・試乗グレード 13-SKYACTIV(FF、CVT)
・全長 3,900mm
・全幅 1,695mm
・全高 1,470mm
・エンジン形式 P3-VPS型
・種類 水冷直列4気筒DOHC16バルブ
・排気量 1,298cc
・最高出力 84ps(62kW)/5,400rpm
・最大トルク 11.4kgm(112N・m)/4,000rpm
・車両本体価格 1,400,000円(税込)
【ホンダフィットハイブリッド】
・試乗グレード スマートセレクション(FF、CVT)
・全長 3,900mm
・全幅 1,695mm
・全高 1,525mm
・エンジン型式 LDA
・種類 水冷直列4気筒横置SOHC
・排気量 1,339cc
・最高出力 88ps(65kW)/5,800rpm
・最大トルク 12.3kg・m(121N・m)/4,500rpm
・電動機型式 MF6(交流同期電動機)
・最高出力 14ps(10kW)/1,500rpm
・最大トルク 8.0kg・m(78N・m)/1,000rpm
・車両本体(税込) 1,720,000円
※ポロTSIハイラインのスペックは、こちらをご覧ください。
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10年後を想定しても内燃機関が自動車の主要動力であることは間違いなく、その意味でも内燃機関革新への挑戦の意義は非常に大きいが、マツダが「スカイアクティブテクノロジー」と名付けた総合的な次世代技術は、ガソリン、ディーゼルエンジンの革新に加えて、トランスミッション、ボディー&シャシーの大幅改善を含んだもので、「優れた環境安全性能」に加えて「走る歓び」の実現を目指したものだ。今回その第一弾として導入されたマツダデミオ13-SKYACTIVに、ホンダフィットハイブリッド、VWポロTSIハイラインを加えた実用燃費を含む同時評価を車評メンバー、さらには評論18でご紹介した中島繁治氏の参画も得て行うことができたので、以下ご報告したい。
最大の関心事は、果たしてスカイアクティブエンジンがハイブリッド、小排気量直噴過給エンジンなどと肩を並べて今後の自動車にどのような価値を提供することになるかという点だったが、同時比較評価を通してその存在価値を十分に確認することが出来たとともに、「スカイアクティブテクノロジー」の第二弾、第三弾への期待が大きく膨らむこととなった。
フィットハイブリッド
フィットのハイブリッドシステムはインサイトと同じホンダ独自のIMA(インテグレイテッドモーターアシスト)と呼ばれるもので、1.3Lエンジン(88ps)のフライホイール部分に薄型モーター(14ps)兼発電機、その後ろにCVTを装着したものだ。発進と通常走行はエンジンが主体でモーターが補助、高速クルーズはエンジンという、あくまでエンジンが主動力、モーターが補助動力となるシステムで、シンプルさ、コストなどの点からコンパクトカーに適したハイブリッドシステムだ。はるかに高出力のモーターにアシストされるプリウスの走りには及ばないが、市街地を中心に活発な走りを示すとともに、燃費面でも従来のコンパクトカーの枠をかなり超えたものとなっていることを確認した。ベース価格はハイブリッド車としてはお求め易い172万円に設定されており、コスト、重量、レアメタルの使用、長期間使用後のバッテリーの心配などハイブリッド故のマイナスファクターは否定できないが、コンパクトクラスのハイブリッド化が今後次第に拡大してゆくことを予測させてくれる。
VWポロTSIハイライン
搭載されている1.2L の直噴過給エンジンは従来の1.4L TSIの鋳鉄製のエンジンブロックからアルミダイキャスト製に変わり大幅に軽量化、バルブも2バルブSOHC化するとともに、小径ターボ、水冷インタークーラー、電子制御式のウェイストゲートなどにより最小のターボラグを実現、1,550rpmで175Nmの最高トルクを発揮する。市街地、高速、登坂などいずれの走行条件でとても105馬力の最高出力のエンジンとは思えない走りをしてくれるし、Sレンジで走ればスポーツカーもたじたじだ。加えて7速DSGの変速ロジックは脱帽もので、燃費面でのメリットも小さくない。もちろん、コスト、重量、複雑なメカニズムなどの負荷を背負っていることも一方の事実であり、全てのコンパクトカーに適したパワートレインとは言えないが、プレミアム&スポーティーコンパクトには非常に魅力のある技術であり、今後さらなる発展を遂げるとみていいだろう。
