第20回 米国+日本設計車の双方が成功したホンダ&マツダ

2023年9月24日

毎日のように報道され騒がしかった2000年問題は、自動車業界には何も影響を与えることなく、各社ともに国内および海外モデル開発に専念してゆくことになる。日本国内においては1989年に旧来の物品税から新たに消費税が導入され乗用車登録車にあっては3ナンバー車23%、5ナンバー車18.5%、軽乗用車15.5%から1997年まで6%課税に減額され、軽自動車を含む総市場は、1988年から1990年の2年間で約100万台の増加をみている。さらにエコカー減税制度も施行され購買意欲が高まってゆくことになる

これには、バブル時代の1988年に発売された日産セドリック・シーマに代表される、大型乗用車ブームが到来、トヨタも対抗策として1989年に北米でレクサス、日本ではセルシオとして市場投入した。こうした大型乗用車時代の到来に、ミニバン設計者達も新規一転して新型車開発に入るわけだが、それらが実際に企画できたのは2000年代に登場するトヨタ アルファード、日産エルグランド、三菱デリカD:5程度であった。

時代は環境問題にともなうハイブリッドやEV化、未来的には水素化などの実用性について研究している段階であり、多くの新技術について各社の方向性が定まらない時期でもあった。従って主流モデルは依然としてガソリンエンジン搭載車であり、低燃費車を求めながら、実際の経済性についての探求はまだまだといえた。

安全性についてもオフセット衝突に対するボディの強化が必須となり、装備面ではナビゲーションシステムはもとより、電子制御で操作される装備も年ごとに増えてゆき、そのために各社が下請けメーカーの技術レベルを比較するようになってゆく。

2000年以降の各社の傾向として、新型また改良モデルが市場に受け入れられていないと判断した場合には、速やかにマイナーチェンジを実施して、その要素を解消する時代を迎えていた。数ヵ月もしないうちに仕様変更が行なわれ、それにともないカタログの内容が変更されたりして、セールスマン達を慌てさせることがあったりした。

各社が北米市場向けに専用モデルを開発しつつ、国内に持ち込む姿勢をみせつつも、特に道幅が狭い日本の道路事情などで、車両の大きさがネックになっていた。当初は歓迎されなかった大柄の海外生産または海外向け車両も、どうにか2000年代には受け入れられて国内に投入され、ミニバン市場も活性化された。

他方で小型車枠にこだわった各種ミニバンも登場している。装備面では大型車に準じた内容が盛り込まれ、特に車体強度増強のボディや交通事故防止のためのリヤビューカメラ、カーナビゲーションなど運転補助のための各機能が必須となってゆく。

アメリカ向けに設計されたホンダ オデッセイが、1994年10月の発売から2000年6月末までの69ヵ月で、累計登録台数50万台を達成。この時代になると海外生産も北米はもとより中国、欧州などに拡大してゆく。エンジンは公害対策、車体は衝突実験、機能ではカーナビゲーションシステム、装備ではシートの工夫など、乗用車のセダンよりも設計者の能力が必要とされた。ゆえにミニバンのヒット作を出した設計者が経営者となることも少なくなかった。

