1970年代はじめのワンボックス車は、乗用車感覚に乏しく依然として商用コマーシャルカーのイメージが強かった。それでもハイエースやキャラバンの登場で、各社がモデルチェンジに際して「売れる要素」を盛り込んでゆく。また、新たなるイメージを与えて独自の顧客層確保を実施してゆく。
トヨタは高速道路利用のユーザー達に対して高性能エンジン搭載車を揃え、高速走行に追従できなくなった旧式エンジンを廃止していった。また、ボディサイズの面で小さいと判断されたミニエースに替わりライトエース、タウンエースでニーズに対応、ハイエースはボディバリエーションを増やして大型ボディ車を追加していった。
他方で日産は、ダットサンキャブライトをキャブスターに進化させ、さらに乗用車のサニー&チェリーの名を持つ商用&乗用バン&コーチ&トラックのラインナップを構成。大衆向けワンボックスの乗用車版であるキャブライト/キャブスターコーチは第3章で紹介したとおり、1966年のA220系ダットサンキャブライト1150コーチに始まり、1973年にA320系キャブスター1300にバトンタッチする。しかし、より大衆向けのC20系チェリーキャブおよびサニーキャブ各コーチも1969年に誕生。全長、全幅やエンジンに差異を持たせた兄弟モデルといえるものだった。全長/全幅/全高/軸距の寸法比較では、定員9名の乗用車系A320キャブスターコーチは 4055/1610/1810/2360各mmにエンジンは1198cc、55psで最高速度100km/h、価格77.1万円。最終A320は性能アップして1483cc、77ps、120km/h、77,4万円。対してC20系サニー&チェリー各キャブのコーチは3770/1500/1720/2370各mm。エンジンは988cc、56psで軽量ゆえに最高速度110km/h、価格60.5万円だった。この時代のユーザー達において1台10万の差は大きく、結局売れたのは安価なサニー&チェリーキャブ系であったようだ。まだ車両の内容を把握するより、安価な新車を欲する時代だった。
またハイエースに焦点をあて、日産店用キャラバンに加えプリンス店向けにホーミーを生み出し、ハイエースに遅れじと多彩なボディバリエーションで顧客確保に努めてゆき、1980年代の新時代に向けて新型バネットを生み出し、タウンエースやライトエースの牙城の切り崩しに入ってゆく。
また乗用ワンボックスの先駆になったマツダが新型ボンゴを投入する。リアを小径ダブルタイヤにすることで荷室のタイヤハウスを無くし、これが大評判となる。これに対するトヨタは後年新型タイヤを開発して対抗姿勢をみせてゆく。
強力パワー&トルクの三菱デリカはデザインをガラッと変えて、ワンボックスの分野に新境地を築く。こうしてマツダも三菱も新技術でファン層を確保することに成功する。
まだまだ過渡期にあったワンボックスで、商用車の売れ行きが先行する状況ではあったが、各社ともに1980年頃から到来するRV時代に向けての需要に対応するべき新型車の研究開発に邁進するのであった。
キャブライト系の進化版がA320系キャブスターで、これは1973年5月登場の最終型。ダミーのグリルデザインが乗用車のパイオレット的に一新されて近代的な感覚になった。
だが全体的なフォルムは1968年キャブスターのセミキャブのままと変わらない。第3章で紹介した際には最終型がなかったため、この章で補足させて頂く。
キャブスターのボディサイズを小型軽量化した上がサニーキャブ、下がチェリーキャブ。サニー&チェリー同様に1000ccエンジンを搭載。バンとコーチが生産された。初代キャブライト同様に低廉な価格を好む商店などで愛用された。
キャラバンはトヨタのハイエース同様に輸出をめざして1977年に英文カタログも制作された。車名はニッサンE20。高層ビルの中に置かれ新時代感覚を強調していたようだ。
英文カタログの中はウインドーバン、ブラインドバン、マイクロバス、ステーションワゴンの用途と、図面やフレームレス構造など、メカニズム重視の展開であった。
改良型キャラバンの1979年のカタログは、タイトルの並べ方などに当時の流行であるレジャー雑誌の判型、表紙もレイアウトデザインに合わせた様な、「おしゃれ感覚」を感じるものがあった。
キャラバンの主要ラインナップ、ハイルーフはじめ大型業務用途車が多い。まだまだ自家用ユーズで使うのは4ナンバーの小型商用の時代だった。
