第14回 新開発・新型ミニバン達の黎明期

2022年12月29日

第2回で国産車の黎明期については述べているが、それは古き1950年代のことで、本稿で述べる今から30年程前=1990年代前半から遡ること、さらに40年ほど前のことになる。レイアウト的に重要なのがエンジンの位置といえるだろうが、その間、構造的には大きな変化がなかったことが判明する。

1950年代には、シートの下にエンジンのある丸ハンドル式三輪車のシャシー前部を二輪にした四輪キャブオーバー型が多く出現、マツダ・ロンパー、ダイハツ・ベスタ、くろがね・マイティなどがあったが、これらを参考にしてトヨタ、日産などがキャブオーバー車を仕立ててゆくことになる。今回、紹介するバネットセレナ、ライトエース、またミドシップとされたエスティマなどもレイアウト的には同じ範疇に入るだろう。

それ以前にあった、エンジンが前側=足元付近にある初代のトヨエースやキャブライトにみられる「通常の乗用車シャシーをバン型にした」フロント・エンジン+リア・ドライブのセミ・キャブオーバー型は1960年代からアメリカのミニバンなどにも波及する。しかし2代目トヨエースなどのトラック系から3人掛けシート+ティルト・キャブの採用で、キャブの下にエンジンを置く形式が多くなるが、バンにするとメンテナンス性のために“シート下エンジン”にならざるを得なかった。このことからワンボックス系ワゴン&バンはシート下またはエンジンを後退させたミドシップまたはリア・エンジンが採用されてゆく。

日本製ワンボックス・ミニバンは全世界に輸出され、加えて現地でのデザイン開発や生産などもあたりまえになってゆく。しかし日本の国情と合わない点も生じた。たとえば1990年代に登場したエスティマが日本では幅が広いので売りにくい……となり、全幅を110mm狭めたエミーナ&ルシーダを投入、逆にバネット系のセレナは小型車規格、ラルゴはわずかながら45mm小型車枠を拡大、セドリックやグロリアの車幅に揃え、豪華さを演出してゆく。

こうしたなかで三菱は、アメリカ車同様にフロント・エンジン方式を選択、結論としてはパジェロ・ベースでミニバンを開発、デリカ・スペースギアと命名して、デリカ4WDなど旧来からのヘビーユーザー達の乗り換え需要をはかってゆくのであった。

前回に紹介した1991年6月登場のバネットセレナの続編。カタログはプレーリー初期型のカタログ以上に周到なイラストと写真を対比させて、どことなくマニアックな展開であった。日産の“1990年代に技術世界一”を目標に掲げた渦中のデビューだけに、高い走行特性が特徴であった。

いわゆるキャブオーバー車では、フロントシートの下にあった車輪部分を前方にレイアウトしたことで足元の広いキャビンをめざしたが、実際には前輪のスペースが足元に張り出していて、この部分の説明に触れずに操作系レイアウトの説明に終始した。これはセレナに限らず類似したセミキャブ・ミニバンの弱点といえた。

乗降性向上のためのステップ部分、シートのそばの小物スペース、3列目シートの左右折りたたみ式の採用などの特徴はじめ、高級グレード車のスライドドア部パワーウインドー、電動カーテン(SXに標準装備)などの装備をアピールした。

左ページにメーカーの装着オプション、右ページにディーラーの各種オプションパーツをめいっぱい揃えて、セレナの拡張性を謳う。クーラーボックス、5インチの小さな液晶テレビ、CDチェンジャーなど、電源の必要なものばかりだったが夢を売るには充分であった。

搭載エンジンはガソリンが2000は130ps、1600が100psのDOHC、ディーゼルが2000のターボ91ps&NA76psを搭載。トランスミッションは2000ガソリンとディーゼルターボに電子制御式4速AT、1600は通常の4速AT、または全車5速マニュアルが選択可能。2000ガソリンとディーゼルターボ車に、ビスカスカップリング採用のフルタイム4WD車も設定された。

サスペンションはフロント・ストラット+リア・マルチリンク(一部を除く)ながらもグラスファイバースプリングを採用。最高峰のPXには電子制御サスの併用でソフトーミディアムーハードと適時切り替わるショックアブソーバーを採用。通常-スポーツ走行の2段階の切り替えも可能とした。加えてメーカーオプションながら4WS+ABSも可能とした。装着タイヤも205-195-185-175の各サイズに、オールシーズンタイヤも選択可能であった。

