第10回 ワンボックスもターボ付きディーゼル車時代に突入

2022年8月27日

ワンボックスの乗用車がディーゼルエンジンを搭載をするようになった理由のひとつは、需要の高いベースの4ナンバーバンのディーゼルバンおよびトラックの先行開発があり、これがその後の流行もたらせたといえよう。

もっともワンボックスでも、いすゞファーゴワゴンのように当初からディーゼル車のみ、という例もあったが、1980年代までは乗用よりも商用ワンボックスバンの人気が高く、購入価格を抑えようとする商店などでは必然的に高価なディーゼル車を念頭に置かず、まずはガソリン車を購入する傾向が高かった。

このためメーカーも差別化をはかるべく「単にディーゼルを搭載したワンボックス」ではなく、乗用ゼダン同様にターボ付きエンジンの“最高級”ワンボックス車を加えたラインナップを形成してゆく。

トヨタの最廉価車ライトエースのハイルーフ車を例にすれば、1985年9月時点でディーゼルの1800バンDX、5速マニュアルは107.6万円(東京・大阪)、ワゴンのディーゼルは2000XL-7の5速マニュアルが136.4万円(同)であった。このため安価なDXに加え、ワゴンでありながら装備をバン同様にしたSWを設定し「2年車検のバン的ワゴン」が各社に波及することになる。

日産のバネット系ディーゼル車は1981年6月にSOHC、1952cc、LD20型、65psを、1982年9月にはバネットラルゴにも搭載した。またキャラバン用のLD20T型、81psターボ搭載車も追加。ただC120系バネットとバネットラルゴは、4WD車を投入することなく終始した。

国産初のワンボックス4WD、三菱のデリカも他社製に勝つべく1984年2月にターボディーゼル、SOHC、2346cc、4D55型、96psをGLXに、4D55型ノンターボ75psをバンGL系に搭載した。

いすゞは“規定路線”のようにSOHC、1995cc、4FC1型、66psディーゼルにターボを搭載、83psにパワーアップし低燃費をアピールした。ただAT車の設定は2WDのみで、販売はバン主体になった。

マツダのボンゴ系ディーゼル車は、英パーキンス社ライセンスによるS2型、2209ccを経て、自社開発のSOHC、1998cc、RF型、グロス69psを搭載。1987年にはストロークアップの2184cc、R2型、ネット61psが追加されてゆく。

トヨタのライトエースのディーゼル車は、1982年11月にカローラ用の1839cc、1C型を搭載、1985年9月のモデルチェンジにより1974cc、73psの2C型、2C-T型、85psターボを追加した。同じくトヨタのタウンエースは1982年11月にライトエース同様にSOHC8バルブ1839cc 1C型、65psを、1983年5月にはボア拡大の1974cc、2C型、73psを搭載。両車ともにほぼ同じエンジンを積み、2C系の改良が続けられた。

なお、この頃から出力表示がエンジン単体(グロス)からネット(車両搭載状態)になり、数値的にグロス値に対しネット値は約10~15%割ほど低い値となった。消費者の混乱を回避するため、各メーカーはカタログや広告にネットかグロスまたは双方を表記してゆく。

1985年後半からの各社のカタログのエンジン出力表示部分に、日本自動車工業会(自工会)による説明がされるようになり、「エンジン出力表示には、4ネット値とグロス値があります。「グロス」はエンジン単体で測定したものであり、「ネット」とはエンジンを車両に搭載した状態とほぼ同条件で測定したものです。同じエンジンで測定した場合、「ネット」は、「グロス」よりもガソリン自動車で約15%、ディーゼル乗用車で約10%程度低い値(自工会調べ)となっています。」と、明記されるようになった。

日産自動車の1984年型商用車の西ドイツ向けカタログ(1983年12月発行)。左側が表紙で、続く見開き2ページでバネットのバン、ワゴン(バス)を紹介している。ガソリン車のみ販売していた。

続く見開き3ページではアーバン(キャラバン)のワゴン(バス)、バン、パネルバンを紹介している。欧州では1950年代から商用はパネルバンがあたりまえで、荷室側面にウインドガラスが付くのはバスやキャンパー仕様が多かった。ガソリン・ディーゼル両車を販売。

Das Angebot=オファーとタイトルをつけて、あらゆる注文に対応した日産車を表現した見開きと裏表紙。ダットサンピックアップとキャラバン、バネットを紹介。裏表紙はバックドア部でバネットと想われる。

