第131回 サンビーム アルパイン

2023年7月27日

 今回は2代目サンビーム アルパイン(Sunbeam Alpine)について紹介する。

 サンビームの歴史は古く、1899年に最初のプロトタイプを製作し、1901年には生産車を発売。その後2.4~6.3リッターエンジンを積んだ多くのクルマを生産してきた。1920年にはサンビームは、タルボット(Talbot)、ダラック(Darracq)、商用車メーカーのW. & G. デュクロス(DuCros)などを傘下に収めるSTDモーターズ社の一員となった。その後もクルマの生産のみならず、レーシングカーや速度記録にも挑戦してきたが、1935年に経営破綻し、サンビームはヒルマン(Hillman)、ハンバー(Humber)などを生産するルーツ・グループ(Rootes Group)に買収された。この時点でサンビームの車名は途絶えるが、1938年にルーツの傘下でサンビーム・タルボット社(Sunbeam-Talbot LTD.)が設立され、サンビーム・タルボットの車名で復活する、この時登場したのがレイモンド・ローウィ(Raymond Loewy)デザインのサンビーム・タルボット10で、戦後の1948年まで生産された。

 第二次世界大戦後、イギリスは物理的にも精神的にも経済的にも疲弊しきっていた。戦費を賄い続けるために、政府は何十億ドルもの借金をせざるを得なかった。そこで英国政府は、産業界が国内市場より輸出を最優先とする政策をとるようにしたため、英国の自動車産業は輸出、特に米国への自動車輸出に全精力を傾けた。

 英国の自動車メーカーが特に力を入れたのがスポーツカーで、

① ジャガーは1948年にXK120、1957年にXK150、1961年にはは近代的なEタイプを発売。

② オースチンは1952年にオースチンヒーレー100、1956年に6気筒の100/6、1959年には「ビッグヒーレー」と呼ばれる3000を発売。

➂ トライアンフは1953年にTR2、1955年にTR3、1961年にはTR4を発売。

④ MGは1955年にMGA、1962年にはMGBを発売している。

 ルーツ社では1948年に発売したサンビーム・タルボット90のドロップヘッドクーペ(コンバーティブル)をベースに、2シーターのロードスターを「サンビーム アルパイン」の名前で1953年に発売した。しかし、コンペティターと競り合う力はなく、わずか2年で姿を消してしまう。

 そして遅ればせながら、1959年に登場したのが今回紹介する2代目サンビーム アルパインである。

1953年に登場した初代サンビーム アルパイン

 このクルマはルーツ社で開発されたものではなく、英国のボーンマス(Bournemouth)にあるルーツ社製品のディーラーでルーツ車のチューナーとして知られるジョージ・ハートウェル(George Hartwell)が、サンビーム・タルボット90ドロップヘッドクーペをカスタマイズして2シーターとしたワンオフモデルをベースに若干の修正を加えて量産モデルに発展させたもの。生産はサンビーム・タルボット90ドロップヘッドクーペと同じスラップ&メーバリー(Thrupp & Maberly)社で行われた。

 2.3L直列4気筒77馬力エンジンを積み、車両重量1295kgと重く、最高速度153km/hと遅かった。そして、トランスミッションはスポーツカーらしからぬコラムシフトであった。ちなみに1953年に登場した トライアンフTR-2は2L直列4気筒90馬力、車両重量902kg、最高速度173km/hであった。

初代サンビーム アルパインのカタログ。

2代目サンビーム アルパインの開発

 2代目サンビーム アルパインの開発構想は1955年に始まったと言われる。1956年にはコベントリーのハンバーロードにあったスタイリング部門でデザインの検討が始まった。1950年代中ごろに登場した新世代プラットフォームは、ハンバーの110インチ(2794mm)を除いて96インチ(2438mm)であり、唯一ヒルマンベースのバン「ヒルマン ハスキー」が86インチ(2184mm)であった。2代目サンビーム アルパインはショートホイールベース「ハスキー」のフロアパンを採用し、多くのコンポーネンツを「サンビーム レイピア」と共用すると決定。1958年にはプロトタイプの製作を開始した。開発作業はコベントリー(Coventry)にあったアームストロング・シドレー・モーターズ社(Armstrong-Siddeley Motors Ltd.)の工場で行われた。そして、生産立ち上がりから1962年3月までの生産もアームストロング・シドレー・モーターズ社で行われた。

