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前報で、『白物家電とは異なり、クルマほど右脳へのアピールが大切な工業製品はない。右脳にアピールするクルマとは、魅力的な内外装デザイン、乗ることの楽しさ、気持ち良さ、静的、動的質感の高さ、心地よいサウンドなど、人間の五感を快く刺激してやまないクルマであるである。それらは一朝一夕に、またコストをかければできるというものではなく、感性を研ぎ澄ませた、情熱あふれる、経験豊かなデザイナーやエンジニアでなければ作り上げることのできないもので、経営者のクルマへの思い入れとも決して無関係ではない。』とのべた。
また『韓国車(ヒュンダイとKIA)の性能、信頼性、デザインの進化のスピードは非常に速く、ウォン安もあり世界各地でシェアーを拡大中で、薄型テレビや大型液晶パネルの次はクルマとなる可能性は大きい。その後には中国車が控えている。一方で、デザインや、動的、静的質感における欧州車と日本車とのギャップは縮小どころか拡大中で、日本車は前門の虎(欧州車)と後門の狼(韓国車、遠からず中国車も)の挟間にある。』とものべた。
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今回はまず昨年末のドイツの自動車専門誌Auto Bildに掲載された日本車対韓国車のショッキングな比較記事からご紹介しよう。上記写真は同誌による2回目の評価記事だが、第1回と合わせた総合結果は5:4で韓国車の勝ちとなっている。5年前にこのようなことを予測した人ははたしていただろうか? また東日本大震災の影響を受けた日本メーカーの生産台数にも起因して、2011年通年ではヒュンダイとKIAを合わせた生産台数がトヨタを抜き、世界第3位になるのではないかという予測もある。これからの5年間にさらにどのような変化が起こるかは全く予断を許さないが、以下まずはAuto Bild誌によるカテゴリーごとの比較のエッセンスをご紹介しよう。
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スズキアルト対ヒュンダイi10
アルトは後部座席が狭く、ブレーキが弱いが、価格の割に装備が良く、走りと燃費も良く、運転も楽しい。総じてアルトの勝ち。
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マツダ2対ヒュンダイi20
マツダ2はデザインが良く、スポーティなドライブフィールも良いが、室内が狭く、トランクも小さく、凸凹道で不快、全体としてはi20の勝ち。
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トヨタオーリス対KIA シード
7年保障、居住性、運転のしやすさ、静粛性などがシードの+、オーリスは室内狭く、内装の質感に欠け、凸凹道もふらつく、大差でシードの勝ち。
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ニッサンムラーノ対ヒュンダイサンタフェ
ムラーノはシートや装備レベルが良いが、ダイナミックスさに欠け、積載性も劣るが、トータルとしては引き分け。
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このページの左側は第1弾ですでに比較がすんでいるその他の日本車3台と韓国競合車との相対評価だが、そのエッセンスは以下の通りだ。
ホンダジャズ対ヒュンダイi20
室内のフレキシビリティー、スポーティな運転感覚などではジャズが優るが、快適性、乗り心地などはi20にゆずり、トータルとしては、引き分け。
ニッサンジューク対KIA ソウル
室内空間、トランク、運転の楽しさなどでソウルが勝り、ジュークはデザインの好き嫌いも分かれ、全体ではニッサンの負け。
トヨタRAV4とKIAスポルテージ
運転の楽しさ、室内のフレキシビリティーなどはRAV4が勝り、室内の質感、乗り心地はスポルテージが勝るが、全体ではトヨタの勝ち。
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薄型テレビ、大型液晶パネル、携帯電話などの世界ではすでに韓国が日本を大きくリードしていることは皆様もよくご存じの通りだが、上図は昨年7月31日の週刊東洋経済で、その一端をご紹介すると、薄型テレビの世界シェアーナンバー1サムスン電子の世界シェアーは約23%、日本メーカーではソニーが12.5%、大型液晶パネルはサムスン27.6%に対してシャープが6.5%、携帯電話はノキアの36.4%に続くサムスンが19.5%に対してソニーエリクソンはわずか4.5%だ。韓国企業の強さの秘密は一体何だろうか? 「スピード」、「新興国市場対応」、「強いリーダーシップ」などに加えて、「高品質への転換」、「積極的な投資」、「ハングリー精神」そして「ウォン安」などを挙げることができよう。電子製品の次がクルマとなることは間違いない。
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日本の自動車産業の生き残りの条件は何か? 「グローバル化」、「ブランドの確立と強化」、「人材の育成」、などは必須であることは論をまたないが、「クルマづくりの革新」はそれらにも増して重要であり、今こそ日本のクルマづくりに対する発想の転換が求められているといっても過言ではない。
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それでは現在の日本のクルマに一体何が足りないのか? 一言でいえば「移動の道具としては決して悪くはないが、内外装デザインの艶めきと質感、ハンドルを握ることの喜び」などの視点からはお世辞にも褒められない、というのが私の見解だ。以下問題点をもう少し具体的に掘り下げるとともに、こうあって欲しいという私の思いを《 》内に述べてみよう。
@商品コンセプト
