・全長 3,850mm
・全幅 1,695mm
・全高 1,510mm
・エンジン形式 K12B
・種類 水冷4サイクル直列4気筒
DOHC16バルブ吸排気VVT
・排気量 1,242cc
・最高出力 91ps(67kW)/6,000rpm
・最大トルク 12.0kgm(118N・m)/4,800rpm
・車両本体価格 1,475,250円(税込)
新型スイフトのサイズは全長が95mm、全幅が5mm、ホイールベースが40mm拡大され、全長3,850×全幅1,695×全高1,510mmとなった。ただし全長の拡大のほとんどは、衝突安全性能の向上にあてられ、室内居住性は先代とほとんど同一だ。外観スタイルは従来モデルに大変近似しているが、プラットフォームからエンジン、トランスミッションまで全てが新設されたフルモデルチェンジで、国内市場向けには、1.2Lの吸排気VVTの新エンジンと副変速機付きCVTを組み合わせた2WD、4WDモデルに加えて、5速MTモデルがあり、先代に比べて燃費性能も大幅に向上した。
2010年8月から発売
今回の評価モデル:1,475,250円 価格帯:1,244,250円 〜1,653,750円
洋の東西を問わず人気を博したモデルのモデルチェンジほど難しいものはない。大きなジャンプには危険が伴うし、保守的すぎる変化では市場の支持を得ることが難しい。新型スイフトチームにとって、何を変え、何を保持するかは最大のテーマだったはずだ。まずこのあたりをチーフエンジニア(スズキでの正式タイトルは第2カーライン長)の竹内尚之氏にうかがうと、「プロジェクトがスタートしたのは4年前、先代スイフトの成功の要因を日欧亜で分析したところ、固まり感のあるデザインと、思い通りに走れるハンドリングに集約されることが分かったので、それを引き続きスイフトの核とすることに決定、新型スイフトの開発コンセプトを"More Swift"にした。」という。
しかし私が感心したのは、"More Swift"(スイフトらしさの継続と発展)を実現するための中身だ。オールニューで登場した先代スイフトから6年しか経過していないので、大半のハードウェアーは継承しつつ、デザインをかなり変えることにより新車効果をねらうのが常道だが、新型スイフトの場合、逆にデザインこそ先代のイメージを色濃く残しながらも、プラットフォームに始まり、エンジン、トランスミッションまで全てが新設されたことである。スズキの、そして開発スタッフの意気込みを見事にあらわしたものといえるだろう。
先代スイフトの外観スタイルは出色の出来だった。日本はもとより欧州の路上でもその存在感はなかなかのもので、プレミアムカーの隣に胸を張って停められる数少ないコンパクトカーだと思ってきた。しかし新型スイフトの外観スタイルは、実車を自然光のもとで見るまでは、どうしてここまで先代のデザインにとらわれる必要があったのか、正直言って大きな疑問だった。ところが新型スイフトを自然光のもとで見ると、力強く、85mmも伸びたフロント周りの間延び感もなく、かたまり感、質感、存在感のあるデザインであることがわかった。
加えて竹内氏の「外観スタイルに関しては、先代のイメージを残しつつ、ヨーロッパの風景に負けない力強さと、新しさをどう出すか、トリノとパリでデザイン作業を進め、いろいろなデザイン案が出てきた中から今回のものを選択した。社内にももう少し変化が大きい方が良いのではないかという議論もあったが、スズキのクルマのイメージを浸透させるためにあえて先代のイメージを踏襲した。 衝突安全性能の向上のため全長が95mm延びたので(そのうち85mmがフロント)、普通にデザインするとフロントが間延びして今までのプロポーションとは異なってしまうのだが、いかにかたまり感を実現するかに注力した。」という明快な言葉に新型スイフトのデザインが先代と大変近似していることを納得した。
新旧両型を比較すると、新型の方がかたまり感、力強さ感は明らかに上で、ヘッドライトの造形もフロントの存在感に大きな影響を与えていると思う。広大な世界市場において、製品、更にはブランドイメージを浸透させるのは容易ではなく、移り気な日本市場だけを見ていたのでは方向性を誤る可能性は非常に大きいことはいうまでもない。新型スイフトの先代のデザインを踏襲、進化させたデザインは世界各地でスイフト、さらにはスズキの存在感を高める上で適切な選択であったと思うが、このような考え方・手法はブランドの強化のためには決して珍しいものではなく、多くの欧州車にも見られるものであり、今後の世界市場での販売動向に注目してゆきたい。
