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第108回 1963年型ビュイック リビエラ(Riviera)
2021.7.27

 今回は、GM(ゼネラルモーターズ)のビュイック初のスペシャリティーカーであった、1963年型ビュイック リビエラを紹介する。リビエラの名前を冠したビュイックが最初に登場したのは、1949年型として発売された戦後初のハードトップ・モデルであった。同時にキャディラックからはクーペドビル、オールズモビルからはホリデイの名前でハードトップ・モデルが発売された。その後、1962年型までベースはフルサイズビュイックと同じであったが、1963年型からは他のビュイックとは全く異なるボディーをまとって登場した。

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これは最初の1949年型ビュイック リビエラのカタログ表紙。

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これは1962年型リビエラで、正式名称は「BUICK ELECTRA 225 4-DOOR RIVIERA SEDAN」。

◆1963年型ビュイック リビエラ

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 上の4点は筆者がGMヘリティッジセンター訪問時に撮影した1963年型リビエラ。実車に添えられた説明によると、オリジナルのスタジオプロトタイプデザインスタディーではキャディラック ラサール(LaSalle)になる予定であったが、キャディラックはそれを断り、ビュイックが引き継いだと記されていた。ラサールはキャディラックとビュイックのギャップを埋めるため、1927年から1940年にかけてキャディラックで生産されたモデルで、これの復活を考えていたのかもしれない。
 リビエラ誕生のいきさつについて、マイケル・ラム(Michael Lamm)とデーブ・ホールズ(Dave Holls)共著の「A Century of Automotive Style - 100 Years of American Car Design 」に詳述されているので、引用・要約すると、1958年12月1日、ハーリー・アールの後任としてGMデザインのトップに就任したビル・ミッチェル(William L. "Bill" Mitchell)が、GMには1958年型として登場した4シーターのサンダーバードに対抗するクルマが必要だと考え、アドバンスド・ストゥディオのネド・ニックルズ(Ned Nickles)に指示を出した。最初に完成したのは1961年型サンダーバードに似た、ジェット機に車輪を付けたようなクルマで、だれにも気に入られなかった。英国旅行から帰ってきたミッチェルはニックルズに話しかけた。「フェラーリ・ロールスロイスを連想できるクルマにしたらどうだ」。ミッチェルが考えていたのは、フェラーリのようなスポーティーさと、ロールスロイスのカスタムボディーにみられる、レザーエッジのエレガンスを併せ持ったクルマであった。
 ニックルズはミッチェルの意図するところを理解しスケッチを完成させた。ミッチェルはこれを売り込むことを決め、名前を「ラサール Ⅱ」(正式コードはXP-715)としてキャディラックに提案したが、丁重に断られた。次にシボレーに提案したが興味を示さなかった。ポンティアックも気乗りしないようであった。
 ところが、ビュイックとオールズモビルはXP-715のクレイモデルを見て、手を挙げた。そこで、GMは両ディビジョンに製造権獲得を競わせることとし、マーケッティングプラン、セールスターゲット、製造コスト、価格などを提出するよう要求した。ビュイックは広告代理店を使ってセンセーショナルなプレゼンテーションを行った結果、勝利を手にした。GMはより高級なビュイックを支持したのではないだろうか。
 スポーツ/ラグジュアリーであるリビエラは、4シーターのサンダーバードやクライスラー300レターシリーズなどと競合する、スペシャリティーカー分野への最初の参入であった。カッコよさとパフォーマンスの両方を備えたリビエラは、印象的なクルマであるだけでなく、ハンドリングとそれに匹敵するパワーで非常に優れたパフォーマンスを発揮した。

◆1963年型ビュイック リビエラのカタログ

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表紙には車名も年式も記載されておらず、ただ「非常に個人的なこともありますが、確かに... 」のコピーがあるのみ。

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表紙をめくると「目の肥えた女性...あるいは男性なら...他のどのクルマよりもリビエラを好む理由がたくさんあるはずです。」のコピーと、女性と男性の好みについて触れ「ビュイックのリビエラは、男性にも女性にも素晴らしい新しいパーソナル・トランスポーテーションを提供します。」と訴求している。

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コピーは「彼女にとって...リビエラは内も外も素晴らしいものです」。

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コピーは「彼に...リビエラは完璧な動力性能を発揮する」。エンジンは401cid(6571cc)V型8気筒325hp/4400rpm、61.5kg-m/2800rpmを積み、オプションで425cid(6965cc)V型8気筒340hp/4400rpm、64.3kg-m/2800rpmも選択可能であった。

