資源、環境問題への対応として、世界的にハイブリッド、プラグインハイブリッド、電気自動車などの技術開発に拍車がかかっているし、それらが非常に重要な技術であることに異論はないが、一方では2020年を想定しても内燃機関が動力の主要技術であることは間違いない。マツダにおける内燃機関の革新構想の原点は1990年代に溯るが、「サステイナブル"Zoom-Zoom"宣言」とよぶ、「走る歓び」と「優れた環境安全性能」の実現を目指した「スカイアクティブテクノロジー」(エンジン、トランスミッション、ボディー&シャシーまで含む総合的な次世代技術)の開発は2007年から推進してきたという。
このたびその第1弾として導入されたのがデミオ13-SKYACTIVだ。このデミオはマイナーチェンジのため、「スカイアクティブテクノロジー」のフルメニューは入っておらず、フルメニューの入ったモデルとしては約半年後(?)に導入される予定のCX-5まで待つ必要がある。しかし限定されたメニューながらデミオのカタログ燃費はJC08モードで25?/Lを達成しており(フィットハイブリッドは26?/L)、加えて先日箱根で行われた試乗会でも「走る歓び」の明らかな進化がみてとれた。今回はスカイアクティブテクノロジーの簡単な概要と、試乗会での第一印象をご紹介し、次回は「車評メンバー」によるハイブリッド車などとの実用燃費を含む比較評価結果をご報告したい。
まずスカイアクティブテクノロジーの簡単な紹介から始めよう。マツダが「ビルディングブロック戦略」と呼ぶのは段階的な技術戦略であり、そのベースとなる技術が次世代ガソリンエンジン、次世代クリーンディーゼルエンジン、次世代トランスミッション、次世代プラットフォームだ。これらのベース技術を真っ先に改良した上で、アイドリングストップシステム、減速エネルギー回生ブレーキ、ハイブリッドシステムなどのモーター駆動技術などを順次展開しようというものだ。
ベース技術の中核が次世代内燃機関だが、ガソリンエンジンにしろ、ディーゼルエンジンにしろ、燃費改善のためには排気損失、冷却損失、ポンピング損失(圧力の低い吸気系から新気を吸い込んで圧力の高い排気系に押し出すためのエネルギー損失)、機械損失の低減がキーとなるため、その制御因子である圧縮比、空燃比、燃焼期間、燃焼タイミング、ポンピング損失、機械抵抗をいかに理想に近づけるかを徹底的に追求したという。ちなみに燃料の熱量の中で、駆動力として取り出せるのは最大でも30%前後であり、それ以外はすべて上記の損失として捨てられているので、それらの損失を低減することがいかに大切かは言うまでもない。
中でもキーとなるのが圧縮比で、SKYACTIV-G(ガソリンエンジン)では14.0というこれまでは不可能と考えられてきた高圧縮比を実現することによりすぐれた燃費と中低速トルクの上昇を実現、SKYACTIV-D(ディーゼルエンジン)では逆に14.0という圧倒的に低い圧縮比の採用により、クリーンで高効率のエンジンが実現できたという。いずれも世界に前例がないだけに、開発には幾多の困難が待ち構えていたことは想像に難くない。
ガソリンエンジンで圧縮比を高めれば熱効率は大きく向上するが、これまでは10〜12という圧縮比が一般的だったのはそれ以上上げるとノッキングが発生して出力が大幅に下がってしまうからだ。14.0という圧縮比が実現できたのは、4-2-1排気システム(4気筒の排気管をまず2本に(2番と3番、1番と4番)、次に1本にまとめるもので、従来のものより結合点までの距離がかなり長い)により吸気行程を開始した気筒への排気高圧波の伝達の遅れと、それによる残留ガス量の減少と圧縮上死点温度の低減、更にはピストン上面中央のくぼみ(キャビティー)による点火性と燃焼初期の火炎の安定性の向上、直噴方式の採用とマルチホールインジェクターによる燃料の微粒子化による均質な混合気の生成、その気化潜熱によるシリンダー内温度の低減、噴射圧力の強化、気筒内の空気流動の強化などによる燃焼の改善だという。