ミニバン充実期の2000年代に突入、今回は偶然にもマツダやホンダ車が多数を占めたが、トヨタ・日産も新型車を投入してゆくのであった。

三菱のシャリオ グランディスは1997年10月にフルモデルチェンジ、14ヵ月で約8万6000台を販売、月販平均6000台超えで三菱製ミニバンの人気車となった。さらに他社新型に対応すべく1999年2月、ツインサンルーフをメーカーオプションで全車に設定。このカタログのSUPER EXCEED LIMITED 4WDは300.8万円、2WDは276.8万円、廉価車MXの2WDは212.5万円に設定してロングセラー化を狙ってゆく。同年10月には豪華車ロイヤルを投入、さらに2001年10月には値下げを実施して、2003年に新型登場となる。
初代発売から11年、1999年1月に北米でMPVコンセプトを公開後、3月のニューヨーク国際自動車ショーにて2代目マツダMPV発表、1999年6月に発売。初代のSUV的な外観から、スマートなデザインになって登場。2000年8月から2.0リッター車のラインナップを充実させてゆく。
当初のラインナップは、MPV標準車が2.0リッター直4のDOHC、135ps搭載。主軸は2.5リッターV6のDOHCフォード製エンジン搭載車で170 ps、電子制御4速コラムATを採用してLパッケージ、スポーツパッケージ、Gパッケージを展開。2002年4月からパワートレインを直4、2.4リッター、V6、3.0リッター+5速ATに変更。以降スポーティモデルを追加してゆく。
新たに「KARAKURI=からくりシート」を採用。着座したまま左右にもスライドできる2列目シートは、キャプテンシートとベンチシートの両方の使い方が可能。さらに3列目シートは床下に格納でき、停車時には後方に回転させ、後ろ向きに座れる機能をもつ。加えて「後席両側スライドドア」など、使い勝手の良い機能を充実させていた。 
スイスのジュネーブショーに展示後の1999年4月に発売されたのがマツダ プレマシー。2代目MPVのフォルムを小さくしたようなコンパクト・ミニバンで、ベースはファミリア。小柄なボディに3列シートを搭載、7人乗りが可能ということでカタログには「7シーターカプセル」の表現がみられた。
運転席と助手席間、前席と2列目間のウォークスルーが可能。3人掛けの2列目シートは前後1800mmのロングスライドができる。7人乗り仕様の3列目シートは、シングルフォールドとダブルフォールドが行なえ、脱着機能も備えていた。
2+3の5シーター、2+3+2の7シーターの多彩なシートアレンジによる多用途性を持ちながら、優れた操縦安定性を目指した。ダッシュ部分はほぼ同時期に登場のMPVとの共通性が一部にみられる。フルオートエアコンには、アルデヒド除去機能付きエアフィルターを初採用したことをアピールしていた。
サイドエアバッグも備えた安全設計が特徴。全幅1695mmは小型車最大級といえ、この頃のファミリアも同様。さらにファミリアよりホイールベースを60mm伸ばし、全高を150mmほど高めたシャシーで3列目のシートを確保している。全長を4.4mに収めたコンパクト・ミニバンの注目車でもあった。
当初は直列4気筒1.8リッター、16バルブDOHCエンジンを搭載し135ps/6200rpm。1999年8月には、このカタログにあるスポーツパッケージをさらにチューンした2.0リッター、170psを搭載した、16インチホイール装着のスポルトを加えて販売力を高めてゆく。4WD車には本格的なビスカスLSD付きフルタイム4WDシステムを採用していた。
1999年6月登場のホンダ ラグレイトは、ミニバンの本場の北米市場において高い人気を獲得。現地名はなんと“オデッセイ”で、全長5.1m、全幅1.93mの大型ボディを持つのが特徴。ホンダ・カナダの四輪工場に新設された専用ラインで生産された輸入車で、ホンダクリオ店から発売された。 
ラインナップは2モデル、左のラグレイト エクスクルーシブは396万円、中央のラグレイトは366万円。右はオプション装着車で、国内における年間販売計画台数は3500台。振動や走行音を大幅に低減させ、上級車に相応しい優れた静粛性を実現した……とアピールしての登場だった。
ホンダ・オブ・アメリカのアンナ工場製の新開発60度バンクV6、 3.5リッター VTECエンジンを搭載。最大出力205ps/5200rpm、最大トルク:30.2kgm/4300rpmは新設計したもので、平成12年排出ガス規制値をHC、NOx、COとも50%以上も下回る「HONDA LEV」適用車となっていた。
開発コンセプトには、「ゆとりともてなしの空間」「用途に合わせてアレンジできる2列目・3列目シート」との表現がある。米国運輸省道路交通安全局、略称NHTSAが行なった側面衝突テストにて、「オデッセイ」(日本名「ラグレイト」)が、全乗員に対し最高安全評価5スターを獲得。前面衝突テストにても運転者、助手席者に対して5スターを獲得していた。
