第22回 バリエーション多様化時代へ

2024年5月19日

黎明期におけるクルマのバリエーションは、例えば「セダン」「クーペ」「ワゴン」「バン」「ピックアップ」「トラック」のように、単一シャシーからさまざまなバリエーション展開がされてきた。1950年代には国産車もシャシーがボディと一体化されたモノコック構造が普及し始め、その後はモデル開発が「社内機密」という観点から、自社で開発がなされるようになる。

ミニバンが台頭してきた2000年代から、同一ベースのシャシーを使って、数多くのバリエーションモデルを生み出すことがあたりまえとなってきた。2002年9月にホンダはモビリオベースのモビリオ スパイクを生み出し、開発テーマとして荷室空間(CARGO)=“自分流にとことん使える空間”、スタイリング(STYLING)=“愛着を感じさせるこだわりのあるカタチ”、居住空間(CABIN)=“一人でも仲間とでも楽しく過ごす、とっておきの場所の創造の要件”を、センタータンクレイアウトを採用したグローバル・スモールプラットフォームにより具現化。ボックス型デザインはトヨタbB、日産キューブ、ホンダモビリオなど、流行の一部を占めてゆく。

2003年1月に国内市場にトヨタが新規投入したミニバン、ウィッシュは、5ナンバーサイズだがミニバンとしては低めの全高(1590mm、FF車)でスポーティな雰囲気を備えることが特徴。後席ドアは前ヒンジ式。シートは3列配置の6名または7名乗りであり、セカンド・サードシートは分割可倒式、用途に応じてフラットで広いラゲージスペースや多人数乗車が使い分けられるように工夫されていた。当初、エンジンは132PSを発揮する1.8リッターのみだったが、2003年4月に155PSを発揮する2.0リッターを加えた。駆動方式はFFとアクティブトルクコントロール4WDで、トランスミッションは2.0リッターのFFモデルにはCVTを、1.8リッターのFFと4WDには4ATを用いた。サスペンションは全車の前輪はストラット、後輪は2.0Zと4WDがダブルウィッシュボーン、その他はトーションビーム式を採用していた。

2003年9月には“コンパクトでありながら実用性の高い3列シート車”を目標に開発した日産キューブ3(キュービック)が登場。特徴は3列シートを採用したパッケージで、コンパクトでありながら、セカンド+サードシートのニールーム&ヘッドルームは、必要な時は大人が十分乗れるスペースを確保し、大きなリヤドア開口と簡単・軽快なシート操作の組み合わせで、2列目・3列目への乗降性に配慮。また、小回りの利く4.7mの最小回転半径は、街中での快適な運転に貢献していた。

2003年5月に三菱は“ライフスタイルをより豊かにする次世代ミニバン”としたグランディスを発売。3ナンバー3列シートの次世代ミニバンで“お客様のライフスタイルをより豊かに流れるような「スポーティ&エレガンス」な造形を基調に、「ジャパニーズ・モダン」な美しさを随所に表現する次世代ミニバン”とした。発売から2週間で月間販売目標上回る2倍を超える7,187台を受注したと発表された。ダイムラークライスラーが三菱自動車の経営権を引き継いだ後、2代目スバル レガシイやマイバッハのデザイナー担当だったオリヴィエ・ブーレイは2001年5月に三菱自動車の設計室長に任命され、グランディスもデザインして知られた。

2003年9月にはコンパクトサイズのミニバン、トヨタ シエンタがカローラ店ならびにネッツト店から発売。全長4.1mのコンパクトなボディサイズながら、3列シートを備えて7名乗車が可能。後席用には両側スライドドアを採用し、一部グレードにイージークローザー付パワードアを設定(左側)。サードシートはヘッドレストを付けたままの格納が可能で、状況に応じたラッゲージスペースを得られた。4WD車ではスペアタイヤの代わりにパンク修理キットを標準装備し、サードシートの乗員空間を確保する工夫がされていた。

2003年10月に3代目ホンダ・オデッセイが登場。「ミニバン・イノベーション」をコンセプトに「速い(低重心化による乗り心地とハンドリング)」、「美しい(低全高の流麗なフォルム)」、「広い(低床化による前モデルを上回る室内高)」を高次元で融合する……次世代ミニバンとして開発。立体駐車場にも入庫可能な低全高フォルムとしながら、3列7人に十分な居住性、ユーティリティがアピールされた。