上段はアルパインがフロアパンを共用したヒルマン ハスキー。下段は多くのコンポーネンツを共用したサンビーム レイピア。

サンビーム アルパイン シリーズⅠ(1959~1960年)

 1959年7月発売されたサンビーム アルパイン シリーズⅠ。エンジンは1494cc直列4気筒OHV圧縮比9.2:1(一部の海外市場向けは8.3:1)、ツインZenithダウンドラフトキャブ、83.5hp/5300rpm(カタログにトルクの表示はない)+フロアシフト4速MT(2~4速シンクロ付き)を積む。オプションでLaycock製オーバードライブ(3速、4速に作動する)が設定されていた。サスペンションはフロントがダブルウイッシュボーン+コイルスプリング、リアは半楕円リーフ+リジッドアクスル。ブレーキはフロントがGirling製ディスク、リアはドラム。サイズは全長3943mm、全幅1537mm、全高1308mm、車両重量982kg。生産台数は1万1904台。

 米国市場における1960年モデルの価格比較はサンビームアルパイン:2595ドル、オースチン ヒーレー3000:3051ドル、MG MGA1600:2444ドル、トライアンフ TR3A:2675ドルであった。

上の2点はシリーズⅠ右ハンドル車のカタログ(Ref. No. 638/H)。シリーズⅠにはドア先端のドアガラスガイドレールが無いので識別できる。センターロックワイヤホイール、スチール製ハードトップ、ホワイトサイドウォールタイヤ、トノーカバー、ヒーター、ラジオなどはオプションであった。

上の2点はシリーズⅠ左ハンドル車のカタログ(Ref. No. 7180/EX/LHD)。クルマの外観の絵にはステアリングホイールが描かれていない。これはルーツ系のカタログによく見られたが、左右どちらのハンドル仕様にも使えた。

上の2点はアームストロング・シドレー・モーターズ社の工場で生産されるサンビーム アルパイン シリーズⅠ。

 1960年6月を最後にアームストロング・シドレー・モーターズ社はアームストロング・シドレー車の生産を終了しており、1962年3月、アルパインの生産もアームストロング・シドレー・モーターズ社からコベントリーのリトン・オン・ダンズモア(Ryton-on-Dunsmore)にあるルーツ社の主力工場に移されている。

サンビーム アルパイン シリーズⅡ(1960~1963年)

 1960年10月発売されたサンビーム アルパイン シリーズⅡ。エンジンは拡大され、1592cc直列4気筒OHV圧縮比9.1:1(一部の海外市場向けは8.5:1)、ツインZenithダウンドラフトキャブ、85.5hp/5000rpm(カタログにトルクの表示はない)+フロアシフト4速MT(2~4速シンクロ付き)を積む。他のスペックはシリーズⅠと同じ。生産台数は1万9956台。

上の2点はサンビーム アルパイン シリーズⅡ右ハンドル車のカタログ(Ref. No. 7247/Ex/RHD)。シリーズⅠには無かったドア先端のドアガラスガイドレールが追加された。これにより高速走行時にドアガラスが外側に曲がるという不具合が解決された。

上の2点はいずれもサンビーム アルパイン シリーズⅡのカタログで、左側が右ハンドルの英語版(Ref. No.7253 EX./RHD)、右側が左ハンドルの独語版(Ref. No. なし)。左ハンドル用の表紙は裏焼してガソリンの給油口を消し、フロントフェンダーのAlpineのバッジ修正を加えて使用している。

サンビーム ハリントン(1961~1963年)

 英国サセックス州のコーチビルダー、トーマス ハリントン社(Thomas Harrington Ltd.)が、ルーツ社の公認とサポートを受けてカスタマイズしたスペシャルモデル、「サンビーム ハリントン アルパイン(タイプA)」が1961年3月に登場。これはアルパイン シリーズⅡにグラスファイバー製のファーストバックのトップを取り付けたものだが、ヘッドルームは量産型ハードトップより51mm高い。量産型エンジンのほかに、ジョージ・ハートウェル社(George hartwell Ltd.)による3種類のチューニングキットも用意されていた。価格はハードトップ付き量産型アルパインの1046ポンドに対し、ハリントン アルパインは1225ポンドであった。

 1961年6月、2台のワークス アルパインがルマン24時間レースに挑戦、1台が総合16位、そしてIndex of Thermal Efficiency賞を受賞している。