ダッシュパネルの主要部に木目調パネルや本革内装の設定など、質感にこだわった上質なインテリアとしている。また各席には独立したエアコンディショナーの吹出口を装備していた。
ラグレイトの開発コンセプトは「上級セダンの走りと質感を持ちながら、これまでにない大きなゆとり」と「乗る人すべてに快適な居住空間を提供」させ「新たな価値を持つ上級車=プレミアムライフ・ビークルを目指した。」というもの。 今日では軽自動車にもみられるが、当時の高級装備として「後席乗降性を高めたリモコン式左右電動スライドドア」を採用していた。
ホンダは第33回 東京モーターショーに「次期オデッセイプロトタイプ」を参考出品、1999年12月から発売されたのが日本向けの新型オデッセイだった。1994年10月の初代発売以来、国内販売累計42万台を超えるベストセラーカーのオデッセイをフルモデルチェンジしたものである。北米向けは、既述のように豪華なラグレイトがオデッセイの名で販売されたが、日本には大きい車体のため、「使い勝手のさらなる向上など、初代オデッセイの個性を徹底して磨き上げ」て登場した。
直列4気筒エンジン車を1999年12月より、V型6気筒車を、2000年1月より発売。Sタイプと最量販をめざすMタイプ(FF)は、安全・環境性能の向上とともに、各種装備の充実を図りながらも価格を据え置き、上級のLタイプ(FF車)についても、7インチディスプレイ/TV付ナビはじめ、3列目ヒーターなどを標準装備としながらも、従来モデル比7万円高とし、買い得感のある価格設定としていた。
2001年11月にはマイナーモデルチェンジを実施。車高を15mm下げ、低重心ローダウンサス、大径17インチタイヤなどで走行性能を向上させたアブソルートを投入。モデューロのディーラーオプションなども充実させ、販売計画台数(国内・月間)は当初の6000台から5000台とされた。
プレステージ(V6仕様)の専用色であったトパーズシルバー・メタリック(写真)を2.3リッター車に設定、お買い得感のある廉価車とした Sタイプ特別仕様車「スマートスピリット」を追加して1999年8月19日より発売。東京での価格は200万円以下、月間3000台とされ注目された。
全タイプ、7人乗りベンチシート仕様と6人乗りキャプテンシート仕様を設定し、前・中・後席の3列シートそれぞれの快適性を追求。また、前後に380mmスライドが可能な2列目シート、ビルトインタイプのエアコンの採用、スペアタイヤの床下収納などで快適さを増していた。
新タイプのアブソルートは、車高を15mm下げた低重心フォルムで、スポーティ・ミニバンの新しい価値を提案。専用グリルやフロント&リアバンパー、フロントロアスカート、専用17インチアルミホイール、専用ブラックの内装、新デザインの立体自発光メーター、運転席8ウェイパワーシートなどの専用インテリアを採用。以降、アブソルートの名はオデッセイのフラッグシップ車として続けられてゆく。
搭載エンジンは点火時期の最適設定と高圧縮比化、電動EGRバルブの採用などで、低・中速域でのトルクの向上とともに、発進時から高速走行までスムーズな加速性能を目指した直4、2.3リッターF23A型VTECは出力150ps/5800rpmで、11.0km/Lの燃費性能。V6の3.0リッターJ30A型 VTECは出力210ps/5800rpmで、燃費は9.2km/L。
5ナンバーサイズのコンパクトボディに、3列シートの「7人乗りとしての快適な室内空間とスタイリッシュな外観、スポーティな走りを高次元に融合した新型ミニバン」として、ストリームを2000年10月よりホンダから発売。なんと発売10ヵ月で10万台突破という人気ぶりだった。
ストリームのコンセプトは「新価値7シーター」。21世紀に向けた7名乗車のクルマとして、「新世紀を予感させる先進スタイル」「パーソナルでも楽しめるスポーティな走り」「快適で洗練された革新ミニバン空間」の3つのテーマで開発されたもの。トヨタのOPA的はフォルムながら、3列シートで価格が20万円以上安いことで人気が沸騰。
シビックから採用したグローバル・コンパクトプラットフォームを活用することで、低重心・低床パッケージングとなり、セダンに匹敵する走行性能と高いユーティリティ・快適性を実現したとしている。安全面では、Gコントロール技術による世界最高水準の衝突安全性能や歩行者保護技術など、高い性能を確保している。
コクピットはホンダの上級モデルに勝るとも劣らないデザインを採用。価格以上の質感が感じられ、操る楽しみを与えてくれる……ようにデザインされているのが特徴といえる。スマート・キャビンと称される室内の工夫も、「カタログにしっかりと寸法を入れ、計測しなくても荷物の積載が可能か否か、把握できるようにしていた。
またホンダは、エンジンに「高知能化機構」を採用することで、「燃費の向上」「排出ガスのクリーン化」「パワフルな加速感とスポーティな走り」を、さらに高次元なものに進化させる新世代のエンジンシリーズを「i-シリーズ」エンジンと名づけて展開。ストリームには第一弾となる「2.0L DOHC i-VTEC」エンジンを採用した。
