・試乗グレード X (FF・CVT)
・全長 3,395mm
・全幅 1,475mm
・全高 1,510mm
・エンジン型式 K6A
・種類 水冷直列3気筒DOHC12バルブ
・排気量 658cc
・最高出力 54ps(40kW)/6,500rpm
・最大トルク 6.4kg・m(63N・m)/3,500rpm
・車両本体(税込) 1,222,200円
●ダイハツミラココア(上写真/左)
・試乗グレード ココアプラスG (FF・CVT)
・全長 3,395mm
・全幅 1,475mm
・全高 1,560mm
・エンジン型式 KF-VE
・種類 水冷直列3気筒DOHC12バルブ
・排気量 658cc
・最高出力 58ps(43kW)/7,200rpm
・最大トルク 6.6kg・m(65N・m)/4,000rpm
・車両本体(税込) 1,300,000円
昨年秋以来の大幅に縮小した日本の自動車市場で軽自動車は善戦しているが、近年販売台数上でトップを走り続けてきたスズキワゴンRが2009年上半期(4月〜9月)トヨタプリウスにその地位を譲った。ワゴンRは、前年比3%減の93,193台と健闘したが、5月に導入されたプリウスの販売台数が116,298台と、前年比で2.3倍にも跳ね上がったからだ。第3位はダイハツムーヴの84,529台(+2.1%)、第4位はホンダフィットの76,489(−10.5%)台、第5位がダイハツタントの71,773(−11.9%)台、スズキアルトは42,076台(+34.1%)で第9位だった。
ダイハツとスズキの近年の切磋琢磨は熾烈で、結果として軽自動車が急速に進化していることが大変うれしい。ダイハツムーヴとスズキワゴンRの競争はその代表例だが、ダイハツタントに販売台数面で後れをとったスズキはパレットをマイナーチェンジ、副変速機付きの新しいCVTを採用するとともに、若年の男性をかなり意識した(?)、パレットSWを追加設定した。一方、ダイハツは今回スズキのアルトラパンを見据えたモデル、ミラココアを導入した。
ミラココアもアルトラパンも、ムーヴやワゴンRのようなトールワゴンではないが、日常要件を十分に満たし、若い女性を多分に意識したカジュアルで、あたたかみがあり、扱いやすいハッチバックモデルだ。ミラココアの80%という女性比率の高さはまさにそれを物語っている。エンジンは、ミラココアは自然吸気エンジンのみ、対するアルトラパンは、自然吸気とターボの二本立てで、いずれも燃費の向上に対応すべくCVT装着モデルがメインだ。
アルトラパン:1,222,200円、ミラココア:1,300,000円 。
アルトラパン:2008年11月26日、ミラココア:2009年8月17日。
まずサイズを比べてみよう。両車とも全長、全幅は軽枠一杯で全く同じだ。全高はミラココアが1,530mmとアルトラパンに比べて20mm(ルーフレール付きは1,560mm)高いが、いずれもトールワゴンでは対応不可能な立体駐車場は問題ないはずだ。室内寸法はミラココアの方がやや大きいが、実質的な室内居住性は非常に近似したものだ。両車とも前席に何ら不足を感じない上に、多くのコンパクトカーが真っ青になるほどの後席居住性を備ええいる。加えてアルトラパンには、後席に8段階のリクライニング機構が全グレード標準装備されている。
カップホルダー、各種の小物入れ、ショッピングフックなど、日常の使い勝手に対する細かい配慮は両車とも実に豊富だ。ミラココアの助手席シートバックにあるティッシュポケットなどは、わずかな追加コストのはずだが、女性の視点からみるとうれしい配慮の代表例といえるだろう。両車とも後席うしろの貨物スペースは決して広くはないが、小物の積載には十分だし、ミラココアには小さなトノーカバーすらついている。アルトラパンはスペアータイヤを廃して、床下に小物入れのスペースを設定している。かさばる荷物の積載は、両車ともリアシートバックが左右独立して倒せるので心配ない。トールワゴンには及ばないが、大半のユーザーにとっては必要にして十分なカーゴスペースだ。アルトラパンはリアドアが80度、フロントドアは66度開き、それでも乗降性に不満はないが、ミラココアの場合、前後ともドアが約90度開き、一段と乗り降りに便利だ。総じて日常の使い勝手の面では、後述のルームミラーも含めてミラココアの方がやや上位といえそうだ。
