・全長 4,715mm
・全幅 1,770mm
・全高 1,835mm
・エンジン形式 LF-VD
・種類 水冷直列4気筒DOHC16バルブ
・排気量 1,998cc
・最高出力 151ps(111kW)/6,200rpm
・最大トルク 19.4kgm(190N・m)/4,500rpm
・車両本体価格 2,199,000円 (税込)
現在の日本の自動車市場は軽自動車、コンパクトカー、ミニバンで形成されているといっても過言ではなく、ミニバンの密度が圧倒的に高い世界でも珍しい市場だ。いろいろな理由が考えられるが、まずは駐車場、自動車関連税、車検などクルマ保有に必要な経費にも起因し、複数のクルマを保有することの困難さはアメリカなどとは比較にならないこと、一方では公共交通機関が普及しているために通勤にクルマを使う人の比率は欧米に比べてはるかに低く、必然的に家族や仲間とのレジャーや買い物へなどのニーズが高いことなどが主因といえよう。
各社からのエントリーは豊富だ。トヨタが多くのモデルをラインアップしているのは当然としても、日本におけるホンダは今やミニバンカンパニーといっても言い過ぎではない。2008年1月から7月までの国内市場におけるミニバンの月間平均販売台数トップファイブをみてみると、ニッサンセレナ:約7,100台、トヨタボクシー:6,700台、トヨタノア5,600台、トヨタエスティマ:5,400台、ホンダステップワゴン:4,400台(いずれも概算)というところだが、5月に導入されたホンダフリードは人気が高く、7月の販売台数は9,000台近くに及び、今後勢力地図はかなり変わってくることも予測される。
乗用ミニバンの発祥の地はアメリカで、1984年にクライスラー社からダッジキャラバンという、3列シートのFF「ミニバン」が始めて登場した。ステーションワゴンなどに比べての使い勝手のよさがアメリカ人の心をつかみ、ミニバン市場は急速に発展した。しかし90年代後半に入ると、「マムズカー(お母さんのクルマ)」というイメージが定着し、活動的なライフスタイルを求める人には「生活臭のするクルマ」として敬遠されるようになり、SUVやクロスオーバービークルへ急速にシフトしていった経緯がある。
日本には古くから貨物運搬を目的としたワンボックスバンがあったが、マツダにおけるワンボックスバンの歴史は1966年の初代ボンゴまで遡る。初代はリアに、2代目以降は前席下にエンジンを搭載して後輪を駆動、物流の担い手として貴重な足跡を残してきたが、多人数乗車に使用するには乗降性、快適性などの面での犠牲は否めなかった。
日本メーカーの中で乗用ミニバンにいち早く挑戦したのはマツダだ。アメリカ市場を前提にした初代MPV(FR、後年4WDを追加)が導入されたのは1988年で、1999年までアメリカ市場を中心にかなりの販売実績を残した。その次に導入されたのが日米市場を前提にした2代目MPV(FF、4WDもあり)で、2008年に導入された3代目は日本市場専用となった。マツダにはそれ以外にプレマシーという小型ミニバンがあり、初代は1999年、2代目は2005年に導入されたが、いずれも3列目の居住性はミニマムだ。
去る7月、マツダの戦列に加わったのがビアンテだ。プレマシーのプラットフォームをベースにホイールベースを100mm延長、2〜2.3リッタークラス最大級の室内空間を実現(マツダ調べ)、2列目および3列目シートに前後スライド機構を採用することにより、2列目の足元スペースを最大で863mm確保できる「リビングモード」や、2列目シートを左右にスライドさせることにより前席から3席目までの室内での移動を可能とする「ウォークスルーモード」など多彩なシートアレンジを実現している。
思い切ったデザインもビアンテの特徴だ。マツダの新しいデザインテーマ“Nagare”を表現したフロントからリアへの流れるような造形、ヘッドランプからベルトラインへ続く個性的な表現、力強いフロント周り、前後のブリスターフェンダーなどが外観上のユニークなポイントで、既存の背高ミニバンとの差別化を図っている。内装は乗る人全員がわくわくする開放感あふれる室内空間の実現を目指したという。
Zoom-Zoomに欠かせないのが走りの楽しさだが、高張力鋼板を効果的に使用した高剛性ボディ、Cd値0.3というクラストップの空力特性、マルチリンク式リアサスペンション、電動ポンプ式油圧パワーステアリング、4輪ディスクブレーキ、2リッターDOHC直噴エンジンまたは2.3リッターDOHCエンジン、電子制御5速AT(4WDは4AT)、効果的な制振材や吸音材の採用などにより、必要にして充分な走行性能、走る楽しさ、クラストップレベルの静粛性を実現している。
2008年7月から発売。
219.9万円