価格帯は1.7リッターVTECのFF車が、Gの158.8~Lの169.8万円で、カタログに価格が刷り込まれるようになったのも、この頃からだった。全タイプが運輸省「優-低排出ガス」認定を取得するなど、高い環境性能をアピール。販売計画台数は国内・月間6000台だったが、価格が手頃だったのか……なんと月販1万台に届くことになる。
ホンダは1996年5月の発売以来、累計約47万台を販売したステップ ワゴンを2001年4月にフルモデルチェンジした。カタログは初代同様に子供に親しみのあるイラストによるデザインで、自動車用とは思えない感覚とセンスが駆使されていた。
コンセプトは「子供を中心とした家族のバンザイ」。子供の視点からクルマを見つめるという新しい発想のもと、「広さと機能を追求した空間設計」「心地よさと経済性と扱いやすさを融合させた走り」「空間の広さや楽しさを映すスタイリング」の3つの要件を満たすよう開発されたという。
フロントショートノーズ設計と低床フラットフロアの採用により、室内長と室内高をそれぞれ拡大、ユーティリティを向上させている。3列のシート機構は「遊(対座)・食(レストラン)・寝(3列フルフラット)・積(カーゴ)」の4つのモードを可能にしたと説明している。3列目シートを左右跳ね上げれば荷室長1737mmのカーゴスペースが現れる。
前モデル比で室内長を70、室内高15、室内幅40各mm拡大、さらにゆったりした室内空間とした。ステップも45mm下げられ、アシストグリップの最適な配置により、乗降性を向上させている。パワースライドドアは、インストルメントパネルにあるスイッチと、キーレスエントリーシステムのリモコンで開閉操作が行なえる。
エンジンは、「i-シリーズ、2.0リッターDOHC i-VTEC」を採用。最高出力160ps、13.2km/Lの燃費性能で、平成22年燃費基準に適合。さらにペロブスカイト三元触媒システムの採用で、貴金属の使用量を大幅に削減しながらも国土交通省「優-低排出ガス」認定を取得するなど、高い環境性能も実現した。
ラインナップはK、I、D、Yの4タイプで、それぞれにFFと4WDを用意。ホンダ ストリーム同様に、カタログページに価格が掲載されている。アルマスは従来のサイドリフトアップシート車に加え、助手席リフトアップシート車も新設定。価格は約50万円高。ステップ ワゴンの販売計画台数は国内・月間8000台となっていた。
2001年4月、日産は小型キャブオーバーバン、キャラバンをフルモデルチェンジ、E25型として5月より全国一斉に発売した。実に15年ぶりのフルモデルチェンジで、「お客様が『儲け』を確信し、運転者が『使い易さ』を実感できる『安心』の先進1BOXビジネスパートナー」を開発コンセプトとしていた。ただしラインナップは4ナンバーのバン主体、スーパーロングの1ナンバーもあったが、ワゴン車はどうゆうわけか見送られた。
日産は、「これまでの商用車にはない、斬新で質感の高いスタイリッシュなエクステリアデザインを実現した。押し出しのあるフロントノーズが力強さと安心感を表現し、すっきりとした面構成で機能性を感じさせる。特にVX、GXは上質感とパーソナル性を感じさせるエクステリア/インテリアとした」と、キャラバンのデザインを説明している。
キャッチフレーズは「安全と荷室空間を両立した新世紀バン」。 開発に当たっては、商用車は保険料や有料道路料金などランニングコストの面で4ナンバー車(全長:4700mm以下)であることが重要な要素であるとした。この条件を満たすため、ロングボディ車の全長を4690mmとし、積載性を確保しつつ、車体前端部にクラッシャブルゾーンを設けるなど、衝突安全性を高めるボディ構造を採用している。なお1ナンバー車のスーパーロングボディ車の全長は4990mm 。
2002年9月、オーテックジャパンは、2WDディーゼルターボ車をベースとした4WD車を設定。あわせて特別仕様車「ライダー」を新たに設定、ライダーは「商用車ユーザーの中でも特に外観、内装にこだわりを持ち、より個性的なクルマを求めるお客様」をターゲットとし、バンをベースに存在感と迫力のある外観とスポーティな内装でトータルコーディネートした特別仕様車と説明されている。専用のフロントバンパー、フードトップモール、フロントフォグランプなどを装備。価格は246.9~302.6万円で、エンジン、2WD/4WDなどで差異があった。
AWK=オートワークス京都は戦前にプロペラなどを生産、戦後に新日国工業としてトラック・バスに着手。1959年に日産車体京都工場、2001年にオートワークス京都となる。工場は京都の宇治、神奈川の平塚。九州のオーテックジャパンからの仕事も受注、E25系救急車やパラメディック系も手がける。
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