高性能2プラグの低燃費Z20はじめ搭載エンジンはディーゼル含め4機種、24車種が生産された、オイルショック時代ゆえに低燃費が重要視された時代だった。納車で多かったのはホワイトアイボリー系といわれている。
キャラバンもフルフラットシートが必須の時代に対応、シートは布地が多くシートカバーがよく売れた時代だった。ヒーターはあたりまえになった時代だが、クーラーは高額でオプション装備も少ない時代であった。
プリンス店向けのホーミーは細部モールなどが異なる。まだまだプリンスファンが多い時代で、背表紙には東京モーターショー出品のRV(レクリエーショナル・ビークルの)キャンピングバン、クリッパー、ホーマーなどを紹介。
ホーミーもキャラバンほどではないが、9モデルのサンプル車をアピール。キャラバンと同じ24車種を揃えていた。
ハイエースの1977年の英文カタログの表紙は横開き式。大量の荷物を積めるロングボディー主体だが、トラックなども紹介されている。
バンは窓なしルートバンが海外では主軸。中のカーペット類は窓ありウインドウバンなどには装備されるようで、国内仕様車とは若干異なったようだ。
いわゆる小型バス=コミューターはハイエースの得意とするところ。ロングボディーでは12または15名乗り仕様が選べた。
スイスのバーゼルに1967〜1982年にあった高級車メーカー、モンテヴェルディが製作したカスタムのスーパーエースで1979年仕様でカタログも制作された。
シートを豪華仕様にすることで定員は2名x3列の6名、まだ欧州製のホイールがなく、アメリカ製のクロームホイールなをチョイスしていた。
シートの状態がよく見えるが、高級品を誂えたものであろう。ステアリングスポークは3本のスポーティなものを装備。
1979年03月発行。国内向けハイエースカタログの4ページに及ぶ標準バン、左右スライドドアも選べるロングバン、そしてハイルーフのスーパーロングバンはコミューターのボディを流用。
曲面サイドウインドーなど空力ボディ採用のデザインを強調、右頁にはエンジンが紹介されていて12R=1600ccOHV80ps、16R=1800cc OHC95ps、23R=2000ccOHC105pを選択可能だった。
背表紙には標準ボディと小型車フルサイズボディのルートバン、その下にはトラックベースの特装車を紹介。
1978年9月発行のボンゴマルチワゴン。初代のリアエンジンから一般的なフロントシート下配置になり、荷室のフラット化実現のためにリアに145R12または4.50R12ダブルタイヤを装着して登場した。
手頃なサイズのバンにフルフラットシートが現実のものになり、いつでもどこでも泊まれるボンゴの人気が沸騰した。
ゆったり感のあるシートやキャンプ用品を積み込める室内。身近なバンとともにボンゴファンが急増する。
1979年9月発行、ボンゴボンディのカタログ表紙。マルチワゴン、マルチバン、ワイドロー=トラックのボンゴ総合カタログ。
乗用マルチワゴンは全長4mの9人乗りデラックス、ハイルーフカスタム、全長4.5mの10人乗りデラックスを1800cc、95psでラインナップ。バンは1400cc、76psと1600cc、80psで差異をつけていた。
1979年7月発行の新型デリカはスターワゴン、バンとも全幅1690mmフルサイズで登場、全長3990mm。トラックは全長4095mmでロングのみ4405mmと少し長い。
乗用のスターワゴンは1980年代に向けて、「静かな広さ」が特徴とアピール。エンジン、シャシーともに旧デリカとは異次元の仕上がりだった。
ボディやシャシーも新設計。乗用車ギャランでおなじみのOHCサターンエンジンを搭載。ほぼフラットなトルクで登坂能力もワゴンで28度30分と高性能を示した。
新型デリカのラインナップ。シンプルで共通性の多い構成で部品の共用化などははかられていることが把握できる。
日産のバネット系がフルキャブで登場、写真上は1978年11月デビューのチェリーバネットで商用1200cc、乗用1400cc。当初は2眼ヘッドランプだった。下は1979年7月登場の新型4眼ヘッドランプ車。
1979年のサニーバネット。トラックや廉価バン以外は4眼ヘッドランプになり他社バンより豪華な印象を与えた、このカタログの表紙はフルオプション仕様車。
サニーバネットのフルラインナップ。カタログ構成&画像的に同年代のキャラバン、ホーミーなどと統一性のある構成でまとめられていた。