第1回 スズキセルボSR
第1回 スズキセルボSR
・試乗グレード  SR(セットオプション装着車)
・全長  3,395mm
・全幅  1,475mm
・全高  1,535mm
・エンジン形式  K6A型
・種類  水冷4サイクル3気筒
          (インタークーラーターボ)
・排気量  658cc
・最高出力  64ps (47kw)/6,500rpm
・最大トルク  10.5kgm (103Nm)/3,500rpm
・試乗車両の価格  1,470,000円(税込)
・主要な装着オプション品
  本革&人工皮革シート、オートライトシステム、   ターンライトつきドアミラーカバー


セルボSRとはどんなクルマ?

スズキセルボの新型追加モデル。直噴(DI)ターボエンジン+7速マニュアルモード付きCVTにより走行性能を大幅に高めた、セルボラインアップ中の最上級モデル。2006年11月導入のターボモデルの動力性能、ハンドリングなどの不満点が一掃され、走る楽しさ、気持ちよさが大幅に拡大した。

いつから発売?

2007年11月から。

お値段は?

セルボSRは2WDが1,417,500円、(今回のテスト車はオプション付きで1,470,000円)、標準のセルボは自然吸気エンジンで1,037,400円〜1,254,750円、DOHCインタークーラーターボエンジンで1,142,400円〜1,375,500円(いずれも消費税込み、ただしSR以外は全て4速AT)。

セルボSRに装着されるエンジンは?

混合気をシリンダー内に吸入する通常のエンジンと異なり、空気だけを吸入させたシリンダー内にガソリンを直接噴射することによりハイパワーと低燃費を両立させることのできる「直噴エンジン」をターボで過給したもの。直噴ターボエンジンと7速マニュアルモード付きCVTの組み合わせは日本初だが、これにより軽自動車とは思えないレベルの走りを実現している。

室内の広さは?

ワゴンRのようなトールワゴンや、最近スズキのラインアップに加わったダイハツタント対抗車パレットなどとは比較にならないが、それでも後席に大型の外国人を座らせても文句の出ない程度の広さはあり、荷室もかなり広く、大半の日常ユースには十分な広さ。ただし後席にスライド、リクライニング機構はなく、後席空間のフレキシビリティーはやや限定される。

エンジン、トランスミッション以外はどこが変わった?

トレッドパターン、材料の配合を見直した新開発タイヤにより乗り心地を改善、フロントストラットのロッド径を18mmから20mmに大径化し、ダンパーの減衰力を最適化することにより直進性や、ハンドリング、運転の楽しさなどが大幅に向上。またエンジンマウントの変更、遮音材の追加などにより静粛性が向上、エンジン音も改善された。SR専用のフロントグリル、前後バンパーの採用により、より精悍な見栄えになった。



走りの進化に思わず拍手

新型車の試乗会が行なわれる場所は東京都心、お台場、幕張、箱根、大磯、河口湖、軽井沢周辺などメーカーにより、また導入車種により多岐に渡るが、終日を要する遠路での試乗にでかけたものの、試乗したクルマに感動を覚えない場合には、がっくりと疲れが増し、逆の場合には疲れが吹き飛ぶどころか、心も弾むものだ。

2007年11月初旬、河口湖で行なわれたセルボSRの試乗会は、まさにその後者だった。たまたま他社の新型車の試乗会との同日、同一地域でのダブルヘッダーだった為、あまり期待を抱かずに立ち寄ったセルボSRの試乗だったが、試乗したセルボSRから降りるや否や思わず開発関係者に駆け寄り握手を求めるとともに、当日本命のはずだった他社の新型車の印象がかすんでしまった。セルボSRが期待値を大きく上回る一方で、もう一方の新型車が期待値に及ばなかったのがその理由だ。

2006年11月に導入されたスズキセルボに関しては『車評 軽自動車編』で自然吸気バージョンとターボ搭載モデルの2車種を評価した。その中でターボ搭載モデルに関しては、個性的で躍動的な外観スタイル、スポーティで質感も高い内装、見やすいメーター、そして過給エンジン搭載車中最良の燃費などを評価する一方で、「ターボでありながら走りがものたらない。車重が重く感じられ、走りはダイハツソニカに及ばない」とのべた。

さらにセルボターボは車体剛性の低さ、ダンパーチューニング、タイヤの選択などにも起因してか、高速道路の継ぎ目ショックや市内の荒れた路面での車体振動などが気なるとともに、高速での接地感が乏しく、横風の影響も受けやすく、加えてステアリングセンターも甘いなど、残念ながら運転を楽しむクルマとはいえなかった。そして「あのスイフトを開発したスズキなら走りの気持ちよさを改善できないはずはない」とも付け加えた。私のお勧めはお求め安い価格も併せ持つ自然吸気モデルだった。