1984年月2月に配布されデリカのカタログ。ターボ付きディーゼルエンジン搭載で厳寒地の雪上をものともせずに走れる印象を与えた。フロントガイドバーにスペアタイヤを装備する社外キットなども造られ、アウトドア派の若者達を虜にした。

燃費効率の良いディーゼル車を追加し、さらにオフロード派に人気だった高度計+傾斜計を装備。チルトステアリングとパワーステアリングなど装備の充実さが加味された。右ページではバン4WDをアピール、室内のシンプルさが歓迎された。

いすゞファーゴの1984 年8月のカタログ。スタイリッシュなフォルムで登場したものの、トラック専売のいすゞ自動車系販売店でなく、乗用車アスカ系の乗用車販売網と小型トラック系のモーター店のみでの販売で、販売台数面で苦戦を強いられた。

そこでディーゼルターボ+パワーステアリング搭載などのリニューアルを実施。エンジンはアスカにも搭載された4FC1型エンジンであったが、アスカのSOHCガソリンターボでも搭載すればマニアに受けたのではと、ファーゴのユーザーでもあった筆者は考えたものだ。

マツダもボンゴの人気を倍増すべく4WDワゴンを追加した1984年11月のカタログ。しかしながらボンゴ4WDのラインナップは少なく、ブローニイワゴンに4WDは設定されなかった。

最高級グレードの4WD GSX。ルーフ部分の形状がローとハイの中間の高さの、プレスラインの極めて複雑なミドルルーフとなり、サンルーフ仕様には周辺にルーフキャリアバーを装備しての登場だったが、生産台数は実に少ない。

4WDのメカニズムの紹介ぺージ。ハイ・ロー切り替えのパートタイム4WDトランスファー、LSD、フリーホイールハブ、アンダーガード、4WD専用サスペンション、185ワイドラジアルタイヤなどの専用パーツが開発されたことがわかる。2WDに比べてコストがかかるため、ラインナップが増やせなかったことも納得できよう。

ボンゴワゴンのラインナップの一部。4WDはGSXとRV-Sのみで他は2WDであることがわかる。廉価ワゴンのBW(ビジネス・ワゴンの略)はバンとの中間モデルで2年車検となる。逆にバンをワゴン並みの豪華装備にしたGLスーパーが10年後に登場している。

マツダがフォードと提携した2年後に登場したボンゴワゴンのフォード向けOEM車スペクトロンの1985年9月のカタログ。アメリカ人モデルが多用されたカタログにはカリフォルニアミラー+FORDストライプ車が登場するが、これらはすべてオプション設定だった。

スペクトロンのラインナップはボンゴワゴン同様に最高級グレードの4WDミドルルーフ系は変わらないが、2WDの大半がハイルーフ系のみ、ロールーフは2WD廉価車で受注生産と需要の見込めるモデルのみに絞っての登場だった。

1985年9月発行の3代目ライトエースワゴン30系のカタログより。エンジンは改良型5Kを搭載、走行安定性や乗り心地向上のために、リヤサスペンションをリーフ式から4リンク式とし、ラック・アンド・ピニオン式ステアリングを採用した。車幅も25mm拡大させたが、タウンエースよりは35mm少なくとどめた。

上級モデル、FXVとGXLはタコメーター付きでAT車を設定、大衆向けXL-7はマニュアル車のみ。デビュー1ヵ月後にワンボックス車の流行だったパートタイム式4WDを追加、最低地上高を200mm高くして不整地走行に対応させてゆく。

ガソリン1500cc、ディーゼル2000ccの“お買い得”モデル達。スーパーカジュアルはスカイライトルーフ付きも設定、主軸のハイルーフガソリン5速車の東京・大阪での価格は133万円で、同仕様のバンの28.8万円高、SWの4速コラムは103.4万円で同仕様のバンより8000円安の“微妙”な設定。月販目標はワゴン2500台、バン2200台と発表された。

輸出仕様の30系はバンのみ。国内向けのリヤサスペンションは4リンクまたはリーフスプリングの両仕様だが、輸出用はリーフのみで地上高もワゴン・バン系の160mmに対して1ヵ月遅れで登場する4WDの180mmに近い175mm。これは輸出用がバイアスの5.50-13タイヤで、国内仕様と比べ半径で15mm大きなタイヤを装着したためと考えられる。

