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第109回 AMC グレムリン(Gremlin)
2021.8.27

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 フルサイズカー造りを得意としてきたアメリカ車メーカーも、1950年代に入るとヨーロッパや日本から輸入されるコンパクトで燃費もよく魅力的なクルマたちに市場を侵食されるようになっていった。これを食い止めようと1950年代終わりから1960年代にかけて、ランブラー、コルベア、ファルコン、バリアントなどのコンパクトカーを登場させたが、あまり効果は見られなかった。そこで、1970年代には、さらに小型のサブコンパクトで輸入車を迎え撃とうと試みることになる。
 今回はアメリカのサブコンパクト群のなかで最も早く登場した、AMC(American Motors Corp.)の「グレムリン(Gremulin)」を紹介する。
 しかし、アメリカの対輸入車戦略は必ずしも成功したとは言えず、1970年には輸入車シェア14.7%のうち日本車のシェアは3.9%ほどであったが、1973年の石油ショックによって、より燃費の良いクルマが求められ、1975年には輸入車トップの座がフォルクスワーゲンからトヨタに移り、1980年には輸入車シェア28.2%のうち日本車のシェアは20.8%に達した。日本車の急激な伸びによって、アメリカの自動車メーカーが苦境に立たされ、日本車排斥運動が起こるなどの状況に配慮して、1981年には対米乗用車輸出自主規制を決定、3年を限度に初年度168万台と設定された。しかし、実際には1984年度185万台、1985年度からは230万台、1992年度から165万台と変動しながら1993年度まで規制は延長されることになる。

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1968年4月に開催されたニューヨークオートショーに登場した「AMX-GT」。AMCのスタイリング担当副社長、リチャード(ディック)・ティーグ(Richard A. Teague)主導で開発されたコンセプトカーで、97in(2464mm)ホイールベースのシャシーにファイバーグラスボディーが架装されている。グレムリンに採用されるスラントバック(AMCの呼称)デザインのスタディーモデルであった。サイズは全長167in(4242mm)、全幅71.5in(1816mm)、全高49.5in(1257mm)。

■1970年型

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上の3点は1970年2月12日に発表されたプレスキットから抜粋したもの。発売はなんとエープリルフールの4月1日であった。4シーターと2シーターがあり、サイズは全長161.25in(4096mm)、全幅70.58in(1793mm)、全高51.8in(1316mm)、ホイールベース96in(2438mm)。エンジンは199cid(3261cc)直列6気筒128hp/4400rpm、25.2kg-m/1600rpmが標準で、232cid(3802cc)直列6気筒145hp/4300rpm、29.7kg-m/1600rpmがオプション設定されていた。トランスミッションは3速MTが標準で、ボルグワーナー製ATがオプション設定されていた。AMCは4気筒エンジンを持っておらず、直6を積んだためかなりのスペースをエンジンが占領しているのが分かる。4シーターといっても後席は狭いが、シートバックを前に倒すとラッゲージスペースとして使えた。

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「新しいアメリカ車」のコピーを付けたグレムリンの広告。「グレムリンはアメリカのモータリストが、買いやすく、運転しやすく、メンテナンスが簡単で、しかも運転が楽しくなるようにデザインされたクルマだ。」と訴求し、フォルクスワーゲン・ビートルとの比較を列記している。全長はたった2½in(64mm)長い161in(4089mm)。最小回転半径は9.96mでビートルより0.9mも小さい。アメリカ製のどのクルマより燃費が良く、満タンにすると500mile(800km)走れる。同じようなサイズと価格のクルマと比べて大きなエンジンを積んでいることを考えたらこの燃費(23MPG=9.8km/L)はすばらしい。グレムリンの3.3L 128hpに対しビートルは1.6L 57hp。ビートルに比べて全幅は10in(254mm)広く、全高は7in(178mm)低く、車両重量は765lb(347kg)重い。4シーターはリアウインドーが開くが、2シーターでは固定で開かず、ラゲッジスペースへの出し入れはサイドドアから行った。価格と生産台数は4シーター(1959ドル)2万7688台、2シーター(1879ドル)872台、合計2万8560台。ビートルのベース価格は1924ドルであった。

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1970年4月1日に1970½年型として発売されたグレムリンの最初のカタログ。ビートルに対する優位性をあからさまに訴求するカタログ。書かれている内容は上の広告とほぼ同じ。いちばん下の絵はプレスキットに入っていたもの。なお、グレムリンのBピラーから前の部分は、ランブラー・アメリカンの後継として登場したコンパクトカーの「ホーネット」2ドアと共用している。旧ナッシュから受け継いできたランブラーの名前は消えて、旧ハドソンで使われていたホーネットの名前が復活した。

