乗用ワンボックス車時代をリードするため、日産は1986年にバネットラルゴ、キャラバン、ホーミーのフルモデルチェンジを一斉に実施した。キャラバンの最高級車はシルクロードリムジンでブロンズガラス、電動リモコンミラー、デジタルメーター、カセット+AM/FMマルチ電子チューナーラジオ、集中ドアロック、パワーウインドー、電動カーテン、ツインガラスサンルーフなどを装備。今日では軽自動車でもあたりまえの装備もみられるが、1986年当時では先進技術といえた。
この時代になると、ワンボックスに搭載されるエンジンやミッションなどの相互流用があたりまえとなり、ボディサイズよりも、エンジンや装備面での比較が購入動機になった。特にトヨタや日産車ではエンジン、ミッションの流用度合いが大きく、フルサイズとミドルサイズでの購入価格差が10~20万円程度で、総額支払面からみると、その差は少なくなりつつある時代に突入したのだった。
加えて販売拠点数などのメーカー格差もあり、三菱、いすゞなどは少数の愛好家向けに生産される傾向になっていった。豪華主義の高級ワンボックス乗用車というよりも、安価な商用バンや乗用ワンボックス車の需要も増えつつあり、各社の設計企画と外観デザインいかんで売れ行きが左右されるようになった。
特にこの時代の日産は時代を先行すべく、全車フルモデルチェンジを一斉に敢行して、国内ワンボックス市場をリードしようと目論みつつあった。他方トヨタは新型車の方向性を、従来のような国内市場にとらわれることなく、超豪華な方向と、世界的視野に立って後に主流となってゆくミニバン乗用車達を多数計画中であった。さらには使い勝手の良い商用バンとのすみ分けを敢行すべく1990~2000年代の多彩なる新型車達を準備しつつあった。
日産は1986年5月にバネットラルゴのフルモデルチェンジを実施。以降はバネット同様に、上にあるようにダットサン店—サニー店—チェリー店の販売チャンネルごとの、バネットとバネットラルゴのカタログが独立して用意された。
「ワンボックスカーの理想像を追求して……」とフルモデルチェンジしたスタイリングの良さをアピール。まずは外観の各部ディティールをアップで展開、特にフロントエンド部の角ばった段差の造形美などを強調していた。
最高級車の2000グランドサルーンはガソリンNA(自然吸気)で88ps、4速AT、パワーステアリング装着で東京地区223.1万円。なんとフルサイズの2.0Lガソリン車キャラバンより高額な価格設定のモデルでもあった。そのボディサイズからキャラバンよりも駐車場入出庫や運転操作が楽にできる高級車という存在といえた。
グランドサルーンのインパネまわり。4速ATのオーバードライブのスイッチがシフトレバー部にみえる。メーターまわりは先進のデジタルスピードメーター+その下にバーグラフ式のタコメーター、タコメーターの左にトリップ、右に距離計が並ぶ。デザインは多少変わるが4ヵ月後にデビューするキャラバン&ホーミー系にも流用されてゆく。
2000よりも高性能なクルージングサルーンは、ガソリン・ターボ1800で120psの高性能に、左上の室内写真にみえるシフトパターンでもわかるように、5速MTの組み合わせで、東京地区価格201.1万円。ただしアルミホイール、前後のスポイラーはオプションでこの価格には含まれない。写真通りの装備にすると、やはりキャラバンよりも高額車となる計算になる。
グランドサルーンのインテリアを中心に紹介。なおパノラマルーフはクルージングサルーンに加え、スーパーサルーンパノラマルーフにも装備。“日産独自”の豪華なシートアレンジはE24型キャラバンにも継承され、乗用ワンボックス車ならではの特徴を持たせていた。
搭載エンジンは3種類でCA20型、88psはゆとりある走りで5速MTならびに4速ATを設定、鋭い走りを求める場合は、ガソリン・ターボCA18ET型、120psに5速MTを搭載。グランドサルーンとスーパーサルーン系にはディ−ゼル・ターボLD20T・II型、79psを5速MTならびに4速AT(スーパーサルーンパノラマルーフを除く)で設定。
新型バネットラルゴのフルラインナップ、グランド、クルージング、スーパーの各サルーン。ガソリンNAの他、ガソリンとディーゼルともにSOHCターボ車を揃えていた。なお参考までに廉価なバン系はガソリンがOHVのA15型、67psで5MTはコラムシフト、ディーゼルは自然吸気のSOHCのLD20・II、67psで5MTはフロアシフトであった。
1986年6月登場の3代目デリカ・スターワゴン。カタログの全体イメージキャラクターにイギリスのウェールズ出身の作家であり、環境保護活動家のC.W.ニコルを起用。『冒険家の森 サバイバル技術教書』『ぼくのワイルド・ライフ』『北極探検十二回』などの著書に加えて、『C.W.ニコルの自然記・森と山からのメッセージ』の刊行、同時に長野県黒姫高原で里山の再生運動を開始して話題になったため起用されたものと思われる。