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コピーは「女性にも男性にも...リビエラは自動車業界で最も優れた乗り心地とハンドリングを提供します」。サイズは全長208in(5283mm)、全幅76.4in(1941mm)、全高53.2in(1351mm)、ホイールベース117in(2982mm)。

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コピーは「もっと個人的に楽しむために...リビエラ...byビュイック」。ベース価格は4333ドル、生産台数は4万台。いまではコレクターズアイテムとなっている。

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1963年型リビエラのスペック表。

◆1963年ビュイック リビエラ シルバーアロー(シルバーアローⅠ) ショーカー

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リビエラを気に入ったビル・ミッチェルは、生産開始されると早速その1台をデトロイトのクリエイティブ インダストリーズ社に送り、カスタマイズに取り掛かる。そして完成したのがシルバーアローであった。腰から上のトップ部分を2インチほど低くし、Cピラーも作り変えている。ルーフのレザーエッジ・スタイリングは英国のコーチビルダーであるフーパー社(Hooper & Co.)のデザインにインスパイアされたと言われる。フロントフェンダーとフードも数インチ延長されている。ヘッドランプは量産型に先行して、フェンダー内に収めるコンシールドヘッドランプ方式が採用されている。この時点ではこの方式は開発途上であり、量産車に採用されるのは1965年型であった。美しいワイヤホイールをホイールカバーで覆うのも、クラシックカーによく見られた手法である。外装はシルバー塗装され、内装にはシルバーレザーが採用されている。このモデルは2台造られ、1台はショーの展示用に、もう1台はビル・ミッチェルのパーソナルカーとして使用されたと言われている。(Photo:GM)

◆1964年型ビュイック リビエラのカタログ

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エンジンは425cid(6965cc)V型8気筒340hp/4400rpm、64.3kg-m/2800rpmを積み、オプションで425cid(6965cc)V型8気筒ツイン4バレルキャブ360hp/4400rpm、64.3kg-m/2800rpmも選択可能であった。ベース価格は4385ドル。生産台数は3万7958台。

◆1965年型ビュイック リビエラのカタログ

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1965年型ではヘッドランプがグリル内の横4灯式からフェンダー内の縦4灯コンシールド式に変更された。エンジンは401cid(6571cc)V型8気筒325hp/4400rpm、61.5kg-m/2800rpmを積み、オプションで425cid(6965cc)V型8気筒340hp/4400rpm、64.3kg-m/2800rpm 、または425cid(6965cc)V型8気筒ツイン4バレルキャブ360hp/4400rpm、64.3kg-m/2800rpmも選択可能であった。ベース価格は4318ドル。生産台数は3万4586台。なお、1965年型にはオプショナルバージョンとしてリビエラ グランスポーツが設定された。グランスポーツには360hpエンジン、大径パイプの排気システム、3.42:1のファイナルギア比(標準は3.23:1)、専用ホイールカバーなどが標準装備されていた。

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上の2点は1965年型ビュイック リビエラとコンシールドヘッドランプを示す公式写真。(Photos:GM)

 1966年型リビエラはフルモデルチェンジし、駆動方式はFRのままだが、E-カーと呼ばれて新発売されたFF駆動方式採用の1966年型オールズモビル トロネード(Toronade)とプラットフォームを共用する。1967年にはFFのキャディラック エルドラドも仲間入りする。


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執筆者プロフィール

1937年(昭和12年)東京生まれ。1956年に富士精密機械工業入社、開発業務に従事。1967年、合併した日産自動車の実験部に移籍。1970年にATテストでデトロイト~西海岸をクルマで1往復約1万キロを走破し、往路はシカゴ~サンタモニカまで当時は現役だった「ルート66」3800㎞を走破。1972年に海外サービス部に移り、海外代理店のマネージメント指導やノックダウン車両のチューニングに携わる。1986年~97年の間、カルソニック(現カルソニック・カンセイ)の海外事業部に移籍、うち3年間シンガポールに駐在。現在はRJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)および米国SAH(The Society of Automotive Historians, Inc.)のメンバー。1954年から世界の自動車カタログの蒐集を始め、日本屈指のコレクターとして名を馳せる。著書に『プリンス 日本の自動車史に偉大な足跡を残したメーカー』『三菱自動車 航空技術者たちが基礎を築いたメーカー』『ロータリーエンジン車 マツダを中心としたロータリーエンジン搭載モデルの系譜』(いずれも三樹書房)。そのほか、「モーターファン別冊すべてシリーズ」(三栄書房)などに多数寄稿。

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