「商品コンセプト」とは言いかえれば、誰にどのような価値を提供する意図でその商品を開発したかということであり、クルマに限らずあらゆる商品の基幹価値となるものだ。もちろん世界市場全体をにらんでのコンセプトの絞り込みが容易でないことはいうまでもないが、一例を挙げれば、レクサスCT200hなどは、誰のためにどのような価値を提供したくて開発されたモデルなのかが私にはよくわからないし、これに限らず、最近の日本車には、商品コンセプトが不明確なクルマが決して少なくない。
《つくり手の思いがクリアーに分り、共感と魅力に満ちたコンセプト》
A外観スタイル
日本車の外観スタイルの中で世界を間違いなくリードしているものが果たしてどのくらいあるだろうか。ニッサンマーチのデザインは新型より旧型の方がましだと思うのは私だけではないはずだ。反面、欧州車のデザインは日本車よりも魅力に満ちたものが多く、加えて韓国のヒュンダイ、KIAの各種新型車のデザインの進化も目を見張るものがある。外観スタイルの大幅な革新は日本車全体に課せられた非常に大きな課題だ。
《艶めきにあふれ、心ときめく外観スタイル》
B内装の質感
内装の質感の低さは日本車に共通した問題だ。かつては製造品質の高さにも起因し、フィット&フィニッシュという点で世界をリードしてきたのも確かだが、最近の欧州車とのギャップは拡大こそすれ縮小していない。ホンダフィットとVWポロの内装質感の差はその良い例だろう。本件に関しては本稿末尾に私も参画した欧州における「内装のプレミアム性評価」に関して簡単に報告したい。
《質感豊かな内装と運転意欲をそそる各部の触感》
Cドライビングの楽しさ、気持ち良さ
マツダのZoom-Zoomはまさにこれを狙ったものだし、スカイアクティブによるさらなる前進に期待したいが、最近の日本車は総じて完全に欧州車の後塵を拝していると言っていい。しかも決して高速走行条件下だけの話ではない。VW、アウディ、BMWなどの欧州車が、東京都内のような低速走行条件においても、日本車よりよほど気持ち良いのだ。ドライビングの楽しさ、気持ち良さの作りこみのためには作り手の感性の向上も急務だ。
《喜びに満ちた人馬一体の走りと上質な乗り心地》
Dサウンド
走行時の気持ち良さの中でサウンドが占める割合は小さくない。静かなクルマ=楽しいクルマでは決してない。多くの日本車の静粛性には頭が下がるものがある一方で、サウンドという視点でのBMWなどのドイツ車との落差は明らかだ。日本の厳しい騒音規制も原因だといわれるが、果たしてそうだろうか? ここでも作り手のサウンドに関する感性が何より大切であることは言うまでもない。ハイブリッド車やEVにも何らかの対応がほしいところだ。
《乗ることが喜びとなる心地良いサウンド》
E革新的な技術への挑戦
ハイブリッドや、EV技術での現時点における日本メーカーの先進性は間違いないが、世界のメーカーは急追しており、いつまでその優位性が保てるかは不明だ。マツダのスカイアクティブ技術は評価に値するが、総じて技術への挑戦では日本は欧州の後塵を拝していると言えよう。VWの直噴ターボ技術、DSGトランスミッションなどはその最たる例だ。
《技術革新にむけてのあくなき挑戦》
Fプレミアム性
日本ブランドのクルマで、世界市場でプレミアム性を十分に確率出来ているところは果たしてあるだろうか? レクサスはアメリカではそれなりのイメージを確立してきたが、欧州、そして日本では依然苦戦中だし、それ以外の日本ブランドはいまだに価格優位性を除いては戦えないのが現状であり、プレミアム性の向上が急務だ。
《良いものを安くから、付加価値で勝負への一刻も早い脱却》
以上いろいろと述べてきたが、上記の一連の課題を一言でいえば『右脳にアピールするクルマづくり』そのものであり、言い方を変えれば『わくわく・ドキドキに満ちたクルマづくり』ということがいえる。
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最後に日経オートモーティブテクノロジーの2009年の11月号に私が執筆した「CDセグメント車の内装プレミアム性評価」の記事の内容を簡単にご紹介して今回の締めくくりとしたい。この調査は私がアドバイザー役をつとめるウィーンに本社を置く自動車コンサルティング会社EFSがマグナシュタイヤー社と共同でオーストリーにおいて実施したもので、14台のクルマを一堂に集めて多角的な分野の専門家10名が評価、私自身もその調査に立ち会ったが、プレミアム性という観点からみた場合、日本車の内装に多くの改善の余地が残されていることが浮き彫りになった。以下2点に絞り簡単にご報告したい。
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まず明らかになったのは、「知覚価値」とプレミアム性評価の間に密接な関係があることと、日本車の「知覚価値」が欧州車に比べて非常に低いことだ。また「知覚価値」に加えて「運転したくなる」、「操作感」、「触感」などという評価軸もプレミアム評価と強い相関があることもわかり、それらの結果として(欧州の人たちの目から見た)日本車の内装のプレミアム性が相対的に低いが明らかになった。
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もう一点、推定したコストとプレミアム性の相関をみたのが上図だ。一般論としては内装にコストをかけているクルマの方がプレミアム性の評価が当然高いが、レクサスIS、スバルレガシィなどはコストをかけている割にそれに見合う評価が得られてないことが明らかになるとともに、アウディA4とスバルレガシィではコスト差はあまりないにも関わらず、プレミアム性評価に大きな差があることもわかった。
この評価の使用としたヒュンダイソナタ、スバルレガシィはすでに旧型車となっているが、日本車の内装プレミアム性の相対的なポジションは大きくは変わっていないとみて間違いなく、この調査から、「知覚価値」の向上によるプレミアム性評価の向上と、コストかけずにプレミアム性を向上することが日本車にとって急務であることが明らかになった。
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