・全長 4,205mm
・全幅 1,760mm
・全高 1,520mm
・エンジン形式 CAX
・種類 直列4気筒DOHC
インタークーラー付ターボ
・排気量 1,389cc
・最高出力 122ps(90kW)/5,000rpm
・最大トルク 20.4kgm(200N・m)/1,500-4,000rpm
・車両本体価格 2,480,000 円 (税込)
●『車評 軽自動車編』における、
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スーパーチャージャーとターボチャージャーで過給した1.4L TSIツインチャージャーエンジンと、手動変速機のクラッチ操作と変速操作を自動化した6速DSGトランスミッションを組み合わせたゴルフGT TSIが導入されたのが2007年2月だ。『車評 軽自動車編』では軽自動車とは全くカテゴリーの異なるこのモデルをあえて評価モデルに加えたが、その意図は室内スペースや低速における取り回し性に焦点をあて、実用燃費や質の高い走り感への注力がおろそかになっている軽自動車が少なくないことに対する問題提議にもあった。ゴルフGT TSIに車評メンバー全員が脱帽したが、その後TSIツインチャージャーエンジンを搭載したモデルはゴルフヴァリアント、ゴルフトゥーラン、ジェッタなどへ拡大、シングルターボ化した2Lエンジンも一部車種に加わり、現在ではTSIエンジン搭載車がVWの日本における販売の約半数をしめるまでになっているという。
ゴルフGT TSIから1年半も待たずに今年6月に導入されたゴルフTSIトレンドラインに搭載された1.4Lの新型TSIエンジンは、小径化されたターボによるシングルチャージャー、インテークマニフォールドに組み込まれた水冷式のインタークーラーなどを採用、最高出力こそそれまでのTSIツインチャージャーエンジンの170ps、140psに対して122psと控えめだが、1250rpmで最大トルクの80%を発生、200Nm(20.4kgm)の最高トルクを1500rpmから4000rpmという幅広い回転域で維持する大変実用性の高いエンジンである。
6速DSGは、世界初の量産型デュアルクラッチ変速機として手動変速機と多段式ATの長所を併せ持つもので、変速機の世界に大きなインパクトを与えたが、今回導入された7速DSGは、最大トルク250Nmまでの小排気量エンジンむけに新規に開発されたものだ。従来の湿式デュアルクラッチに代わり、乾式のデュアルクラッチが採用されるとともに、ギヤボックス自体も6速から7速へ多段化された。この変速機と新型TSIエンジンの組み合わせにより10・15モードの燃費値も15.4km/Lと、ツインチャージャーエンジンの14.0 km/Lはもとより、従来の1.6L直噴エンジンを20%も上回るものとなっている。
ゴルフTSIトレンドラインの意義はこれら一連の最新技術がゴルフシリーズの最廉価モデルに採用されたことにもある。内外装に一切新しいものはなく、最廉価版ゆえに装備レベルもミニマムだが、248万円という車両価格には正直って驚いた。今後このエンジン、変速機はゴルフTSIトレンドラインにとどまらず、幅広く採用されてゆくことになるのだろう。VW技術陣によるサステイナブルモビリティーへのあくなき挑戦に乾杯するとともに、ハイブリッド技術では世界をリードする日本メーカーだが、ハイブリッド以外の領域での更なる奮起を促したい。
2008年6月から発売。
248万円
はじめに、1.4Lの新型TSIエンジンに関してもう少し説明を加えよう。TSIエンジンは小排気量で、過給エンジンとしては高めの圧縮比をもつエンジンの燃焼室内に新世代の高圧噴射インジェクターを用いて燃料を噴射する(直噴)ことにより燃焼効率を極限まで高めたものだが、新型TSIエンジンは従来のスーパーチャージャーとターボチャージャーによる過給に代わり、新開発の小径化されたターボによるシングルチャージャーで過給するのが大きな違いだ。
ターボで過給され高温になった吸気は、エンジンとは独立した冷却システムとなるインテークマニフォールド内に組み込まれた水冷インタークーラーで冷却される。冷却後の吸気は高負荷時でも外気プラス20度から25度におさえられるという。この結果ターボラグも最小化され、低速域から軽快かつ俊敏なレスポンスを実現している。また6つのインジェクションジェットをもつ高圧インジェクターは新型TSIに採用されるにあたり噴射形状の最適化が図られている。従来のTSIエンジンに比べて、過給システムが大幅に簡素化されるとともに、水冷インタークーラーの採用により吸気システムの容量も大幅に削減され、コスト、重量面でもはるかに有利なはずだ。
