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第125回 三樹書房ファンブック創刊号FD RX-7
2021.3.29


出版業界もコロナウィルスの影響を大きく受けている中で、自動車に関する書籍がメインな三樹書房&グランプリ出版は懸命な努力を続けられており、頭が下がるが、このたび三樹書房がお求めやすい価格で販売される「Historic Car Book」シリーズ】(通称ファンブックシリーズ)を立ち上げ、その第一弾としてFD RX-7が選択されたことを大変うれしく思っている。今後もシリーズにふさわしいクルマを慎重に選出し、年に2冊程度ずつ刊行してゆく予定とのこと。このようなシリーズが定着、拡大してゆくことは日本におけるクルマ文化の定着と発展にとっても大変貴重なことだと思う。発刊に際して動画も含まれた以下の三樹書房ホームページをご覧ください。

https://www.mikipress.com/books/2021/03/-rx-7fd.html

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本書の内容
「アンフィニRX-7(FD):初期型(1型)の商品紹介と技術解説」
「マイナーチェンジの記録 : 2型から6型までの技術解説」
「特別仕様車:歴代11車種の解説」に加えて
私の「FD開発の足跡と背景」
貴島孝雄氏による「FDの育成:さらなる進化をもとめて」
生産台数、輸出台数、ロータリーエンジンの歴史年表
など多岐にわたる内容となっている。

その広範囲なデータ、資料、写真は、自動車史料保存委員会が収集したもので、具体的には新車発表時のニュースリリース、広報資料、歴代のカタログ、さらには販売マニュアルやマツダ技報などを参照し、その記述を丁寧に読み込んだもので、写真についてはマツダウェブサイトのニュースルームの写真、貴島さんや私からの提供、以前から自動車史料保存委員会が収集、蓄積してきたものなどが活用されている。

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イギリスの出版社Veloceから出版されたブライアンさん執筆の3冊のFD関連ブック

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ブライアンさんが所有されていた1999年式のFD

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そのブライアンさんのFDと私

Brian Long(ブライアン・ロング)さん
イギリス人の自動車歴史家(Automobile Historian)ブライアン・ロングさんと、ブライアンさんのFD RX-7に対する思いをご紹介したい。ブライアンさんは1967年、かつてのイギリス自動車産業の中心地コヴェントリーで、エンジニアリングとかかわりの深い一族のもとで生まれ、幼くして自動車と深いかかわりをもつようになった。奥様の美穂さんとは、イギリス留学中に結婚され、その後は千葉に在住されている。これまでに90冊近いクラシックカーを中心にした本を執筆、主にイギリスの出版社Veloce から出版されてきたが、私も大変長いお付き合いを続けており、2011年に三樹書房から出版されたポルシェ911(1963-1973)では出版のお手伝いをさせていただいた。FD RX-7に関しては写真のようなブライアンさん執筆の3冊がVeloce社から出版されただけではなく、1999年式のType RB S-Package を所有もされてきた愛好家でもある。以下がブライアンさんのFDに対する想いだ。

『時代を問わずクルマの愛好者たちは何か特別なものを求める。そして多くの場合、魅惑的なモデルは非常に高額な上に、実用性には乏しく、それ1台で日常性生活をカバーすることが難しい。しかしFD RX-7は違う。やりたいことがすべて可能といってもいいぐらいで、レーシングカーのような走り、セクシーなスタイルにマッチした素晴らしいパワートレインとハンドリングを供えているだけではなく、多くの生活シーンを満足させるラゲージスペースも備え、日常生活に対しても大変アットホームなクルマで、価格も魅力的だ。これは決して机上の空論ではない。なぜなら私もこのクルマをしばらくの間所有し、ロータリーロケットとでもいえるモデルに多くの素敵な記憶が残っており、今では手放したことを大いに後悔しているからだ。』

『マツダRX-7 FDプロファイル』の発売直後に本書を購入された読者の方から寄せられたご感想を紹介したい。

(前略)新刊の『マツダRX-7 FDプロファイル』を読んでFD3Sと言うピュアスポーツ車開発の裏側の事が良く分かり、RX-7(FD3S)にマツダが込めた思いも良く分かりました。これまでは私も含め一般ユーザーが読むのはCG(カーグラフィック)誌などの評価する側からの記事でしたが、造り手側の想いを知り、今まで疑問に思っていたことも分かってきました。北米でFD3S販売開始直後だったかと思いますが、マツダのコマーシャルでカートの車載映像が使われていて、その動画を通じてクルマを操る愉しさを伝えていましたので、何でレーシングカートなの? と当時は思いましたが、本書を読み理解出来ました。マツダスタッフ(技術者)の方々は走るのが好きなんですね。スポーツカーの本質を知るドライバーの夢を叶えるために、この先もドライバーを満足させてくれる車を期待しております。(後略)

山本健一氏による基調演説の骨子
本稿を締めくくるにあたり、1986年6月にユーゴスラビアの首都ベルグラードで開かれた国際自動車技術会連盟(FISITA)のWorld Automotive Congressでマツダの山本健一社長(当時)がされた基調演説の骨子をお伝えしたい。なぜならばロードスターやFDの開発に着手したころには、山本社長の以下のような哲学がマツダのクルマづくりに深く浸透しつつあったからで、FDやロードスターなどの開発に際しても非常に大切な指針となったので、まずはロードスター、FDRX-7に関して簡単にふれてから基調演説の骨子に続けたい。

