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第112回 私の心を捉えた輸入車(2020年JAIA試乗会)
2020.2.27

今年で40回目となるJAIA(日本自動車輸入組合)主催の試乗会が2月初旬に大磯で行われ、以前RJC会長も務められた片山光夫氏、フリーランスライター武田隆氏と共に、三樹書房・グランプリ出版メンバーとして参加、事前に決定された各種車両に試乗することが出来た。大磯プリンスホテルを起点とする我々の評価コースは、10年以上前に私が設定したもので、ハンドリング、乗り心地、ロードノイズなどの評価に適した、対向車がほとんど来ない荒れた路面の屈曲路、一般道路、高速道路などを含むとともに、限られた試乗時間の中で総合的な評価が可能なもので、ここ何年も全くといってよいほど路面状況が変化していないのが貴重だ。以下の5台は、私の心を捉えただけではなく、生き残りをかける日本のメーカーのクルマづくりにも参考になるものと確信するので、今回の「車評オンライン」、「ビジネスジャーナル」の小生のコラムでご紹介したい。


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(1) ベンツA250 4MATIC セダン
4,580×1,800×1,430mm 1,580kg
1,991㏄直列4気筒ターボ(224ps、350Nm)
7速AT
車両本体価格:485万円

「スポーツセダン」を考えるとき、コンパクトなサイズは非常に重要で、FF化されたベンツのAクラスセダンに、可変トルク配分型の4輪駆動のスポーツモデルが追加された。224馬力の2Lターボエンジンは圧倒的なパワーではないが、走り始めた瞬間から胸のすく走りをしてくれるとともに、ステアリング・ハンドリングも実にリニアで気持ち良く、加えて乗り心地が大変しなやかなことにも驚かされた。コンパクトなサイズはワインディングロードのスポーツ走行に適しているのはもちろんだが、日本の一般家庭の駐車場、市街地の駐車場でも非常に扱いやすい。居住性は、フロント、リヤとも不足なく、リヤシートは4:2:4の3分割可倒が可能で、420Lのラッゲージスペースも備えている。しかもベンツの高性能セダンでありながら、車両本体価格が500万円以下というのもうれしい。「クルマ好きのお父さん」が是非とも乗りたくなるファミリーセダンであるだけでなく、私のように老齢化が進んだ「クルマ好き」にとっても大変魅力的なモデルだ。

ロールスロイスをはじめとするプレミアムブランドからも続々とSUV&クロスオーバーモデルが導入される中にあって、セダン、クーペなどの伝統的な車種の販売が急速に低下しているが、ベンツAクラスセダン、中でもA250 4MATIC は、セダン市場に風穴を開ける1台になっても不思議はない。A250 4MATIC も含めてAクラスセダンの今後の国内市場における販売動向に着目してゆきたいのはもちろんだが、日本メーカーでもこのような車種を真剣に検討するメーカーが出てきてほしいと思うのは私だけではないだろう。

試乗したモデルで一点だけ気になったのが、荒い路面におけるロードノイズだった。静粛性も高く評価されているA250 4MATIC の試乗記もあることから、今回の試乗車に装着されていたハンコック製のタイヤに起因した可能性もあり、ハンコックブランド以外のタイヤ装着車もあるようなので、機会があれば是非試してみたいところだ。

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(2) ポルシェMacan S
4,695×1,925×1,625mm 1,950kg
2,995㏄直列6気筒ターボ(354ps、480Nm )
7速PDK
車両本体価格:約875万円

次に私の心を強くとらえたのがポルシェMacan Sだった。昨今私が居住している大田区周辺でポルシェMacanを所有する住人が増えてきたが、試乗する機会がなかったので今回の試乗が非常に楽しみだった。試乗したMacan Sは、V6 3Lターボ、出力も354psとなかなかのもので(ベースモデルは4気筒2Lターボ)、走り始めた瞬間からその動力性能に魅了されるとともに、直進時のステアリングのセンターフィールと、そこから舵角を与えた場合のリニアーなレスポンスが非常に気持ち良く、タイトなワインディングロードの走りも存分に満喫することが出来た。オプションで装着されていた車高調整式のエアーサスペンションも大きく貢献しているのだろう、20インチタイヤにも関わらず、乗り心地、ロードノイズなども非常に良好に仕上がっていることにも感銘した。

ボディーサイズは若干大きめだが、大半の家庭の駐車場には対応可能で、車両本体価格はベースモデルが712万円、Macan Sが875万円と、ポルシェとしては決して高いとは言えないところも大きな魅力だ。Macanは車高の低い伝統的な2シーター、2+2などのスポーツカーにとって代わる、「新しいスポーツカー」といっても言い過ぎではなく、今やポルシェの全販売台数の4割にも達しているという情報もあり、最多販売モデルになっていることも十分理解できる。古巣のマツダは云うまでもないが、その他の日本メーカーにもMacanより一回りコンパクトな「ユーティリティ・スポーツ」とでも呼べるモデルの検討を是非お勧めしたい。

