論評07 マツダコスモ国際ミーティング


2008年1月にお台場で行なわれた旧車ミーティングに、ドイツでマツダのディーラーを37年にわたり経営、コスモスポーツにはじまり、マイクロバスを除くすべてのRE車を含む大半のマツダ車を中心に、100台近いコレクションを個人で保有する、ヴァルター・フライ親子が来日、日本の「コスモスポーツオーナーズクラブ」メンバーの心温まる接遇がきっかけとなり、ドイツでの「コスモスポーツ国際ミーティング」が実現した。ドイツマツダの協力で日本から14台ものコスモスポーツが船で搬送され、日本から総勢32名のツアーを組んでのドイツ行きとなった。日本以外にも、アメリカからはコスモオーナー夫妻が、またイギリス、スイス、ギリシャ、オーストリアからもコスモスポーツと、そのオーナーたちが参加した。

筆者は、初期のRE開発には携わったものの、コスモスポーツのオーナーではなく、クラブ員でもないが、昨年1月には、フライ親子と一日東京周辺を周遊し、昨年9月のアメリカにおけるREファンの集い、セブンストックでは、ヴァルター・フライ夫妻と楽しい一日を過ごしたのが縁で、フライさんから「是非とも来て欲しい」というお誘いを受け、「コスモスポーツオーナーズクラブ」からも賛同いただき、行く事を決心したものだ。

19台ものコスモスポーツが、マツダロータリーエンジンのルーツとなったバンケルエンジンの生まれ故郷で一堂に会し、行く先ざきでの食い入る様なまなざしに接し、導入後42年もたったコスモスポーツのデザインが、南ドイツの美しい光景に見事に溶け込む様は、感動的で、深く心に残るものとなった。今回のイベントには日本から「ノスタルジックヒーロー」誌(芸文社刊)が独自に取材参加されており、今秋発行される号で本イベント関連記事を見ることができる。

ちなみに1973年春から正式に始まったマツダ車のドイツにおける販売は1980年代に入ると一段と加速、良好なイメージや顧客満足度を確率しつつ、昨年の販売は56,000台強と、日本車ではトヨタに次ぐナンバー2のポジションを確保しているが、マツダが永年、デザインや高速走行性能に焦点をあてたクルマづくりをしてきたことと無縁ではないはずだ。また今回の南ドイツでは予想を超える多くのMX-5(ロードスター)に遭遇したのが私には大変印象的だった。



8月9日:まずはフランクフルトに無事到着着

ツアーコストの関係上、成田、名古屋、関空、福岡からのメンバーがまず台北に集結し、台北からフランクフルトへ飛ぶ長旅だったが、一日前に台湾を直撃した台風の影響を全く受けずに無事フランクフルトに翌朝到着、マークス・フライさんカップルが出迎えてくれた。


ポルシェ博物館を見学

アウグスブルグへのバス移動の途中で、ポルシェ博物館に立ち寄った。この博物館は2009年1月に改築されたばかりで、フェルディナンド・ポルシェ博士の足跡、ポルシェ車の歴史、モータースポーツの歴史など、充実した展示に脱帽するとともに、大胆で、斬新な建物のデザインにも圧倒された。自社製品の歴史に対する誇り、モータースポーツ活動に対する思い入れ、更には来場している女性や子供の多さとその人たちのクルマに対する関心の高さなど、日本人とドイツ人のクルマに対する関心の深さの違いを到着早々いきなり見せつけらたように感じた。


8月10日:ミュンヘンツアー、ドイツ交通博物館

翌日は、バスによるミュンヘンツアーだった。ドイツ交通博物館には、その名の通り、自転車の歴史や変遷、車輪の種類や歴史、子供の移動遊具の歴史、メッサーシュミットやゴゴモビールなどの軽自動車の祖先ともいえるクルマたち、NSUスパイダーやRo80などのバンケルエンジン搭載車、更には機関車や列車など、陸上交通の関する幅広い展示がされており、次世代を担うドイツの子供たちにとっても、またとない勉強の場となるに違いない。