最初期のセレナのラインナップ。丸みのあるスタイリングは当時のレパード、ブルーバード、プレセアなどのデザインと共通性があるものといえる。ちなみに4ナンバーのセレナカーゴはキャラバンのバンの価格より上のモデルもあった。

キャンパーにもなるRVセレクト。ディーゼルターボ2000で245.5万円。エスティマ・ルシーダ4WDガソリン車とほぼ同価格に設定されての販売で、燃費的にお買い得といえた。

1992年1月発売のエスティマ・エミーナ&ルシーダ。エスティマの車体が北米向けに設計されたため日本では大きすぎるとの評価を受けて、2年を待たずに小型車枠のコンパクトな車体を持ったトヨタ店向けのエミーナ、カローラ店向けにルシーダが販売された。

エスティマのフォルムを踏襲して生み出されたエミーナ&ルシーダ。当時のミニバンはバネットセレナの月産4000台が最高であったが、室内がセレナに対して広く感じさせたためエミーナ&ルシーダ合計で最高2万台に達したこともあった。しかし特異すぎる外観は台数が増えると飽きられがちなためか、後続の新型ミニバン達の先行を許すことになった。(このページは両車共通)

メーターコクピットは、中央の空調コントロール部分をエスティマよりもウインドスクリーン部まで追いやり、オーディオ関係を垂直配置に分散して広々とした印象を与えることに成功。小型車枠となったため室内幅の狭さが強調されたのが運転席右にあったパーキング・ブレーキレバーで、そのため運転席シートが多少小ぶりになった。(このページは両車共通)

エスティマ同様の室内ウォークスルーは前席には残されたが、室内幅の関係でウォークスルー可能な2列目シートは、定員2名の豪華仕様Gラグジャリー・パッケージ7名定員のみとなった。2列目シート3名の場合は、室内幅をシートが占領して室内ウォークスルー不可となることがわかる。(このページは両車共通)

「ミッドシップ・アンダーフロアエンジン・レアウト」とされたエンジン位置だが、この図示によるとアンダーシート配置でミッションや駆動系などが前後に長いためにフロア下という感じが強い。具体的にはキャブオーバー車の範疇とされたバネットセレナと大差ないことがわかる。ミドシップの例ではホンダの軽自動車アクティが知られるが、当初はエンジン横置きだったものが、4ATの4WD車はミッションケースなどの関係から縦置きになったりしていた。(このページは両車共通)

時代的に安全対策面が強化されるようになり、SRS(Supplemental Restraint System)エアバッグがオプション設定されるが、これは1960年代に日本の発明家の小堀保三郎が草案を考えたものの日本では実用化が遅れ、特許をダイムラーベンツ社が条件を開放して現在に至るシステムだった。トヨタはまず運転席側のみ1989年、クラウンにオプション設定後、セルシオに標準設定し日本車にも一気に拡大していった。その後に助手席側にも装備された。(このページは両車共通)

カローラ店向けのルシーダは販売店舗数の多さから、エミーナの約1.5倍の台数が販売された。カタログもイメージを売り込もうというグラフィックデザイン重視のレイアウトを採用して、エミーナのカタログが車両写真1点なのに対して、升目に写真を数点ならべて、おしゃれな印象を与えた。

ルシーダは「星座の中の明るい星」、エミーナは「優秀、卓越した」という意味合いと、広報資料で説明していた。両車はラジエターグリルとテールランプの違いで差別化をはかっていた。スポーツタイプのSは2WD/4WDとも直4DOHCガソリン2TZ-FE型、2438cc、135psエンジンを搭載。登録上は3ナンバーとなった。このページはルシーダのみで展開。

カタログの内容はルシーダとエミーナでは多少異なっていて、このページはルシーダのみで展開。左ページで小型車登録できるディーゼルターボを解説。燃費の良さ、エンジン振動を吸収する2分割フライホイール採用の3C-T型、2184cc、100psエンジンを詳解していた。右ページは2TZ-FE型ツインカム16パルブDOHCについて解説。なお燃費値は効率の良い2WD主体に紹介。

