・全長 4,470mm
・全幅 1,770mm
・全高 1,340mm
・エンジン形式 13B-MSP
・種類 水冷式直列2ローター
・排気量 654cc×2
・最高出力 235ps(173kW)/8,200rpm
・最大トルク 22.0kgm(216N・m)/5,500rpm
・車両本体価格 3,150,000円(税込)
●『車評50』における、マイナーチェンジ前の
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RX-8導入時の広報資料をひも解くと、RX-8は「スポーツカーでしか手に入らない個性やドライビングエキサイトメントを求める人々の要求に応えると同時に、家族や友人のためにスポーツカーに乗ることをあきらめていた人々の夢をも実現した」大人4人のための4ドアスポーツカーだ。自然吸気の新型RE(RENESIS)をフロントミッド(エンジン重心が前車軸より後ろ)に搭載し、リアドライブ、低重心レイアウト、50:50の前後重量配分、低ヨー感性モーメント、軽量化ボディ構造などこれまでのマツダのスポーツカーセオリーを踏襲しつつ、RX-7よりも更にエンジンを後ろに、更に低い位置に搭載、加えてセンターピラーを廃したフリースタイルドアを採用、大人4人が乗ることを可能としたユニークなクルマだ。そのRX-8が5年ぶりにマイナーチェンジされた。
外観上はフロント/リアバンパー、フロントフェンダー、ヘッドランプ、リアコンビなどが新しくなり、内装面ではセンターパネルと一体のNAVIがオプション設定され、レカロシートがタイプRSに標準装着された。エンジンはレギュラーガソリン使用も可能とする改善が行なわれ、メータリングオイルポンプを機械式から電磁式に変更、5&6MT車のファイナルギア比を一段低速化した。タイヤはベースモデルとタイプEがインチアップして17インチに、新しく加わったタイプRSには19インチタイヤが標準装着となり、加えて車体のねじり剛性を向上している。
2008年3月から開始。
ベースモデル(5MT&6AT共)が260万円、タイプE(6AT)が300万円、タイプS(6MT)が294万円、最上級のRS(6MT)が315万円。
2003年5月に登場したRX-8は、吸排気ポートの両方をサイドハウジング上にレイアウトすることにより自然吸気ながら200馬力以上の出力を発揮する新型RE(RENESIS)をフロント車軸後方に配置したスポーツカーである。前述のようにマツダ伝統のスポーツカーの基本要件を満たした上に、車体中央部にハイマウントバックボーンフレームを通し、加えてドア開口部分のサイドパネルを強固な構造とすることなどによりセンターピラーのないボディ構造を実現、「スポーツカーは2ドアで2人乗り、もしくは2+2」という概念を打ち破った。これにより従来のスポーツカーではカバーできなかったユーザー層にアピール、日米欧市場を中心に5年間に約18万台の販売実績を残してきた。途中4ATに代わる6ATの導入などはあったものの、基本的には導入時の姿のままで5年間が経過したため、今回のマイナーチェンジはその改造範囲がかなりな広範囲にわたる、いわばビッグマイナーチェンジといってもいいものだ。
もともとRX-8の外観スタイルは独特のフロントフェンダー形状も含めて躍動感のある魅力的なものだったが、今回の変更により一番変わったのはフロント周りだ。エンジン冷却性能向上のためにオイルクーラー用開口面積を2倍近く広げ、センター部の開口面積も大きくなった。またヘッドランプ形状も変更され、サイドウィンカーをヘッドランプと一体化、フロントフェンダー後方のエアアウトレットの形状も変更となったため、フロントフェンダーは新設されている。リアはコンビランプがLEDの丸型4灯となり、リアバンパーを変更、テールパイプが大径化された。