■1971年型

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1971年型グレムリンは232cid(3802cc)直列6気筒145hpエンジンが標準設定され、199cid(3261cc)直列6気筒128hpエンジンはカタログから落とされた。カタログの左頁は4パッセンジャーセダン、右頁上は2パッセンジャークーペ、右頁下はオプションのXパッケージ(+300ドル)を組み込んだ「グレムリン X」。Xパッケージにはブラック塗装グリル、14×6in スロットスタイルホイール+D70-14タイヤ、フロントバケットシート、専用サイドストライプ、専用ロゴバッジなどが含まれる。価格と生産台数は4シーター(1999ドル)7万4763台、2シーター(1899ドル)2145台、合計7万6908台。

■1972年型

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上の2点はいずれも1972年型グレムリンX。下の広告コピー「人々がフォルクスワーゲンを買い換えるには、かなり強い力が必要です。」ということで、打ち出したのが「American Motors Buyer Protection Plan」。12カ月または1万2000mile(1万9312km)の保証と、1日で直らないときは無償で代車を提供するなど、ユーザーにとってありがたいサービスの提供であった。

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上の2点は1972年型グレムリンのカタログ。上段左頁はオプションのカスタムトリムパッケージ装着車で、ラリーストライプ、ホイールカバー、ルーフラック、エアデフレクター、サイドモールディング、バンパーガードがセットされている。右頁の上はグレムリンX、右頁の下はベーシックモデル。なお、2シーターは廃止された。エンジンは232cid(3802cc)直列6気筒100hp/3600rpm(ネット)が標準設定され、258cid(4228cc)直列6気筒110hp/3500rpm(ネット)と304cid(4982cc)V型8気筒150hp/4200rpm(ネット)エンジンがオプション設定された。ATはボルグワーナー製からクライスラーの「トルクフライト」に換装された。価格と生産台数は直6エンジン車(1999ドル)8万3859台、V8エンジン車(2153ドル)1万949台、合計9万4808台。

■1973年型

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上の2点は1973年型グレムリンXで、上段の写真は新たに設定されたオプションのリーバイス(LEVI'SⓇ)カスタムトリムパッケージ装着車で、フロントフェンダーにLEVI'SⓇのロゴバッジが確認できる。モデルが着用しているのももちろんリーバイスのジーンズであろう。下段のクルマはV8エンジン搭載車で、後部に「5 Litre V/8」のロゴバッジが付く。エンジンのラインアップは前年と変わらないが、全車に5マイルバンパーが装着された。価格と生産台数は直6エンジン車(2098ドル)11万1172台、V8エンジン車(2252ドル)1万1672台、合計12万2844台。

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左頁はリーバイス(LEVI'SⓇ)カスタムトリムパッケージ装着車の内装で、スパンナイロン製LEVI'SⓇバケットシート、ドアトリム、ドアポケットにはオレンジのステッチと銅のリベットが付き、ブルーのヘッドライニングとサンバイザーなどが装着される。

■1974年型

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上の2点は1974年型グレムリンXで、上段の写真はオプションのリーバイス(LEVI'SⓇ)カスタムトリムパッケージ装着車で、フロントフェンダーにLEVI'SⓇのデカルが確認できる。エンジンのラインアップは前年と変わらない。価格と生産台数は直6エンジン車(2418ドル)15万6991台、V8エンジン車(2635ドル)1万4137台、合計17万1128台。

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1974年型グレムリンの広告。「AMCグレムリンが燃料不足を解消」のキャッチコピーの下には「AMCグレムリンはU.S.で唯一6気筒エンジンを標準装備するサブコンパクトです。しかし、そのようなエンジンを搭載しているにもかかわらず、この車は非常にガスに優しいのです。走り方にもよりますが、平均18mpg(7.7km/L)以上走れます。そしてグレムリンは、同クラスのどの車よりもアクセルワーク、車重、車幅、前席、後席の広さで勝っています。グレムリンが他に何を軽減してくれるのか知りたければ、ぜひ購入してみてください。」とあり、隣の頁には「誰も持っていないAMCの買い手保護プラン。」のコピーと、他社にはない保証制度について訴求している。

■1975年型

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上の3点は1975年型グレムリンXで、2点のモノクロ写真のクルマはオプションのリーバイス(LEVI'SⓇ)カスタムトリムパッケージ装着車。エンジンのラインアップは前年と変わらないが、公称出力が変更され、標準の232cid(3802cc)直列6気筒は90hp/3050rpm(SAEネット)。オプションの258cid(4228cc)直列6気筒が95hp/3050rpm(SAEネット)と304cid(4982cc)V型8気筒は120hp/3200rpm(SAEネット)となった。価格と生産台数は直6エンジン車(2798ドル)5万2601台、V8エンジン車(2952ドル)3409台、合計5万6011台。生産台数が前年の約⅓に激減しているが、最大の原因は1975年2月に発売された、アメリカ初のワイドスモールカー(全長4318mm、全幅1956mm)と言われた、ホイールベース100in(2540mm)の「AMCペーサー(Pacer)」に顧客が流れたためであろう。

