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第1回 スズキセルボSR
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今回から三樹書房のホームページに「車評オンライン」という特設ページが開設されたため、当面は毎月一回程度、新車やクルマづくり全般に対する率直な思いを寄稿させていただくことになった。既に刊行した『車評50』『車評 軽自動車編』、今後発刊に結び付けたいジャンルの「車評」などとともに、少しでも多くの方々のお目に触れることを期待したい。
以下の「クルマ好きの育成が急務?」という短文は私を含む大半の「車評」メンバーが所属するRJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)の2008年版ブリテン用に主として自動車メーカー関係者に目を通してほしいという思いで寄稿したものだが、現在私のもっている日本のクルマづくりの将来に対する思いを皆様と共有することも大切だと思い、まずはそのまま引用させていただきたい。
『世界市場における昨今の日本車の活躍は目を見張るものがあるが、一方で日本の若者のクルマ離れや、国内市場の低迷にはなかなか歯止めがかからない。このままいくと遠からず日本の自動車産業の将来を担う、クルマへの情熱豊かな人材の確保すら難しくなることが懸念される。
こうした状況に対応すべく、昨年の東京モーターショーでは環境、安全などに加えて「わくわく・どきどきするクルマとの出会い」が目標とされた。たしかに280馬力の呪縛からも解放され、ニッサンGT-Rなどがかなりの話題性を提供してはくれたが、総じて「わくわく・どきどき」が十分感じられるショーとは言い難く、入場者数も150万人を下回った。
今回のモーターショーに限らず、日本のメーカーから次々に導入される新型車に接するにつけ、「日本メーカー全体のクルマづくりへの熱い思いが徐々に低下しているのでは」と感じるのは私だけだろうか?開発期間の短縮、ディジタル技術の進化、コスト圧力の増大、工数の逼迫、市場調査への過剰依存などに起因してか、感性よりも理性、効率を重視した左脳的なクルマづくりが主流になってきているように思えてならない。
若者のクルマばなれに対する即効薬こそないが、現在自動車業界に身をおく人たちがもっともっとクルマが好きになれるマネージメントの意識改革、業務環境や人材育成面での革新などが急務ではないだろうか。クルマをこよなく愛する人たちがつくる「わくわく・どきどき」に満ちたクルマの実現は日本の自動車産業の抱える最大の課題の一つだと思う。』
近年、欧州車との「わくわく・どきどき」感やブランドバリューなどのギャップは縮小どころか、拡大しているように感じるし、アジア諸国の追い上げも目覚しい。一年少し前、アメリカのメディアイベントで、韓国車の一気乗りをする機会に恵まれた。ずっと以前に三菱、マツダなどからクルマづくりのノウハウを受け継いだ、現代、KIAの最新型のクルマに接すると、デザインをはじめ走りの面でも既に日本車に肉迫していると思えるものが少なくなかった。品質の向上は目を見張るレベルであり、昨今の欧米市場における韓国車の活躍は見事だ。いずれは中国やインドが日本を凌駕するクルマをつくり始めることすら十分に予測できる。
そのような中で日本の自動車産業が将来に向けてのポジションを堅固なものとしてゆくことは容易でない。環境、安全技術への更なる注力、世界市場戦略の強化、品質やコスト競争力の向上などが必須であることは言うまでもないが、それらに加えて、より魅力的でオリジナリティーに富んだ商品の開発、世界をリードするデザインの実現、ダイナミッククオリティー(乗り心地やロードノイズ、ステアリング・ハンドリングの気持ちよさなどの走りの質)の向上、付加価値のアップ、ブランドイメージの強化、そして「わくわく・どきどき」に満ちたクルマづくりなどが急務だ。
その実現のためには、まずは現在自動車業界に身をおく人たちがもっともっとクルマが好きになることが大切だが、それは決して不可能なことではない。世界中の商品や市場を幅広く体験し、身近なモータースポーツへの参画を推奨し、多くの会社が実施している「自社製のクルマでないと通勤は不可」などという規則も変更し、自由闊達にクルマに触れることの出来るように社内システムを変革するだけでも随分違ってくるであろう。
臨時運行許可証による公道テストが社会問題化したため、試作段階での公道テストに多くのメーカーが信じられないほど後ろ向きだが、「公道テストは顧客に委ねる」とでもいうのだろうか?メーカーは勿論、自動車工業会などが官公庁と話し合い、欧米にははるか以前から存在するメーカー専用ライセンスプレートの発行を実現し、開発段階のクルマを徹底的に公道上で評価するだけでも日本車の走りの質は大きく向上するはずだ。
勿論長いスパンで見た場合、現在自動車業界に身をおく人たちがもっとクルマ好きになるだけでは決して十分ではないことは明らかだ。日本の新聞、テレビほど、クルマやモータースポーツに対する関心が低い国はない。頂点モータースポーツ活動に毎年大きな予算を投入することも否定はしないが、まずはアメリカにあるような24時間自動車関連番組やモータースポーツを扱うテレビチャンネルを立ち上げる方がはるかに安く、またよほど効果的だと確信する。日本の底辺モータースポーツの貧困さも特筆に価するものだが、そのようなTVチャンネルが誕生すれば様相が次第に変わってくるのではないだろうか。
更に日本の社会システム全体のあり方をもっともっと変革し、幼い子供たちや若者がクルマを興味の対象とすることが出来るように、いろいろな障害を取り除いてゆくことも大切だ。それにより市場がより活性化するとともに、将来の自動車産業を担う若者が育ってくるはずだ。
一言で言えば、今日に至るまで、日本ではクルマが文明、道具としてしか発展してこなかったといっても過言ではない。しかし今からでも遅くない。日本における「クルマ文化」を是非とも広げて行くことが肝要だ。「車評オンライン」ではクルマの評価に特化せずに、このような議論も引き続き是非展開して行きたいし、皆様からのフィードバックをお待ちしたい。
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