内外装デザインはどうだろう?日本の軽自動車のデザイン、走りの質に総じて厳しい意見をもつ車評メンバーの一人、ブライアンロングさんと、以前にミラジーノのオーナーでもあった日本人の奥さまからミラココアに対するファーストインプレッションを聞き出すべく、お住まいの千葉に向かった。ミラココアをみるなり奥さまから「かわいい」という感想をいただいたが、前述のミラココア購入者の女性比率をいみじくも裏付けるものだ。対するブライアンさんのコメントは、「女性をターゲットにした商品なので、家内と自分の評価の違いには驚かないが、旧型フィアット500を想起させるデザインはオリジナリティーが感じられない」ときびしい。私の感想も「全体のフォルムは悪くないが、フロント周りなどにもっと新しさと洗練された造形がほしい」だ。
内装に関しても同様なことが言える。ブライアン夫人からは内装も「かわいい」という評価が得られたし、前後のショッピングフックや、フロントシートバックのティッシュポケットなどに対する反応も予想以上だった。ブライアンさんの評価は、「使い勝手の良いシンプルな内装デザインで、室内居住性も良好だが、何も新しさを感じない」というものだ。
今回アルトラパンに対するお二人のコメントは入手できかったが、おそらく同様な内外装デザインの評価になるだろう。両モデルとも女性に焦点をしぼることは否定しないし、その意味からはデザイン上の優劣はつけにくい。一方でブライアンロングさんと同様、厳しい見方をする日本人男性も少なくないはずであり、私にとっても、購入をためらう最大の要因は、両モデルとも内外装のデザインだ。
ここで内装の人間工学的配慮に関してひとこと触れておきたい。ミラココアとアルトラパンの運転席に座ってまず気づくことはインパネ中央部にある各種コントロール類へのリーチの違いだ。アルトラパンの場合、運転者がシートバックから背中を離さずに、ほとんどのコントロール類に手が届くが、ミラココアは、シートバックから体を起こさないとコントロール類の操作ができない。これは他のダイハツのクルマにも見られ、早急にそのあたりの設計基準を見直すことをお勧めしたい。
一方で今回ミラココアが国内で初めての採用した、ギヤをバックに入れると、自動的に車両後方の画面がルームミラーの左側に表示されるバックモニター内蔵のルームミラー(プラスGには標準装備)はなかなか便利だ。画面が小さく、NAVIと組み合わされたバックモニターにはあるガイドラインが無いなどの弱点はあるが、バックで駐車することが日常茶飯事の日本では実用性の高い装備だ。同じミラー内に自動防眩機能も装備されており、後続車のライトがミラーに映りこんだときのまぶしさを和らげてくれる。
次は走りだ。まずはエンジンとトランスミッションだが、ミラココアは自然吸気エンジンのみで、トランスミッションはGとXはCVTのみ、一番下のLグレードは4ATという使い分けをしている。対するアルトラパンは、自然吸気とターボの二本立てで、自然吸気モデルはいずれのグレードも2WD、4WDともに4ATとCVTの選択が可能だ。GのターボはCVTのみという選択となる。4ATとCVTのコスト差を意識したスズキらしい設定だ。
車評コースにおける実測燃費は、アルトラパンが18.4km/L、ミラココアが16.1km/Lとなった。カタログ燃費はアルトラパンが24.5km/L、ミラココアが23.5km/Lで、カタログ燃費に対する達成率は、アルトラパンが75%、ミラココアが68%だった。
評価コースは三樹書房で刊行した「車評」シリーズの出版にあたり設定した商品性、並びに燃費を評価するコースで、高速セクションを6ラップ、市街地セクションを同じく6ラップ、合計約175kmを走行して、走行前後に完全満タン法で給油量を計測するもので、e燃費と非常に近似した数値となること、即ちユーザーの平均燃費に近いことはすでに報告済みだ。ちなみにこれまでのベスト3は、新型トヨタプリウスの25.2km/L、第2位は旧型プリウスの21.2km/L、第3位がホンダインサイトの20.1km/Lで、軽自動車のベストは新型スズキワゴンRの18.5km/Lだった。
