2019年12月17日
2019年11月19~20日にかけて、大磯プリンスホテルを拠点に新型BMW1シリーズの広報試乗会が開かれました。その様子をお伝えします。(レポート:相原俊樹)
去る11月19~20日にかけて、大磯プリンスホテルを拠点に新型BMW1シリーズの広報試乗会が開かれた。この試乗会に参加する機会を得たので、そのときの様子をお伝えしよう。
BMW1シリーズは3シリーズと並んで、同社の大黒柱となるモデル。2004~12年にかけて生産された第1世代は110万6131台、2011~19年の第2世代は138万4672台、これまでに世界累計で249万803台が売れたヒット作である。このうちおよそ10%が日本で売れたという。それだけに今回登場した第3世代に、インポーターのビー・エム・ダブリュー(株)が寄せる期待は大きい。
当日のメニューは盛りだくさんで、X7 xDrive35dとミニ・クラブマンも試乗に供されたが、注目はやはり新型1シリーズ。本稿では118i と高性能版のM135i xDriveに絞り、特に前者を中心に話を進めることにしよう。
118iにはベースモデルの「118i」に加えて「118iプレイ」「118i Mスポーツ」の3つのモデルが用意される。Mスポーツのみ全長が20mm長いなど細部が異なるが、エンジンを含めた主要機構は共通だ。この日乗ったのはもっとも売れ筋と思われる中間モデルのプレイである。
明け方まで降り続いた雨も、試乗が始まるすこし前に止んでいた。大磯プリンスの駐車場でメルボルン・レッドに塗色された118iに乗り込む。
「乗りやすい!」走り始めて数10mも行かないうちにそう思った。この印象は1時間30分余り乗って、クルマから降りるまで一貫して変わらなかった。
湘南の海に沿った自動車専用道路を流れるように走る。乗り心地も秀逸だ。試乗車は205/55R16というタイヤを履いていた。タイヤ踏面の当たりも柔らかいのだろうが、サスペンションがしなやかに伸び縮みして路面からのショックを巧みに吸収しているようだ。
この自動車専用道路は舗装の継ぎ目に突起があり、クルマによっては鋭い突き上げを感じるのだが、118iのステアリングを握る私には「タンッ、タンッ」という軽い音が聞こえるだけ、これというショックはまったく感じない。
初心者にも優しい乗りやすさと快適な乗り心地は、広いユーザー層をターゲットにする1シリーズにとって重要な美点だろう。
エンジンがスムーズなことにも感心した。言われなければ私は最後まで4気筒だと思っていただろう。排気量1499ccのこのエンジン、実は3気筒なのである。最高出力は140ps(103kW)/4600-6500 rpm、最大トルクは220Nm/1480-4200rpmを生み出す。パワーもトルクも必要にして充分。静粛かつ滑らかに回転を上げていくこのエンジンは1シリーズの性格に相応しい。
話は前後するが、3代目に入った1シリーズでもっとも大きな変更点は従来のFRからFWDに宗旨替えしたことにある。
BMWといえばFRによる素直な操縦性がトレードマークなわけだが、1シリーズが属するCセグメント車ではFWDがもはや常識、BMWも市場性を考えれば、新たにプラットフォームを開発してでもFWD化に踏み切るのが最良の選択肢だったと思われる。
FWDに転向したしたことで、後部足元のスペースが約40mm広くなり、乗降しやすくなるなど室内空間の機能性が大幅に改善された。
とはいえ「FRにあらずんばBMWにあらず」という筋金入りのBMWファンをも納得させるには機構面の根拠も必要だ、そう判断したミュンヘンの技術陣が打ち出したのがARBという新機軸。ARBとは我々日本人には発音すら難しいドイツ語の頭文字だそうで、要するにタイヤのスリップをコントロールするデバイスである。
具体的にはエンジン・コントロール・ユニットで直接スリップ状況を感知し、ダイナミック・スタビリティ・コントロール(DSC)を経由することなく、信号を直接エンジンに伝達する機能。FWD車にありがちなコーナリング時のアンダーステアを大幅に抑制し、俊敏な走りを実現したという。信号の伝達スピードは以前より約3倍の速さ、体感的には10倍も速いとの説明があった。