このページもルシーダのカタログのみのもので、Gラグジャリー・パッケージのツインムーンルーフ仕様車。新規需要を得るため運転席まわりの写真を数多く掲載していることに注目。このためか当初の受注で日産のバネットセレナの登録台数を上回ることになる。

S仕様を除くレギュラーモデル。ディーゼルターボ4WD の価格比較で、7名乗り最高級Gグレードの+ECTオートマは275.4万円だが、ラグジュアリーパッケージは36.1万円高で300万円超えに。8名乗りベーシックFグレードの4WD+ECTオートマは226.5万円。最廉価Dグレード4WDは5MTのみで204.3万円。最安値はDグレード2WDの5MTで178.3万円、ECTオートマが186.6万円だった。

ワンボックスのなかでも歴史のあるライトエースだが、1990年代は日産のバネット系に販売台数で越されていたことを受けて1992年1月にR20系にフルモデルチェンジ、やや大きかったタウンエースと共通ボディになった。そのため、基本シャシーはなんと1982年型がベースとなった。

新デザインのライトエースの外観は、フロントのヘッドライト部分にエスティマを想わせるフォルムを採用、タウンエースより新味を出しての登場でもあった。カタログの数ページはこの見開きのように、エスティマ的な楕円フォルムの枠に囲まれた欧州的背景をあてはめて、異国のイメージを演出していた。

タウンエースと同じ車体になったため、室内の艤装パーツ&装備類もほぼ同じにグレードアップされたライトエース。エスティマ・エミーナ(トヨタ店)&ルシーダとタウンエース(カローラ店)、ライトエース(トヨタオート店)の同時発表&発売だった。

主なラインナップはFXVリミテッド、FXVと続き、タウンエース&ライトエースのライトバンに近いデザインながらタイヤ&ホイールのグレードを高くした、8人乗りの最廉価車LD(5MTのみ)の構成。価格もタウンエースとほぼ同じに揃えられた。FXVリミテッド2000ディールターホスカイライトルーフ車で298.1万円は、なんと!ハイエースワゴン2800ディーゼルの4WDスーパーカスタムツインムーンルーフより5万円ほど高額だった。

前回で紹介したハイエースマイティのタウンエース版がシャルム、1992年10月発売の4WDキャンパーで価格288万円。フロント&アンダーガード+フォグランプなど、必要な装備は揃っていた。説明を見ると、カタログに写っているキャンプ用3ッ折りテーブル&イスは含まず、冷温蔵庫はディーラーオプションとある。この時代はホームセンターの発展期にあたり、全国で2000店舗を越えて、さらにディスカウント店も増えつつあり、キャンプ用品の普及期にあった。

ホームセンターのDIY(Do It Yourself)……自分で工作などする人達も増えてきたが、こうしたメーカーの特装車を購入する人達も決して少ないわけではなく、各社がカスタム仕様を仕立ててきていた。店に行かずとも、自分で工夫して加工せずとも……出来上がったクルマを購入するユーザー層も多かったことになる。

1993年5月にバネットラルゴが単なる「ラルゴ」となって、1991年に登場したミニバンフォルムのバネットセレナのシャシーをベースに車体寸法をやや大きく、3ナンバーサイズにしたもので、ホイールベースやサスペンション系はセレナと同じである。この頃に3ナンバー車ミニバンがなかったため人気が出てゆく。

サイドビューはセレナと似た印象を感じるが、ウインドー面積をでき得る限り大きくとり、特にこの最高峰のグランデージGT パック車の場合はルーフスポイラーを装着しているためか、造形デザイン的にエスティマのように感じるから不思議なものである。

一体にデザインリアされたテールランプは乗用車感覚あふれる仕上がりを持つ。リアの3次元カーブウインドーも旧来の日産車よりも他メーカー製のような優雅さがあったように感じた。バネットラルゴではバネットより車幅を90mm大きくしたが、ラルゴでは65mm拡げた1745mmにとどめてはいたものの、寸法的にはセドリックと同じとなっていた。