まずはうたい文句の「見て、乗って、夢が拡がる Zoom-Zoom Tall」の検証から始めよう。今回評価したのは直噴2リッターエンジンと5ATを組み合わせたFFの20CSモデルだが、乗る前は「1.6トンを超える車重で2リッターだから動力性能面でちょっと厳しいかも?」と心配したが、直噴化による燃焼効率の向上にも起因してか、都内、高速、標高の高い山間部を約700km走り回った中で走りにストレスを感じる場面はほとんどなかった。
Dレンジでもそれなりに走るし、Dレンジで不足の場合にはSレンジ、更に負荷が高い場合はLレンジに入れると、選択ギヤが低速側に移り、シフトポイントも変化し、かなり厳しい山坂道でもほとんど不満のないレベルの走りが確認できた。高回転領域のエンジン振動と騒音が比較的押さえられていることも貢献しているし、5速ATは変速プログラムがよく、変速ショックが少ないのもいい。
降坂時にエンジンブレーキブレーキを有効に使いたい場合には、S、Lのいずれのレンジでもシフトレバー上部のHoldスイッチを押すことが必要だが、果たしてどのくらいのユーザーがHoldスイッチを有効に活用してくれるかはちょっと心配だ。馴れればD、S、L、Holdを使いこなしての山間部の走行はMTとは異なる楽しさを提供してくれるのだが。
今回は「車評コース」での実測燃費の計測は出来なかったが、往路の高速道路と山間部の走行合わせて420kmの燃費は8.5km/L、帰路のほぼ高速のみの約270kmでは10.0km/L、総平均は9.1km/Lとなった。ずば抜けた数値ではないが、決して悪くない実測燃費だ。
「真っ直ぐ走ることの気持ちよさ」はクルマのハンドリングの中で最も重要な要素のひとつだが、ビアンテは高速道、一般道ともこの点において大変気持ちよいクルマに仕上がっている。またハンドルを切った際の反応がリニアで、ロールも程よく抑えられており、ワンディングロードを走るのが楽しい数少ないミニバンでもある。またブレーキのききはリニアで高速でのコントロール性も良好だ。総じてビアンテは「ハンドルを握りたくなるミニバン」であり、少なくともドライバーの視点からの“Zoom-Zoom Tall”は実現できていることが確認できた。
騒音に関しては、荒れた路面でもロードノイズが余り気にならないし、エンジンノイズも高回転まで比較的よく抑えられている。タイヤ構造の最適化、高剛性ボディ、ボディ各部への吸音材の配置、エンジンマウントの最適化やエンジンルームまわりの吸音材の採用などがその要因だろう。風きり音は少ないのだが100km/h近くになるとフロントウィンドーの中央辺りからでる風騒音がやや気になった。
乗り心地に関していえば、前席は良路では問題ないが、細かい凹凸のある路面ではもう少ししなやかさがほしい。2列目、3列目の乗り心地は前席よりずっと悪く、路面の凹凸をかなり拾う。ダンパーの微小ストローク領域の特性が関連しているのではないかと思うが、シート上の乗員が細かく揺さぶられ、2列目、3列目は長距離ドライブが快適とは言えない。前項で「ドライバーの視点」に限ったのはこうした理由によるものだ。またいずれのシートもウレタンのばね特性による体圧分布に起因してか、座っていてどこかに違和感があり、是非一度マツダでも確認してほしい項目だ。
デザインほど個人の好みが分かれるものはないが、インパクトの強いデザインの場合当初は違和感があっても見慣れるに従い好感度が増してくるものが多いのも事実だ。新しいデザインテーマ“Nagare”を表現したというフロントからリアへの流れを感じさせる造形、ヘッドランプからベルトラインへ続く個性的な処理、力強いフロントまわり、前後のブリスターフェンダーなどにより既存ミニバンの「ハコ」型デザインとの差別化を目指しており、一目でビアンテと分かるインパクトの強いデザインだ。「もう少し高質でアダルトな各部の作りこみが欲しかった」とは思うが、デザインの評価は押しなべて良好で、今後の市場の反応に注目してゆきたい。
内装は乗る人全員がわくわくする、開放感あふれる室内空間の実現を目指したといい、MPVやプレマシーのオーソドックスなインパネ造形とは異なり、新鮮なインパネまわりデザインだ。ただしAピラーと前方のウィンドーサッシが太すぎるため、ワインディングロードでタイトな右コーナーを曲がる際の右斜め前方の死角が気になった。またメーター色やメーター背後の照明も凝ってはいるが質感に乏しく、内部照明がサイドウィンドーのドアミラー近くに映りこむため夜間走行時かなりわずらわしく、何らかの対策を期待したい。
同クラスのミニバンの中で最長の室内長と室内幅を確保、2列目および3列目シートに前後スライド機構を採用することにより、2列目の足元スペースを最大で863mm確保できる「リビングモード」を実現、加えて2列目シートを左右にスライドすることにより前席から3席目までの室内での移動を可能とした「ウォークスルーモード」など多彩なシートアレンジが特色だ。また後席からの前方視界がいいのもうれしい。