同じ2003年10月、マツダMPVの大幅改良が実施され、エクステリアについてスポーティとノーマルの2つのデザインを採用。インテリアは、シート表皮やインパネ/トリムの加飾パネル類を全面変更し、スポーティかつ上質なものとした。さらに2列目シートスライド機構の充実により快適性をより高めた。さらに高効率な新4ATの搭載でクラストップレベルの燃費を達成し、超―低排出ガス認定(U-LEV)に対応し、グリーン税制にも適合させ、多様化する競合車に勝る存在感をアピールするとともに、購入者の選択肢をさらに広げたとしていた。2004年9月に盗難防止効果が高いイモビライザーや、携帯性に優れ品質感のあるリトラクタブルタイプキーの全車標準装備、17インチタイヤ&アルミホイールなども上級車に採用してゆく。

ミニバンもデザインから安全対策および販売面まで、各社が他社動向をみつつ企画設計する行為が過敏になりつつあった。

“個性的なスタイリングで趣味や遊びの世界を広げる1.5Lマルチワゴン”モビリオ スパイクの2002年9月時の最初のカタログ。表紙にはエンブレムがレイアウトされ、最初の見開きで独特のフロントエンドをみせるとともに、カリフォルニアナンバーを装着してアメリカンチックなイメージを出していた。
2004年2月にマイナーチェンジされたモビリオ スパイクのカタログ。新たに施行された平成17年排出ガス規制に全タイプ適合し、国土交通省「平成17年排出ガス基準50%低減レベル(低排出ガス車)」認定を取得。表紙が特徴的な新型メッキグリルを強調したデザインに変わった。
カタログの内容はマイナーチェンジ前後で大差ないが、グリルなどが変更される。独特のボックスボディはトヨタbB、日産キューブなどと同じだが、デザインコンセプトが異なり“「クルマで遊ぶ」ことを大切にするお客様の期待に応えるため、「ガレージボックス」をコンセプトに開発された”とされ、独自性を保っていった。
流行の3列シートをあえて使わず、カーゴ(CARGO)の有効性をアピールして生み出されたモビリオ スパイク。通常のモビリオが3列シートだがスパイクでは2列で、カーゴを有効に使う工夫がこらされていることを強調。フロントシートがフラットになる今日のN-VAN的思想で荷室空間は、奥行き1,855mm、高さ1,110mm、2名乗車時1,045Lというクラストップレベルの大容量で“自分流にとことん使える空間”としていた。
フロントシートはベンチタイプとして設計。今日のホンダN系モデルに相通ずるデザインの先駆けといえる内容になっていた。ラインナップはW-A-Yが揃えられ、W-A搭載のCVTは7速のマニュアルおよびオート、さらに無段変速に切り替え可能。さらに豪華仕様Lパッケージにはオートエアコン、革巻きステアリングなどが加えられていた。
PERFORMANCE=性能のポイントは、フィットにも搭載された低燃費のV-TECエンジンとW-A搭載のステアリング部のシフト機能だろうか。5万2500円高でF1を彷彿とさせるようなシフトが得られた。4WDは全車18.8万円高だった。この後マイナーを経て新型フリード スパイク、フリード+、フリードに変化してゆく。
ネッツトヨタ店ならびにトヨタビスタ店を通じて2003年1月発売されたミニバン、ウィッシュ。5ナンバーサイズで、ミニバンとしては低めの全高1590mm(FFモデル)でスポーティな雰囲気が特徴。“WISH COMES TRUE(多くの人の願いに応えること)をテーマに、これからのクルマの理想像を追求した、スポーティでユーティリティが際立つクラスを超えた新世代ビークル”がデビューした。
ターゲットは全高1600mmのホンダ ストリームとされ、10ヵ月で累計販売台数10万台を突破したその人気を追いかけるべく、キャビンは“先進的パッケージを活かしたカブセルをイメージさせるモノフォルムシルエットと、サイドからリヤに回し込んだウインドウグラフィックにより流麗で躍動感あるデザインを創出“と広報資料で語られている。
後席ドアはスライドでなく前ヒンジ式。シートは3列配置の6名または7名乗りで、セカンドとサードシートは分割可倒式。用途に応じてフラットで広いラゲージスペースの確保や多人数乗車などと、どちらの使い分けにも対応していた。いちはやくDVDボイスナビ+6.5型ワイドディスプレイ、デイスチャージヘッドランプなどが設定されての登場だった。
エンジンは1.8リッター132PS(1ZZ-FE型)のみだったが、2003年4月に2.0リッター155PSのD-4(1AZ-FSE型)を加えた。駆動方式はFFとアクティブトルクコントロール4WDで、トランスミッションは2.0リッターのFFモデルにSuper CVT+6速スポーツシーケンシャルシフトマチック付を設定、1.8リッターのFFと4WDには4速ATを用いていた。約55万台を販売して2009年4月にフルモデルチェンジを実施した。
