不可能に近い。またドアのプラスチック材の上に張られた内張りの布は評価するが、人が手に触れる機会の多い部位では触感が大切であるにもかかわらず、ハードプラスチック製のドアインナーハンドルなどのタッチ感が大切にされていないのは不思議だ。
■日常の快適性向上のためにさらなる改善を
広範囲な条件で試乗することはこのようなモデルでは必須だが、正直言って期待を裏切られたと言わざるを得ない。スムーズな路面における乗り心地に文句はないのだが、本来このようなモデルが走行する機会の多いはずの、少しでも荒れた路面になると、たちまちにして長時間の運転は楽しめないレベルの乗り心地となり、助手席や後席に乗せている人に「ごめんなさい」と言いたくなってしまった。加えてステアリングのフィールも好きになれなかった。ドライバーとのコミュニケーションが十分にあるステアリングフィールを期待していたが、反対に多くのシーンでフィールが不自然で、路面からの振動がステアリングにも直接伝わってきた。良好なオンセンターフィールを提供してくれる路面もあるが、多くのドライビングシーンにおいてステアリングとタイヤが直接には結合されていないかのような感触となってしまうのだ。トランスミッションは非常に興味のあるものだが洗練されたフィールとは言いがたいのが残念である。反面ブレーキは大変素晴らしく、優れたフィールとリニアリティーを備えている。総じてロードホールディングや走行安定性に不安をいだくシーンは皆無だった。一言で言えば、ランエボに比べてはるかに快適で上品な乗り味のクルマになってはいるが、サスペンション領域に関して言えば、日常の使用に十分に対応できるようにもっと穏やかな方向に修正することが必須だと思う。現状のままでは、早朝の郊外でスリルを味わうためのツールとしては望ましいレベルに仕上がっているものの、一日中乗り回したり、長距離ドライブに行ったりするのはためらわざるを得ないからだ。
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