他社ミニバンとの差別化の意図は評価するし、様々なシートアレンジの中で、人により「あっ、これはいい」と感じられるモードは間違いなくあると思う。例えば5名または2名乗車でかなりかさばった荷物を運搬する頻度が高い人にとっては5名乗車+リアラッゲージモード、あるいは2名乗車+フルラッゲージモードはうれしいだろう。5人以上でのロングドライブする機会の多い人には「ウォークスルーモード」や、セカンドシートを横方向へスライドさせることによりセカンドシート3人乗りと2人乗りの両方に簡単に切り替えられるのも便利なはずだ。3列目の居住性が「長距離走行に耐えられる」ことを評価するひともいるだろう。
反面、「リビングモード」にして走行中に前席と後席を思い切って離すことのメリットが余り見えてこないのも事実だ。MPVのセカンドシートのようにオットマンつきのシートなら別だが……。シートベルトの関係でセカンドシートが中間にセット出来ないのも残念だ。またずっと小型のプレマシーでも可能な4人乗車で4人分のスキーやスキー道具を車内に積んでのスキートリップにビアンテは不向きで、私の選択肢からはこの一点だけで外れてしまう。スキー人口が大幅に減少したといっても、現在まだ700万人に近く、スノーボード人口も500万人はくだらないはずだし、スキー、スノーボードほどミニバンを必要とするスポーツも少ない。その他に私の大好きなマウンテンバイクを積むことも至難だ。
同様に利便性の追求も今一歩で、例えば物入れへの配慮は決して十分ではない。グローブボックス上部やステアリングコラムの上部のインパネ内スペースはもっと活用できるはずだし、インパネ下部の大型のセンターコンソール風のボックス(?)には全く物が入らないのも不思議だ。セカンドシート用のカップホルダーもない。企画初期段階の徹底した「ユーザーバリュー」の作りこみが十分に行なわれなかったのではないかといいたくなる。
いろいろと述べてきたがビアンテは誰に最もおすすめできるクルマだろうか?一言で言えば「このデザインにほれ込み、ミニバンといえども運転の楽しさを求め、各種のシートアレンジの中で自分のライフスタイルとマッチするものを発見した人」とでもなろうか。やはり30代から40代のファミリー層が中心となるだろう。
その場合でも販売促進に当たっては「ビアンテの多彩なシートアレンジが約束する夢」をもっと語ることが必要であり、現在のTVコマーシャルやカタログはその役割を十分に果たしているとは言いがたい。クルマ、中でもミニバンのようなクルマの場合、その約束する効用は実際の使用頻度とは関係なく、大変重要な要素となっているはずで、そのためには開発者はもちろん、マーケッティングに携わる人たちの「遊び心」がキーとなるし、このことはミニバンに限らず現在の日本のクルマづくり全体に対していえることだと思う。
マツダビアンテの+と−
+ 思い切った内外装デザイン
+ 走りが楽しいミニバン
+ 各種のシートアレンジ
− もう一歩足りない「使用シーン」への配慮
− 各種小物入れの不足
− セカンドシート、サードシートの乗り心地
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■近未来的なスタイリングのトールタイプミニバン
ビアンテを発表会で初めて見たときは、「挑発的なスタイリングでファミリー層に受け入れられるか疑問」と感じていた。しかし、その後の試乗会などで場所を変えながら何度か見ていくうちに、「近未来的でカッコいい」とい思えるようになっていた。フロントからサイドにまで広がるシャープなヘッドランプなど大胆なデザインを採用しているが、全体として見るとスタイリッシュにまとめられている。個性的ではあるが嫌味ではなく、むしろマツダのデザインアイデンティティを失っていないところに好感が持てた。また、「最広ビアンテ」と謳うだけあり室内空間は広々としていて、助手席シートからサードシートまでのウォークスルーも容易に可能。全長4715?、全幅1770?に設定された3ナンバーサイズボディの恩恵を受けるところだ。逆に狭い道路や車庫入れなどでは、やや大きさを感じてしまうのも事実だが……。
■マツダのDNAを受け継いだ走行性能
ビアンテのプラットフォームは、プレマシーがベースとなっている。プレマシーは『車評50』でも取り上げているが、走行性能での評価が高く、特にハンドリング性能は際立っていた。その走行性能を受け継いだビアンテは、ロールを抑えたスポーティなハンドリング、ピックアップのよい動力性能、優れた直進安定性など、このクラスのトールタイプミニバンの中では、トップレベルに仕上げられていると思う。ロードノイズがよく抑えられており、静粛性に優れていることも特徴。運転席とサードシート間の会話でも、まったく気にならないレベルだった。ビアンテは、トールタイプミニバンでもカッコよく、走りもゆずれないといった方におすすめしたい。つまり、マツダファンということになりそうだけど。