・全長 3,900mm
・全幅 1,695mm
・全高 1,525mm
・エンジン形式 L13A
・種類 水冷直列4気筒SOHC
・排気量 1,339cc
・最高出力 100ps(73kW)/6,000rpm
・最大トルク 13.0kgm(127N・m)/4,800rpm
・車両本体価格 1,344,000円(税込)
●『車評50』における、モデルチェンジ前の
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先代フィットはMM思想(マン・マキシマム/メカ・ミニマム)に基づき、センタータンクレイアウトを採用(ガソリンタンクをフロントシート下に配置)、それまでのコンパクトカーの概念を破る居住性や使い勝手やすぐれた経済性を実現、世界で200万台を超える販売実績を残してきた。2代目は初代の商品魅力を一段と進化させることを目的に、走りの進化、パッケージの進化、使い勝手の進化を追求し、内外装デザインも大幅な見直しが行なわれた。2007年10月の日本市場導入以来登録車中のベストセラーとして大健闘、ガソリン価格の高騰が著しい世界市場でも今後最も注目に値する一台と言えよう。
全長、全幅、ホイールベース、前後トレッドなどを拡大、更にフロントピラーを大幅に前進させて室内空間を一段と広げるとともに、スペアタイヤ廃止によりラッゲージスペースも拡大、室内空間、ならびに使い勝手は一段と向上した。加えて爽快感を向上すべく、大型固定ガラスによるスカイルーフが新規に採用された。
走りの領域では1.3Lエンジンは4バルブ化されて低速トルクと高速の伸びが向上、1.5Lも出力向上がはかられるとともに、トルクコンバーター付き新型CVTが採用され、走り、燃費が一段と向上した。加えてしなやかな走りとしっかりしたハンドリングの両立のために、フロント、リアサスペンション、電動パワステなども大幅なてこ入れが行なわれた。
2007年10月から販売開始。
ベースモデルのタイプG(1.3L)が1,197,000円(4WDは1,407,000円)、タイプLが1,344,000円(4WDは1,554,000円)、タイプRS(1.5L)が1,575,000円、(5MTと4WDが1,785,000円)。
導入翌月の2007年11月から2008年6月まで軽自動車を除く通称「登録車」のベストセラーの地位をキープし、その間月間販売目標の1万2000台を大きく上回る1万7000台近くの実績を残してきた。
新型フィットは走り、パッケージング、使い勝手のいずれの領域もうたい文句どおりに進化しているが、走り始めて真っ先に感じるのは「走り」と「走りの質」の進化だ。『車評50』で評価した従来の1.3Lは動力性能こそとりたてて不満はなかったものの、「乗ることの楽しさを求める向きにはフィットはあまり適さない」と述べた。その理由として、リニアリティーに欠けるステアリング、シフトショックのあるCVT、リアがドラムブレーキの場合のブレーキのコントロール性などを挙げたが、新型フィットではいずれも大幅に改善された。
4バルブ化され、出力が86から100psに、トルクも大幅に向上した1.3Lの iVTECエンジンとトルクコンバーター付き新型CVTの組み合わせによる発進加速、追い越し加速は、市内、高速ともに全く不足なく、新型CVTはあらゆる走行条件下で非常にスムーズな走りを約束してくれる。Sレンジの加速感も良い。1.5Lの動力性能面での優位性は導入時の試乗会で確認済みだが、大半のユーザーは1.3Lの走りで十分に満足できるだろう。
新型フィットのステアリング・ハンドリングも大きく進化した。車体剛性の向上、フロントサスのブッシュ容量アップ、キャスタートレイル量の拡大、更には新設計の電動パワステなどが貢献してか、真っ直ぐ走ることが大変気持ちよくなった。この「真っ直ぐ走ることの気持ちよさ」がファントゥードライブ面で非常に大切な要素というのが私の持論だが、最近のホンダ車は総じてこの点が大幅に改善されている。
今回評価したタイプLのスカイルーフ装着車には15インチタイヤとリアスタビライザーが標準装備されているが、ステアリングを切り込んだときのクルマの動きもリニアで、ワインディングロード走行も得意種目になった。
エンジンノイズはよく押さえられ、ロードノイズもさほど気にならず、振動、騒音も概して良好だ。舗装の継ぎ目乗り越えショックも良く押さえられており後席を含めて乗り心地も悪くない。前モデルでは平均点以下だった後席シートも大幅に改善され、これなら長距離旅行も苦にならない。あえて問題点を探すならばフロントウインドー周りから聞こえてくる風の流れに起因すると思われる「ざわざわ感」だが、これとて問題にするレベルではない。