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1975年型グレムリン。左頁はLEVI'SⓇグレムリン、右頁上段はグレムリンX、右頁下段はグレムリン(ベースモデル)。

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1975年型グレムリンのインテリア。左はLEVI'SⓇインテリアオプション装着車。右はオプションのベンチシート。インストゥルメントパネルはグレムリンXのもので、ラリーパッケージ(タコメーターを含む)、AM-FMラジオ、エアコンディショニングなどのオプションが追加されている。

■1976年型

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上の3点は1976年型グレムリンで、フロントグリルの変更などマイナーチェンジされている。エンジンのラインアップは1975年型と同じ。価格と生産台数は直6エンジン車(2889ドル)5万2115台、V8エンジン車(3051ドル)826台、合計5万2941台。

■1977年型

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上の3点は1977年型グレムリンで、初めて前後のボディーパネルに変更を加えるマイナーチェンジが行われた。フロントのデザイン変更と、リアウインドーとリアコンビネーションランプが大きくなり、ガスフィラーキャップがナンバープレートの奥に移動した。エンジンは232cid(3802cc)直列6気筒が標準設定され、258cid(4228cc)直列6気筒がオプション設定されている。さらに、1977年4月にはフォルクスワーゲン/アウディから供給を受けて121cid(1983cc)直列4気筒OHC 80hp/5000rpm、14.5kg-m/2800rpmエンジンがオプション設定された。この時点でV8のオプション設定はなくなった。トランスミッションではボルグワーナー製4速MTがオプション設定され、3速MTはフロアシフトが標準となった。フロントディスクブレーキ、リアバンパーガードも標準装備されている。価格と生産台数は直6エンジン車(2995ドル)3万8613台、直4エンジン車(3248ドル)7588台、合計4万6171台。なお、保証に関しては「American Motors Buyer Protection Plan Ⅱ」となり、エンジンとドライブトレーンは24カ月または2万4000mile(38624km)補償されるようになった。
 アメリカへのビートルセダンの輸入は1977年を最後に終了(価格は3595ドル)。コンバーティブル(6245ドル)は1979年まで販売された。代わりに1974年からラビットが販売された。

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上の2点はグレムリンの最終モデルである1978年型で、モノクロ写真と下段左頁のモデルは、2.0L直4エンジン+4速MT+オプションのXパッケージとLEVI'SⓇパッケージ装着車。エンジンは3.8L直6と2.0L直4が標準設定され、4.2L直6がオプション設定されていた。価格と生産台数は直6エンジン車(3539ドル)1万5755台、直4エンジン車(3789ドル)6349台、合計2万2104台であった。

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1978年になってから追加設定された「グレムリンGT」。649ドルのGTオプションパッケージを装着したモデルで、フロントエアダム、前後フェンダーフレア、ブラックサイドストライプ、前後バンパーガード、ブラックグリル、ブラックミラー、DR70×14ホワイトレターラジアルタイヤ、ソフトフィールバケットシート(オプションでLEVI'SⓇパッケージの選択も可能)、ブラシ仕上げアルミインストゥルメントパネル+タコメーターを含むゲージパッケージ、スポーツステアリングホイールが装着される。

■グレムリンの後継車スピリット
1978年型を最後にグレムリンの生産は終了し、後継として「AMC スピリット(SPIRIT)」が登場する。スピリットにはセダンのほかに、リフトバック、スポーティーなリフトバックGT、さらにホットなAMXなど豊富なモデルがラインアップされた。以下3点は1979年型スピリットのカタログから。

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執筆者プロフィール

1937年(昭和12年)東京生まれ。1956年に富士精密機械工業入社、開発業務に従事。1967年、合併した日産自動車の実験部に移籍。1970年にATテストでデトロイト~西海岸をクルマで1往復約1万キロを走破し、往路はシカゴ~サンタモニカまで当時は現役だった「ルート66」3800㎞を走破。1972年に海外サービス部に移り、海外代理店のマネージメント指導やノックダウン車両のチューニングに携わる。1986年~97年の間、カルソニック(現カルソニック・カンセイ)の海外事業部に移籍、うち3年間シンガポールに駐在。現在はRJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)および米国SAH(The Society of Automotive Historians, Inc.)のメンバー。1954年から世界の自動車カタログの蒐集を始め、日本屈指のコレクターとして名を馳せる。著書に『プリンス 日本の自動車史に偉大な足跡を残したメーカー』『三菱自動車 航空技術者たちが基礎を築いたメーカー』『ロータリーエンジン車 マツダを中心としたロータリーエンジン搭載モデルの系譜』(いずれも三樹書房)。そのほか、「モーターファン別冊すべてシリーズ」(三栄書房)などに多数寄稿。

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