・全長 2,720mm
・全幅 1,560mm
・全高 1,540mm
・エンジン形式 3B21
・種類 直列3気筒DOHC
・排気量 999cc
・最高出力 71ps(52kW)/5,800rpm
・最大トルク 9.4kgm(92N・m)/4,500rpm
・試乗車両の価格 1,760,000円(税込)
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メルセデス・ベンツの傘下にあって、ベンツ車とは対極的な全長わずか2.7m強、全幅1.5m強の純粋な2人乗りクーペ。旧型に比べて全長が180mm、全幅が45mm拡大されたオールニューモデルで、エンジンも3気筒700ccターボに代わって3気筒1リッターの自然吸気エンジンを搭載。ボディータイプはクーペとカブリオがある。
2008年1月から。
スマートフォーツークーペが税込みで176万円、スマートフォーツーカブリオが205万円。
一見すると、外観上の変化は少ないが、全長、全幅が拡大され、従来モデルに比べ力強さ感、リア回りの幅広感が増した。これに対して内装デザインは大幅に変更され、直線的なデザインテーマを採用、機能性、質感ともに大幅に向上した。
オールアルミの3気筒1リッター自然吸気エンジンは三菱製。吸排気のバルブタイミングを最適にコントロールする可変機構つきで、出力は71ps。エンジンはリアアクスルの前に横置きされた、いわゆるリアミッドシップで、後方に45度傾斜してマウントされている。トランスミッションは従来の電子制御6速ギヤから、電子制御5速マニュアルモードつきオートマティックトランスミッションに変更されている。
ややタイトだが、2人乗りとしては必要にして十分な居住性で、助手席を15cm後方へオフセットすることにより乗員同士の肩のふれあいを防いでいる。ラッゲージスペースは150リットルから220リットルへ拡大され、助手席シートバックを前に倒すことによりゴルフバックなどの長尺物の搭載も可能。
真っ先にご報告したいのは実測で17.1km/Lという、従来モデル同様に大変すぐれた燃費を記録したことだ。実測燃費を測定したのは「車評」用に設定した、首都高速、市街地を含むコースで、評価日も「車評」と同じ日曜日なので、『車評50』『車評 軽自動車編』で収録している各モデルの燃費値と比較してみていただければ幸いである。カタログ値は18.6なので達成率は92%、ちなみに従来モデルはカタログ値19.2に対して18.0、達成率94%だった。17.1 km/Lという数値は自然吸気エンジンの軽自動車の最良値に近く、ターボエンジンの軽自動車(実測燃費は9台の平均で14.2km/L)よりはるかに良い。ただし残念なのはプレミアム燃料が指定されていることで、近年のガソリン価格の高騰を考えると、一日も早いレギュラー推奨への変更を期待すると共に提案したい。
「車評」の実測燃費が一般ユーザーの平均燃費に非常に近いことは『車評 軽自動車編』のスマートのページでのべているが、『車評50』『車評 軽自動車編』を参照いただければ分かるように、総じて国産車の場合カタログ値と実測値の乖離(かいり)は大きく、軽自動車の場合自然吸気、ターボを問わず、平均するとカタログ値の73%が実測燃費だ。最悪のケースでは58%というものすらあった。対するスマートは、新旧モデル共達成率90数パーセントと優秀で、絶対値も大変良い。
この理由は日本車の多くが良好なカタログ値を得ることにのみに注力してきたからだ。例えば10・15モードにおける最高速度は70km/hだが、それ以上の速度における空燃比(空気と燃料の混合比)には余り配慮がされていないことは疑う余地もない。来年秋以降は新しい燃費測定モード(JC08モード)による燃費値の表示が義務付けられ、このモードではエンジンが冷えた状態から計測が始り、最高速度も80km/hとなる。