2003年9月に日産キューブ3(キュービック)が登場、ホイールべースを170mm伸ばしてミニバン的な3列シートに仕立てたモデル。また英国のショップ、コンランとコラボレーションし「キューブ キュービック+コンラン&パートナーズ」を2003年の東京モーターショーに出展、これをベースとした市販車(計画台数1000台)を2週間で売り切り話題となった。日産の最小ミニバンとして電気自動車なども製作された。
ホイールベースを2.53m→2.60mに7cm伸ばして3列シートにしたキューブ3(キュービック)の由来は、“「cube」の持つスペース効率の良さをさらに進化させ、「より広い室内とより幅広い空間の使い方」を実現したことを、体積・容積を示す単位の「立方=3乗」(英語でキュービック)で表現した。さらに「3」という数字は3列シート車であることも表している”とのこと。乗降方式も工夫され、一応は日産のコンパクトミニバンとされた。
2003年5月登場の三菱グランディスは、シャリオの後継モデルとされる。フランス人デザイナーのオリヴィエ・ブーレイは、1987年にダイムラーベンツ社を経て2年後に2代目スバル レガシィ担当後、2001年にダイムラークライスラーに戻り、グランディスやi(アイ、軽自動車)を担当したとされ、いずれも一応の成功を収めたとされる。
広報資料では“21世紀のクルマに相応しい、優れた「環境・安全―安心」性能を実現すると共に、マルチ・パーパス・ビークルの新しい価値観として、流麗なスタイリング、ストレスを感じさせないドライビングフィール、新発想のユーティリティ」など、お客様の「スマートなカーライフ」を演出する魅力の数々を用意致します”とあった。
3ナンバー3列シートのミニバン、グランディスは、日本における3列シートミニバンの先駆的乗用車、初代シャリオ(1983年)から4代目にあたるモデルで、“お客様のライフスタイルをより豊かにする次世代ミニバンとした”という。
新発想のユーティリティとして、助手席にユースフルシート、セカンドシートのリラックスモード、分割収納サードシートを採用。さらに、タバコ臭などの科学物質を吸着・分解する“安心素材インテリア“、UV&ヒートプロテクトガラス、イモビライザー、セキュリティアラームを全車に標準装備した。
新開発された、ストレートフレーム構造のプラットフオーム、6エアバッグシステムにより衝突安全性能を高めている。エンジンは新開発の2.4L MIVEC(可変バルブタイミング&リフト機構付き)エンジンを搭載し、INVECS-II 4A/Tをと組み合わされた。165PSで10・15 モード燃費は11.4km/L (2WD車)であった。
当時、国内営業統括本部長は「社内目標として掲げていた受注7,000台も発売から2週間で早々と達成し、今年度の国内販売目標40万台に向け、いいスタートが切れた。販売店の改装も順調に進み、現場に活気が出ている。今後さらに改革を加速し、国内販売ターンアラウンドの目標達成に向け全力で取り組む。」と述べた。売れ筋を見ると、2WDの2.4L・7人乗り49%、2.4L・6人乗り16%で計65%、4WDの2.4L・7人乗り25%、2.4L・6人乗り10%計35%であった。
2003年9月に発売したコンパクトサイズの新型ミニバン。全長4100mmのコンパクトなボディサイズながら、3列シートを備えて7名乗車が可能。後席用には両側スライドドアを採用し、一部グレードにイージークローザー付パワードアを設定。全国のトヨタカローラ店ならびにネッツ店を通じ販売された。
シエンタは、スペイン語の“7=siete”+英語の“楽しませる=entertain” からなる造語で、「小粋でユースフルな7人乗り」がテーマとされた。“活動的なヤングファミリーや若者のライフスタイルに応じた毎日のカーライフを楽しくさせる”“お洒落なスタイルの中に、ミニバンに求められる機能をコンバクトに凝縮したクルマ”だという。
リリースでは、“これまでのミニバンにはない、丸みのある小粋なスタイルの中に、シンプルで温かみのあるくつろぎの7人乗り空間”“後席周りの乗降性・使用性と乗車人数に応じたシートアレンジのしやすさを徹底追求”“短いオーパーハングと見切りの良いボディ形状により、運転しやすさに配慮”などと、シエンタの特徴が訴求されている。
ユーティリティの説明に重点をもたせたカタログ内容。①ターゲットはヤングファミリー、②スペースのアレンジの多様性を強調、③買い物時間も楽しくなるくつろぎの室内、④ベビーカーも積める工夫がされた秀逸なシートアレンジ、などの点がアピールされた。