今回のデザイン変更によりダイナミックさが増したことは否定しないが、正直言って評価したタイプRSはアフターマーケット的な匂いが強い上に、知性的とは言い難く、余り好きになれない。デザインの好き嫌いは個人差が大きく、タイプRSのデザインが好きだという方ももちろんおられるとは思うが、総じてもっとクリーン、エモーショナル、セクシーなスポーツカーならではのデザイン進化が出来なかったのか? というのが私の正直な感想だ。RS以外のモデル、もしくは前モデルの方がシャープで、スポーティーでクリーンだ。
一方で内装デザインの変更はミニマムだ。一番の変更点は従来インパネ上面中央にあったポップアップ式のNAVIがインパネセンターパネル中央に変更になったことだ。これによりMAZDA G-BOOK ALPHA対応ボイスコントロールHDDナビがオプション設定された。従来のNAVIは操作時に視線をセンターコンソール上まで移動しなければならず、大変使いにくかったが、今回の変更で操作性が大幅に向上した。ただしNAVI装着車のインパネセンターの見栄えはいたって平凡であり、デザイン的にはNAVI非装着車のセンターパネルの方が魅力的だ。
タイプRS以外のシートはカラーと素材の変更にとどまり、着座感、ホールド性とも従来どおり並みのレベルだ。今回の目玉はタイプRSに採用されたレカロ製シートだが、残念ながらおすすめできない。クッション部の平板感も気になるが、理由は乗り心地やホールド性ではなく、マニュアルトランスミッション(タイプRSはMTのみ)のシフト操作を繰り返すたびに上腕部がシートのサイドボルスターと干渉し不快に感じるからだ。実際に操作してみて上腕が干渉しない方はOKだが、私の体型に限った問題ではなさそうだ。せっかくシフトフィールのよいトランスミッションに変更した努力もこれでは台無しだ。開発段階で実車評価を行なえば短時間に不具合を見抜けたはずで、一日も早いラニングチェンジをおすすめしたい。
エンジンの大きな変更はないが、シールの潤滑性向上のため、メータリングオイルポンプが機械式から電磁式に変更され、給油孔も1ローター当たり3カ所となった。またベースモデルとタイプEは吸気ポートが4カ所から6カ所に変更され、出力も215psに向上したのはうれしい。一方のタイプSとタイプRSはレギュラーガソリン使用も可能とするよう高回転ゾーンをチューニングしたためか、最高出力は235psにおさえられた。6MTはロードスターで好評なものをベースに、REとのマッチングを図って搭載、従来よりもシフトフィールが向上、加速性能やアクセルレスポンス向上のためファイナルギアレシオがATを除き5MT、6MT 共にそれぞれ一段低速化された。
ターボREのようなパンチこそ無いが、RE独特の高回転までのストレスフリーでスムーズな伸び感は依然として大きな魅力であり、加速性能も圧倒的とはいえないものの、なかなかのものだ。『車評50』では「性能&走り感」の6名の平均が5点満点で4.2という高い評価だったが、マイナーチェンジモデルでも同等かそれ以上の評価となることは間違いない。ファイナルギアレシオの見直しも常用領域の追い越し加速などに貢献している。また今回からレッドゾーンが低温、半暖機、完全暖機と三段階の可変表示となり、暖機以前の高回転使用を有効に防止できるのは良いアイディアだ。ハイパワーエンジンの場合はそれぞれが5,000、7,000、9,000rpm、スタンダードエンジンの場合には5,000、6,000、7,500rpmで、タコメーター上にレッドソーンが表示される。
一方今回の総合評価(高速62%、市内38%)での実測燃費は6.5km/Lにとどまった。『車評50』評価時の車評コース(高速73%、市内27%)における前モデルの実測値は6.9km/Lだった。今回の走行モードがやや市内走行比率が高かったことを勘案すると、実用燃費は従来と同等といえそうだ。一般ユーザーの長期間の平均燃費は7km/L前後だろう。残念なのはカタログにも、フィラーリッドの裏にも「無鉛プレミアム」としか書かれていないことだ。せっかく「経済性や利便性を考慮し、レギュラーガソリンへの適合性を大幅に改善した」と広報資料に書かれているのだから、何故「レギュラーでもOK」などの表示をカタログやフィラーリッドにしなかったのだろうか?
