2024年11月9日
第6回 「車評オンライン Ver.Ⅱ」
※2021年度から休止した小早川隆治氏による「車評オンライン」を引き継ぎ、 “車評チーム”のメンバーによる試乗・評価に切り替えることになり、2022年より「車評オンライン Ver.Ⅱ」と名称を変更してスタートしました。
スバル クロストレックTouring(AWD・CVT)試乗レポート
2024年10月29日から10月30日まで、スバル クロストレックを往復約700キロのロングツーリングで試乗テストしたので報告する。(レポート:車評チーム 片山光夫)
【概要】
評価者:車評チーム 片山光夫
車種:スバル クロストレックTouring(AWD・CVT)
寸法:全長4480㎜、全幅1800㎜、全高1580㎜
車両重量:1600㎏
トランスミッション:CVT
定員:5名
タイヤ:225/60R17オールシーズンタイヤ
タイヤ指定空気圧:前230kPa、後220kPa
テスト時の天候:往路雨、復路晴天/気温19℃前後
全走行距離:721.2km(高速道路80%、一般道20%)
消費燃料:42.00L(レギュラー、燃費計測方法は満タン法)
希望小売価格:¥3,234,000~
【評価手法】
■以下、試乗評価に関して説明します。以前から弊社が主体となって結成している「車評チーム」は、確認する項目を明示して、その評価を続けてきました。同時にそれぞれの項目に関しての短評を行ない、10点満点で評価として採点して、平均値を出すことでそのクルマの総合評価としています。評価する項目は以下の16に及びますが、実用燃費が計測できなかった場合は、燃費評価を無くして15項目で実施しています。
1.商品コンセプト 2.外観スタイル 3.内装デザイン 4.運転の楽しさ 5.性能&走り感 6.ステアリング/ハンドリング 7.ブレーキング 8.振動&騒音 9.乗り心地 10.室内居住性 11.前後座席12.操作機器&メーター類 13.利便性/使い勝手 14.実測燃費 15.全体の品質感 16.お買い得感
車評オンライン Ver.Ⅱでは、各項目に1から10ポイントの点数をつけて、合計点の平均値を「総合評価点」のポイントとしています。
※尚、「車評チーム」による新型車の評価手法は、マツダRX-7の開発責任者や1991年にマツダチームがルマンで優勝した時にモータースポーツ主査を務めていた小早川隆治氏が設定された車評用「評価シート」をベースに採点しています。
【試乗の印象】
スバルクロストレックは、インプレッサの発展型として2012年に発売されたXVとその翌年に発売されたXVハイブリッドの後継車である。2024年10月17日にはこのモデルに2.5Lエンジンを搭載したストロングハイブリッドが発表されているが、今回の試乗には間に合わず試乗できたのは2.0Lエンジンに電気モーターが付加されたe-BOXERタイプのTouringモデルである。上級モデルのLimitedは18インチホイールが標準装着となり豪華な内装が選択できる。両モデルともサイズは変わらず、車両重量のみ上級のLimitedがTouringより約10キロから30キロ(オプションによる)重い1610キロに設定されている。この車両重量は前モデルのXV2.0i-LEyeSightの1420キロから1440キロに比べ約170キロから約190キロ重くなっており、これがe-BOXERによる主な追加重量と考えられる。
その他e-BOXERとしては12Vバッテリーがひとつ増え2個となり、エンジンルーム左右にバッテリーが配置されている。クロストレックにはさらにこれまでの第三世代アイサイトに広角単眼カメラを加えた新世代アイサイトと、スマートフォンとの連携サービスなどの機能を充実させたコネクテッドサービス等が付加されている。
エンジンはスバル独特の4気筒1995㏄ボクサーエンジンに10kWのモーターとこれを駆動する4.8Ahのリチウムイオン電池が追加されているが、エンジン自体はXVのエンジンと基本的に同じ仕様ながら出力は154psから145psにわずかにディチューンされている。燃料タンクはXV(ガソリン車)が63リッターであったのに比べ、クロストレックでは48リッターと縮小されている。JC08モードによる燃料消費率はXV(ガソリン車)の16.0km/Lに対しクロストレックは18.8km/Lとカタログに記載されている。
ちなみに筆者は二世代のスバルXVをこの10年来使用してきた“中級のスバリスト”で、クロストレックの評価においてXVとの比較が強く出ることをご承知いただきたい。
今回の試乗は東京・名古屋間の往復で、往復とも高速道路を利用したが、往路は強い雨で何度も速度制限が掛かり、復路は快晴で走行条件が大幅に異なっていた。雨中走行と晴天走行の燃費の比較はできなかったが、満タン法での全行程の平均燃費はリッター当たり17.2㎞/Lで、メーター読みでは17.4㎞/Lだった。これはこれまで筆者が使用したXVの平均燃費約13㎞/Lに比べると約30%の向上である。往路は雨中走行で度々速度制限が50㎞/hになるなど強い雨が続いたが、復路の新東名では時速120kmでほぼ全域走行することが出来た。この時のメーター燃費は17.2㎞/Lと表示され、往路よりわずかに低い数値だった。高速走行ではハイブリッドのメリットが消滅するのでこれは妥当だろう。