 1961年10月、トーマス ハリントン社からタイプBとして「サンビーム ハリントン ルマン」(アルパインの名前が落とされた。アメリカではLe Mans GTと呼ばれている)が発売された。

上の2点はサンビーム ハリントン ルマンのカタログ。アルパイン シリーズⅡがベースだが、ドアから後ろはジャガーEタイプクーペにインスパイアされたと言われるハッチバックで、スチールのロアパネルとグラスファイバーのアッパーパネルの結合には新しい接着技法が採用されている。エンジンはジョージ・ハートウェル社のチューニングによる、1592cc直列4気筒OHV圧縮比9.5:1、ツインZenithダウンドラフトキャブ、104hp/6000rpm、14.5kg-m/4500rpm+フロアシフト4速MT(2~4速シンクロ付き)を積む。価格は1495ポンドでハードトップ付き量産型アルパインより415ポンド高価であった。トーマス ハリントン社およびルーツ社が期待した目標生産台数は1000台であったと言われるが、実生産台数は250台ほどであった。1963年3月、サンビーム アルパインがマイナーチェンジしてシリーズⅢとなったのに伴い、樹脂型の変更が必要となったが、多くの需要が見込めないことから生産を断念している。

サンビーム アルパイン シリーズⅢ(1963~1964年)

 1963年3月発売されたサンビーム アルパイン シリーズⅢ。スチール製ハードトップのデザインが大幅な変更を受け、グレードがスポーツツアラー(Sports Tourer)とグランツーリスモ(GT、ハードトップモデルのみ)の2種類となった。エンジンは1592cc直列4気筒OHV圧縮比9.1:1(一部の海外市場向けは8.5:1)、ツインZenithダウンドラフトキャブ、87.75hp/5200rpm(GTモデルは80.25hp/5000rpm)+フロアシフト4速MT(2~4速シンクロ付き)を積む。サイズはホイールベース2184mm、全長3943mm、全幅1537mm、全高1308(GTは1333)mm、車両重量1003(GTは1044)kg。生産台数は5863台。

上の2点はサンビーム アルパイン シリーズⅢのカタログ(Ref. No. 7703/EX/RHD, LHD)。ドアに三角窓が追加され(開閉はできない)、ウインドシールド周りのデザインが変更された。ハードトップのデザインは大幅な変更を受け、新設されたクォーターウインドーは開閉可能。運転席周りの仕掛けは至れり尽くせりで、リクライニングシートは前後に178mm、上下は前19mm、後ろ25mm調整可能。ステアリングホイールはテレスコピック機能で64mm調整でき、ペダル高さは個々に41mm調整可能であった。スペアタイヤの収納もトランク内に平置き⇒奥に立ててトランクの深さを確保している。GTにはウォールナット合板のフェイシア、ウッドリムステアリングホイール、カーペット、2個のサンバイザー、ドアランプが装備され、幌を収納する必要がないため、後席はより広く、より快適な布張りになっている。ツアラーのエンジンにはカタログの絵のようなチューブラー排気マニフォールドが付くが、GTには鋳造排気マニフォールドが付く。全車にシートベルト用アンカーが標準装備された。但し、シートベルトはオプション。

上の2点はサンビーム アルパイン シリーズⅢのカタログ(Ref. No. 7719/EX/RHD, LHD)。発行年月は不明だが、先のRef. No. 7703とはエンジンのスペックが変更されている。キャブレターがツインZenith⇒シングルSolexに変更され、87.75hp/5200rpm(GTモデルは80.25hp/5000rpm)⇒86hp/5000rpm(GTモデルは82.5hp/5000rpm)となっている。このカタログは印刷された後で、エンジンスペック、Ref. No.部分が紙貼りで修正されている。しかし、エンジンの絵はツインZenithキャブレターのままであった。

上の2点はサンビーム アルパイン シリーズⅢの上段がスポーツツアラーで、下段がグランツーリスモ(GT)。フロントフェンダーのAlpineのプレートの下に「SERIES 3」のバッジが追加されている。

サンビーム ベネチア スーパーレジェッラ

 1960年代初頭にイタリアのカロッツェリア ツーリング社によって少数生産された、アルパインの近縁モデル「サンビーム ベネチア スーパーレジェッラ(Sunbeam Venezia Superleggera)」。エンジンとトランスミッションはアルパインと同じ、1592cc直列4気筒OHV圧縮比9.1:1、Solexキャブ、97ps/5800rpm、13.1kg-m/3500rpm+4速MT(2~4速シンクロ付き)を積む。しかし、プラットフォームはアルパインと異なり、ハンバー セプター(Humber Sceptre)をベースとしており、サイズはホイールベース2560mm、全長4490mm、全幅1560mm、全高1370mmで、4人乗りであった。

