第6回に引き続き“映画や漫画で活躍したクルマのミニカー”その2を解説していきます。
前回は漫画でしたが、今回は映画で活躍したクルマを考察していきたいと思います。
まず“映画に登場するクルマ”と聞いて、皆さんが思い浮かべるクルマは何でしょう?
映画で使われるくらいですから、きっと特別なクルマですよね! デザインも印象に残っているのではないでしょうか。
大きなスクリーンの中で使われ、強烈な印象を残したクルマが、皆さんの憧れのクルマになる場合もあるかと思います。その感動を織り込んでいるミニカーを解説しながらご紹介します。
映画で使われた特殊なギミックが再現されていて愉しく遊ぶことができ、ワクワク感がミニカーに織り込まれているか? など語りたいことがたくさんあります。今回の“映画の中で活躍したミニカーの紹介”についても、数回にわたり書いていきます。
初回は、映画の中だけに使われて量産化されていない、いわゆる“ワンオフ”で製作されたクルマを特集します。
■記憶の中のクルマ
クルマには移動のための道具というだけでなく、一緒に楽しい時間やときには辛い経験を共有した大切な“相棒”となります。そしてその相棒に対して愛情が注がれていきます。
皆さんにも相棒とのいろいろな想い出があると思いますが、ミニカーには“その記憶を織り込んだカタチ”を可視化できる“想い出の記念品”として、いつも傍に置けるという役割も担っているのではないでしょうか。
最近、友人が 学生時代にジムカーナをしていた時に乗っていた「学生連合の特別なクルマ」がトミカで発売され、それを入手して大変喜んでいました。このように“想い出とクルマ”はその人にとって大事な記憶であり、そのクルマへの愛情は切り離せない関係なのだと思います。
想い出にまつわる話について、まずお話ししたいことがあります。
最新のクルマ開発において、コンセプト創造の基本はハードからの発想ではなく「ソフトからの発想」の時代になっています。
皆さんも「モノからコト価値」や「UX」というキーワードを見たり聞いたりしたことがあると思います。
UXとは「ユーザーエクスペリエンス=体験価値」という意味です。クルマを使うことや購入する目的が「単なる移動手段」ではなく、「愉しいコト(経験)を一緒に共有する道具」になっているからです。
単なる移動の道具であればシェアカーでこと足りますので、購入して愛玩する意味がありません。自分の大切な相棒として一緒に生活を共にするからこそ、「自分のクルマの価値」が存在するということなのです。例えば、バンパーの擦り傷さえも共に走った“想い出”になったりするのです。
今回のテーマである“映画の中のミニカー”も、感動した映画を思い出したりするばかりではなく、その頃の自分の思い出をだぶらせることができるアイテムとして、コレクションするのは嬉しいものです。
特に、映画に登場した“ワンオフ”でつくられた特別感のあるクルマがミニカーになっているというのは、ワクワクしてコレクションに加えたくなるのは心情ではないでしょうか。
映画の中で輝いていたワンオフのクルマですが、映画のためにつくられた特別な車両や、すでにコンセプトカーがあって、それを借りて映像を撮る二通りのケースがあります。
今回はそんなワンオフのクルマたちを、自分の記憶も交えながら紹介します。
■映画の中で活躍した唯一無二の(ワンオフの)クルマ
まずは、007ジェーム・スボンドのTOYOTA 2000GTです。もちろんワンオフで、この映画のためだけに改造してつくられました。量産車としての販売もありません。
TOYOTA 2000GT は、映画『007は二度死ぬ / 原題: You Only Live Twice (人生は二度しかない)』の中で活躍しました。
007はイギリス諜報員(スパイ)ですので、前作までのボンドカーは当然英国車代表の高級スポーツカーのアストンマーチンが使われました。英国紳士のヒーローと一緒に活躍するクルマとして申し分ない選択です。
日本が舞台となった第5作目の『007は二度死ぬ』では、日本を代表するクルマが登場しました。
最初の段階では流麗なクーペをそのままを使う計画でしたが、ジェームズ・ボンド(身長が190センチと背の高いショーン・コネリー)が格好良く乗り降りできるように、またそれを映すために、オリジナルのクーペボディの屋根を取り去ってオープンカーにしてしまいました!この作業は撮影の2週間前に突貫工事で行ない、ギリギリ間に合わせたとの逸話があります。時間が無かったにもかかわらずトヨタのスタッフががんばり素晴らしいオープンカーが製作されました。元のデザインが秀逸だからこそできた技ではないでしょうか。ボディ後方のトランクのデザイン処理など見事です。突貫工事にはとても見えず、初めからこのデザインが計画されていたかのように仕上がっています。一つだけ、雨の時に使うホロはダミーで動かなかったようですが、雨のシーンがないので問題はなかったようです。
こうしてつくられたのがTOYOTA 2000GTのオープンカーです。“ボンドカー”と書きたいところですが、残念ながら英国のファンの反対を懸念して(?)ジェームズ・ボンドが運転することはなく、ボンドカーにはなりませんでした。登場した日本人の女性諜報部員アキ役の若林映子さんが運転していました。