これまでの第三世代アイサイトでは強い雨の中を走ると機能が一時停止することがあったが、今回の試乗ではこのようなことは全くなく、新世代アイサイトはシステムとして改良されている印象を受けた。
走り始めてまず感じたのは車体の重さで、大人二人分の荷重が常に掛かっていることを操舵時に強く感じた。回頭性が悪く、重くなったということである。しかし走行は安定しており、全体のクッションも良く制御されて、乗り心地は改善されている。道路のエクスパンションジョイント(道路の凹凸部)を乗り越えるショックも良く抑えられ、クラスひとつ上の乗り心地と言える。騒音も低く抑えられており、路面によってはロードノイズも非常に低い印象だった。
ハンドルは重くもなく軽くもなく、適度な操舵力を必要とするが高速の直進安定性は、今ひとつ足りないと感じた。しかしこれは筆者のXVにはタワーバーを取り付けたことによりステアリングの安定性が一段上がった経験と比較した場合で、一般的には充分に安定していると言える。
計器類に大きな変更は無いが、ナビゲーションなどが示されるセンターパネルは前モデルの約二倍に拡大され視認性はよいが採用されたタッチパネルの操作はやや神経質で、慣れないと間違ったボタンを押してしまうことがあった。液晶ディスプレイのデザインはシンプルで字体も幼稚に感じた。
室内幅はほぼ変わりないが、後席の奥行きが1591㎜から1631㎜に延長されたと表示されているが実質的には変わらない。荷室高さはXVの771㎜に対し708㎜と表示されておりこれは床下にバッテリーがあるために変更したものと思われる。
以上XVとの比較で評価を進めたが、全体の印象としては重くなった分どっしりと安定した乗り心地でそれにふさわしくノイズレベルも改良され、ひとつ上の居住性のクルマに変身していることは明らかである。しかし重量が100キロ以上増え、車体の動きがより大きな車のように鈍重に感じたのは、約30%の燃費向上が得られてもこれまでのスバルを知る者にはマイナスで、このクルマをXVの次期車両として選ぶかどうかは微妙な判断だと思った。
値段設定は本体価格として¥3,234,000が示されており。最終のXVの本体価格が約¥2,600,000~¥2,900,000と比べると¥400,000から¥600,000の違いがあり、実際のディーラー価格でも同程度の違いが出そうである。この値段高騰の理由として燃費の改善が判断の分かれ目となるが、追加されたモーター、蓄電池とバッテリーなど故障とメンテナンスが増えることをどうとらえるかが問題である。
以下M-Base「車評オンラインVer.Ⅱ」の評価項目に沿って評価する。
1:商品コンセプト 9点
どのような道路状況でもツーリングを続けられるクロスオーバーツーリングカーで、多人数でも高い居住性が得られる
2:外観スタイル 7点
すでに12年以上インプレッサから派生したスタイルが続いておりやや新鮮味に欠けるが、力強い男性的で個性的なフォルムでまとめられている
3:内装デザイン 7点
質の良い材料でまとめられた落ち着きのあるデザインで破綻が無い
4:運転の楽しさ 6点
充分なパワーで静かに安定した乗り心地を実現しているがヒラリ感は消えてしまった
5:性能&走り感 8点
安定性、静粛性、振動抑制などがバランスよく高いレベルで得られ、パッセンジャーに優しい
6:ステアリング&ハンドリング 7点
ハイブリッドによる重量増が軽快さを殺してしまったが操舵感は落ち着いており安定している
7:ブレーキング 9点
ブレーキングは初期から良く効きほぼリニアに強まってゆく
8:振動、騒音 9点
クロストレックの最大の売りはこれと乗り心地だろう。ひとクラス上の静粛性と乗り心地
9:乗り心地 9点
車体の重さも効いて乗り心地も非常に良くなった
10:室内居住性 9点
特段広いわけではないが4人乗りであれば充分に長距離ツーリングを楽しめる
11:座席 9点
設計、質感ともに高いレベルにある
12:操作機器、メーター類 8点
運転中の基本的な操作は全てハンドル部に集中しており、ナビなどセンターコンソールの操作以外手を伸ばす必要はない。センターコンソールは大きく見やすいが、タッチパネルはやや神経質。液晶ディスプレイはデザイン性に欠ける
13:利便性、使い勝手 8点
町中の細道を走るのでなければ大き過ぎず困ることは無いだろう。日本国内のツーリングには充分なサイズ
14:実測燃費 9点
走行距離721.2km,消費燃料42.00Lの平均燃費は17.2km/LでJC08モードの18.8km/L、WLTCの高速モード17.3km/Lとほぼ同等
15:全体の品質感 9点
細部の作り込みや内部の材質感などは非常に高い
16:お買い得感 8点
新世代のアイサイトがもたらす安心感の中で静かで乗り心地も良いツーリングカーとしての評価は高いが、スバルらしさが減った点をどう評価すべきか?
総合評価点:平均8.2点
※車評評価チームでは、そのジャンルごとに採点し、総合評価点5点が標準的なレベルとしています
3大魅力点
1.新型アイサイトがもたらす安心感
2.静粛かつ滑らかな乗り心地と落ち着いた操縦性
3.ハイブリッドの経済性
改善希望点
どこでも走れるクロスオーバーなトレッキングカーが、乗用車並みの居住性を兼ね備えた。これから先は何処へ行くのだろう? 本来のXVモデルの個性は薄くなり、もう別のクルマになってしまったのではないか? と思わせる今回の試乗テストであった