外観スタイルとは対照的に大きく変わったのが内装デザインだ。昨年私も参画した、欧州のコンサルティング会社による、「欧州人の目から見た望ましい内装デザイン」という調査において、日本車の評価が総じて非常に低かったことはこれまでも述べてきたし、内装デザインの向上は日本車に共通の大きな課題だが、大きな進化を遂げた新型スイフトは日本のコンパクトカーの中で傑出した1台といえる。
竹内氏の「内装も基本は欧州デザインだ。先代はシンプルな良さを追求したデザインだったが、今回は内装にも走りのイメージを作りこみたかった。限られたコストの中で最も注力したのはドライバーの目線から見た見栄えであり、社内に"こんな豪華なインパネにする必要があるのか"という声もあったが、全体としてはほとんどコストアップにはなっていない。」という説明に納得した。後席ドアトリムのシルバー加飾を省き、先代にあったインパネ中央部のメーターを廃して、全てをドライバー前に計器盤内に集約したなどはその一例だ。
ただし、以下何点か、今後のための注文をつけておきたい。まずはワインディングロードで非常に使いにくいパドルシフトレバーだ。マニュアルモードにした後にシフトレバーの操作で変速出来るようにするのがベストだが、それが難しければ、RX-8のようにステアリングホイール下方に向けてレバーを延長してほしい。それによりハンドルに舵角を与えた場合のシフト操作がずっとやりやすくなるからだ。次にメーターはあくまでも機能優先であるべきだが、新型スイフトのメーターはデザインが優先したのか、数字の配列が良くないので、お世辞にも瞬時にスピードや回転数を把握しやすいメーターとはいえない。またステアリングホイールの握り感が、「運転をしたくなる」ものではないのも残念だ。最近のアウディやVWのステアリングホイールの握り感を是非ベンチマークしてほしい。そして最後に是非内装色をブラック一色とせずに、せめてもう一色、ベージュ系の内装を設定してほしい。
デザイン評価が先行したが、新型スイフトの運動性能(ドライビングダイナミックス)は先代スイフトを発展させたもので、竹内氏によれば、「先代が欧州で開発し、非常に良い結果が得られたので、基本的には同じ手法を選択した。まず日本で理論解析し、それを相良のテストコースでチューニングし、イギリスのヨーク地方のアップ&ダウンのあるワインディングロードに持ち込み、"ドライバーの思う通りにクルマが動きボトミングもしない(サスペンションがストッパーに当たらない)"ことを目指し、そのあとドイツとスペインの路上で繰り返し確認した。先代はリアの振れだしが早かったので、新型では楽しさは犠牲にせずにスタビリティー(走行安定性)をあげたかった。」という。
また「小柄な人にはやや乗降性の面でマイナスとなることは覚悟でサイドシルの断面を太くするとともに、荷物の出し入れに若干影響はあるが、バックドアの開口部を先代に比べて80mm上げ、加えて高張力鋼板の多用することにより、軽くて剛性の高いボディーを実現することが出来た。また後部の軽衝突でバックドアが損傷しにくくなり、イギリスやドイツでは保険料が下がった。」という。
今回限界領域の評価を除き実に多様な走行条件で走ることが出来たが、市街地や高速の直進走行も気持ち良く、箱根や裏磐梯のワインディングロードではその真髄を発揮、機敏でありながら、安定性が高く、また快適性を犠牲にせずに、ドライバーの思うように走るステアリング・ハンドリングに仕上がっていることが確認できた。高張力鋼板の多用とCAEの有効活用による剛性アップ(ねじり剛性が15%アップ)、ボディーサイズを拡大しながらも10?の軽量化を実現した新プラットフォームに加えて、高剛性化し、安定性も高めたサスペンション、新規に採用された16インチタイヤ、小さい舵角でのクイックな操舵感を実現した可変ギヤレシオステアリングなどがその要因となっていると思う。今回長距離試乗したモデルには16インチタイヤが装着されていたが、乗り心地も不満のないレベルに仕上がっていることをつけ加えておきたい(箱根の試乗で15インチタイヤも、ハンドリングや乗り心地に不満ないことは確認済み)。