新型TSIに組み合わされた7速DSGは、最大トルク250Nmまでの小排気量エンジンむけに新規に開発されたものだ。このDSGの最大の特徴は、従来の湿式デュアルクラッチに代わる世界初の乾式デュアルクラッチにある。ギヤボックス自体も6速から7速へ多段化されており、この乾式クラッチと7速化によってDSGの効率が大幅に高まり、欧州ドライビングサイクルにおける燃料消費量はトルコン式ATに比べて20%もの改善を示すとともに、6速マニュアルトランスミッションをも優にしのぐものとなったという。単体重量が23kgも軽量化されたことも逃せない。
見事なのはそのトランスミッションのシフトプログラムだ。箱根の登降坂、車評コースにおけるバラエティーに富んだ走行シーン、その前後の都内、首都高を含む走行などでシフトに違和感を感じる場面は一度としてなかったし、プロドライバー顔負けの見事なシフトアップ、シフトダウンは脱帽ものだ。また上り坂でブレーキを離すと約2秒程度ブレーキが保持され、ブレーキがリリースされると同時にクラッチをエンゲージさせることによりゆるやかにクリープ(前進)するので、従来のAT感覚で運転してもほとんど違和感がない。
最高出力は全開加速の高回転領域や最高速度領域でしか意味のない数値であることは頭では分かっていても、交差点などからの発進、市街地での加速、高速道路への進入や高速道路上での追い越し加速など、日常の走行条件下における下手なスポーツカーも顔負けの走り感は122psとは信じがたいほどのもので、しかも後述する大変すぐれた燃費との合わせ技だ。1250rpmで最大トルクの80%を、更に200Nmの最高トルクが1500rpmから4000rpmという幅広い回転域で維持されることの日常走行シーンにおける価値を改めて思い知らされた。
なにかにつけてカタログ数値優先の世の中、VWは改めて我々に「最高出力というカタログ数値なんて実用上はほとんど意味がない」ことを体で教えてくれているとともに、クルマづくりに携わる技術者やユーザーはもちろんのこと、クルマの宣伝や販売に携わる人たちの認識改革の必要性を痛感させられる。何故なら洋の東西を問わず、宣伝や販売に携わる人たちに依然としてカタログ数値を重視する人が多く、そうした視点から開発側に対する要求が行なわれる頻度が高いと思われるからだ。
まず車評コースでの平均燃費は12.7km/Lだったが、これは過去のゴルフのデーター、1.6L FSIの11.3、ゴルフGT TSIの11.4と比較すると10%以上の向上だ。10・15モードの燃費値が15.4なので、カタログ値と実測値の相関係数は82%となり、大半の国産車よりも乖離(かいり)が小さい。ちなみに『車評50』における、ゴルフTSIトレンドラインに比べて走りの面で大きく劣る国産コンパクトカー8台の実測燃費の平均値は11.8だった。
また今回の評価とは別に伊豆を往復した際の、高速道路と箱根登降坂路を合わせての実測燃費は14.3、車評前日に首都高と市街地を組み合わせて250km走行した折の平均燃費は13.3だった。いずれも決して省燃費運転とはいえない走行モードだったので、その気で省燃費運転を行なえば、更に優れた燃費値がえられるはずだ。ゴルフTSIトレンドラインには便利な燃費計が装着されており、いろいろな走行条件下でその区間の平均燃費を知ることができる。なお車評コースにおける実測平均燃費が日本のユーザーの平均燃費に近いことは『車評 軽自動車編』のスマートフォーツーのページや過去の車評オンラインでも述べている通りだ。
ただし以下の2点に関しては是非とも注文をつけておきたい。まず第一点はすぐには無理としても、性能を若干に犠牲にしてでもレギュラーガソリンOKとすることであり、第二点は給油性の改善だ。スタンドのオートストップで給油をやめると真の満タンには程遠く、満タンを目指して給油するととてつもなく長い時間を要してしまう。これではタンクキャパシティーは有名無実になってしまうからだ。
資源問題、地球温暖化などに加えて昨今のガソリン価格の高騰はクルマそのものの存在を大きく揺るがすものであり、小型化はもちろん、クルマの持続を可能とする技術開発はますますその重要性を増してきている。ハイブリッド技術はその中の代表的なものであり、その領域では世界をリードする日本だが、それ以外の領域では必ずしもそうとはいえないのが現実だ。ディーゼルエンジン、伝達効率の良い変速機、前回の報告でも言及した実用燃費などはその一例だ。軽自動車こそ持続可能なクルマの代表選手といいたいところだが、多くの軽自動車の実用燃費が日本の走行条件ですら小型欧州車の後塵を拝することも一方の事実であり、軽自動車メーカーの奮起を促したい。その意味でもVW技術陣によるサステイナブルモビリティーへの飽くなき挑戦に拍手したい。