全長を55、全幅を20、ホイールベースを50、前後トレッドをそれぞれ35、30mm拡大、更にフロントピラーを120mm前進させることにより、足もと、膝周り、頭上のスペースなどを拡大し、前席、後席ともにミドルクラスセダンなみの広い室内スペースを実現、大人4人乗車での長距離ドライブも全く苦にならない。ドアトリムもえぐった形状にすることにより腕や肩まわりのゆとりも拡大している。
初代フィットも室内の使い勝手は良かったが、2代目ではそれがさらに向上した。リアシートがワンアクションで前方に倒れるダイブダウン機構、リアシートクッションを上方に跳ね上げることで実現するトールモードなどはいずれも先代ゆずりで、操作も簡単だ。ダイブダウンに加えて助手席のシートバックを倒せば全長2.4mの長尺物まで積載可能となる。またスペアタイヤ廃止に伴い、64リットルの床下スペースを確保、新設のフレキシブルラゲッジボードにより(除くタイプG)、リアのラゲッジスペースを、「よごれものとそれ以外」、「ぬれた物とぬれていない物」、「ペット用と人間用」などいろいろと使い分けることが可能になった。グローブボックスは上下に2箇所あるが、オーナーズマニュアルが後席クッション下に入るのがいい。ドリンクホルダーは10ヵ所もある。
立体駐車場対応のために1,525mmの全高をキープ(4WDも1,550mmでOK)、三角窓の面積を3倍にし、Aピラーも細くするなどして、斜め前方視界も大幅に改善された。ただしサイドミラーの両端幅が意外に広く、試乗評価中、立体駐車場に入れる際には折りたたむ必要があった。ミラー面積を犠牲にせずにミラー全幅はもう少し押さえられるはずだ。また欲を言えば後席中央部にアームレスト兼スキーなどの長尺物積載用の折りたたみ機能が欲しいところだ。
使い勝手に対する設計段階での配慮を一段と際立たせるのが純正アクセサリーの重要な役割のはずだが、純正アクセサリーカタログを見ると「見た目の小変更」を目的とした用品と、NAVIシステム以外はほとんどないといってもいい。「愛犬」、「アウトドアレジャー」、「スポーツ」などをテーマにした夢のある純正アクセサリーの提案があれば新型フィットの使い勝手の良さが一段とひきたつのではないだろうか?
サンルーフ、ガラスサンルーフなどがコンパクトクラスのクルマにも採用されてかなり年月が経過するが、ベンチレーション機能は別にして、日本でそれらのルーフを開けて走っているクルマがいかに少ないかは、衆知の通りだ。その要因の一つはサンルーフを開けた場合のメリットが必ずしも大きくないためだと思う。
スカイルーフの場合、ベンチレーション機能はないが、後席頭上開放感はサンルーフとは比較にならないほど優れている。都心の高層ビル街や山間部の走行は実に新鮮で、前席より後席に座りたくなるほどだし、一旦頭上の景色や開放感を味わうと、シェードを閉めたくなくなること請け合いだ。今後この種のルーフは急速に拡大してゆくことが予測される。ただしグラスルーフによる重量増加とそれに伴う車体のロール特性への影響はあるはずで、フィットの場合には15インチタイヤ、リアスタビが標準装着され、それらがセットとなったオプション価格はタイプLの場合105,000円だ。
『車評50』での先代フィットの実測燃費はリッターあたり13.6kmと同時比較したコンパクトカーの中でベストであっただけではなく、軽自動車にも匹敵する値だったが、新型車の実測燃費はそれを上回るリッターあたり14.6kmを記録した。低速領域における「1バルブ休止VTEC」も効果を発揮しているのだろう。また新型フィットの装備で誉めたいのが瞬間燃費計だ。バーグラフ方式で瞬間的な燃費情報をドライバーに提供することにより、燃費への関心を高めるとともに、多くのドライバーが燃費に良いドライビングノウハウを徐々に身に着けることが出来るはずだ。
ただし初代、2代に共通するのは、実測値とカタログ値(24km/L)の乖離だ。欧州車の多くが90%前後の達成率を示す中で、初代が57%、2代目も61%にとどまるのは大変残念だ。(ちなみにe燃費における初代フィットのカタログ燃費達成率も59〜66%だ)また車評コースとは別に、東京、横浜周辺の高速道路を中心に4名乗車で約240km走行した際の実測燃費はリッターあたり13.1kmにとどまった。