マツダデミオ13-SKYACTIV
これらに対してスカイアクティブエンジンははるかにシンプルなエンジンで、その第一弾として投入されたのが1.3LのスカイアクティブエンジンとCVTを組み合わせたデミオだ。マイナーチェンジのため、前回の車評オンラインで述べたような「スカイアクティブテクノロジー」のフルメニューは入っていないが、カタログ燃費は10・15 モードで30?/L(JC08モードでは25?/L)を達成、実測燃費もフィットハブリッドに肉薄するものとなった。またレギュラーガソリンでOK、価格も140万円とリーズナブルなのもうれしい。走りは自然吸気の1.3Lゆえに、モーターアシストのあるフィット、過給エンジンのポロにかなわないが、CVTとのマッチングも含めて、長距離走行も含む広範囲な条件下で走りの不足を感じるシーンはなく、加えてシャシー関係の改善等により「走る歓び」が大幅に向上していることも確認できた。スカイアクティブテクノロジーがマツダの企業平均燃費の低減に大きく貢献するのは当然だが、ハイブリッドとの組み合わせでもそのメリットは明白であり、世界中の自動車メーカーがこれまで断念してきた技術領域への挑戦に改めて敬意を表したい。技術提携を望むメーカーが出てきても全く不思議はない。
今回の比較評価の中で我々が最も関心をもったのは実用燃費だ。ベストな数値を出したのはフィットハイブリッドで、デミオ、VWポロと続いたが、私が信頼をおいており、これまでの車評での実測燃費とも近いe燃費によると、デミオの燃費がフィットハイブリッド、ホンダインサイト、トヨタプリウスなどに非常に近似していることが分かる。今回平均車速の低い市街地では当然ながらフィットハイブリッドが3車中ベストの燃費値を示したが、高速セクションではデミオがフィットを上回ったのも興味深い(高速、市街地の燃費はそれぞれメーター読み)。
車評コース 総合 |
高速 | 市街地 | (e燃費) | |
ホンダフィットハイブリッド | 21.1 km/L | 21.2 | 12.4 | 20.15 |
デミオ13-SKYACTIV | 18.5 | 22.3 | 10.4 | 19.51 |
VWポロTSIハイライン | 15.0 | 18.7 | 9.1 | 16.19 |
※以下、e燃費参考値
車評コース 総合 |
高速 | 市街地 | (e燃費) | |
ホンダインサイト (現行モデル) |
20.24 | |||
トヨタプリウス (現行モデル) |
21.48 | |||
ホンダフィット (現行モデル1.3L) |
15.06 | マツダデミオ (従来モデル1.3L) |
15.25 |
車評コースの高速セクションは首都高の都心部であり、平均車速が80km/h前後とあまり高くないが、ここでは上記のようにポロの燃費がフィット、デミオにかなり肉薄、平均速度の更に高い走行条件下では3車の燃費は拮抗するものと思われる。欧州の燃費測定モードが120km/hまで含まれるのに対して、日本の燃費測定モードの最高速度は10・15モードの場合が70km/h、JC08モードでも80km/hと低いために、日本車の燃費改善努力がそれらの速度領域以下にフォーカスされているためではないだろうか? ちなみに首都高より平均車速の早い高速長距離走行における燃費は、以前のポロによる東京―八ヶ岳往復が17.4 km/L、今回のデミオによる東京―筑波サーキット往復は17.5 km/Lだった。
しかしコンパクトカーは燃費だけ良ければ良いというわけにはいかない。特にこれから大きく進展すると思われるダウンサイジングに際しては、内外装のデザインと質感、走りの気持ち良さ、使い勝手などが燃費と同様に大きなファクターになってくると思うので、以下それらの視点から今回の3車を評価してみたい。
フィットハイブリッド
フィットの最大の売りはそのパッケージングだ。リタイア後も多くの週末にゴルフ場通いを続けている知人で、ベンツ500SEに長年乗ってきた人に私が勧めたのがフィットだったが(ハイブリッドではない)、彼はフィットの使い勝手の良さ、経済性に大満足だ。今回のハイブリッドモデルもリアの床下スペース以外はほぼこれまでのモデルの使い勝手を継承しており、世界的にみても全長3.9mのクルマでこれほどパッケージングにすぐれたクルマはないと言っても過言ではなく、移動の道具としての存在は他の2車を大きく引き離している。
