2023年3月4日
第42回JAIA輸入車試乗会が開催されました。試乗車5台のレポートをお伝えします。(レポート:片山光夫)
昨年につづき、2023年もJAIAの主催する輸入車試乗会に参加した。42回目の開催ということで、筆者もその半数近くに参加したことになる。日本で販売されている外国車が同時に試乗できる数少ないイベントであることから、かつては故徳大寺有恒氏らの姿も見え、著名な自動車評論家でもやはりこういう機会は貴重なのか、と思ったものだった。一時より試乗対象車の数が減っているのは残念だが、日本市場での販売を終了したブランドがあることなども要因と思われる。今回試乗はできなかったが、韓国のヒュンダイと中国のBYDも参加していた。
SDGs(持続可能な開発目標)が強調される昨今、電気自動車の急激な増加が考えられるが、将来に発電能力が不足する恐れもあり、注意が必要と言える。これは一時オール電化が売り物だったマンションが停電で不便になったことと似ており、その判断はユーザーに委ねられるだろう。
自動車の運動性能を見ると、サスペンション技術がほぼ頂点に達した感があり、個々の自動車の評価を左右するのは、エンジンと変速機の性能や個性が大きな部分を占めていると筆者は感じている。それがモーター駆動主体となると、駆動系の個性を見極めるのはかなり難しくなるため、それらの要素はほぼ比較対象から外れ、居住性、操作性、利便性の占める割合が必然的に多くなることを、今回の試乗会では実感した。
メーカー各社ともエレクトロニクスによる運転情報、安全支援、外部とのコミュニケーションなどに力を入れており、これらは短時間の試乗では評価しきれないほど多岐にわたることもあわせて申し添えたい。
試乗車は抽選により決定されるため、当然ながら希望通りにはならないのは仕方のないこととして、今回は1日に設けられた5枠の時間帯で8種類のクルマに試乗できた。その中で一般的は乗用車として使用される以下の5車種について報告する。
1)Volkswagen ID.4 Pro Launch Edition
VW(フォルクスワーゲン)から発売される、初めてのリチウムイオンバッテリーによるフルEVのコンパクトSUV車で、日本では2022年末から市販が開始された。ライトとプロの2モデルがあり、主な違いはバッテリー容量で、それぞれ航続距離が435kmと618km、車重が約1900キロと2100キロである。デザインはこれまでのVWと一線を画すもので、直線的なラインから曲線へと移行し、流線型に近づいていると感じた。
ライトとプロのモデル共に専用のプラットフォームを採用し、リヤモーター、リヤ駆動である。全長4585mm、全幅1850 mm、高さ1640 mmのボディーはさほど大きくはないが、床面にバッテリーを内蔵するため、後席の座高はやや低めである。
走り出してみると振動、騒音は当然低く、ロードノイズも低く抑えられているものの、サスペンションは荒れた路面ではバタつく感じがある。下部がフラットな形状のステアリングの操作感は軽いが、車全体の挙動はやや重い。乗り心地もやや硬さが感じられるが、慣れてしまえば時間と共に解決するかもしれない。市街地の細い道をこの車で走るには広い車幅に神経質にならざるを得ないが、それ以外に大きな問題はなさそうだ。
ステアリングもごく自然でVW初めての電気自動車としての仕上がりは良い。計装類はすべてデジタル化されており、見やすさに問題はないが、これといった特徴も感じられないが、良い意味でVWらしいとも言える。コンピュータによる各種の運転支援システムは充実しており時代相応である。
基本価格は6,488,000円と表示されており、ゴルフトゥーランが400万円台であるのと比較するとやや高めである。このクルマには国と地方自治体の補助金と各種免税措置が適用されるため、初期購入費用は約100万円の実質値下げとなる。
2)BMW218d Active Tourer Exclusive
BMWの2シリーズのアクティブツアラーは2022年に発表された前輪駆動のSUVで、ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの2モデルある。今回試乗できたのは1.5Lのディーゼルエンジン付きモデルだった。全長4385mm、全幅1825 mm、全高1580 mmのサイズは日本でも普通の乗用車サイズと言え、最低地上高181 mmは雪道での走行を意識したものと思われる。フロントフェースは現行のBMWシリーズ共通のグリルデザインとなっており、遠くからそれとわかる。内装デザイン、メーター類の配置や操作性も手慣れたもので、所有欲を満足させてくれる、BMWならではのものである。唯一気になったのは太いステアリングホイールで、硬く太い無機質なプラスティック製ホイールは革製の内装にそぐわないと感じた。
運転支援のエレクトロニクスも満載で、時代に遅れることはないが、光学的センサーの先端部が大きく、ウインドシールド中央上部に張り出し、ややうっとうしさを感じる。車重は約1600キロで標準的ではあるが、多くの電気自動車に比べ約500キロも軽く、身軽に感じる。乗り心地、振動・騒音もうまく制御されており、電気自動車にほぼ遜色はない。試乗中特にディーゼルエンジンであることを意識させないのは、さすがドイツ車だと感じた。