ダイハツとの切磋琢磨を歓迎

スズキの関係者の中にもきっとこれらに対する問題意識が強かったのだろう。加えて昨今のダイハツ車の急速な進化も意識してか、導入1年にして走りの領域に大幅なてこ入れをしたセルボSRが導入され、ソニカに及ばないとのべた動力性能は、直噴エンジンとターボ+CVTという組み合わせにより大幅に向上した。中でも最高トルクは従来型ターボに比べ25%もアップ、低中速領域のトルクも大幅に向上していることは走り出した瞬間から体感することができた。もはやダイハツのターボ搭載車に一歩も譲らぬどころか、むしろこちらの方が全域のトルクが豊かに感じられたのには正直言って驚かされた。

加えてシャシー領域(その中でも特に運転の楽しさ、気持ち良さ)も大幅に改善され、従来のセルボで指摘した気になる部分の大半が払拭されていた。うれしいことにセルボSRに採用されたシャシー領域の改善(フロントサスのストラットのロッド径のアップに加えて前後サスの減衰力の最適化、さらには新開発のタイヤによる乗り心地の向上)はSR以外のセルボにも採用されているという。これはセルボシリーズ全体にとって大きな進化だと思う。


軽自動車を感じさせない走り

導入時の試乗会で好印象をもったセルボSRだが、今回「車評オンライン」でご紹介するにあたり広範囲な走行条件下で再度評価を行なうとともに、実用燃費の計測も併せて行なった。一言でその印象を表すならば、「大幅に進化した運動性能により、軽を感じさせない軽に進化、魅力度が大幅に向上した。ただし燃費面では実用燃費のさらなる改善に期待」ということになるだろう。

約500kmにわたる、市内、高速などあらゆる走行条件下で、動力性能には不満がないどころか、大半のコンパクトカーも真っ青になるほどの、トルクフルでアクセル操作に率直に反応してくれる気持ちの良い走りを提供してくれた。CVTのセッテイングにも配慮が行き渡り、非常に違和感の少ないものとなっているし、ターボが効き始めるまでに感じる遅れ「ターボラグ」も全くといっていいほど感じないのもうれしい。しかも他のターボ搭載車同様、燃料はレギュラーでOKだ。

市街地、高速道路における接地感、直進時性、ハンドルを操作した際のクルマの挙動なども大幅に改善されて、あたかもライトウェイトスポーツカーを運転していると錯覚しそうな走りだ。屈曲路の走りも楽しみに変わった。一部注文をつけるならば、タイヤからの突き上げがやや大きく、乗り心地はぎりぎりのレベルであるとともに、ハンドルセンターが少しあいまいで、まっすぐ走ることに若干神経を使う。このあたりがもう一歩改善すれば軽の中では抜きん出た走りとなるだろう。ベンツを日常の足とし、軽自動車にはほとんど乗ったことがないという方にも短時間試乗いただいたが、「軽自動車を全く感じさせない走りで、今後都市部にも軽が浸透する予感を与えてくれた」というコメントを得た。従来のスズキ車ではこうは行かなかっただろう。総じてセルボSRの走りの進化には大いに感銘した。


しかし燃費には一層の努力を

反面燃費は期待を下回った。カタログ上は19.8km/Lから23.0 km/Lへと16%もの改善となっているが、今回の実測燃費をみると、市内のみの走行で14.5km/L、大半が高速の場合で12.4 km/L、約500kmに及ぶ高速と市内が約半々の走行における総合燃費は14.0 km/Lで終わり、『車評 軽自動車編』における従来型ターボ搭載車の燃費15.2 km/Lに及ばなかった。もっとも14.0km/Lという数値は『車評 軽自動車編』で実測した過給機付きモデルのほぼ平均値なのでそれ自体は決して悪い数値ではないのだが。

ちなみにほぼ同条件の南房総長距離ドライブを行なった700?ターボエンジン搭載のスマートフォーツーの燃費は17.8 km/L、新型マツダデミオ1.3L自然吸気ミラーサイクルエンジン+CVT装着車で高速、市街を含み400km近く走行した際の燃費は15.7 km/Lだった。セルボSRの燃費が期待を下回った理由を推定すると、現在のカタログ燃費(10・15モード)の最高速度である70km/h前後までの空燃比(空気と燃料の混合比)は最適セットとなっているものの、それ以上の速度領域ではかなり燃料の濃い、即ち燃費に悪い混合比になっているためではないかと思われる。これに対してスマートの実用燃費が良いのは100km/h+αまで理論空燃比に近いセッテイングとなっているからだろう。

