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第113回 戦後のラゴンダ、2½ LITRE~RAPIDE
2021.12.27

 今回は、前回のアストンマーティンと同様、第二次世界大戦後にデビッド・ブラウンによって買収されたラゴンダの「2.5リッター」から「ラピード」までを紹介する。

 1945年に戦争が終結すると、多くの自動車メーカーは戦前のモデル、あるいは戦前モデルに若干手を加えたモデルを売り出した。しかしラゴンダ社は戦前に造っていた4.5リッターV型12気筒エンジンを積んだラゴンダのような高級車は、戦争で疲弊した市場では売れないだろうと判断し、より安価な2.5リッターモデルを新規開発した。しかし、この開発コストが、やがてデビッド・ブラウンに身売りする原因の一つになったとも言われる。

◆ 2½ LITRE

 ラゴンダ2.5Lサルーンは、1949年10月にロンドンで開催されたアールズコート・モーターショーで発表された。1951年にはドロップヘッドクーペが追加発売されている。そして、1952年にはマークⅡとなり、車幅が4in(102mm)拡大され、新型のルーカス製ヘッドランプが装着され、ヒーターとベンチレーションシステムが改良された。ここにはマークⅠのカタログを紹介する。

 ラゴンダ2.5Lのエンジンは2580cc直列6気筒DOHCツインSU 105hp/5000rpmを積む。このエンジンはアストンマーティンDB2にも積まれた。トランスミッションはデビッド・ブラウン社製4速MT(1速はシンクロ無し)を標準装備し、オプションで3台造られたプロトタイプに採用されていたCotal製プリセレクター・ギアボックスも選択可能であった。サスペンションは前後とも独立懸架でフロントがコイル、リアにはトーションバースプリングが採用されていた。ブレーキは前後ともロッキードPhaseⅡドラム。サイズはホイールベース2883mm、全長4775mm、全幅1727mm、全高1575mm。乾燥重量1575kg。生産台数はマークⅠ、マークⅡ合計550台であった。

◆ 3 LITRE MarkⅠ

 1953年にはエンジンが3リッターになり、コーチビルダーのティックフォード社(Tickford Ltd.)による美しいボディーを架装して、ラゴンダ3LマークⅠが登場した。ボディータイプは2ドアサルーン、4ドアサルーン、ドロップヘッドクーペの3種類が設定されていた。

 上の5点はラゴンダ 3L マークⅠのカタログ。エンジンは2922cc直列6気筒DOHCツインSU 140hp/5000rpm+デビッド・ブラウン社製4速MT(1速はシンクロ無し)を積む。このエンジンはアストンマーティンDB2-4にも積まれている。X型フレームに4輪独立懸架サスペンションを装備し、フロントがコイル、リアはトーションバースプリングを採用。ブレーキは前後ともロッキードPhaseⅡドラムで、リアブレーキはインボードタイプを採用。ステアリングはラック&ピニオンであった。また、ビルトインタイプの油圧ジャッキを標準装備していた。サイズはホイールベース2883mm、全長4978mm、全幅1765mm、全高1575mm。

◆ 3 LITRE MarkⅡ

 1956年10月にはラゴンダ3LマークⅡが発表された。2ドアサルーンがカタログから落とされ、後にドロップヘッドクーペも中止される。そして、1958年2月、3L 4ドアサルーンの生産も中止された。3Lモデルの生産台数は450台ほどであった。

 上の6点はラゴンダ3LマークⅡのカタログ。マークⅠとスペック上の違いは無いが、マークⅡで初めてフロアシフトトランスミッションが採用されている。もちろんコラムシフトも選択可能であった。

◆ RAPIDE

 1958年2月に3L 4ドアサルーンの生産が中止され、ラゴンダの販売は中断するが、1961年に「ラゴンダ ラピード(Rapide)」が登場した。エンジンは1954年にオースチンからスカウトされたポーランド系エンジニア、タデック・マレック(Tadek Marek)によって設計された4リッター直6が積まれた。なお、1958年に生産拠点はフェルタム(Feltham)からニューポート・パグネル(Newport Pagnell)のティックフォードの工場に移転している。

 上の5点はラゴンダ ラピードのカタログ。エンジンは3995cc直列6気筒DOHC ツインSolex 236hp/5000rpm+コラムシフトの3速ATが標準装備され、フロアシフトのフルシンクロ4速MTがオプション設定されていた。サスペンションはフロントがウイッシュボーン+コイルスプリングの独立懸架、リアはトレイリングリンクとワットリンクに支持されたドディオンアクスル+トーションバー。ブレーキは前後ともダンロップ製ディスク。ボディーは鋼管スペースフレームにアルミニウム・マグネシウム合金パネルを貼り付ける「スーパーレッジェーラ(Superleggera)」工法を採用している。サイズはホイールベース2896mm、全長4966mm、全幅1765mm、全高1422mm。車両重量1712kg。生産台数は55台。

◆ RAPIDE

 上の5点は1964年に送られてきたラピードのカタログ。外観は同じだが、内装はフェイシア(インストゥルメントパネル)をはじめ、ドアトリム、シートなどのデザインが異なる。

 W. O. ベントレー(Walter Owen Bentley)のその後だが、1947年にラゴンダがデビッド・ブラウンによって買収されると、ロールスロイスからラゴンダのデザインチームに加わっていたエンジニア、ドナルド・バストウ(Donald Bastow)のほか数名と共にデザインオフィスを立ち上げた。

 アストンマーティン/ラゴンダの仕事と並行して、1947年12月31日にアームストロングシドレー(AMS:Armstrong Siddeley Motors)と「スポーツカー・プロジェクト」に参画するため、3年間のコンサルティング契約を結んだ。3リッターの試作エンジンが完成し、1949年6月にはグレーバー(Graber)製ボディーを架装したドロップヘッドクーペが完成したが、AMSによるモデルチェンジの計画変更により量産されることはなかった。

 W. O.は1971年8月13日、83歳で永眠している。

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執筆者プロフィール

1937年(昭和12年)東京生まれ。1956年に富士精密機械工業入社、開発業務に従事。1967年、合併した日産自動車の実験部に移籍。1970年にATテストでデトロイト~西海岸をクルマで1往復約1万キロを走破し、往路はシカゴ~サンタモニカまで当時は現役だった「ルート66」3800㎞を走破。1972年に海外サービス部に移り、海外代理店のマネージメント指導やノックダウン車両のチューニングに携わる。1986年~97年の間、カルソニック(現カルソニック・カンセイ)の海外事業部に移籍、うち3年間シンガポールに駐在。現在はRJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)および米国SAH(The Society of Automotive Historians, Inc.)のメンバー。1954年から世界の自動車カタログの蒐集を始め、日本屈指のコレクターとして名を馳せる。著書に『プリンス 日本の自動車史に偉大な足跡を残したメーカー』『三菱自動車 航空技術者たちが基礎を築いたメーカー』『ロータリーエンジン車 マツダを中心としたロータリーエンジン搭載モデルの系譜』(いずれも三樹書房)。そのほか、「モーターファン別冊すべてシリーズ」(三栄書房)などに多数寄稿。

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