ライトエースの地上からのシート高を表示して、乗りやすさと視野の広さを強調している。このカタログは日本のトヨタで印刷された英文仕様で、海外メーカー同様に走行テスト風景などを盛り込んで性能の良さをアピールしていた。

まるでドイツ車のカタログのようにイラストで構成されたラインナップのページ。左からパネルバン・標準ルーフ仕様、次にデリバリーバン・標準ルーフ仕様、右がミニバス・ハイルーフ仕様。横3人乗りは長身の外国人にはさぞきつかったであろう。

1985年9月発行、新型日産バネットC22系の販売チャンネルごとのカタログ表紙。左より日産店向け(ダットサンバネット)、日産サニー店向け(サニーバネット)、プリンス系チェリー店向け(チェリーバネット)。微妙にエンブレムや文字色が異なるのがわかる。表紙以外はすべて、ほぼ同じ内容だった。

ダットサンバネットのカタログ見開きページ、簡易タープ型テント、アイスボックス、バーベキューコンロなどでアウトドア感を演出。車両の前後スポイラーやアルミホイールはオプションパーツ。カラーリングも特注仕様だとの説明がされている。

なんとも変わったシートアレンジは、フロントシートのバックレストが座面になり、さらにセカンドシートの向きを90度変えられる「クルマ座シート」と呼ばれた。右下にはフロントエアコン、リアクーラーの説明があり「どのシートに座っていても操作は容易」とアピールしている。

女性にも気軽に運転してもらおうとSGL系にパワーステアリングを採用。さらに最高級SGLエクセルは、チルト角(角度調整)12度、テレスコストローク(長さ調整)30mmの調整が可能であった。

専用オプションパーツのページ。バネットの全幅は旧120系の1600mmから1620mmに拡大、写真のSGLエクセルのみ1635mmとするが、追加された15mm分は外装パーツリストからみると片側幅7.5mmのサイドガードモールと判断できる。

ラインナップはハイルーフ車が、ガソリンCA20型2000ccはSGLエクセルのみ。A15型1500ccはSGL/SGLパノラマルーフ/GL/SCに、ディーゼルLD20・Ⅱ型2000ccはSGLエクセル/SGL/SGLパノラマルーフ/SCに設定。標準ルーフ車ではガソリンA15型搭載車をSC/GL/SGLに、ディーゼルLD20・Ⅱ型はGLのみに設定。

デビュー約3年後の1985年10月発行のマイナーチェンジ後のカタログ。豪華で個性的なワゴンを求める層を主な販売対象に置いた。販売もトヨタ店のみとして顧客を絞った感がある。「Fun To Drive クルマは、もっとすてきな乗りものになる」のスローガンは1984年からで、石坂浩二のTVCFでおなじみだったが、カタログなどへの表記は多くが1985年からになった。

なんとも驚かされるスカイライトルーフ。前から1~2番目のルーフガラスはチルトアップし、さらに2番目は脱着可能。旧来からのツインムーンルーフの後部は電動式で開閉できる。写真ではオーバーヘッドデュアルエアコンが装着されているが、日本では徐々に暑さ対策のためにはエアコンは必須となりつつあった。

超豪華なインテリアを持つ、グランドサルーン2000EFI。電動カーテン、エアコンなどはまだオプションの時代だった。シートは3列目が左右方向に折りたためる「スペースアップシート」を採用、その後のワンボックス車達に少なからず影響を与えた。

初代モデルはグランドサルーンのみデジタルスピードメーター装着であったが、マイナーチェンジでは通常のアナログツインメーターとなった。ステアリングも中央部のホーンボタン部分が大型になり、衝撃吸収パッド的なデザインに変えられた。

搭載エンジンは2WD車のガソリンがOHVの2Y-U型1812cc、グロス95ps。ストロークアップした3Y-EU型EFI、1998cc、グロス115ps、4WD車は3Y-EU型EFI、ネット97ps。2WD車のディーゼルがOHCの2C型1974cc、グロス75ps、およびターボ付きグロス88ps。4WD車のターボ付きがネット82psを発揮。4WD車のマニュアル、オートマチックいずれもローとハイ切り替えが可能で走破性を高めていた。

ラインナップも豊富で、グランドサルーンはスカイライトルーフのみの設定。スーパーツーリングのボディ形態は、カタログの掲載車以外にハイルーフがある。ツーリングはハイルーフとミドルルーフ、廉価車SWはハイルーフと標準ルーフがラインアップされていた。

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