『007は二度死ぬ』のボンドガールというと、007シリーズの中で、ジェームズ・ボンドが唯一結婚した浜美枝さんが有名ですが、当時免許が無くて、仮免許を持っていた若林映子さんが運転する役を仰せつかったのだそうです。筆者も浜美枝さんが運転していたと記憶していましたが、調べたところ、若林映子さんだとわかりました。もちろん 若林映子さんが演じた“アキ”もボンドガールです。
後日談ですが、若林映子さんも仮免許のあと進まず、免許を取得されなかったようです。撮影後、TOYOTA 2000GTをもらえるという話があったそうですが、免許が取れなかったので断ったそうです。なんともったいない! トヨタはツイッギーに気前良く2000GTをプレゼントするなど、日本もおおらかな時代でした。当時は、高価だったので売れないで余っていたのでしょうか? 国産車のスポーツカーよりポルシェなどの舶来のスポーツカーの方が、価値があった時代なのだと思いました。
ミニカーの話に戻ります。世界的に超有名なシリーズ映画ですので、TOYOTA 2000GTのオープンカーのミニカーはたくさん出ています。
まずは一番代表的な “コーギー”のミニカーです。このミニカーは先のブログでも紹介したように、映画の上映と同時に発売されました。タイアップだったのです。ミニカーにはフィギュアが付いています。映画の中のワンシーンを再現していて、ジェームズ・ボンドは助手席で後方に向かって銃を撃っています。運転席にはなんと、着物を着た女性 (若林映子さん)のフィギュア!……ですが、映画の中での若林映子さんはスカーフを巻いたモダンな装いでした。コーギーのミニカーでは、設定が日本だから着物…… ステレオタイプの“ご愛敬”だと思います。
第1回目にご紹介したオートアートの1/18モデルですが、実はこのモデルは2種類出ているのです。
オープンカー仕様(パッケージ箱にはカブリオレと書いてある)と、映画の中のボンドカー仕様です。驚くことにパッケージが異なるだけではありませんでした。ミニカーのボディから異なるのです!以前書きましたが、鋳造型の製作は大変高価で、しかも維持していると税金がかかるのです。ですので、普通は鋳造型はなるべくつくらずに済むように考えるはずで、効率的に共用のボディ型で違うモデルをつくったりするわけなのですが、このモデルは逆のことをしています。さすがに人気絶大のTOYOTA 2000GTオープンカーなので手を抜かないのだと思いました。
仕様の違いですが、オープンカー仕様はリトラクタブルヘッドランプが持ち上がるギミックが入っていますが、007ボンドカー仕様はヘッドランプのギミックが無く、フードには分割線の“スジ掘り”だけが入っています。これはたいへん不思議に感じました。ヘッドランプの開閉ギミックがある方が購入者は喜ぶと思うのですが、007ボンドカー仕様は、鋳造型を変えてまでオミットされているのです。
他のギミック違いですが、007ボンドカー仕様は映画の中で使われた武器の発射のコントロールユニットや無線機が、インパネコンソールとリヤシートの後ろのリッド(蓋)を開けることで現れます。このような凝ったギミックを表現できるのも、オートアート1/18ならではの“技”ではないでしょうか。
その他のTOYOTA 2000GTオープンカーはたくさんミニカーがつくられました。
UCCの缶コーヒーの食玩でも007ミニカーが付いていました。オマケですがたいへん良くできています。
007のボンドカーですので、アストンマーチンDB5やロータスエスプリもあります。
TOYOTA 2000GT以外の映画(テレビも含む)で観た“特別な1台”のクルマたちの解説をします。
クルマが大好きなアメリカ人がつくる映画やテレビシリーズの中で、幼少の頃テレビっ子だった筆者が 特に毎週愉みでドキドキしながら観ていたのは『バットマン』でした。(1966年~1968年まで放映)。
何といっても“バットモービル(初代)”が魅力的でした。そして、このクルマが後世へ与えた影響はとにかく大きかったと思います。もちろん、ワンオフで製作された唯一無二の1台です。
製作の逸話も魅力的ですのでご紹介します。
ベース車はフォードリンカーンのコンセプトカー、フューチュラで1955年に25万ドルでつくられたモーターショーで発表されました。デザインはフォード社内で、製作は有名なカロッツリアの“ギア”です。バットモービルを見た時、最初に目をひく“ふたコブのグラスキャビン”はこのクルマですでにデザインされており、当時ものすごく斬新でした。1950年代のアメリカ社のデザインはとにかく航空機の持つスピード感をデザインに取り入れるのが流行していて、リヤに羽根がくっ付いているのですが、このフューチュラはリンカーンらしい非常にモダンで伸びやかなデザインが施されていました。
このクルマを1966年にバットマンカーに改造するのですが、カスタムカー製作で有名なジョージ・バリス氏が担当します。後のインタビューで、製作期間が15日しかなかったので、すでに半分魅力的なデザインができているリンカーン・フューチュラをなんと1ドルで購入して製作したのだそうです。
斬新でモダンなフューチュラをベースに、こうもり顔を織り込み、リヤにはジェットエンジンのエグゾーストパイプを中央に配置したバットモービル。バットマンの画面に映える見事な改造が施されています。後日談ですが、ジョージ・バリス氏が保管していたバットモービルが2013年のオークションに出品され、460万ドル(約6億円!)で落札されました。
