2024年2月13日
毎年恒例のJAIA輸入車試乗会が、2024年1月30日~2月1日の会期で開催されました。今年で43回を数える歴史あるイベントにて、ポルシェ・タイカンGTSに試乗する機会を得ましたので、その印象をお知らせします。(レポート:相原俊樹)
■あらためてタイカンの概要を見る
試乗したタイカンGTSは同モデルのラインナップ中「4S」と「ターボ」の間に位置するグレード。モーターを前車軸と後車軸に搭載した4WDだ。GTSではモーターそのものは「ターボ」用のユニットを共用するが、チューンはGTS専用だという。試乗車はカーマインレッドの外装色を始め、後輪操舵、ポルシェ・ダイナミックシャシーコントロール・スポーツ(PDCCスポーツ)、21インチホイールなどを備えたフルオプション仕様だった。
仕様書には目覚ましい数字が並ぶ。ローンチコントロールを使用した場合、最大440kW(598PS)のオーバーブースト出力を発揮し、停止から100km/hまで3.7秒以内で加速する。最高速度は250km/h。バッテリー総容量は93.4kWで、最大航続距離504kmを謳う。
■一回り小さく感じるボディに一安心
「とにかく速いので気をつけて運転してください」。ポルシェのスタッフの言葉に送られて、そろそろと発進する。エンジン音がないので非常に静かだが完全な無音ではなく、太いタイヤが拾い上げる砂利がホイールハウスの内側を叩く音が耳に届く。
海岸に沿って走る自動車専用道路に乗って、私はホッと安堵のため息をついた。大きな外寸が一回り小さく感じて、望外に乗りやすいのだ。これには緩やかに盛り上がった左右フェンダーが決定的な役割を果たしている。左フェンダーも運転席から視認できるので、車両の位置を掴みやすい。これはポルシェの重要な美点だと思う。この日は複数の輸入車に乗ったが、タイカン以外にボンネットの左右端部が確認できたのは英国の老舗SUVだけだった。
■骨太なプラットフォームを体感
自動車専用道路を巡航するタイカンの乗り心地は、雲に乗ったような浮遊感を伴う豪華サルーンとは別ものだ。電子制御式の可変減衰力ダンパーである「PASM(ポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネジメント)」を組み込んだエアサスペンションは、相応に路面からのショックを遮断しているはずだが、路面の継ぎ目を通過するたびにごく軽いショックと音を伝えてくる。
これはポルシェの設計陣が意図した結果だと思う。乗員に不快と感じさせることなく情報が伝わるのは、プラットフォームが無類に強靱だからだろう。「骨太だな~」。助手席の同乗者が思わずもらしたひと言がすべてを物語っている。
JAIA輸入車試乗会の開催主旨に沿って、私はアクセラレータをわずかに踏む運転に終始した。それでも見えない巨人によって前方から一気に引き寄せられるかのような、シームレスかつ伸びやかな加速の片鱗は体験できた。EVが市場に出た当初、その魅力の一端は内燃機関とは一線を画する加速力にあるといわれたが、ようやく今になってなるほどと納得した次第。アクセラレータの踏み方によっては暴力的な加速も可能なようだから、ドライバーにはパッセンジャーを気遣う大人のたしなみが求められる。
■運転感覚はこれまでのポルシェと同じ
しかし端的に言って、タイカンGTSがポルシェの内燃機関モデルと決定的に異なるのはスピードを上乗せしていくプロセスだけだと思う。路面情報をライブ感たっぷりに伝えて来るステアリングとサスペンションなど、既存のポルシェの路線を忠実に守っており、純EVゆえの違和感はまったくない。
たまたまこの日は別のメーカーのEVにも試乗する機会があった。豪華に設えられたそのサルーンは、知らない間にとんでもないスピードに達して私を慌てさせた。サスペンションは路面のショックを完璧にシャットアウトする代わりに、これといった情報を伝えてこない(私が鈍感なのかもしれないが)。外界から完全に遮断された空間のなかで、自分がクルマの添え物になったような気がした。
タイカンGTSは違う。あくまでドライバーが主役であって、走る、曲がる、止まるの動作には乗り手の強い意志が前提となる。アクセラレータの踏み加減に忠実に応じて速度が変わる。その際、クルマが勝手に先走るような空走感は一切ない。減速したいときには、しっかり力をブレーキペダルに伝えることを要する。そうするとタイカンGTSはドライバーの意思を読み取るかのように反応する。
あくまでも体感的な感想だが、ポルシェは回生ブレーキの効率にはあまり力点を置いていないようだ。その反面、本来のブレーキの優秀性には感銘を受けた。この日は実際に試す機会はなかったが、いざという時、タイカンの並外れた動力性能に充分見合った制動力を発揮するだろうという手応えを得た。
なお、5種類も用意されるドライビングモードの中で、私には「スポーツ」がもっとも乗りやすく感じた。
■見えてきたポルシェのEV像
一部のEVは従来の自動車となんら関連のない、まったく新しい価値を提供しようと模索しているように思える。これに対し、ポルシェのEV作りの基本姿勢は従来のポリシーと同一線上にあってなんのブレもない。地に足が付いている。
これから5年後あるいは10年後、自動車はどのように変容していくのだろうか。周囲がいかなる変容を遂げようとも、ポルシェは環境性能を進化させつつ、ドライバー主体の自動車を作り続けるだろう。動力源が変わろうと、ポルシェはあくまでポルシェです――私はタイカンGTSからそういうメッセ-ジを受け取った気がする。
最後になったが、私たちに様々な自動車を体験する機会を設けてくださった日本自動車輸入組合と各インポーター、それに大会を運営されたスタッフ一同に感謝申し上げます。