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車評オンライン第123回でご報告したようにロードスターの誕生の大きな原動力となったのは山本健一氏だ。この写真は初期の構想に基づきFRファミリアをベースにイギリスで試作されたメカニカルプロトタイプで、米国での走行評価時に多くの人たちの関心をあつめ、初代ロードスターの開発につながっていった。

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そして平井敏彦氏が開発責任者に任命され初代ロードスターの開発が始まったが、平井敏彦氏がロードスターの基本コンセプトとして提唱したのが「人馬一体」と感性であり、それはまさに山本健一氏の講演骨子そのものでもある。

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アンフィニRX-7は、志、凛、艶、昂をキーワードに開発を進め、徹底的な軽量化をはかり、時代を超えて色あせない艶めきの外観スタイルとREスポーツカーならではの走りを追求したのもまさに山本健一氏の想いに合致したものだ。

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アンフィニRX-7の内装デザイン、メーターレイアウト、ペダルやステアリングの配置、ドライビングポジションなどは、まさに「人とクルマのより良い関係」を反映したもので、貴島氏にバトンタッチ後の最終モデルまでのマイナーチェンジ、最終モデルなどはさらに「人とクルマのより良い関係」をつきすすめたものだ。


基調演説の骨子『人とクルマのより良い関係』
私が「人とクルマのより良い関係」というスピーチ・テーマを選んだ理由は以下の通りです。それはクルマは単に人類のためや、社会のためではなく、クルマを運転したり同乗したりする個々の人々のために作らなければならないと考えているからです。人々の心をとらえ、喜びを与え、生活を豊かにするクルマをつくりたいという私の想いは、芸術家がその思いを絵や彫刻や音楽で表現しているのと同じではないかと思っています。

クルマは生活を豊かにし、人々の夢をかなえる道具であると思いますが、今日われわれは新しい時代を迎えようとしています。そして何をつくったらよいか、そのヒントを得るためには今がどういう時代なのかを見極める必要があります。物を運ぶ、移動するといったニーズを超えて、自分の好みや感覚、心に訴える要素を求めることだと思います。例えば、美しさ、楽しさ、味付けといった、数値では表現しにくい領域を大切にし、クルマを通して自己表現をすると同時に、自分の非常にパーソナルなフィーリングにフィットするものを求めるようになっています。

お客様に"まるで自分のために作られたクルマだ"と思わせる仕組みは何でしょうか? 人は視覚、聴覚、臭覚、触覚、味覚の五感をもっています。各々の人がもっている固有の価値観、美学、感覚などが実に全人格的なかたちで関わりあっており、これは"感性"という表現が最もぴったりとあてはまると思います。これからの商品開発においては、この感性にいかに訴えてゆくかが重要と考えます。

従って、これからのクルマづくりにおいて必要なことは、技術の開発もさることながら、まず人の研究ではないでしょうか? 技術がうまく人々の感性に訴える方向で生かされれば、必ずやクルマと人の間には良い関係が生まれるものと確信します。快適性を例にとってみれば、クルマに乗るとくつろぎを感じ、リラックスし、満足感をおぼえ、楽しく、親しみがわくといったことが重要な快適性の表現となります。

またステアリングへのインプットやブレーキ操作にたいしても、何の違和感も与えず、クルマが思いのままに動くとなれば、まさに人馬一体を呼べる人とクルマの関係が生まれるわけです。このような関係を作り出すには、旧来の数値で表される性能を十分満足させることに加えて、数値では表しにくい領域で、人々の感性に訴えられるかどうかで決まってきます。このように、楽しいと感じる「走り」、心地よいと感じる「室内」、信頼できると感じる「ハンドリング」などをどうクルマに織り込んでゆくかがこれからの商品開発の重要な課題となります。

昨年春(1985年)、三次試験場内に新しいハンドリング・サーキットをつくりました。このサーキットはできる限り実際の運転状況を生み出すため、南仏やドイツに実際に存在する道路*の一部を再現してつなぎ合わせたユニークなサーキットで、ここではテストドライバーは、実際の道路条件に近い状況で運転ができます。(*小早川注:マツダの永年の恩師ともいえるポール・フレールさんにご推奨いただいた道路)

このサーキットのユニークでかつ重要な点はそれだけにはとどまりません。テレメーターシステムという装置が採用されており、試乗中のクルマの運転にかかわるほとんどの物理的な挙動に関するデータ、例えば振動レベル、横Gなどはクルマに取り付けられたセンサーによって検出され、試乗中自動的に刻々と無線で事務所内のコンピューターに送られ分析され、同時にテストドライバーは無線で常に主観的なフィーリングを同じデータープロセスセンターに送ります。私どもはこのような努力を重ねてゆくことにより、感性の世界を切り開く手がかりをつかめるものと期待しています。

今後のクルマ作りを考えるとき、感性という概念が実際どのような意味を持つかをまとめてみるとメーカーとして次の領域に重点を置かなければならないと思います。第一は先進技術によってお客様のソフィスティケイトな感性にアピールする、次に重要なポイントは新しいコンセプトによるクルマづくりと、そのための、人々そのものへの強い関心と入念な研究、第三は、細分化されるターゲットユーザー層を満足させるクルマ作りを効率よく行うためのフレキシブルマニュファクチャリングシステム、我々が決して忘れてはいけないのが、価格と価値、そしてコミュニケーションです。』

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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