しかし顧客層を一段と広げ、国際的な評価を定着させ、ダウンサイジングの納得性を高めるためには、内装と走りの質感の向上が必須だ。インパネを中心とした内装の質感はあまりにもプラスティッキーで、決してほめられるものではない。加えて走りの質感ももう一歩だ。まず気になるのはロードノイズで、低速時もそうだが、高速で「粗粒路」を走る時のタイヤからのノイズはかなり大きい。乗り心地は悪くはないが、ポロの高速のフラットな乗り心地には及ばない。またステアリングレスポンス、高速直進を含めて運転することの気持ち良さが今一歩なのはプラットフォームの剛性も起因しているのだろうか? ブレーキの初期の効き、その後のコントロール性とも他の2車の後塵を拝するのが残念だ。
VWポロTSIハイライン
ファミリーカーとしては室内居住性が限界に近く、中でも後席はぎりぎりといってもよい。加えて後席に座るとまるでクーペに乗っている錯覚を覚えるほどの閉塞感があり、後席での長距離ドライブは余りうれしくない。ただし前後シートの形状、サイズ、着座感、ホールド感はいずれをとっても多くの日本製の同クラスのモデルよりも好ましく、長距離ドライブでもシートの快適性は評価に値する。ポロの内装デザインはスラッシュ成形によるソフトなダッシュボード、細部にわたるクロームメッキ調のトリミング、ステアリングホイールの握り感、視認性の良いメーター、さらにはシートの見栄えなどが素晴らしく、国産コンパクトカーの内装の質感とは一線を画すものだ。
ポロの電動油圧パワステによるステアリング・ハンドリングはセンターがクリアーで、まっすぐ走ることが気持ち良く、山道でのステアリング・ハンドリングも正確で気持ちいい。タイヤサイズは185/60R15と大きくはないが、かなりなハードコーナリングでも十分期待にこたえてくれる上に、「粗粒路」を走る時のロードノイズは脱帽ものだ。低速時の大きめのギャップ乗り越え時のショックはやや大きいが、それ以外の路面では、足がしなやかに動き、フラットな乗り心地が気持ちいい。車体剛性が非常に高いことも寄与しているのだろう。加えてエンジンノイズ、風騒音も大変望ましいレベルに抑えられている。走りの質感の面でも国産コンパクトカーとは一線を画すものであり、日本での価格は決して安いとは言えないが、私が今乗り換えたいクルマの筆頭がこのクルマだ。円高がますます進行む今日、海外市場における日本車との価格競争を考えるとき、クラスが違うなどという言いわけ訳はもはやきかないはずだ。
マツダデミオ13-SKYACTIV
今回はマイナーチェンジのため、パッケージング面では従来のデミオと全く同じであり、使い勝手はファミリーカーとしては下限といわざるを得ないし、それによる市場の制約は否定できないが、エンジンを含み、走りの気持ち良さの進化は予想をかなり上回るものになっており、それによりパッケージングの弱点をどこまでカバーできるかにかかっているといえそうだ。内装デザインはコンビネーションメーターのデザイン変更などにより魅力がかなりアップした。ボディー/シャシーも「スカイアクティブ仕様」とは言えないが、車体の局部剛性を強化、リアサスの取り付け部の剛性をアップ、トレーリングアーム取り付け部のブッシュの取り付け角度を変更などにより従来よりもかなりしなやかで上質な乗り心地を実現している。フロントシートバックがネットタイプに変更されたことも乗り心地に貢献しているようだ。また転がり抵抗の小さなタイヤにも関わらず、ロードノイズは称賛すべきレベルに抑えられているが、床下の気流の乱れの改善も貢献しているのだろう。
またステアリング、アクセル、ブレーキ操作に対するクルマの挙動が統一されており、総じて走ることが非常に気持ち良いクルマに仕上がっている。エンジン音もかなり改善され、高回転まで気持ち良く回せるようになった。空力性能の面ではアンダーフロアーに各種の整流板を取り付け、アッパーボディーではリアルーフスポイラーを採用、0.29というクラストップのCd値を実現している。総じて私の購買意欲を大きく後押ししてくれるクルマに進化しており、ダウンサイジングへの納得性は非常に高いものがある。