今回のデミオに搭載されたSKYACTIVE-G 1.3は新開発のロングストロークエンジンで、1.3Lクラスでは国産乗用車初の直噴エンジンだ。4-2-1排気システムはエンジンルームのレイアウト上不可能だったため採用されていないが、SKYACTIVE-G 1.3では上記のそれ以外の項目に加えてポンピングロスを低減するための連続位相可変バルブタイミング、更には排気ガスの一部を冷却して燃焼室にもどし混合気の自己着火を抑制するクールドEGRなどを採用することにより量産車では世界に前例のない14.0という高圧縮比が実現できたという。レギュラーガソリンでOKというのもいい。またカムシャフトとカムの接触部分へのローラーの採用、オイルポンプの小型化とオイルポンプ吐出圧力の電子制御、クランクシャフトメインジャーナルの小型化、ピストンリングの張力低減などによる30%の機械抵抗の低減も見逃せない。
アクセラやプレマシーにすでに採用されてきたエンジン内部でおこる燃焼と、モーターによるアシストの組み合わせで再始動するマツダ独自のアイドリングストップシステムが改良のうえ搭載されており、スムーズで素早いストップ&スタートが実現したという。加えて減速時のエネルギー回収量がほぼ2倍に拡大されたことにより走行中の発電量が大幅に削減され、燃費に貢献するとともに、従来2個搭載されてきたバッテリーも1個となった。
デミオ13-SKYACTIVのトランスミッションはCVTで、SKYACTIV-Driveとして開発が進んでいる新型ATではないが、アクセルの踏みこみ量に応じてエンジンの出力とCVTを協調制御させる駆動力制御方式を採用、穏やかなアクセル操作でもスムーズなトルクが発生し、渋滞時にもギクシャク感のない発進が行えるという。次回の都内の評価でも注目したいポイントだ。
プラットフォーム、サスペンションは基本的にはこれまでのデミオと同じで、「スカイアクティブボディー/シャシー」ではないが、以下のようなリファインが行われている。まずはボディーだが、左右のフロントサスタワーをつなぐサイドメンバーの板厚をアップ、リアホイールハウスの補強メンバーの形状変更や溶接点数の増加などにより局部剛性を強化している。そしてリアサスの取り付け部の剛性をアップするとともに、トレーリングアーム取り付け部のブッシュの取り付け角度を変更することにより従来よりもしなやかで、上質な乗り心地を実現している。また空力性能の向上に向けてアンダーフロアーに各種の整流板を取り付け、アッパーボディーではリアルーフスポイラーを採用、0.29というクラストップのCd値を実現している。シートバッククッションに従来のSばねにかわるネットシートに変更することにより快適性の向上を図っているのも興味深い。
このような一連の改善の盛り込まれたデミオ13-SKYACTIVの箱根での試乗会における第一印象はなかなか良好で、実測燃費こそ計測できなかったものの、動的質感、走る気持ち良さ、ロードノイズなどが明らかにワンクラスアップしたように感じられた。最高出力、最大トルクとも従来の1.3Lのデミオに比べて若干下回っているので、動力性能面での劣化を心配したが、CVTとのマッチングの改善にも起因してか、従来型に全くひけをとらないと感じたし、SSモードでの動力性能はなかなかだ。加えてうれしかったのは、加速時のエンジン騒音がかなり改善され、高回転まで気持ち良く回すことができるようになったことだ。
ステアリング・ハンドリングもリニアリティーが向上し、上質なフィーリングになっていると感じたし、乗り心地面では、転がり抵抗の小さな省燃費タイヤをそれなりにはきこなし、質感が一段向上しているように感じられた。ただしステアリングコラムの剛性に起因してか、ドライバーに対するタイヤからの微小振動の遮断は十分とは言えないのが残念だった。シートバッククッションに従来のSばねにかわるネットシートが採用されたことによるメリットはかなり大きく、振動の絶縁性に加えてコーナリング時の体のホールド性もかなり向上している。
外観スタイル上はフロントまわりの力強さ、存在感が若干増してはいるが、もう一段進化があっても良かったように思う。内装デザインに関しては、ニューデザインのメーターが従来のものに比べて数段良くなるとともに、サイドのエアベント周辺の処理の変更により、ドアミラーへの移りこみが大幅に改善され、いずれもマイナーな変更ではあるが好ましい方向に改善されている。
総じてデミオ13-SKYACTIVは期待を上回るクルマに進化していることが確認できたが、何といっても最大の焦点は実用燃費の向上にあり、9月の車評オンラインにむけ、車評メンバーによる新旧デミオ、ホンダフィットハイブリッド、VWポロ1.2L TSIとの実用燃費を含む同時比較を予定しているのでお待ちいただきたい。