次に新型フィットのスタイルに移ろう。新型フィットの外観スタイルは決して悪くない。フォワードキャビンを強調したフロントデザイン、安定感と軽快さを表現したリアビューなどなかなか好感が持てるデザインだし、販売台数を見る限り、商品企画としては大成功と言ってもいいだろう。
残念なのは、よほど注意してみない限り、瞬時に新旧を見分けるのが容易ではないことだ。もっと思い切ったデザイン上の挑戦をして欲しかったし、外観スタイルのかもし出す質感にももっとこだわってほしかった。昨今のホンダデザインはどうも保守的に思えてならないが、ダウンサイジングが世界の潮流となることは疑う余地は無く、その場合には使い勝手、走り、経済性などに加えて、内外装のデザインとそれらのデザインがかもし出す質感が非常に大切なファクターになることは間違いない。ホンダデザインの大きな飛躍を期待したい。
内装デザインは造形がやや複雑すぎるが、立体的なインパネ周りのデザインは広さを感じさせるものだし、常時発光式を採用したメーターの視認性は昼間でも抜群だ。テレスコピック&チルトステアリングがモデルG以外のモデルに標準装着されるのもうれしいし、ステアリングホイールの断面形状もいい。シートもサイズ、フォールド性ともに良くなっている。ただし内装も素材感やカラーの選択などにも起因して、質感がお世辞にも誉められないというのが正直な印象だ。
いろいろと注文はつけたが、新型フィットは開発目標を十分に達成しており、私の購入対象車両にもなりうる魅力的なクルマに仕上がっている。一家で使用するクルマが欲しいが、ガソリン価格の高騰も配慮すると、大型、中型セダン、SUV、更にはミニバンなどからダウンサイジングしたいというユーザーは急増することが予想され、その場合、我慢を強いられることのない新型フィットは受け皿として大変魅力的なクルマであり、自信をもっておすすめ出来るモデルだ。ただし新型フィットと同じ1.5LエンジンとCVTトランスミッションを使う新型車フリードが大変良くできた小型ミニバンで、価格的にもあまり離れていない。共食い現象はさけられないはずであり、フィットの販売台数が今後どのような影響を受けるかは大変興味深い。一方で海外に目を向けると、CO2削減が急務で、ガソリン価格の高騰も著しい世界各国の市場において、年齢、性別、ライフスタイルを問わず、人気が急上昇しても不思議のないクルマであり、今秋導入されるアメリカ市場での反応も含めて世界における動向にも注目してゆきたい。
最後に実用燃費の問題を議論したい。実用燃費とカタログ燃費の乖離はホンダフィットに限るものではなく、日本車全体の課題だ。カタログ燃費、e燃費、車評コースにおける実測燃費、高速走行主体の実測燃費、更に欧州車のデーターなどから推測できることは、燃費測定モードの現実からの乖離と、大半の日本車の開発段階におけるカタログ燃費への過剰なフォーカス、更には燃費測定モードを外れた実用領域への注力不足だ。
現在の10・15モードに代わり2011年から変更となるJC08モードからは、エンジンが冷えた状態からの計測が加わり、より実際に即した速度変化とになり、最高速度も80km/hにアップする。これにより同じクルマでもカタログ燃費が従来より10%、あるいはそれ以上低下し、カタログ値と実用燃費のギャップが縮小するという。しかし私がここで主張したいのはカタログ値の低下によるギャップの縮小ではなく、燃費測定モードを一段と実情に即したものにすることにり、ほとんどコストをかけずに新型車の実用燃費を向上できる可能性があるという点だ。このことは欧州車の日本における実用燃費の良さが如実に示唆おり、これほどコストパーフォーマンスの良い燃料費節約策、地球温暖化対策、更には日本の年間石油使用量の削減策はないはずだ。
国土交通省が迅速に燃費測定モードの更なる改定に動くことがベストだが、例え当面はJC08モードでゆくにしても、各メーカーが開発段階におけるカタログ燃費のみへのフォーカスを廃し、実用燃費の改善に鋭意努力しさえすれば、日本の大半の新型車の実用燃費を10%や15%改善することは不可能ではないはずだ。一社でも多くのメーカーが早急にこの問題提議に共鳴してくれることを願ってやまない。
フィットの+と−
+ 向上した走りと走りの質感
+ 室内空間の広さと使い勝手の良さ
+ スカイルーフが提供する新しい価値
− 実測燃費とカタログ燃費の乖離(かいり)
− 保守的な外観デザインの進化
− 今一歩足りない内装の質感
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