 Superleggeraはイタリア語で超軽量を意味し、細いパイプを組んで骨組みとして、それにアルミなどのパネルを貼り付けてボディーを造る工法で、イタリアのカロッツェリア ツーリング社が特許を持ち多くの作品を遺している。

上の2点はスイス、ジュネーブのROOTES AUTO S. A. – GENÈVEから発行されたサンビーム ベネチア スーパーレジェッラのカタログ(シート)。

上の5点はサンビーム ベネチア スーパーレジェッラのプレスフォト。

サンビーム アルパイン シリーズⅣ(1964~1965年)

 1964年1月発売されたサンビーム アルパイン シリーズⅣ。テールフィンが控えめになり、フロントグリル、サイドランプがデザイン変更され、バンパーオーバーライダーにラバーが追加された。オプションでボルグワーナー35オートマティックトランスミッション(AT)が設定された。グレードはシリーズⅢと同様、スポーツツアラーとGTがあるが、エンジンの設定は1機種で、1592cc直列4気筒OHV圧縮比9.1:1(一部の海外市場向けは8.5:1)、Solexダウンドラフトキャブ、87.75hp/5000rpm+フロアシフト4速MT(2~4速シンクロ付き)を積む。車両重量は989(GTは1011)kg。

 1964年10月にGTモデルが廃止され、フルシンクロ4速MTが採用された。シリーズⅣの総生産台数は1万2406台。

上の2点はサンビーム アルパイン シリーズⅣのカタログ(Ref. No. 7745/EX/RHD, LHD)。フロントフェンダーのAlpineのプレートの下には「SERIES Ⅳ」のバッジが付く。

テールフィンを控えめにしてバランスの良くなった後姿を誇示するシリーズⅣスポーツツアラー。

上の2点は1964年10月発行されたサンビーム アルパイン シリーズⅣのカタログ(Ref. No. 7772/EX/LHD, RHD)。GTモデルが廃止され、フルシンクロ4速MTが採用された。オプションのハードトップの色は標準は黒だが、車両オーダー時に発注すればボディーと同色とすることが可能であった。ホイールキャップはフルカバーとなった。

サンビーム アルパイン シリーズⅤ(1965~1968年)

 1965年9月発売されたサンビーム アルパイン シリーズⅤ。エンジンは拡大され、1725cc直列4気筒OHV、ツインZenith/Stromberg 150 CDキャブ、圧縮比9.2:1、100hp/5500rpm、15.2kg-m/3700rpm+フルシンクロ4速MTを積む。エンジンのメインベアリングが初めて5個となった(従来は3個)。サイズはホイールベース2184mm、全長3962mm、全幅1537mm、全高1308mm、車両重量992kg。生産台数は1万9122台。

 1964年6月、ルーツ社は米国のクライスラー社との金融取引を発表した。クライスラー社は直ちにルーツ社の30%の議決権株式と50%の無議決権株式を取得した。そして、1967年1月、英国政府の承認を得て、クライスラー社は正式にルーツ社の株式の過半数を取得した。

上の2点は1965年9月に発行されたサンビーム アルパイン シリーズⅤ左ハンドル車のカタログ(Ref. No. 7823/R/EX/LHD)。センターロックワイヤホイールはオプションから落とされ、オプションの項目には「以下のオプションは工場出荷時に追加料金で提供され、注文時にのみ指定できる。ラジオ、ヒーター、オーバードライブ、ホワイトウォールタイヤ、フロント合わせガラス」とある。裏表紙に記されたROOTESの前にはクライスラー社のエンブレム「ペンタスター」が加えられた。

上の2点はサンビーム アルパイン シリーズⅤ右ハンドル車のカタログ(Ref. No. 1178/H)。カタログに記された社名が「SUNBEAM TALBOT LIMITED」となり、ROOTESの前にはペンタスターが入っている。1968年1月、2代目サンビーム アルパインは生産を終了した。総生産台数は6万9251台であった。

シリーズⅤ発表時のプレスフォト。

次回はサンビーム タイガーを紹介する予定。

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