走りと燃費以外にゴルフTSIトレンドラインで評価に値するのは走りの質感だ。ステアリング・ハンドリングはセンターがクリアーで、リニアリティーが高く、多くのクルマで緊張感を強いられる首都高の不規則で車線幅に余裕のない屈曲路を安心して、また気持ちよく走ることが可能だ。15インチの65タイヤにも起因して、前席、後席ともにタイヤからの入力が程よく押さえられており、舗装の継ぎ目や荒れた路面によるばたつきもミニマム、ダンピングも適切で、スムーズに路面の凹凸をなめてゆく。省エネタイヤにも関わらず、ロードノイズもよく押さえられている。またベースモデルだが、前後シートの着座感、ホールド性も好ましく、総じて多くの国産車に是非見習って欲しい走りの質が見事に作りこまれている。
装備レベルにも少し言及しておこう。最廉価版ということで、ホイールはスチール製の15インチ、ステアリングホイール、シフトノブがウレタン製となり、パドルシフトが省かれ、前席シートバックのポケットが省略されるなど装備面での割り切りは行なわれているが、一方では4輪ディスクブレーキ、前席、後席サイドエアバック、カーテンエアバックなどの安全装置、ドアミラー上のウィンカー、後席中央のトランクスルー開口、左右の照明付きバニティーミラー、4人分のアシストグリップ、内張りまでされたグローブボックス、後席用のエアコン出口、チルト&テレスコピックステアリング、ダンパー式ボンネットステーなどが上級モデルと同様に装備されているのは使う側にとって大変あり難い。
5代目ゴルフが国内市場に導入されてすでに5年が経過した。この間にTSIモデルの導入も行なわれたが、外観上の差別化は皆無に等しく、当初はTSIのバッチすら付いていなかった。今回のTSIトレンドラインはバックドアにTSIバッチだけは付くが、内外装とも真面目一辺倒で、セクシーさやアピールに欠けるのは事実だ。遠からず導入される6代目では是非とももう少し「セクシーさ」を盛り込んで欲しい。
せっかくのTSI、DSG装着車なのでもう少し見た目のアピールがあってもよいと思うが、TSIトレンドラインはその燃費、実用領域における動力性能、運転することの気持ちよさなどから、「コンパクトカークラスの経済性を求める人」、「燃費がゆえに走りを犠牲にしたくない人」、「燃料価格の高騰に伴いスポーツカーの断念を考えている人」、「アッパークラスからのダウンサイジングを検討中の人」など実に幅広いユーザー層に受け入れられる素地をもっていると思う。また新TSIエンジンと新型DSGの組み合わせが新型ポロはもとより、トゥーラン、更には間もなく導入となる小型SUVティグアンなどに採用されればVWの日本市場における存在感は一段と拡大してゆくものと確信する。
ゴルフTSIトレンドラインの+と−
+ 市街地、高速ともすぐれた実用燃費
+ スポーツカーもびっくりの一般道での走り
+ しっとり、しなやか、快適な乗り心地
− 機能性は高いが色気が乏しい内外装デザイン
− プレミアムガソリンが必要
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■エンジニアの心意気
ゴルフシリーズの最新作は、1.4Lシングルターボエンジンと7速DSGにより走りは大幅に向上した。これに加えてターボ付軽自動車を凌ぐ燃費は、ハイブリッドや電気自動車に揺れ動くライバルたちに対し、VWエンジニアの心意気を示すものだ。低回転から効くターボと、7速DSGは強力かつスムーズで、実用走行速度範囲内で一クラス上の動力性能を発揮する。市街地ではやや硬めな乗り心地も、高速に入れば非常にスムーズで、高架舗装路継ぎ目のいやな凹凸も国産車以上にうまくやり過ごすのはゴルフ共通の優れた点だ。進む、曲がる、止まる、の内、曲がるのがスポーツカー並みとはいえないが、ファミリーカーとしては高いレベルにあり直進性も全く問題無い。
■VWの合理性
これだけの性能を持ちながらスタイルは普通のゴルフと同じ、と言うのはVW社の徹底した合理性を示している。同社の車は徹底した作り込みがされていることから長期間スタイルを変えず、それが売れる原因ともなり、一方で飽きられることにもなる。室内の広さ、座席の快適さ、騒音と振動レベルの低さはこれまでの実績を踏まえてしっかり確保されており、手抜かりは無い。実用上このTSIトレンドラインの性能と使い勝手は申し分無く、あと筆者が望みたいのはレギュラー燃料の使用と、スタイルにシャープさを加えることである。ゴルフファンには見逃せない一台だ。
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