ミュンヘン市庁舎広場、ミュンヘンオリンピック公園

次が、100年前に完成した、ミュンヘンの市庁舎の中央部にあるドイツ最大の有名な仕掛け時計で、正午を期して動き始める仕掛時計を多くの観光客とともに見守った。市内の有名なビヤホール、ホーフブロイで昼食を済ませた後に向かったのがオリンピック公園だが、展望台真下のBMWの本社工場の上には燦然と虹が輝いていた。


8月11日:コスモ19台を連ねてリンダウまでドライブ

3日目は、19台のコスモスポーツを連ねての、リンダウのバンケル研究所跡へのドライブだった。発明者であるフェリックス・バンケル博士が1961年からREの研究を継続されたこの場所は、私が25年ほど前に訪れた時には多くのRE関連のものが残されていたが、今はRE関連の足跡はなにもなく、アウディの研修所となっていた。長年博士の研究をサポートし、今でも多種燃料REの開発を積極的に行なっているアイアーマンさんもここで合流、翌日まで我々と行動をともにしてくれた。


バンケル博士の旧居も訪問

そこから再びコスモスポーツを連ねて、ボーデンゼーの対岸、スイスにあるバンケル博士の旧居へ向かった。ここはバンケル研究所を模した造りだが、現在はアイアーマンさんの友人が所有し、多種燃料RE用の電子制御関連の開発の場として使用されている。旧居の中にはバンケル博士時代からと思われる、シール類のサンプルや、外にはREを搭載したロータスや軍用車、船なども置かれていた。


8月12日:アウトフライでプレスミーティング

4日目には、アウトフライ(フライさんのディーラー)で、プレスミーティングが開催された。「ドイツ生まれのエンジンを搭載したクルマの里帰り」という意味もあってか、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌などが取材に参集、来場した市長やドイツマツダの責任者などからも心温まる祝辞が述べられるとともに、翌日の地元紙には何点ものカラー写真入りで今回のイベントが大きく報じられた。


旧車数十台のコレクションのあるフライさんの自宅で昼食

プレスミーティング終了後コスモを連ねて向かったのがフライさんの自宅だった。写真ではほんの一部しかご紹介できないが、コスモスポーツにはじまり、マイクロバスを除くすべてのRE車を中心に、自宅には数十台に及ぶコレクションがあり、これ以外にも、もう一か所、別の場所に残りのコレクションが置かれているという。


アウグスブルグ市庁舎までコスモでツーリング

昼食後は、アウグスブルグ市庁舎まで19台のコスモを連ねてドライブ、市庁舎裏の広場は我々のためにこの日、特別に開放してくれたもので、副市長による市庁舎の歴史の説明に続いて、市内にある500年の歴史をもつ世界最古の社会住宅を歩いて見学、夕食は市庁舎一階にあるビヤガーデンでバイエルン料理を楽しんだ。


8月13日:バスでロマンティック街道沿いの名所観光

あけて13日は、再びバスによるロマンティック街道沿いの名所の周遊だった。シュタイフのぬいぐるみ博物館、ネルトリンゲン、ローテンブルグの歴史的な市街地などを見学したが、ローテンブルグ市庁舎前で、何と全く偶然に、マツダでかつてはREのシール開発にも携わられたYさんと奥様にめぐり会った。REという糸で、何かがつながっているように感じた。夜は再びフライさん宅で、豚の丸焼きがメインディッシュのディナーパーティーとなったが、この日はバス移動なので、全員思う存分ドイツのビールを楽しむことができた。


フライさんのコレクションは実車だけではなかった

前日の昼食時には見るチャンスがなかったが、フライさんの実車以外のコレクションも見事だった。同じ自宅内の2階に、ミニカー、プラモデル、ポスターなどが広い部屋を埋め尽くしているのに驚かされたが、どれをとっても、全てが「マツダ」なのだ。


