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2024年2月7日

2024年1月27日(土)に芝浦工業大学豊洲キャンパス(東京都江東区)でSUBARUテクノ株式会社デザイン室室長(株式会社SUBARU 元デザイン部部長)の石井守氏による公開講座が行なわれました。その様子をお伝えします。(レポート:編集部)

芝浦工業大学では地域貢献・社会貢献活動の一つとして、大学の先生や様々な分野の専門家による公開講座を、広く一般の方を対象に開催しています。

今回の講座は「デザインには意味がある~自動車に求める価値の変化~」と題して、自動車の歴史とデザインについて石井守氏が講義をされました。
石井守氏には、弊社書籍『スバルデザイン』の製作にあたり、インタビューをはじめ多大なご協力をいただきました。本書の内容の一部も取り入れた講義となっていました。

カーデザインをひもとくにあたり、まずは自動車の歴史についての解説から始まりました。100年超前にイギリスではじまった産業革命後、移動や荷物の運搬の手段が馬から蒸気、電気、内燃機(エンジン)3つの動力源に取って代わりました。しかしT型フォードが一世を風靡して次第にエンジンに集約され、蒸気と電気の2つの動力源は淘汰された歴史を学ぶことが出来ました。1900年のパリ万博ではポルシェがハイブリッドをすでに提案していました。この様に時代は繰り返し、今まさに100年前に起こった“馬から自動車へ”に匹敵する大きな変革が自動車業界に訪れていることが明らかになりました。さらに豆知識として、人は競争が好きであり競馬の延長として19世紀から自動車レースが開催されていたことが説明されました。
次にSUBARUのモノ造りの基本姿勢についての解説では「人間中心の設計思想」が根幹にあること、ルーツである中島飛行機時代から脈々と伝わる航空機の安全思想が話されました。設計技師が航空機の安全を最重要視するのはパイロットの命の尊さとともに、無事に帰還したパイロットからの情報が何より重要で、それをもとにして技術をさらに向上させる目的があったという興味深い話が聞けました。今でもその「人間中心の設計思想」がSUBARUのクルマ造りの重要な幹になっているわけです。現在のSUBARUのブランド価値構築の重要な根っこになっていることが理解できました。

次にデザインについて。カーデザインに関わる人々がやっている仕事は「将来の顧客に対して魅力的な商品をカタチにすること」であり、ターゲット顧客の趣向性調査から始まり、これまでの自社商品を分析して、魅力的な商品となっていたのかなどを再確認してからスケッチ作業に入り、デザインモデルの造形作業を経て最終的なデザインの決定へと向かっていく、という流れが説明されました。また、デザイナーの頭の中にあるアイデアを相手に伝えるための手段のひとつとしてスケッチを例にとり、「相手に伝わるようなスケッチ」の手法についてわかりやすく解説されていました。

石井守氏は、4代目インプレッサの開発において、視界の制約でそれまで実現出来なかったフロントピラーの傾斜を寝かせながらさらに視界の見やすさを向上させることで格好良いデザインになると提案をして、顧客要望を実現させ結果的に販売台数が増えたというエピソードを話されました。
その後、SUBARUの創造する顧客提供価値である「安心と愉しさ」をデザインで見える化するテーマとしてDYNAMIC(躍動感)とSOLID(塊感)の2つを定め、ブランドデザインを実現させるためにデザイナーを先導したことを語られました。今回の講演でスバルデザインの本質を知ることができたように思いました。
本来、情緒的価値であるデザインを数値化して分析をすることもあり、各社のデザインをデータ化してその平均値を基にして、その時代に路上を走っている車の平均値で創る標準モデルのデザインを作成するのだそうです。そうした分析から埋没しないデザイン、すなわちSUBARUらしい個性を見つけ出すそうです。
時代の変化により社会の要求やトレンド、顧客となる人々の価値基準が大きく変化していることにも触れていました。モノからコト(商品そのものの単一価値から、その商品が提供してくれるライフスタイルに感じる価値)へと価値観が移り変わって来ていて、車においても販売状況にそれが現れていることから、開発においても変化が起きているとのことでした。「魅力ある商品をカタチにする」デザインの仕事にとっても大事な視点といえます。

最後に、自分の考えを相手に伝えるために重要なプレゼンテーションの極意として、石井守氏がプレゼンテーションする時に活用していたという「オヘイネの法則」をご披露頂きました。人の心の針を大きく振らせる手法です。「オ(おっ)」は驚きやインパクト、「ヘ(へぇ~)」は納得、「イネ」はいいね!と3つの段階を踏んで、相手の心に訴えかけて覚えてもらう、という極意でした。
具体的な成功事例として、アウトドア製品のメーカーであるパタゴニアが出した、顧客に思わず「オッ」と言わせる広告コピー「最新のこの服は買わないでください」を例にして解説がありました。広告は通常なら「買って下さい」なのですが、このパタゴニアの広告では、逆の宣伝文(コピー)にすることで顧客に「何この広告!」と驚きを与えたのです。しかしパタゴニアの広告の真意は「我社の製品はお客様に長く愛用していただきたいので、新品をご購入されるのではなく、まずは今着ている服をメンテナンスして使って下さい。我々はいつでも修理いたします」という、パタゴニアの環境に配慮した企業姿勢を語ることで、顧客は「へぇ~」と考え、「直して使って下さい」という企業の考え方に「よい企業だな(イネ)」と思わせたところに、この広告が「オヘイネの法則」に当てはまっている一例であり、これはイミ消費と言われると解説されました。

90分超の講義でしたが、個人的には講演内容が新鮮だったので、もっと聴いていたいと思える内容と語り口で、その後も熱心な受講生の方との質疑応答が積極的に行なわれ、とても充実した公開講座となりました。

会場となった芝浦工業大学豊洲キャンパスの校舎1階には気になる展示がありました。全日本ダットサン会の会長、佐々木徳治郎氏が日本自動車殿堂と協力をして寄贈したダットサン16型の展示です。その横にはこのモデルの源流となったダットサン12型フェートンが2011年度の日本自動車殿堂歴史遺産車に選定されたことを説明するパネルが設置されていました。

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