2013年7月26日
『カワサキZの源流と軌跡』刊行の経緯をご紹介します。
発売 から3週間ほどが過ぎ、 カワサキ Z1 /Z2 の熱烈 なファンの方々からも多くの御注文をいただき、 弊社では約10 年ぶりに作成した「特別限定版 250 部」もおかげさまで残り僅かになりました。この企画を進めた担当者としてひと安心しています。
今まで私は様々な書籍を企画・刊行してきましたが、この『カワサキ Zの源流と軌跡 』は、完成するまでには、本当に長い時間を要しました。
今回、本書が1冊にまとまるまでの経過を皆様にお伝えしたいと思って、インサイドストーリーを書いてみることにしました。
本書を刊行する理由と経過
日本は、ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキという世界有数のオートバイメーカー4社が存在する珍しい国です。自動車産業以上に市場シェアを確保し続けている産業でもあり、国家産業とも言っても過言ではありません。その中でも重工業から二輪産業に進出したカワサキは、創業から現在まで常に個性的な製品を世に送り出してきたメーカーです。カワサキは、2サイクルのマッハ系や4サイクルOHV2気筒のW系、カワサキのDOHC4気筒のZ系など、欧米のメーカーと比較しても、際立って特殊なオートバイを開発してきた経緯があります。
特にその中でもZ1/Z2 に関しては、数多くある日本製のオートバイの中でも間違いなく世界に誇れる車種の一台であると思っていましたし、青年時代に見てきたこれらの車種を忘れることができませんでした。現在でもカワサキブランドの象徴である、ZやWなどのシリーズは、”Kawasaki”を語る上で欠かせない車種です。
こうした魅力的な車種を開発したカワサキに関する歴史の本をまとめておきたいと決意して、最初にカワサキモータースジャパン(KMJ)を訪問したのは1994年のことでした。最初にこちらの書籍刊行の企画を快く理解してくださり、資料の協力をしてくださったのはKMJの小林茂氏でした。そしてオートバイの歴史関係において第一人者である小関和夫先生に執筆のご協力をいただき、1996年にはカワサキオートバイの全体を体系的に紹介した『カワサキモーターサイクルズストーリー』として刊行することができました。
さらに小関和夫先生のご紹介によって、川崎重工業の山内徹氏と知り合うことができました。山内氏は、カワサキの歴史に関する本の企画に対して理解を示してくださり、2006年には『カワサキマッハ』としてマッハシリーズについて開発関係者の方々の証言も含めてまとめることができました。
そしてこの本の制作を通じて知り合うことができたのが、Zの開発技術陣を率い、チーフエンジニアとして指揮を執った大槻幸雄先生でした。このマッハの本の編集を通してわかったことですが、マッハ、W1、Z1/Z2の開発陣は、ほとんど共通の方々なのです。
その後、大槻先生のご執筆による『純国産ガスタービンの開発』という書籍を弊社で手掛け、2012年に刊行したこともあり、私は次にマッハに続く初代Z1/Z2の開発経過を書いていただきたいと率直にお願いしました。
2012年6月頃、大槻先生からは当時KMCの社長を務めていた浜脇洋二先生に連絡するように勧められ、早速面談した浜脇先生にこちらの考えや概要などをご説明したところ、非常に好意的なご返事をいただくことができました。そして2012年10月には、初代Zの関係者の方々が一堂にカワサキの本拠地である明石に集まることになり、各々の方々がZの係わった部分について自らの体験を書いていただくこと、全体の監修は浜脇先生、大槻先生が担当されること、資料協力は川崎重工業の山内徹氏にお願いすることなどが決まり、総勢14名にも及ぶ共著の本として編集がスタートしたのです。
Z1/Z2に関しては、零戦や戦艦大和のように今までも数多くの雑誌や本で取り上げられてきた車種であるので、三樹書房としてまとめるにあたって強く推進したのは、それぞれの担当された方々に率直に当時のことを自らの文章で書いていただくことでした。ですから文面的には、誇張した部分もなく、どちらかといえば淡々とした内容であるといえるかもしれません。しかし各担当者が優れた製品を生み出すためにどのような努力を重ねてきたのか、その背景なども含めてわかっていただける内容になった、と自負しております。
以上のような経過をたどり、企画から一年、編集実務には半年以上の期間をかけて『カワサキZの源流と軌跡』としてまとめることができました。前記した通り、本書のような開発当事者・関係者の執筆による本は初めてのことになると思います。当事者の証言は、やはり後世に残す記録としても最も価値あると思っていましたので、当初の構想から考えれば20年以上が経過していますが、こうして念願がかなったことは望外の喜びです。
国内のZ 2(750RS)は、誕生から約40年を過ぎ、その数は激減するとも思われる時期にその人気に支えられ、専門店によって多くのZ系のパーツが再生産されるに至り、多くのZ2が存命していると聞きます。またZ1は近年多くの台数が主に米国から日本に輸入されていて、里帰りともいえるその数は2000台とも3000台とも言われています。総台数はわかりませんが、最近はZ1で疾走するユーザーをよく見かけるようになりました。本書の主題はZ1ですが、国内専用モデルとして開発されたZ2にも当然スポットを当てていますから、Z1のみならずZ2のファンやオーナーの方々にもぜひ読んでいただきたいと思っています。また、さらにカワサキZ系モデルのファンやオーナーの方々にもZ系モデルの源流がどのように生み出されたのか? を知っていただければ幸いです。
三樹書房 小林謙一