8月14日:コスモを連ねてアルペン方面へドライブ

14日は再びコスモを連ねて、ロマンティック街道を南下、まずユネスコ世界遺産、ヴィース教会を、その次にあの有名なノイシュヴァンシュタイン城を訪れた。バイエルン王、ルードヴィヒ2世の手になる未完の城は、ディズニーランドとも揶揄される、多分に浮世離れしたものだが、時の権力の大きさを如実に表したものでもある。帰途、修道院の経営するビヤガーデンでの会食を楽しんだ。


8月15日:BMW博物館を見学

帰国前日、まずはBMW博物館までフライ一家の運転するマツダ5(日本名プレマシー)に分乗、そこから女性陣は電車でミュンヘン中心地の散策に、それ以外のメンバーはBMW博物館を見学した。ここも改築は2008年6月と新しいが、航空機エンジン、2輪の歴史、エンジンの歴史、ツーリングカーレースの歴史、スポーツカーの歴史など、非常に凝った展示が印象的だった。加えて、道路を隔てたところにあるショールームのスケールの大きさと展示内容にも脱帽した。


最後にアウグスブルグ近くの古城に集う

BMW博物館をあとに向かったのはアウトフライで、そこから再びコスモを連ねて最後のイベントでもある、アウグスブルグ近くの小さな古城に向かった。普段はクルマが入れない古城の中庭にコスモスポーツを入れ、中ではバイエルン地方の民族服に身をまとったミュージシャンによる演奏という、心のこもった最後の歓迎イベントだった。



以上のような盛りだくさんなスケジュールが無事に終了、8月16日、バスでフランクフルト空港に向かったが、早朝3時のホテル出発にもかかわらずフライさん一家全員が見送りに来てくれた。 今回の一週間にもわたるイベントに対するフライさんの一家をあげての献身的な対応は、家族全員のクルマに対する深い愛情と理解がなければ絶対に不可能だったはずだし、フライさん個人の信じがたいコレクションも家族の理解ぬきでは考えられないものだ。またドイツマツダの協力がなければ日本からの14台ものコスモスポーツの搬送は実現しなかったが、果たして日本の会社で現在のような厳しい経済環境下においてこのような出費を認めるところがあるだろうか? コスモを連ねてのツーリングの道筋における人々のくいいるような眼差しも非常に熱いものを感じた。またトヨタにはそれなりの規模の博物館があるが、それ以外のメーカーには、ポルシェやBMWのような素晴らしい博物館と比肩できるものは皆無といってもいい。

以上はいずれもクルマへの理解が深く、クルマ文化が定着しているドイツと、クルマが文明としては定着しているが文化に昇華しているとは言い難い日本との格差の一端を如実に現したものといえそうだが、こうした背景が、現在のドイツと日本におけるクルマづくりの違いの大きな要因になっているといっても決して言い過ぎではないと思う。心からクルマを愛する人たちがつくるクルマと、仕事としてクルマをつくる人たちの違いを随所に感じるからだ。

21世紀の半ばにむけての欧州、韓国、更には中国、インドなどとのクルマづくりの国際的な競争はますます激しさを増してゆくと思われるが、経済的な視点だけではなく、クルマ文化の定着と発展、若者たちのクルマ離れからの転換は、日本の社会全体が多角的な切り口から対応してゆかなくてはならない必須の課題である。

ただし日本にも「コスモスポーツオーナーズクラブ」のようにクルマ文化を大切にする人達の集いがあることはまぎれもない事実であり、今回のように、ロータリーというエンジンと、コスモスポーツという一台のスポーツカーが、このような形で世界の人々を結び付けたことの意義は実に大きく、今後もこのような形でのクルマと人のかかわりあいが一段と発展してゆくことを心からねがうものである。



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