このような議論をすると、「軽自動車の場合、高速道路の走行比率が低い」と言われるかも知れないが、現在の軽自動車、ましてやターボモデルは高速道路を全く不足なく走れる性能を備えているし、ユーザーによってはそれなりの頻度で高速道路を走行すると思う。高騰するガソリン価格、CO2の削減などの観点から見ても今後軽自動車の存在価値が拡大こそすれ縮小することは考え難い環境下、高速道路走行でも優れた燃費を得ることができるスマートフォーツーを是非とも見習ってほしい。またこの場を借りて、特に日本の自動車メーカーの開発技術者、さらには、マーケッティング関係者にも、「カタログ燃費の追求は放念し、すべての燃費改善努力はユーザーが実際に走行する走行条件下で行なうべきだ。さもないとカタログ燃費を信じて買われたお客様を裏切ることになる」と申し上げておきたい。


スペシャルティ軽の苦戦

走りの魅力が大幅に拡大したセルボだが、果たして今後の販売にどのように影響するのだろうか? 2007年の国内販売ベスト10には何と5台もの軽自動車がランクインしている。[1位スズキワゴンR(22.6万台)、2位ダイハツムーブ(21万台)、5位ダイハツタント(10万台)、6位ダイハツミラ(9万台)、7位ホンダライフ(8.7万台)]。いずれも実用性に焦点を当てたモデルであり、スペシャルティ系に近いセルボは3.2万台と、46位に甘んじている。それでもセルボはいい方で、スバルR2が9500台、ダイハツソニカは8500台(いずれも年間!)などスペシャルティ系の軽自動車は軒並み苦戦を強いられている。つまり軽自動車の購買動機が1にも2にも実用性と価格にあることは明らかであり、セルボのようなスペシャルティタイプの軽自動車では、例え走りの魅力が拡大しても、販売台数面でのそれほど大きな上乗せは期待できないのかもしれない。しかし軽自動車の役割が一段と拡大して行くことが予測される日本市場において、魅力的なスタイルと豊かな個性を備え、運転することの楽しいスペシャルティモデルの人気がもっと拡大してほしいところだ。


これからのスズキが楽しみ

最後に今回の走りの進化がセルボにとどまらないことを付け加えておきたい。2月初旬、導入されたばかりのダイハツタント対抗車、スズキパレットの試乗会に出席した。重心の高い軽ワゴンゆえ走りの面では余り期待を持っていなかったが、走り出した瞬間から直進性の良さ、コーナリング時のクルマの挙動、ステアリングのを操作した際の気持ちよさなど、これまでのトールワゴンには無かった「走りの気持ちよさ」が実感でき、この面ではダイハツタントを大きく引き離している。早速開発関係者に話をうかがうとパレットにもセルボのプラットフォームが活用されているという。なるほどと納得した。次世代ワゴンRを含みこれからのスズキのクルマづくりに大きな期待を持たせてくれると同時に、最近の一連のスズキのクルマの進化に刺激を受けて、スズキ以外のメーカーの軽自動車の走りの進化にも拍車がかかることを期待したい。

スズキセルボSRの+と−
+ 走りの良さと運転の楽しさ
+ 外観スタイル、内装デザイン、だだしいずれももう一歩の洗練がほしい
+ 快適なシート、見やすいメーター、操作性のいいコントロール類
− やや高めの価格
− 後席のフレキシビリティー
− カタログ燃費と実測燃費の乖離(かいり)

セルボSR外観スタイル
外観は躍動感があり、個性的であることは間違いないが、スイフトに見られるような洗練された美しさやエレガントさには欠ける。細部の面の練りこみも今一。

セルボSR外観スタイル(後ろ)
外観スタイル上、もっとも違和感のあるのがリヤエンド、そう感じたのは「車評」の評価メンバー中私だけではなかった。

内装デザイン(全体)
広さとスポーティ感を狙ったS字型のインパネ造形。リーフしぼやメーターデザインで質感を演出、見栄えは悪くないが、やや表面的でエレガントとは言いがたい。

内装デザイン(メーター回り)
メーター回りは下手なスポーツカーより「スポーツカーライク」。インパネセンターの造形、質感も悪くない。空調、オーディオなどの操作性も良好。

内装デザイン(インパネ物入れ)
助手席シート下にはもの入れがないが、室内の小物入れに対する配慮はそれなりになされており、日常の使用に全く不足はない。シートは最近のスズキ車の例に漏れずサイズ、ホールド感ともなかなか良好だ。



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