これにより15〜20%程度カタログ値が低下し、現在よりはユーザーの平均燃費に近づくのは確かだが、それでもメーカーによる燃費改善努力が「ベストなカタログ値の実現」で終わってしまう可能性は否定できない。欧州の燃費測定モードのように120km/h前後まで含む決断さえすれば、高速道路走行時、あるいは高回転領域までの空燃比をいやが上にも最適にする努力を強いられ、結果として大半のクルマの実用燃費が向上し、日本全国で消費される年間の石油消費量が大きく削減されることは間違いない。こんなことをいうと「速度違反を公認する気か?」と糾弾されそうだが、燃費測定モードと法定速度に一線を引きさえすれば良いし、最高速300km/hなどというクルマの存在を許す以上、誰も文句は言えないはずだ。《燃費計測モードを変更するだけで、日本の石油消費量をかなり削減できる可能性がある》関係官庁、メーカーの良識あるリーダーに是非とも訴えたいポイントだ。
話が実測燃費とカタログ燃費の乖離に深入りしてしまったので、スマートフォーツーの評価に戻そう。
全長が180mm、全幅が45mm拡大され、旧型に比べ力強さ感、リア回りの幅広感が増したことは事実だ。しかし新旧のモデルを一目で見分けられる人が果たしてどの位いるだろうか?旧型のデザインが悪いとは言うつもりは全くない。むしろその逆で、『車評 軽自動車編』では「日本製の軽自動車にはないユニークなデザイン」として6人のメンバーが高い評価を下している。過度な変更をしたくなかったことは理解できるが、折角のフルモデルチェンジ、例えばフロントの顔つきや、テールランプまわりなどもっと思い切った変更をしても良かったのではないか?
それに対して内装デザインの変更は大幅だ。旧型の、これでもかというほど多くの円にあふれたデザインは玩具っぽく、質感の面でも大いに「?」マークの付くデザインで、個人的にはとても好きになれなかった。新型の内装は直線を基調にしたシンプルなデザインを採用、機能性、質感ともに大幅に向上、おしゃれで楽しい雰囲気に満ちている。メーター回りも旧型のように奇をてらったところが全くない、オーソドックスなものだが、視認性も良く、はるかに好感が持てる。
ただし注文がないわけではない。例えば空調関係スイッチ類の操作感は多くの軽自動車に及ばないし、オーディオのコントロールボタンの視認性もよくない。またドアポケットやダッシュボード上の各種のもの入れに対する配慮は十分とはいえず、助手席には是非アシストグリップが欲しい。サンバイザーの操作感やウィンドー開閉時の騒音なども決してほめられない。
室内居住性は旧型同様、大きな人にはややタイトだが、2人乗りとしては必要にして十分だ。15cm後方へオフセットさせた助手席により乗員同士の肩のふれあいを有効に防ぐことができるレイアウトは旧型と同じだ。勿論互いに肩を触れ合いたい場合にはシートポジションを同じ場所にセットすればいい。ラッゲージスペースは150リットルから220リットルへ拡大され、テールゲートのモノ入れもなかなか便利そうだ。助手席シートバックを前に倒せばゴルフバックなどの長尺物の搭載も可能だ。
旧型で「やや硬めだが、サイズ、ホールド性ともによく、長時間のドライブが苦にならない」と評価したシートは、新型で更にサポート性がよくなっている。もう一点うれしいのはクーペに標準装着される、ポリカーボネート製のパノラミックルーフだ。従来の電動ガラスサンルーフよりもはるかに開口面積が大きく、頭上の開放感は大変魅力的だ。重量もはるかに軽いはずだが、唯一経年劣化が問題とならないことを期待したい。
従来は自社製の3気筒700ccエンジンだったが、今回から三菱製のオールアルミ、3気筒1リッター自然吸気エンジンになった。吸排気のバルブタイミングを最適にコントロールする可変機構つきで、71psを発生する。エンジンを後車軸の前に横置きした、いわゆるリアミッドシップで、後方に45度傾斜してマウントされている。トランスミッションは従来の電子制御6速ギヤから、電子制御5速マニュアルモードつきオートマティックトランスミッションに変更されている。交差点からの発進加速、高速での伸び感などに全く不足はなく、かなりスポーティーな走りも楽しめる。旧型で気になった変速ショックは大幅に減少し、その種のショックに対して過敏な私にも許容できるレベルになった。