2WD車は新開発1.5リッターエンジンを搭載し、19.0km/lの低燃費で経済性を訴求さらに衝突安全ボディ“GOA”の採用など安全性に配慮。3列シート/7乗りに求められる使用性や動力・安全・環境性能についての基本性能を徹底的が追求された。税抜137万円からの価格は“家計にうれしい経済性”と表現されていた。
3代目となるホンダ オデッセイは、「ミニバン・イノベーション」をコンセプトに2003年10月24日に発売。“「速い(低重心化による乗り心地とハンドリング)」、「美しい(低全高ならではの)流麗なフォルム)」、「広い(低床化による前モデルを上回る室内高)」を高次元で融合する次世代ミニバンの新たなベンチマーク”として開発された。発売後約1ヵ月の累計ユーザー受注台数は約2万5000台。
ラインナップ別の人気を見ると、FF車比較では220万円の廉価車Sはわずかに1%だが、装備のレベルが上げられた標準車ともいえる230万円のMは45%と最多。カタログ巻頭を飾った275万円のLは20%の人気なのに対して、260万円のアプソルートがなんと34%をも占めた。なお4WDはFFに対し各グレードともに22万円価格が高く設定されていた。
ホンダ独自のGコントロール技術に基づき、前面フルラップ衝突55km/h、前面オフセット衝突64km/h、側面衝突55km/h、後面衝突50km/hに対応している。相手車両への攻撃性低減のコンパティビリティ対応ボディを採用した。さらに1列~3列目シートに対応するサイドカーテンエアバッグを Lに標準装備とした。またS、M、アブソルートには1列目シート用i-サイドエアバッグ〈助手席乗員姿勢検知〉とセットでオプション装備とした。
30~40代の客層が約7割を占め、価格は30万円台にもかかわらずHDDナビゲーションシステムのメーカーオプション装着率は64%と高かった。高速道路での運転負荷を軽減する車速/車間制御機能IHCC(インテリジェント・ハイウェイ・クルーズコントロール)、リアカメラ付音声認識Honda・HDDナビゲーションシステム+プログレッシブコマンダーは、いずれもアプソルートにメーカーオプション設定がされた。
新開発の低床プラットフォームにより“ロー&ワイドの流麗で知的な新たなスタイリングを形成”と訴求。立体駐車場にも入庫可能な1,550mmという低全高スタイルとしながら、3列シート7名乗車の室内空間をもつ。多人数乗用車としての新たな価値を創出したともいえる、全高の低さに注目。
徹底した低床設計により、前モデルより全高を80mm低くし、立体駐車場に入庫可能としながら、室内高は前モデルより5mm高く、外見からの想像を超えた室内空間を確保している。床下格納式の3列目シートはスイッチ操作のみで格納できる電動床下格納機構も設定し、使い勝手を向上させている。
2.4L DOHC i-VTECエンジンは160ps、アプソルートのみ200ps。160ps車は新開発CVT+7スピードモードによりもたらされた燃費19.0km/l(10・15モード:2WD車)は、7入乗り乗用車トップとされた。4WDとアプソルートには、5速オートマチック+Sマチックを採用。全タイプが平成22年燃費基準(省エネ法に基づき定められている燃費目標基準)を先行して達成。
ラインナップはM-L-アブソルートの3モデルだが、カタログの後半にはカーナビなどメーカーオプションの他に、ディーラーオプションによるオーディオ装置や、ホンダアクセス製の各種純正扱いのフロント―リア―サイドなどのエアロパーツやホイール類など、各種のModuloアクセサリー群が用意されていた。
マツダMPVは1999年のデトロイトショー後に新型となり、毎年の改良を経て 2003年10月には内外装の変更を実施した。搭載される直列4気筒2300 DOHC〈MZR〉エンジンはマツダが開発をリード、当時のフォードグループの中で年間150万台が生産されるグローバルエンジンであり、国内ではマツダMPVに初めて搭載されたもの。カタログにある“More Aggressive than Anyone Else”は「誰よりも攻撃的」という意味。
エクステリアでは、スポーツエアロバンパーやスポイラーなどエアロパーツを装備したスポーティタイプと、ヨーロピアンテイストのノーマルタイプを設定。また、インテリアのトリム類は、ファブリック面積が拡大、フロントドアアームレストがソフトパッド化されるなどした。
これはスポーティタイプで、左からVS、Aeroremix、Sports。2005年の東京モーターショーで新型MPVが公開されたが、全体の印象はこの2003年モデルと大きくかけはなれてはいなかった。このマツダMPVでは、映像や音楽に躍動感があるテレビコマーシャルなど、新ブランドメッセージの“Zoom-Zoom”を反映させた広告キャンペーンを、各媒体を通じて展開していったという。
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