ただしタイヤの空気圧には一言云いたい。フロント2.6 kgf/cm2は燃費向上が目的とはいえ高すぎ、特に低速走行時には路面の凸凹をもろに拾い、ステアリングコラムにまで振動が伝達されるのが大変残念だ。2.3まで落としてみると、はるかに上質な乗り味となることが判明した。ちなみにそれぞれのタイヤ空気圧で、高速、市街地燃費を計ってみたが、誤差範囲と言える程度の違いしかなく、私がこのクルマに乗るのなら絶対に空気圧を落として乗ると申し上げておこう。またi-stopは以前のアクセラのものよりACオン時の作動範囲もひろがり、停止状態から発進する際のエンジン始動ショックも軽減されているが、停車時にAC再起動のためにエンジンが自動で起動する際のショックは是非改善してほしい。もう一点このクルマで不足しているのは「スカイアクティブ」の記号性だ。このように社会的に意義のあるモデルには、上級車からのダウンサイジング層も決して少なくないはずであり、デザイン上の差別化をもう一歩はかることによりお客様の心を揺り動かすことは間違いないはずだ。
以上が今回の相対比較の簡単な報告だが、間もなく導入されるダイハツの低燃費軽自動車との相対比較も非常に興味があるし、スカイアクティブの今後の展開、中でも全てのメニューを盛り込んだCX-5の評価も楽しみだ。
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新しいマツダの挑戦スカイアクティブ、その第一弾のデミオがどんな走りを示すか、 旧型からどう変わったか、ハイブリットフィットとどう違うか、を主眼に試乗した印象を記す。なお、試乗は首都高と都内一般道を流れに沿ってごく普通の走りで行った。
■旧型に比べ、全ての点で上質感が増した、走り味
今回の試乗は同じ目標に異なるアプローチをとった三社のクルマで、原型が数年前に発表された後に今回のモデルが発表されたという共通点がある。まず旧型に対し全体にマイルドになったのが第一印象である。旧型でちょっと気になったエンジン音の荒さが解消し、自然な4気筒の回転フィールとなっている。加速フィールも滑らかで高圧縮比化での懸念点は全く感じない、実に素直なエンジンフィールである。また遮音も強化され車両全体が静かになっている。乗り心地もサスペンションの見直しと車体剛性や遮音強化で質感が向上、特に目地乗り越し音や振動の収束が良くなっているのは好感がもてる。欲を言うと低速凹凸での当たりがちょっと硬いが……。操縦性も旧型がステアリングのシャープさでスポーティーを表現している側面を感じたが、よりリニアーな感覚で穏やかな応答となり、舵の座り(手応え)も良く、安定感や落ち着きをより向上させる方向に進化している。難点は旋回中の目地通過や早い操舵の切返しで、タイヤの横剛性の弱さで「グニャ」と感じる事があるが、一般走行では全く問題ないだろう。全体を通し走りのフィールは、コマーシャルで云う『走りの楽しさ』から想像するスポーティーな方向と云うより、より上質で自然な気持よさを追求する方向に進化している。
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■各社の異なるアプローチ
今回の試乗は同じ目標に異なるアプローチをとった三社のクルマで、原型が数年前に発表された後に今回のモデルが発表されたという共通点がある。
VWポロはゴルフが先鞭をつけた小型エンジンのターボ化を忠実に辿り、完成度は非常に高い。ホンダのフィットハイブリッドは、同社のベストセラーカーをハイブリッド化したもの、マツダデミオスカイアクティブは、同社のユニークなエンジン開発思想を突き詰めたモデルで、特殊な備品を追加することなくエンジン本体の改良により高燃費を達成しようとする意欲的な製品である。比較対象として現行のミラーサイクルエンジン付きデミオも試乗した。乗り心地、ハンドリング、騒音、振動など各車の間に大幅な差異は無いが、全体の完成度と高架道路の継ぎ目を乗り越える際のダンピング処理はポロが他を凌駕しており、この点国産車に改善の余地があることを指摘しておきたい。
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■3車(者)3様の個性
今回の車評テストで評価したクルマは、3台ともに現在のユーザーニーズに応えるエコカーだったが、その性格は技術的に見てもそれぞれが個性的。デミオはあくまでも自然吸気の内燃機関にこだわり、フィットはホンダ独自のハイブリッドシステムを採用、ポロは過給器を用いたダウンサイジング技術を前面に押し出している。動力性能やハンドリングなどはそれぞれ高いレベルにあり、クルマとしての方向性は違うものの、それに賛同して購入したユーザーが不満を抱くことはないだろう。
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