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2017年5月18日

【編集部より】新刊『日本の自動車レース史 多摩川スピードウェイを中心にして』を編集してわかったことなどをお伝えします

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【本書の編集にあたって】

2017年4月上旬に刊行する『日本の自動車レース史 多摩川スピードウェイを中心として』に関するメッセージを皆様にお伝えしたいと思います。この企画は、業界の有志が集まって「多摩川スピードウェイの会」が結成されたことがきっかけになっています。関係者が一同に集まって、ミーティングしたところ、当時のレースに関係した方々のご遺族の中で、当時の新聞の切抜きや写真が保管されていることがわかりました。この資料は、早速写真類をパネル化され、大田区や川崎市で写真展が開かれることになり、一般の方々にも当時のレースの様子を見ていただけることができました。同時に今でもほとんど当時のままの状態で残っている「観客席」に「多摩川スピードウェイ開設80周年」のプレートが埋め込まれることになりました。さらにもっと多くの方々に知っていただくために、企画したのがこの本でした。執筆には、トヨタ博物館の館長を務められた杉浦孝彦氏がその整理や解説等を担当されることになりまして、約一年の編集期間をかけて完成しました。

【本書でわかったこと】

資料を調べてゆくうちにいろいろなことがわかってきました。確信が取れないことは、この本の性格上記載していないのですが、ここでは個人的な意見としてお書きしたいと思います。日本の最初のレースについては、諸説ありますが、この本では、大正4年(1915年)の目黒競馬場で催された自動車だけのレースを取り上げています。英国のブルックランズが完成し、記念レースが行なわれたのは、1907年ですからその差は僅か8年ほどです。さらに注目したいのは、この英国でのレースで日本人の大倉喜七郎氏が入賞していることです。米国における最初のレース場はその2年後の1909年に完成ですから、日本は早くからこうしたモータースポーツに興味を持っていたことがわかります。この後日本でも自動車レースの愛好家が集まって、”競走クラブ”が結成されますが、このメンバーによって洲崎の埋立地(東京)などで自動車レースが行なわれるようになるのです。このメンバーの一人、藤本軍次氏は、その後多摩川スピードウェイを造る重要人物になります。また多摩川スピードウェイは、昭和11年(1936年)に完成しますが、このレース場はアジア地域では初めての常設サーキットであることは間違いないはずです。ここでも日本は、早くからレース場を造っていたことがわかります。

【当時の自動車業界の先駆者】

この時代の先駆者の方々には、その後の日本の自動車界に大きな足跡を残す方が集まっていました。内山駒之助氏は国産自動車を製作したパイオニアの一人であり、三井家が輸入したブガッティを駆って多摩川のレースに参戦していた多田健蔵氏は、1960年代にホンダが英国のオートバイレースに初参戦する際の仲介役だったといわれています。オオタ自動車の太田祐一氏を初めとしたご兄弟は、その後のダットサンのスポーツカー誕生に技術やデザイン面でも大きく寄与することになります。この頃、アート商会で働いていた本田宗一郎氏はカーチス号や浜松号等でレースに出場していますが、ご存知の通り戦後は、本田技研工業㈱を設立して「Honda」を世界企業へと成長させています。また第2回の秋季自動車競走大会の混合レースで本田宗一郎氏は優勝した? という新聞記事も残っていました(本文136頁参照)。この真偽については、今後の調査が必要だと思います。他にも小早川元治氏は戦後、トヨタのレースカー(トヨペットレーサー)の製作に関わっていますし、この多摩川スピードウェイでのレースによる交流は、その後の日本の自動車界の発展に大きな意味があったといえるでしょう。

【レースへの取組み方】

当時の資料に、レースの会則や競技規則、乗車申込書なども見つかりました。また一回の大会ではそれぞれのスポンサーを付けた、「フォード・カップ」や「ボッシュ・カップ」などクラス別のレースが行なわれていたことも意外な事実でした。レース結果なども残されており、これらは米国から帰国した藤本軍次氏などが、米国在住中にレースを見ていたからだと推測されますが、本書によって日本人による草創期のレースに対する取組み方を知ることができました。

【今後の課題と展望】

ひとつの本としてまとめることができましたが、まだまだわからないことが数多く残っています。この本がきっかけになって、日本のレースの誕生の時代の歴史が考証され、そして現在に至るまでの足跡についていろいろな方面から明かされてくれば、自動車先進国の中の一国である日本にとっても望ましいことだと思います。

※今後とも自動車や二輪車を中心とした良書を企画・刊行してまいります。引き続きご支援のほどお願い申し上げます

2017年3月吉日
三樹書房 小林謙一

『日本の自動車レース史 多摩川スピードウェイを中心にして』
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