やがて私は海岸沿いの道路を外れて、適度なカーブが連続する箱根の有料道路へと118iのノーズを向けた。クルマの運動性能を計るのに絶好のルートだ。とはいえ、私はごく平均的なサンデードライバーで、屈曲路を速く走らせるつもりも腕もない。
そんな私がせいぜい頑張った程度では、118iはステアリングを切った分だけ素直にノーズが向きを変える、その素直な応答性にただ感激するばかりだった。当日はすこし前まで雨が降っていたせいで路面は半乾き、しかも路肩には水を含んだ落ち葉が大量に溜まっており、ステアリングを取られやすい状態だったが、118iは意に介する様子もなく、スイスイとカーブを曲がっていった。
むしろ思うに任せなかったのは下り勾配のカーブを曲がる際のギアの選択。私はこうした状況では空走感を避けると同時に、充分なエンジンブレーキが欲しいので積極的に低いギアを選びたい。
118iのトランスミッションは7速DCTで、シフトレバーを助手席側に倒すとマニュアルシフトができる。私は下りのカーブに備えて1段低いギアを選ぶのだが、シフトプログラムが車速やエンジン回転数を勘案するのだろう、カーブの手前で必ずもとの高いギアに戻ってしまう。
マニュアルでシフトダウンしても、そのたびに自動で高いギアに戻ってしまう「イタチごっこ」。118iに限らず、最近のほとんどのAT車でこれを経験する。今はもっぱらフットブレーキのみで速度を調整するのが一般的なのだろうか。
ところで、この日の試乗でぜひ試したかったのが「リバース・アシスト」。直近に35km/h以下で前進した50mの軌跡を記憶し、ステアリング操作を自動で行いながらその軌跡通りに後退する装置だ。1シリーズでは全車にこれを標準装備する。
私は安全な空き地でわざと曲線を描いて前進したのち、リバース・アシストを使ってみた。ステアリングから手を離し、適宜ブレーキを踏みながら速度を調整すると、118iは自分でステアリングを切りながら、今来たばかりの軌跡を忠実に辿ってバックしたのだった。
もともとバックが下手な私にとっては誠にありがたい装置だし、だれにとっても、夜間、知らない路地を行くうちににっちもさっちもいかず、バックしながら戻るしかないときなど重宝するに違いない。
運転支援機能として、新たにレーン・チェンジ・ウォーニング、後部衝突警告機能、クロス・トラフィック・ウォーニング(リア)、スピード・リミット情報表示機能が追加されたうえ、これらを標準装備(ベースモデルの118iを除く)するのも118iの美点。
たとえば走行中、隣の車線からこちらを追い抜こうとする車両がある場合、リアビューミラーに警告灯が点るレーン・チェンジ・ウォーニング。大きな三角形が明るく点るので周辺視野がこれを捉えて、自然に注意が向く。私が一時期乗っていたクルマでも同様な装置があったが、警告灯そのものが小さくてわかりにくかった。
ことほどさように、車載の運転支援機能は、どれも日々の運転でハッとする瞬間を可能な限り減らすのに有効な装備なのだった。
この日は新型M135i xDrive も試乗できた。最高出力306ps(225kW)/4500-6250 rpm、最大トルク450Nm/1750-4500rpm を発揮する2.0L 直列4気筒エンジンを搭載する高性能版で、4 輪駆動システムを採用する。短時間の試乗でもその圧倒的なパワーを実感できた。1シリーズをスポーティに走らせたい向きには絶好の1台だろう。
BMW1シリーズは8月29日より販売が始まっており、11月以降、順次納車がスタートしている。価格は以下の通り。
118i:334万円、118i プレイ:375万円、118i Mスポーツ:413万円、M135i xDrive:630万円。
本稿をお読みになって興味を持たれた向きは、最寄りのBMW正規ディーラーに問い合わされたい。