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(3) BMW 118i Play
4,335×1,800×1,465mm 1,390kg
1,498㏄直列3気筒ターボ(140ps、220Nm)
7速DCT
車両本体価格:375万円

新型1シリーズのバリエーションBMW 118i Playも乗ることの大変楽しいFFに仕上がっていた。FRの旧型に比べて、ホイールベースは20mm短かく、全幅は35mm拡大の一方、全長は-5mmとあまり変わりないが、後席足元のスペースが40mm拡大、ラッゲージルームも20L増加して380Lとなり(後席を倒すと1,200L)、日本市場にマッチしたコンパクトプレミアムだ。

BMW 118i Playでワインディングロードをかなりなペースで走行した折に感じたのは、日本市場初導入という「タイヤスリップコントール」が貢献してか、アンダーステアを感じず、非常にニュートラルなハンドリングに仕上がっていたことだ。乗り心地、ロードノイズを含む振動騒音もなかなか良好で、1.5L3気筒ターボの走りも不足なく、総じて走ることが大変楽しく、気持ちの良いクルマに仕上がっており、価格もなかなか魅力的だ。

ただし外観スタイルは大型化&一体化されたキドニーフロントグリル、テールランプデザインなどは悪くないが、先代からの変わり代が少なすぎると感じるのは私だけだろうか?マツダCX-30のようにホイールアーチからボディー下部に樹脂パネルを装着してセミクロスオーバー的な味わいを加えたら、かなり新鮮なイメージになったのではないだろうか?

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(4) プジョー508SW GT Blue HDi
4,790×1,860×1,420mm 1,700kg
1,977㏄直列4気筒ターボディーゼル(177ps、400Nm)
8速AT
車両本体価格:526万円

プジョー508SW GT Blue HDiも私の心を捉えた1台だ。「ステーションワゴンの概念を変えるゲームチェンジャー」を目指したというが、一般的なステーションワゴンと比較して、まず外観スタイルと内装デザインがユニークかつスタイリッシュで魅力的だ。ヘッドライトの下から延びるLEDデイライトランニングライトを特色とするフロント周り、ゆるやかな下降線を描くルーフライン、存在感のあるリヤエンド周りなどの外観スタイルは大変魅力的で、シャープで独創的な内装デザインも悪くない。どうしても違和感をぬぐえないBMW Mシリーズの極太のステアリングホイールとは対照的な小径で細めのステアリングホイールの握り感も非常によい。加えて前後の居住性、先代にくらべて182L増えて530Lとなったラッゲージスペース(後席格納時は1,780L)にも二重丸を与えたい。

魅力は見た目だけではない。2L のターボディーゼルは全域で非常に静かで走りも良好な上に、ハンドリングのリニアリティー(追従性)も良好で18インチの45タイヤにも関わらず、マルチリンク式サスペンションと電子制御のアクティブサスペンションの貢献も大きいのか、凹凸路の突き上げも非常に少なく、プジョーの真髄ともいえるしなやかで上質な乗り心地を実現しているのもこのクルマの大きな魅力だ。

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(5) VW T-Cross TSI 1st Plus
4,115 ×1,760×1,580mm 1,270kg
999㏄直列3気筒インタークーラー付きターボ(116ps、200Nm)
7速AT
車両本体価格:336万円

今回の私の心を捉えた5台の最後は、これまではトゥアレグ、ティグアンの2車種だったVWのSUVに対してこのたび導入されたポロと同じMQB プラットフォームを活用したコンパクトSUV T-Crossだ。VWらしい直線的なデザインも含めて全体としてコンパクトなサイズの魅力的なSUVに仕上がっていることを確認した。ポロに比べて着座位置が100mm高いとのことだが、140mmのスライドが可能な後席の居住性と、455Lというトランクスペースもなかなかのものだ。国内向けには、1580mmという全高を大半の立体駐車場の利用が可能となる1,550mmまで下げたほうが良かったのではないだろうか?

エンジンは3気筒1Lのインタークーラーターボで出力は116psだが、走らせても全く不足がなく、3気筒ゆえの振動も全く気にならなかった。一寸残念だったのは、試乗したモデルに装着されていた18インチタイヤにも起因してか、凹凸の多い路面での乗り心地がもう一歩だったことと、特に後席におけるロードノイズが気になった。個人的には、重量、コスト、スノータイヤの価格なども含めてベースモデルに装着されている16インチタイヤで充分だと思う。

同じく3気筒1Lターボエンジンの、今やベストセラーSUVとなったダイハツ/トヨタのロッキー/デイズと、コンセプト、サイズ、デザインが近似しているが、価格的がロッキー、デイズの170~220万円(FF)にくらべて割高感があることは否めない。またFFオンリーで、4WDがないことがどのような市場の反応となるか興味深いが、SUV&クロスオーバー化が急速に進む市場の中にあってVWにとって貴重な車種になることは間違いなさそうだ。

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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