新型スイフトの動力性能はどうだろう? 導入直後の箱根での試乗会で、5速MT車は、シフトフィールがFF車の中ではストロークと正確さにおいて、ベストといってもいいレベルに改良され、スポーティーに楽しく走れるクルマに進化していることを確認した。このことはMTがメインの欧州市場では、このシフトフィールの改善は大きな商品価値の向上につながるだろう。一方で副変速機付きのCVTの装着されたモデルは非常にスムーズに走れるのだが、箱根の山坂道におけるDレンジにおける走行性能にやや不満を感じ、その後の裏磐梯などの標高の高いワインディングロードの走行時にも同様に走り感の不足を感じるシーンがあった。一方では、それ以外の市街地、郊外の一般道、高速道路では全くと言っていいほど不足を感じなかったので、燃費改善にも注力した1.2Lの小型車としては妥当なレベルとみていいだろう。ただし繰り返しになるが、ハンドル操作の頻繁な山間路でのパドルシフトレバーの使いにくさは残念で、これさえ改善されれば、標高の高いワインディングロード走行でも不満のない走りが実現できるし、エンジンブレーキの使いやすさも大幅に改善されるはずだ。
一方、燃費の改善はかなりのものだ。竹内氏によると「副変速機付きのCVTの採用、吸排気ともにVVTとし、各部のフリクションも改良したエンジンに加えて、タイヤの転がり抵抗も改善し、消費電力にも着目したが、ただし燃費さえ良ければ他は少々犠牲になってもということはやっていない。"気持ち良く走れて、燃費も良い"をめざした。」という。
今回の長距離評価は、4人乗車で、高速70%、それ以外は山間部の屈曲路の比率が高く、加えて一切特殊な燃費走行を行わずに、実測燃費が満タン法で15.5?/L(メーターでは17.0)という数値となった。市街地での燃費は12〜13?/L、高速のみの走行では17〜18?/Lあたりであり、新型スイフトの実測燃費はすでに報告したポロの1.2Lには届かないが、先代スイフトの車評コースにおける10.6、箱根往復の10.9?/Lというお世辞にもほめられない数値に比べて大幅に向上していることは間違いない。
最後に室内空間に関してひとこと付け加えると、後席の居住性、荷物の積載性のいずれも、ファミリーカーとしてはぎりぎりのレベルであり、これでは不足という人も間違いなくいるだろう。しかし大型化を避け、車両重量が1トンを下回っているのは立派であり、その点からも適切な室内空間の選択とみていいだろう。シートに関しては、先代も悪くはなかったが、竹内氏が「今回のスイフトもシート関係にはかなり手をかけた。大柄な人でも底付き感がなく、サイドサポートも不足なく、小柄な人にも固すぎないシートとするためにウレタン密度のチューニングにも十分留意するとともに、シート自体の剛性も上げた。更に大柄な人も小柄な人も最適なドライビングポジションが得られるように、シートレールのピッチを15mmから10mmに変更し、シートリフターもニュートラル位置から上方だけではなく、下方にも動くようにした。」といわれた通り、新型スイフトのシートは先代よりも着座感、ドライバーとの一体感などが一段と進化したことを確認することができた。
このように大きく進化した新型スイフトは、ダウンサイジングを考えている人に最適なインテリジェンスに富んだクルマであり、都会、地方、年令、性別を問わず迷わずお勧めできる一台だ。日本市場での更なる躍進と世界市場でのスズキブランドへの貢献が楽しみだが、同時に以下の展開も期待したい。
●ライトスポーツ(マニュアルトランスミッション、スポーツサスペンション、スポーツシートなどを採用したふところにもやさしいスポーティモデル、エンジンは1.2Lのままでいいかも)
●スイフトGTI(VWとの資本提携を生かした、TSI+DSG搭載高性能バージョン、スイフトスポーツの進化形)
●プレミアムバージョン(ベージュの内装色、革製シート、高級オーディオなどを採用したワンランク上級のモデル)
新型スイフトの+と−
+ 質感が向上した外観スタイルと内装デザイン
+ 不足のない走りと大幅に向上した燃費
+ 運転することが楽しいステアリング・ハンドリング
− ワインディングロードで使いにくいパドルシフトレバー
− デザイン優先で見にくいメーター