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第107回 キャディラック エルドラドブローアム
2021.6.30

 今月は締め切りに間に合わなかった。パソコンのハードディスクが壊れたので交換したのだが、そのあと大変な作業が待っていた。使っていたソフトたちをパソコンにインストールし直す作業だ。Microsoft Office 2016はやめてMicrosoft 365を1カ月間無料お試ししてみることにした。いちばん難儀したのはフリーソフトの「縮小専門」だった。画像処理が多いので、このソフトは必需品だが、ダウンロードはできるが動かない。パソコンに疎い筆者はこの問題解決にほぼ1日を費やした。
 やっとのことでパソコンは快調に動き出したが、仕掛であったグランプリ出版に依頼されていた「テールフィン時代のアメリカ車」のカラー口絵(32ページ)の原稿を優先したため、さらに遅れてしまった。

 今回は、以前「第42回 1950年代キャディラックのドリームカー」で紹介したキャディラック エルドラド ブローアムについて「テールフィン時代のアメリカ車」の原稿作成時に何点かの史料が出てきたので、重複はするが紹介することとする。

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1955年のGMモトラマで発表されたキャディラック エルドラドブローアム(プロトタイプ)。超高級モデルの提案で、フォード社が1956年から1957年にかけて1万9695ドルで販売したコンチネンタル マークⅡに対抗するモデルであった。開発スタートは1954年5月で、キャディラック・デザインスタジオのボスであったエド・グロヴァック(Ed Glowacke)の主導でフルスケールクレイモデルが制作された。これをデザイン担当副社長であったハーリー・アールやエンジニアなどが監修して修正し、GMのドリームカーとしては珍しく、スチールボディーのエルドラドブローアムが完成した。このことからもかなり真剣なデザイン提案であることが分かるが、案の定、2年にわたるテストを経て限定生産されることとなった。
プロトタイプはシリーズ62のシャシーを5in(127mm)短くしてホイールベースを124in(3150mm)として、全高はわずか54.4in(1382mm)で量産モデルより7in(178mm)も低かった。エンジンは量産型エルドラドと同じ331cid(5424cc)V8だが、出力は10馬力強化され280馬力であった。

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キャディラック エルドラドブローアム(プロトタイプ)のオフィシャルフォト。プロトタイプにはフロントドアに三角窓はつかない。キャディラックの生産車から三角窓が無くなるのは1969年型からであった。(photo:GM)

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1955年1月、ニューヨークのウォルドルフ・アストリアホテルで開催された1955年GMモトラマで発表されたキャディラック エルドラドブローアム(プロトタイプ)。ボディーカラーは特別に開発された玉虫色のカメレオングリーン。(photo:GM)

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生産型キャディラック シリーズ70 エルドラドブローアムは1956年12月に発表、1957年3月ごろからデリバリー開始され、1957年型として400台が限定生産された。ピラーレスの4ドアハードトップで、ルーフはブラシ仕上げのステンレススチールであった。生産型のフロントドアには三角窓(四角窓)が付いている。サイドシルモールディングが無く、ホイールキャップはタービンの羽根状のものが付いており、これはごく初期のカタログだと思われる。カタログはタテ15cm×ヨコ45.5cm、二つ折りのフォルダーでスペックの記載はない。
 価格は1万3074ドルで、最も安価なシリーズ62の2ドアハードトップ4609ドルの2.8倍、75リムジン6402ドルの2倍もする超高級車であった。

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上の3点は1957年型発表時の広報資料に添付されていた写真。サイドシルモールディングが付いており、ホイールキャップも上記カタログとは異なる。広報資料に記載されたスペックは、ホイールベース:126in(3200mm)、全長:216.3in(5494mm)、全幅:78.5in(1994mm)、全高55.5in(1410mm)、最低地上高:5.3in(135mm)。エンジンは365cid(5981cc)V型8気筒OHVツインCarter 4バレルキャブレター、圧縮比10:1、325hp/4800rpm、400ft.lb.(55.3kg-m)/3300rpmを積む。(photos:GM)

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キャディラック エルドラドブローアムのシャシー。チューブラーセンターXフレームには超高級車の装備として、エアサスペンションとリアにはアメリカ車初の4リンク方式が採用されている。しかし、エアサスの信頼性は低く、リアサスペンションをコイルスプリングに変更するためのレトロフィットキットが用意された。(photo:GM)

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1958年型のカタログ。外観は1957年型と変わらないが、ドアトリム上部がメタルからレザーに変更されているので識別できる。1958年型からホイールキャップが変更されたとする資料があるが、発売時の広報資料で既に変更された写真が添付されており、どのタイミングで変更されたかは確証がない。エンジンはキャブレターをRochesterの2バレル×3基に変更した10hpアップの335hp/4800rpmを積み、304台が限定生産された。生産は他のキャディラックと同じフィッシャーボディーのフリートウッド工場で行われた。

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上の2点は1957/1958年型キャディラック エルドラドブローアムの広告。

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1959年型キャディラック エルドラドブローアムのカタログ。エルドラドブローアムの2代目で、シャシーは130in(3302mm)ホイールベースの標準のものだが、単体でのテストのあとイタリアのトリノにあるピニンファリーナ社に船で送られ、ボディー架装されたあと再度デトロイトに戻され、仕上げとテストを行いディーラーにデリバリーされた。控えめなテールフィン、パノラミックウインドシールドを廃し、「ドッグレッグ(dogleg)」ピラーと称するAピラー、薄く平らなルーフなどは1960年代のキャディラックのデザインに取り入れられることになる。エンジンは他のエルドラドシリーズと同じ390cid(6391cc)V8 トリプルRochester 2バレルキャブレターの345hp/4800rpmを積む。価格は初代より1ドル上がって1万3075ドルだが、フリートウッド75リムジンは毎年値上がりして9748ドルになっていたから、むしろお買い得と言えよう。生産台数は限定99台で、カタログには輸出はしないとの注記があった。

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1960年型キャディラック エルドラドブローアムのカタログ。1960年型を最後にエルドラドブローアムの生産は終了する。ボディー架装はピニンファリーナ社で行われ、エンジン仕様、価格は前年と同じ。生産台数は101台。1959年型の生産台数は99台と公表されているが、実際には100台造ったが、デトロイトで船から荷降ろし中に1台落下させてしまったという説もある。しかし、1960年型は生産台数101台となっているので合計200台と帳尻を合わせている。

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執筆者プロフィール

1937年(昭和12年)東京生まれ。1956年に富士精密機械工業入社、開発業務に従事。1967年、合併した日産自動車の実験部に移籍。1970年にATテストでデトロイト~西海岸をクルマで1往復約1万キロを走破し、往路はシカゴ~サンタモニカまで当時は現役だった「ルート66」3800㎞を走破。1972年に海外サービス部に移り、海外代理店のマネージメント指導やノックダウン車両のチューニングに携わる。1986年~97年の間、カルソニック(現カルソニック・カンセイ)の海外事業部に移籍、うち3年間シンガポールに駐在。現在はRJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)および米国SAH(The Society of Automotive Historians, Inc.)のメンバー。1954年から世界の自動車カタログの蒐集を始め、日本屈指のコレクターとして名を馳せる。著書に『プリンス 日本の自動車史に偉大な足跡を残したメーカー』『三菱自動車 航空技術者たちが基礎を築いたメーカー』『ロータリーエンジン車 マツダを中心としたロータリーエンジン搭載モデルの系譜』(いずれも三樹書房)。そのほか、「モーターファン別冊すべてシリーズ」(三栄書房)などに多数寄稿。

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