新型ワゴンR、アルトラパンなど、改良されたエンジンとCVTを組み合わせたスズキの新型軽自動車群は、『車評軽自動車編』の平均値(15.8km/L)をかなり超えており、カタログ値とのかい離も少なくなっている。ダイハツも「実用燃費」に一段と的を絞った開発をすすめてほしい。ハイブリッドシステムは今後さらに小型で安価なモデルにも採用され、軽自動車との競争は熾烈になることは間違いないが、軽自動車のもう一段の実用燃費改善努力により、小型ハイブリッド車とのすみ分けも十分に可能となると私は確信する。
ステアリング・ハンドリングもアルトラパンに軍配を上げざるをえない。アルトラパンは直進時ステアリングのセンターがクリアーで、まっすぐ走ることが気持よく、ハンドルを切り始めるとリニアーな反応を示し、低速から高速まで気持ち良く走れた。旧型ワゴンRまでさかのぼると、まっすぐ走ることが苦痛ともいえるレベルにあったのは事実で、大きな転換点は欧州を徹底的に意識して開発されたスウィフトだった。その後軽自動車群も大幅に改善され、新型のワゴンR、パレットなども大幅に進化したステアリング・ハンドリングが作りこまれている。
対するダイハツは、ステアリング・ハンドリングには余り関心がない女性ユーザーを対象に、国内専用として商品の育成を行ってきたためか、正直言ってこの領域はほめられるレベルにまだ達していない。現状のままでも、女性ユーザーの大半が日常の使用で不満に感じるようなレベルではないが、ブライアンさんのように「今日女性でスポーツカーに乗る人も少なくないではないか、その人たちにとってはまるで船に乗っているようなハンドリングは決して好ましくないはずだ」というのもまぎれもない事実だ。
最後が乗り心地、振動、騒音で、この領域もアルトラパンに軍配があがった。両車とも全く同じタイヤサイズだが、ミラココアは、市街地でも高速でも、路面の凹凸を必要以上に拾い、その振動がもろにステアリングホイールに伝達されるのが残念だ。首都高速の凹凸、舗装の継ぎ目のショックなどはその最たる例だ。加えてミラココアの場合、CVTのノイズもかなり気になった。これに対してアルトラパンは、足がよりしなやかに動き、ステアリングホイールへの振動の伝達も気にならないレベルで、低速でも、高速でも気持ち良く走ることができた。
このように比較評価を進めてきた両モデルだが、果たして誰におすすめか?両モデルとも室内居住性、使い勝手、走り、経済性など、総じて日常の用途には全く不足のないクルマに仕上がっており、トールワゴンよりは使い勝手がいいと感じるユーザーは多いはずである。両車の内外装デザインを、好意をもって受け入れられる方たちにはお勧めできるモデルだ。その場合、おそらく大半は女性ということになるだろうが、開発の狙いがそこにあるのだから、当然と言えば当然のことだが。
ところで今回の2台の比較評価を決定した背景には、2020年までに1990年比25%の温室効果ガス削減という挑戦的な目標があり、この目標達成のためには、日本のクルマ社会の在り方を根本的に見直すことが必須だと思うからだ。ハイブリッド車とEVだけに頼るわけには行かず、軽自動車の果たす役割が一段と拡大するのではないか。そのためには現在の軽自動車の普及状況(人口10万未満の市町村で約半数が所有され、66%が女性ユーザーで、地方の高齢者世帯のへの普及が43%)に加えて、大都市における市民権の拡大、男性市場、若者市場の拡大、普通車からのダウンサイジングの促進などが必要となるだろう。今回評価した2台は、実用性面で何ら不足のないモデルであり、内外装のデザインの見直し、走りの質の向上、実用燃費の更なる改善、更なる軽量化などが行われれば、そうした市場の拡大に大きく貢献し、小型ハイブリッド車とのすみ分けも十分に可能となると私は確信する。
ミラココアの+と−
+ 十分な室内居住性
+ 実用性と利便性
+ 不足のない走り
− もう一歩の燃費
− あいまいなステアリング
− 振動、騒音、乗り心地
アルトラパンの+と−
+ 良好な燃費と不足のない走り
+ 十分な室内居住性
+ 実用性と利便性
− 「かわいらしさ」への過度の注力
− デザインの質感