バネットセレナと同じシャシー系ということで、エンジンはシート下という……かつてのキャブオーバー車のレイアウトを踏襲、ボンネット内にはラジエターとスペアタイヤを収納。エンジンはDOHCガソリン2388cc、KA24DE型、145psと、小型車枠用SOHCディーゼル1973cc、CD20Ti型=ターボインタークーラー、100psを搭載。

安全性を訴求した見開きページ。視野の広さに続き、最高峰グランデージには車体の端部に検知コーナーソナーを配して近接1.5mから音がして80cmで「ピッピッピッ」、40cmに近づくと「ピー」とブザーの連続音がするシステムを装備。便利そうではあるが狭い場所での駐車などでは「スイッチを切る」ことになりそうだ。その他の装備は今日ではあたりまえのものとなっており、時代性を感じる。

ラインナップは最高峰フル装備のグランデージ、豪華装備のSX-GにはGTパックと呼ぶ①後輪も操舵するスーパーハイキャス、②電子制御サス、③電子制御パワステ、④LSD、⑤パノラマビューウインド、⑥ハイマウントストップランプ付ルーフスポイラー⑦前後マッドガードなどが装備。快適装備のRX-Gには各種オプションが用意された。

日産アトラストラックにセミキャブのボディをオーテックジャパンが架装した「アトラスロコ」のバンは1993年8月登場、この後に定員5名のキャンピングカーを追加、自動車ガイドブックの乗用車欄に掲載されていたのでここで取り上げた。価格は4WDで470万円、高価であるがすべてワンオフ的なオーダーメード車で当然かもしれなかった。

「提案!新RV。」と謳って1994年5月にデビューしたのが、デリカ・スペースギアだった。そのデザインはまさにミニバンの最後発だけに、SUV的に感じた人達が多く存在した。それも道理で「パジェロ」のシャシーを利用してホイールベースを75mm伸ばしてミニバン・ボディを架装した構造を持って登場したからであった。フロントにダブル・ウイッシュボーン、リアに5リンクサスを採用し、その走りに期待を抱かせた。

パジェロ・ベースのためエンジンが前面にあるフロント・エンジン車として登場。この方式は国産ミニバン初のレイアウトで、シート下エンジン、ミドシップに比較して後部スペースが広く使える有利さがあった。もっとも床下に丈夫なフレームを持つだけにフロア高はけっこうあった。しかしシート間の人間の移動を自在にできるような工夫により使い勝手の良さがあり、商用のカーゴも設定された。

豪華なシートアレンジはウォークスルーの定員7名と、2-3列目を3名がけにした定員8名の2通りが基本で、定員7名車はホイールベース2.8mの5ナンバー主体車と 3.0mのロングボディ3ナンバー車のいずれにも設定。ロングボディ車の設定は、ライトバン需要があるためにボディ流用による生産が可能だったためだ。また旧来のデリカ・スターワゴンも併売されたが、スペースギアともども全幅は小型車枠内に収められ旧来のユーザー層の確保に注意が払われた。

ショートホイールベース4WD車の最高峰モデルはスーパーエクシード・クリスタルライトルーフだが、自動車ガイドブックではその下のエクシードⅡ価格326.6万円を紹介。右ページ2番目のエクシードⅠエアロルーフで284.6万円とパジェロより若干高額に設定されていた。

ショートホイールベース2WD車の最高峰モデルもスーパーエクシード・クリスタルライトルーフで、自動車ガイドブックではその下のエクシードⅡハイルーフ価格249.6万円を紹介。4WDと同様に右ページの紹介車はすべて定員8名の廉価シートになっている。

スペースギアではロング仕様も多数用意した。ロイヤルエクシード・クリスタルルーフ4WD&4AT車は4M40型ディーゼルターボ2850cc、125ps高性能エンジン搭載で価格435.4万円、2WDロング・エクシードⅡハイルーフ4AT車は搭載エンジンを4D56型ディーゼルターボ2500cc、85psにグレードダウンして価格278万円に設定。なおバンのカーゴ・ロングも設定され定員/積載量は2(3)名/1000kgおよび5(6)名/750kg積、標準型積載量はそれぞれ250kg少なかった。

これ以降のワンボックス・ミニバン系は、安全対策面から、5ナンバー4ナンバー車を問わずにフロント・エンジンの大小ミニバン形態車が増え、本来の小型商用ワンボックス車達は消え去る運命にあった。

^