SF映画の傑作、『ブレードランナー』(1981年)は、近未来、レプリカントと呼ばれるアンドロイドとの戦いがテーマでした。原作は、フィリップ・K・ディックのSF小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』です。
この映画に登場する空飛ぶクルマは“ポリス・スピナー”というネーミングで、斬新な未来を描く巨匠シド・ミードがデザインしています。「スピナー(Spinner))」は、劇中に登場する架空の空飛ぶクルマの総称で、劇中では主に警察のパトカーでした。この映画では4台の実物大モデルを製作。改造しやすいビートルのシャーシとエンジンを流用してつくられたとのことです。
当初シド・ミードは車両のみのデザインを委託されていたのですが、ミードは自身のデザインに対する姿勢として「工業製品は、それが使用される状況や環境とセットでデザインされなければならない」というポリシーを持っており、シド・ミードから提案された「未来の乗用車」のカラーイラストの背景に描かれた未来都市のイメージに魅了された映画制作側が、車両以外にも室内インテリア、未来の銃、パーキングメーター、ショーウィンドー等のセットや小道具のデザインを追加で依頼、さらに建築、都市の外観、列車や駅、コンピュータ等のインターフェースに至るまで、作中に登場するさまざまな工業製品のデザインがシド・ミードの手にゆだねられました。この時、映画のエンドロールで「ビジュアル・フューチャリスト」となっていたのをきっかけに、シド・ミードはこの表現を気に入ってこの映画以降、自分の肩書に使用していたとのことです。
シド・ミードのスピナーは「従来の内燃機関、ジェットエンジンに加え、反動力エンジンという3つのエンジンによって推進されている」と記述されています。スピナーもミニカーが出ています。
『時計じかけのオレンジ』(1971年)という映画があります。これもゆがんだ未来の映画で『2001年宇宙の旅』のスタンリー・キューブリック監督がメガフォンを取っています。この映画では、M-505 Adams Brothers Prove 16というコンセプトカーを登場させていました。クレージーな主人公や仲間を乗せてオープンで走っていました。このコンセプトカーですが1969年にマーコス(英国)の設計者だったアダムス兄弟によって設計されました。3台作成されそのうちの1台はピーターセンミュージアムに長期保管されていましたが2020年にオークションに出されました。
エンジンは1.9L、リヤミッドシップに配置され、空力性能など妥協を許さずにデザインされています。
このようなレアなコンセプトカーですが、ミニカーがつくられていました。
ハリウッド映画で活躍したクルマといえば、『バック・トウ・ザ・フューチャー』(1986年)のタイムマシン・デロリアンが最も有名なのではないでしょうか?映画は3部つくられましたので、デロリアンも3車種ありました。デロリアン車とその実車DMC-12そのものにも夢のあるストーリーと、大きな挫折がありました。そして、カーデザイン界の巨匠ジョルジェット・ジウジアーロ氏の魅力的なデザインが“タイムマシン”にカスタマイズされたのです。話題にならないわけがありません。
有名な話ですが、この映画で使われる予定だったタイムマシンは最初“冷蔵庫”だったそうです。これがデロリアンになった背景は、冷蔵庫だと子どもが中に入って危険だということでした。冷蔵庫は外からは開きますが、中からは開かない構造になっています。真似をして中に入った子どもが危険にさらされてしまいますから、この企画は中止になり、デロリアンが登場します。
映画の中では、ドクことエメット・ブラウン博士が、自らの愛車DMC-12デロリアンを改造して製作しました。ドクによれば、DMC-12が改造のベースに選ばれたのは、「タイムマシンにとって塗装されていないステンレスボディが好都合」および「見た目のかっこ良さ」が理由になっています。このタイムマシンであるデロリアンを加速させ、時速88マイル=約141m/hの速度で走行または飛行しているとき、ドクがトイレで頭を打った時に思いついた次元転移装置へ1.21ジゴワットの電流を流すことにより、タイムサーキットに設定された日付と時刻へ時を超えてタイムトラベルを行なうという設定になっています。
劇中で、初めて過去にタイムトラベルした時に、突っ込んだ農家の納屋から出てくるシーンは、UFO(未確認飛行物体)のようで、デロリアンはステンレスむき出しの鈍いシルバーのボディとガルウイングで、まさに宇宙船そのもので、これが採用の決定打になったようです。
ご存知のように、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は3部作で、デロリアンも3段階で進化を施されます。
筆者は、2番目の最後のシーンで、ドクがタイヤを格納して空飛ぶタイムマシンに変化して、画面からこちらに向かってスクリーンから飛び出さんばかりに飛んでくるシーンが大好きです。テーマソングのヒューイ・ルイス&ザ・ニュースの「パワー・オブ・ラヴ」がハートと脳に響き渡りました!
映画って本当に良いものですね!
次回は改造されていない量産車が映画の中で印象的なシーンを彩ったクルマとそのミニカーの解説をしたいと思います。