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第119回 急速に拡大するクロスオーバーSUV市場
2020.9.28

世界市場で急速に拡大中のSUV市場の大きなけん引力ともなっている、輸入ブランドのクロスオーバーを中心としたSUVに関して三樹書房さんに依頼して以下のようなアルバムを作成したので、今回はそのアルバムをご紹介したい。ただし全ての輸入ブランド、全てのモデルがカバーできてはいないのでその点はご容赦いただきたいが、いかに多くのモデルが存在するかが一目でわかるだろう。それぞれの車種に関する仕様、特徴、価格帯などは省略するので、ご興味ある方は是非ご自分で情報探索いただければ幸いだ。

SUVとはSports Utility Vehicleの略称だが、本来はJeep(ジープ)に代表さるようなオフロード性が重視されたモデルで、アメリカが発祥の地といっても過言ではない。私も、90年代後半の米国駐在時代にはロス近郊のオフロードコースを含む変化に富んだコースで各種のSUVを評価し、マツダの商品企画、開発を積極的にサポートしたのが忘れられない。しかしそのようなオフロード性を重視した伝統的なSUVの市場はむしろ減少しているといってもよさそうだ。なぜならかつては乗り入れることのできた、例えば富士山麓のオフロードコースや、各地のスキー場のゲレンデなどには今では4輪駆動のオフローダ―で乗り入れることはほとんどできないし、アメリカでも走行可能なオフロードコースは減少、古典的なSUVを愛するユーザーも減少してきているとみていいだろう。

一方で、近年世界市場で急速に販売台数が拡大しているのがクロスオーバーSUVだ。乗用車系のプラットフォームを活用、あるいは乗用車系モデルの派生車として広範囲なユーザー層の日常生活での活用を目標としたクルマで、2輪駆動モデルが多く、最低地上高もあまり高くなく、オフロード性は決して高くないが、セダン、クーペ、ハッチバック、ステーションワゴン、ミニバンなどの伝統的、古典的な車種に比べて「よりアクティブなライフスタイルをアピールできるモデル」といえよう。昨今では、ロールスロイス、ベントレー、ランボルギーニ、フェラーリ、ポルシェなどのプレミアムブランドなどからの「高級クロスオーバーSUV」も目を見張るものがある。

ここでちょっと日本市場、米国市場をのぞいてみよう。2020年8月の国内の新車販売台数を見てみると、商用車、SUV、軽自動車を除く普通車の新車販売台数は 107,966台、SUVを除く軽自動車が85,524台、普通と軽を合わせたSUVが58,363台で、SUV比率は23%と、2018年8月のSUV比率14%に比べて大幅に上昇している。2020年8月のレクサスのSUV比率は79%と非常に高く、2018年の64%からかなり上昇している。米国市場におけるSUVの販売比率も興味深く、2020年7月の販売台数のうち、レクサスは76%、マツダは79%、ボルボは81%がSUVだ。

国内メーカーの動向をみるとき、トヨタのクロスオーバーSUV戦略がもっとも顕著で、中でもレクサスブランドは日米ともにすでにクロスオーバーSUVに大きく舵を切っているし、トヨタブランドでも、ライズ、ハリアー、RAV4、C-HRなどの販売が非常に好調なうえに、ヤリス クロスの今後の販売台数は要注目、遠からずカローラ クロスも導入されるようだ。これに対して日産はエクストレイルに加えてキックスを導入、アリアもこのカテゴリーに入るが、商品戦略全体としてはこのカテゴリーに余り注力しているようには見えないし、ホンダにはヴェゼル、CR-Vなどがあり、米国ではCR-Vが健闘はしているが、同様なことがいえる。三菱にはアウトランダー、エクリプス クロス、RVRなどがあるが、販売台数は限られ、今一度思い切ったSUV戦略が必要ではないだろうか? スバルはXV、フォレスター、レガシイアウトバックなどがあり、SUVカンパニーといってもよいが、新しいジャンルへの挑戦は必須であろう。

マツダは近年SUVに注力してきたメーカーで、CX-5、CX-30が日米市場で好調、中国には独自の商品CX-4もあるが、それ以外のSUV(CX-3、CX-8、CX-9)は販売台数が限られ、MX-30は価格がかなり高くなりそうな気がするので台数的にはあまり期待できないとみていいだろう。それよりもマツダ3や2をベースにした広範囲なコンパクトクロスオーバーSUV戦略の確立が必要ではないだろうか。軽自動車のカテゴリーではスズキの健闘が目覚ましく、その中心となっているのがハスラーやジムニーなどのSUVで、TAFTを導入したダイハツの今後にも注目したいところだ。

このように見てくると、EV化や自動運転化などへの注力が大切なことは言うまでもないが、今こそ古典的な車種体系にこだわらない新しいクロスオーバーSUV商品戦略の構築が非常に大切になってきていることは明らかで、どこのメーカーが活性化してゆくか注目してゆきたい。

輸入ブランドのクロスオーバーを中心としたSUVラインアップ(アルファベット順)

Audi(アウディ)
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左上Q2、右上SQ2、左下Q3Sportsback、右下Q3

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左上Q5、右上SQ5、左下Q7、右下Q8

BMW
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左上X1、右上X2、左下X3、右下X4

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左上X5、右上X6、下X7

Citroën(シトロエン)
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左上C3エアクロス、右上C5エアクロス、左下DS3クロスバック、右下DS7クロスバック

Landrover(ランドロバー)
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左上ディフェンダー、右上レンジローバーイヴォーク、左下レンジロバー、右下ディスカバリー

Mercedes-Benz(メルセデス ベンツ)
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左上GLA、右上GLB、左下GLC、右下GLCクーペ

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左上GLE、右上GLEクーペ、左下GLS、右下Gクラス

Peugeot(プジョー)
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左上SUV2008、右上SUV3008、下SUV5008

Porsche(ポルシェ)
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左上マカン、右上マカンS、左下カイエン、右下カイエンクーペ

Some other premium brands(プレミアム ブランド)
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左上ロールスロイス カリナン、右上ランボルギーニ ウルス 下ベントレー ベンティガ 

Volvo(ボルボ)
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左上XC40、右上XC60、下XC90

VW(フォルクスワーゲン)
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左上T-Roc、右上T-Cross、下ティグアン

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

関連書籍
ポルシェ911 空冷・ナローボディーの時代 1963-1973
車評 軽自動車編
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