足回りではまずタイヤの変更が上げられる。従来は16インチの55タイヤだったベースモデルとタイプEが今回から17インチの50タイヤに変更なったのはうれしい。タイプSは従来どおり18インチの45タイヤだが、新しく設定されたタイプRSには19インチの40タイヤとビルシュタイン製ダンパーが標準装備となった。車体領域ではフロントサスタワーとダッシュパネルを締結する台形ストラットタワーバーを採用(MT車)、ボディ細部の板圧の見直しやスポット溶接の追加などマイナーチェンジとしては異例とも言えるてこ入れにより、ステアリングマウント剛性、サス入力に対するフロントボディのねじり剛性、車体の静的ねじり剛性、静的曲げ剛性などが向上しているという。
低重心、低ヨー感性モーメント、50:50の前後重量配分、などに加えて十分な車体剛性をもつRX-8のステアリング・ハンドリングは『車評50』でも平均が5点満点で4.3という高いものだったが、上記の一連のてこ入れにより車体の剛性が更に向上、ステアリング・ハンドリングの気持ちよさとリニアリティが一段と向上した。19インチタイヤがステアリングフィールにどのような影響を与えるか、関心があったが、直進時のステアリングフィールが大変良く、舵角を与えた場合の反応もリニアで、ロールもよく押さえられており、市中走行から高速走行までハンドルを握ることが大変気持ちよいクルマに仕上がっている。19インチ以外の評価はしていないが、いずれの場合もそれなりの進化が期待できそうだ。
ただしこのクラスのクルマに19インチタイヤが必要か否かについては私には大いに疑問がある。19インチタイヤの限界性能を使うシーンは一般公道では皆無と言って良く、乗り心地は良路では不満は無いが、低速の荒れた路面や、路面の悪い高速道路では許容限界を超える。またこのタイヤに装着できる市販タイヤチェーンはなく、スタッドレスタイヤもまず入手不可能だろう。タイヤ交換時のコストがかさむことも覚悟しておくことが必要だ。
「オーバーサイズタイヤシンドローム」と私が名づけた現象はRX-8に限ったことではない。国産車、欧州車も含み必要以上の大径タイヤをよしとする今日の市場動向(開発サイドの願望よりもマーケッティングサイド、さらには一部のジャーナリストの声に基づくものが多い?またユーザー側もそれを望む)には繰り返し警鐘を鳴らしていきたい。
かなり厳しいことを書き連ねてきたが、RX-8ならではの商品魅力が依然としてとあることは明白であり、家族構成などにより2人乗り、あるいは2+2のスポーツカーを断念せざるを得ないクルマ好きにとって大変価値ある選択肢だ。後席にチャイルドシートを装着してのファミリードライブ、二組のカップルでのドライブ、時にはスキーを2セット室内に搭載してのスキー旅行、更には日常の買い物までスポーツカーでカバーしたい人たちにとって稀有なスポーツカーだ。
今回は評価できなかったが、ベースモデルはエンジン性能が向上するとともに、装着タイヤも17インチとなり、必要にして十分なハンドリング性能が期待できそうだ。冬場の対応も容易で、タイヤ交換時のコストもかさまず、乗り心地もマイルドなはずで、RX-8のコンセプトとよくマッチしており、価格もリーズナブルだ。タイプE(ATのみ)はそれに電動皮シートやBOSEのサウンドシステム他が加わるが、日常領域における快適性を重視する向きにおすすめだ。タイプS(6MTのみ)は18インチタイヤ、大径ブレーキ、スポーツサスペンション他が加わるので、より走りを重視する人むけで、タイプRSは前述の理由によりサーキット走行なども前提とした走り屋さんを対象としたモデルと割り切った方が良さそうだ。
今回のビッグマイナーチェンジをうけてRX-8はこれからもしばらくの間、マツダからの唯一のRE車として販売が継続されるものと思うが、是非進化し続けて欲しい。RE独特の燃焼過程に起因して水素燃料への適合性が高いことはかなり前から判明しており、現在もいろいろな角度から水素時代に対応するRE車の開発が進んでいるようだが、水素時代の到来には今しばらく時間を要することは自明であり、積極的な技術・商品開発により、ガソリン価格が高騰を続ける状況下においてもアッと言わせる次世代RE搭載車が一日も早く登場することを期待している。
RX-8の+と−
+ REならではのスムーズな走り
+ 一家で乗れるスポーツカー
+ 第一級のステアリング・ハンドリング
+ 躍動感のある外観スタイル
− ほめられない燃費
− ハイオクガソリン指定
− レカロ製シートのシフト時の上腕干渉
− 19インチタイヤの実用性
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