このクルマの一番の売りは4,770,000円という価格かもしれない。もちろんオプションなどを入れれば500万円は超えてしまうのだが、同クラスの電気自動車が600万円を超えるのに比べれば、かなり魅力的な設定だと思われる。5人の定員で郊外にドライブに行くには魅力的なクルマだと思う。
3)DS4
DSはシトロエンから派生し2014年に独立したブランドで、かつてのシトロエン上級車の流れを汲むユニークなデザインを売りとしている。今回試乗できたのは1.2L3気筒ターボ付きガソリンエンジンを載せた“シトロエンの伝統”とも言える前輪駆動のPureTechと呼ばれるモデルである。全長4415mm、全幅1830 mm、全高1495 mm、約1480kgの、デザイン性の高い細身で優雅なボディーを特徴とする。
乗り始めて気になったのは、優雅なデザインに似合わないエンジンノイズであった。パワー的には130馬力と充分ながら、やや粗い排気音がエレガントなデザインにはそぐわない。実際に走ると8速の自動変速機もスムーズで、ステアリングも軽く爽快だが、エンジン音とロードノイズが高く、この点は残念であった。
凝ったデザインの内装は、初めは操作に戸惑うが、いったん慣れれば操作性は高く問題は感じない。実際に使うほどの時間がなかったが、道路のレベルを先に検知してサスペンションを制御するなど、シトロエンらしい技術が盛り込まれている。またナビなどの運転支援情報をフロントウインドウに表示するホログラフィを活用して先進性を感じさせるが、常に視界にこれが入るとやや目障りと感じる場合もあると思った。
試乗した1.2Lガソリンターボモデルの基本価格は4,779,000円で、この値段でフランス自動車デザインの粋を身近に感じるにはリーズナブルだろう。
DS4にはこのほかに1.6Lガソリンターボエンジン付きPHEV、1.5Lディーゼルターボエンジンのモデルが存在し、ユーザーの好みに合わせられる。
4)Audi Q4 Sportback 40 e-tron
このモデルはアウディの電動スポーツモデルである。試乗にあたり筆者は10年以上前に試乗したAudi Quattroの好印象を思い出したが、バッテリーのために全重量約2.1トンとかなり重いのは、残念だが避けられない。全長4590mm、全幅1865 mm、全高1615 mmであるが、床下に配置されたバッテリーのせいか、外観が縦に分厚く見える。試乗車は後輪駆動で、航続距離は594㎞と長い。乗車定員も5名で、後席も見かけよりも狭くはなくスペースが確保されている。
小さく四角いステアリングホイールに違和感があるが、走った感じはややスローなハンドリングと感じた。車重が2,100kgと重いため、スムーズで柔らかな乗り心地で居住性も良い。デジタルメーターの視認性・操作性も良く問題はない。
外観はアウディ共通のテーマである6角のグリルが目立つが、前部からの冷却が必要でないために、“安っぽく見える”アルミ色の細かいパネルが装着されており、美しさは感じられない。
ブレーキングに問題はないが、よく見るとリアブレーキはドラムである。これは後輪駆動モーターとの関係で採用されたそうで、40 e-tron各車に共通である。標準値段は7,090,000円と電気自動車に共通する高値であるが、脱ガソリンを目指している向きには高すぎるとは言えないかもしれない。ただし、このクルマには国と地方自治体の補助金及び免税措置が適用されるため約100万円程度の実質値下げが適用される。
5)Peugeot 308 SW
今回試乗できた唯一のプラグインハイブリッドで、1600㏄のターボ付きエンジンと、前輪には110馬力相当のモーターが備えられ、モーターのみによる航続距離は69kmとなっている。このモデルにはほかに1.5Lディーゼルターボエンジンと、1.2L Pure Techターボ付きガソリンエンジンの選択肢もあり、幅広い需要に対応する姿勢が見て取れる。
サイズは全長4655mm、全幅1850 mm、全高1485 mmで、幅の広さ以外は標準的なファミリーカーサイズで定員は5人。車両重量はエンジン駆動モデルの約1400kg程度と比べ1720㎏と、バッテリーの重さが加わっている。ボディーデザインはプジョーの統一されたフロントグリルを持ち流麗であるが、後席は床下にバッテリーがあるせいでやや座高が低く感じた。
実際に走って見ると、ほぼ四角の華奢なステアリングホイールが軽く柔らかなタッチで、女性にも優しいだろう。乗り心地もプジョーらしく柔らかで、ブレーキのタッチも良い。デジタル化された計器類も見やすく問題はないが、高速道路におけるロードノイズがやや高いのが気になった。
標準価格は5,571,000円で、このサイズの輸入セダンとしては標準的であるが、ハイブリッドとしての国や地方自治体からの補助金と、税制の優遇もあって100万円程度の実質値下げとなるのはユーザーには福音であろう。
プジョーが伝統的に持つ乗り心地の良さと、流麗なボディーデザインで柔らかく走りたいドライバーにはなかなかのバリューであると思う。