旧型で「低速から高速まで、エンジン音、ロードノイズがかなり大きく、風きり音も気になる」と指摘した騒音と、「市内の凹凸路はもう少しマイルドがいい」と述べた乗り心地はいずれもかなり改善されている。大きめのサイズのタイヤからのロードノイズは良く遮断されており、強風にも見舞われたが、風きり音も少なかった。加速中や高速走行中のエンジン音はそれなりに気持ちよい音だが、もう一歩音を作りこめば「サウンド」と言えるレベルになるだろう。旧型ではかなり気になったピッチングも新型ではうまく抑えられ、乗り心地も改善されており、都内の舗装悪路の乗り心地もぎりぎり不満のないレベルだ。
旧型で「ステアリングのセンターが甘く、ロールは小さいが、すわり感、リニアリティーが不足する」と述べたハンドリングもかなり改善された。直進性やコーナリングの安心感は増し、リニアリティーも改善された。しかしまだ完璧とはいえない。低速時のステアリングのセンターは甘く、フリクション感もぬぐえず、走行中ステアリングを常に微修正することが必要である。もう一点、至急改善して欲しいのはブレーキの初期踏力と効きのリニアリティーだ。スプリングの反力が強すぎ、交差点などで自分では踏んでいるつもりなのに、実際にはブレーキが効いておらず、ゆるい勾配で知らないうちに後ずさりする場面に遭遇した。このあたりの改善により乗ることの楽しさは大幅に向上するはずだ。
以上のように、旧型に比べて大きく進化を遂げた新型スマートフォーツーはどのような方におすすめだろうか?まずは複数のクルマを必要とする方の2台目、もしくは3台目にはうってつけだ。また年齢を問わず、「二人のためのおしゃれなシティーランアバウト」を求められる方にとって、軽自動車とは一線を画した存在感と取り回しの良さは大きな魅力だろう。また「軽」への乗り換えには抵抗のある高齢者にとって、このクルマのもつ記号性と軽自動車より良い燃費は大きな魅力となるはずだ。そしてその気になればかなりな走りも可能なこのクルマは「ライトウェイトスポーツファン」も魅了できる可能性がある。そのような人たちは、スポーツサスペンションやスポーツマフラーなどに換装することで魅力は倍増するだろう。価格は安いとはいえないが、必ずしも作り手を責めるわけには行かないのは、多分に為替レートに起因しているからだ。価格をどう判断するかは、「記号性」に対する評価とも関連するはずだ。ガソリン価格の更なる高騰が予測される今後、「ふところと地球に優しく、軽自動車とは異なる記号性をもつ」スマートフォーツーの健闘を祈りたい。
最後に私の目から見た、「期待される進化の方向」を考えてみた。端的に言えば、ステアリング、ハンドリング、ブレーキングなどのリニアリティーの向上やスポーティーなエンジンサウンドの実現など、全てを「スポーツ」というキーワードでもう一度洗い直してみたら、ということになる。そうすれば、小さいことも、狭いことも、荷物の積載性が限定されることも全く問題ないどころか、むしろそれらが魅力と化し、お財布にも優しい、毎日のドライブが待ち遠しい、「新しい時代のライトウェイトスポーツ」になるものと確信する。
スマートフォーツーの+と−
+ 軽自動車をもしのぐ良好な実用燃費
+ 1リッターエンジンによる小気味良い走り
+ おしゃれな内装デザインと見やすいメーター
+ オフセットした左右シートとシートの快適性
− ハイオクタンガソリンが必要
− 大きすぎる初期ブレーキ踏力
− 甘すぎるステアリングセンター
− 各種小物入れへの配慮不足
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