デリカ・スターワゴンの4WDの上位モデルのダッシュボード中央には、1970年代からラリーファンおなじみの高度計、傾斜計が標準装備されマニアックさを演出していた。ハンドルはパワーステアリング付き、カセットステレオラジオが時代性を感じる。シフトレバー脇のアシストグリップは荒地走行時の身体が上下前後左右に振られないようにした配慮からだった。
この頃の多くのワンボックス乗用車は豪華なシートが装備され、他社製との違いをみせるように設計されたシートアレンジがカタログを飾った。デリカ・スターワゴンの場合は、セカンドシートをロングスライドレールにのせ、さらに回転方式として、多彩なレイアウトを可能にしていた。
時代の要請によりデリカ・スターワゴンもパワーアップ、旧2代目はガソリンG63B型2000cc、110psが主力だったが3代目はディーゼル時代に合わせて開発した4D56型、2500cc、70psにターボを装備した85psと、ガソリンはG63B型2000cc、91ps(ネット値)を揃えて経済性に配慮をみせた。
「ワンボックスワゴンで過ごす一日……」と新型デリカ・スターワゴンのカタログ内では4WDにはない、2WDのみに設定したハイルーフボディ仕様のクリスタルライトルーフもアピールしていた。ただし、まだ普及をしていなかったアルミホイールとストライプ類はディーラーオプションだった。
2WDの2000エクシードに設定されたクリスタルライトルーフ、濃色グレー強化ガラスは夏季の日差しによる室内上昇を防止。空調システムは、セカンドシート、サードシートそれぞれに専用の吹出口を天井に設置してキャビンの快適性を高めていた。
デリカ・スターワゴンのラインナップ。4WDの価格帯は2500ディーゼルターボのエクシード5MTは251.2万円。2000GLXガソリンの5MTは193.9万円。2WDは2000ガソリンハイルーフのエクシード4ATが215.1万円。なお1989年8月からは4WDもハイルーフボディとなり車体の統合化がはかられてゆく。
2000GLXの5MT価格は161.5万円、2500ディーゼルターボ2500GLXの4ATは196.0万円。最廉価の9人乗り2000DXの5MT(コラムシフト)は117.9万円であった。中央のカタログの写真主要装備は高額モデルのエクシードのものが多かった。右の純正オプションパックは4WD車主体で、家族向けを対象に考えられていた。
1986年8月発行のデリカワゴンおよびバンのロングボディ車カタログ。両車ともにハイルーフ仕様でワゴンは10人乗り、バンは3/6人乗り+積載量1000/750kg。バン・ロング2500ディーゼルGLの価格は133.9万円に設定されていた。
1986年9月にフルモデルチェンジされた日産キャラバンコーチはE24系となる。通称「ロイヤル・ワンボックス」……無骨な印象の全体フォルムから、背の高めの大型フロントウインドやサイドウインドの採用などで、随分とスマートなスタイルになって登場した。他車ではオプションのラジアルタイヤ+アルミホイール(シルクロードリムジンのみ)も標準装備であった。
メーカーオプションではあるが、ツインエアコン採用(フロントエアコンはディーラーオプション)などはあたりまえの装備といえる時代に突入していた。もっとも業務用では、やはりライトバンの使用が多かった時代といえたが、豪華なシート、テレビ、保冷庫など装備が可能なことなどはワンボックス乗用車ならではといえた。
日産の新型バネットラルゴの項で紹介したが、機能的な「先進のデジタルメーター」は同じコンポーネンツを装着。センターコンソール部には上からデフロスター+AM/FM電子チューナーラジオと、それに組み込まれたデジタル時計+空調コントロール+灰皿シガーソケット類+ドルビーカセットなどが並ぶ。
なぜ「ロイヤル・ワンボックス」なのか……装備一式を細かく解説した見開き部分。特に目立つものはアナログのスピードメーターで「リムジンを除く全車」とあるから、せめてラルゴ同様にタコメーターとの2連でも良かったのでは? 考えさせられる。
ディーゼルターボ2000シルクロードプラネタルーフ。後部ミラーも装備。ただし2F9と呼ばれるカラーリングはシルクロードリムジンとシルクロードプラネタルーフのみの特別色。カリフォルニアタイプのカスタムミラーは電動式になっている。価格はガソリンZ20型、91ps、4AT仕様で211.8万円。バネットラルゴのグランドサルーンより価格が安かった。
エンジンや車体の比較。ディーゼルターボの経済性を強調、サスペンションは旧型同様に前ダブルウイッシュボーン・トーションバー式、後リーフだが新設計とし、前後(後はマイクロバスを除く)共スタビライザーを組みわせた進化型になった。シルクロードリムジンには減衰力を2段階に切り替え可能なダンパーも装備。ブレーキも前2ピストンキャリパー、後ドラムもオートアジャスター付きに進化。後輪にロック防止バルブ装備。最小回転半径もトレッド幅を拡大、先代との比較で4.9→4.8m、マイクロバス5.5→5.3mと小回りになった。
3代目キャラバンコーチE24型の初期ラインナップ。ディーゼルターボ2000シルクロードリムジン、LD20T・Ⅱ型、ネット79ps、4ATの価格は289.8万円。旧型まではフロントドアが、トラックのアトラスとのプレス共用だったが、新型はオリジナルになったため、デザイン的にグンとスマートになった。さらにサイドウインドの大型化もあってルックスも向上をみせた感じだった。
同じ日産のホーミーコーチも1986年9月にフルモデルチェンジ、型式もキャラバンと同じE24型となる。キャラバンの格子グリルに対しホーミーは横型グリルを採用。➀プラネタルーフ②フラッシュサーフェスサイドウインドウ③電動リモコン式カスタムミラー④ブロンズガラス⑤ハロゲンヘッドランプ&大型バンパー⑥アクセントストライプ⑦アルミロードホイール⑧デジタルメーター⑨パワーステアリング⑩システムラウンジシート⑪折りたたみ式サードシート⑫電動カーテン⑬豪華なフルトリム……の他に居住空間—防錆対策—エンジン−アジャスタブルショックなどの位置を図示して紹介。
おそらくは瀬戸内海を望む高台の公園や駐車場での背景イメージによる写真撮影スタジオでの画像ハメ込みで生み出されたカタログ画像だろう。残念ながら場所の特定はできなかったが、昭和の年代には丘から海を望める場所として、神戸から六甲ハイウエイや、近年では小樽などが使われるようになった。
1987年1月発行のいすゞファーゴのカタログ。1986年1月に実施されたマイナーチェンジで異形ヘッドランプモデルとなったもの。ファーゴのバンには小型車規格最大のロングホイールベース車があったが、ファーゴワゴンにはどういうわけかワゴンにロングホイールベース車が設定されなかった。筆者はビッグホーンユーザーで、ファーゴを所有したが、長尺物を載せる必要があって、仕方なくバンを購入した経緯があった。ファーゴワゴンにロング仕様があれば、もっと売れただろう……と今も思っている。
不整地走行は戦前戦後から全輪駆動車で知られたいすゞ車の得意とするところ……ファーゴワゴン4WDならではのフリーホイールハブに加えて高低速切替レバー、さらにはオプションだがLSD装着も可能であった。4WDファンに親しまれたビッグホーンほどに人気が出なかったのは、小型車販売拠点が少なかったことも要因かもしれない。
ハイエースH50系は1985年8月のマイナーチェンジで4WDが追加され、フロントエンドのフォルムも上級モデルでは角形4灯から2灯異形ヘッドランプに変更され、新鮮味を加味して登場。すでに次期モデルの開発も進んでおり、フロントデザインの印象もやや近づけたものになっているようにもみえる。
時代の要請に習ってデジタルメーターを装備、タコメーターはバーグラフ式である。1982年12月にデビューして翌1983年1月の発売以来、この部分に大きな変化はない。スーパーカスタムリミテッドのステアリングは合成皮革ウレタン製となっていた。
「4WD新登場」とあるが、このカタログは1987年8月発行のもので、ハイエースはこの時のマイナーチェンジでようやく4WDが加えられた。まだ5MT車のみの設計で過渡期の技術といえた。2年後には新型100系のデビューを控えており、乗用ワンボックス車の世界では日産の先行を許していた。
搭載されるエンジン、スタビライザー付きサスペンション、タイヤ、4WDシステム、ブレーキなどを見開きページで紹介している。4WD車にメッキホイールをオプション設定するなどしていた。新技術ではバックソナーが設定された。スーパーカスタム以上向けのオプションで、リアバンパー部に3基のセンサーが設置され、ボディ後部と障害物の距離が把握できるようになっていた。
ハイエースのラインナップ。最高峰のスーパーカスタムリミテッドLH51G型、2400ディーゼルターボ2L-T型、ネット85ps、4ATは価格318.5~320.7万円。4WDスーパーカスタムYH57G型、2000ガソリンOHVの3Y型、ネット88ps、5MTは価格233.7~237.7万円で、同じ3Y型エンジンを積むライトエース4WD、FXVスカイライトルーフ車との比較で価格も16~20万円高に抑えられていた。