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第86回 シトロエン創立100周年記念イベント
2019.9.29

 今回はプジョー・シトロエン・ジャポン株式会社が、2019年9月17日(火)~23日(月・祝)にかけて東京・赤坂のアークヒルズ アーク・カラヤン広場にて開催した、シトロエン創業100周年記念イベント「CITROËN CENTENARY GATHERING(シトロエン・センテナリー・ギャザリング)」を紹介する。
 1919年にアンドレ・シトロエンが自動車を作りはじめて以来、その一世紀の歴史は、人々の「移動の自由」と「自由な移動」を支え、それを快適なものとするための創造と探求の積み重ねであった。今回のイベントは、そんなシトロエンの考え方や主張の魅力をあますところなく感じることができ、シトロエンファンはもちろんのこと、クルマ好きや家族連れも楽しめるものであった。イベントは、歴代モデルの展示、コラボレーションカフェ、オフィシャルグッズ販売、映画上映、最新モデルの試乗、最終日23日の都内パレードランなど盛りだくさんの内容であった。
 シトロエンは個性の塊みたいなクルマが多く、筆者のファイルにある史料を加えて紹介したいと思いますが、広報活動を重視してきたシトロエンから送られてきたカタログ、写真、冊子は多く、至福の発掘作業に時間をかけすぎて、原稿締め切りに間に合いませんでした。
 発掘作業を進めて気付いたのだが、膨大な量になってしまうので、今回は奇跡的によみがえった1923年タイプC(5HP)を中心に紹介したい。
 他の展示車についても、いずれ一つずつ紹介したいと考えている。

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「CITROËN CENTENARY GATHERING(シトロエン100周年記念の集い)」会場の様子。右に5HP、左にタイプHバンが見える。

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5HPの傍らには「関東某所で発見されたときの様子」を示すパネルが置かれていた。1988年から1989年にかけてレストア作業が行われたが、十分な資料も部品もなく苦労の末復元したとある。

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上の4点は展示された5HP。以下にパネルの解説をそのまま引用する。
「創業から間もない時代に作られた"5CV"ことタィプC。当時のシトロエンは5HPとして販売した、課税馬力が5CVとなる小型のモデルで、1921年のパリ・サロンで発表されたコンパクトモデルである。
 どれくらい小さいかというと、ホイールベースはひと昔前の軽自動車並の2250 mm(後期には2350mm)で、車重は約550kg、エンジン排気量は856ccしかなかった。ただし4気筒であり、B2(シトロエンの第1号モデルであるタイプAの発展型)と同様にー人前の設計でつくられているのがポイントだった。当時のフランスには、弱小メーカーがつくったサイクルカーがたくさん走っていた。それに対して、5HPは大手メーカーがつくった小型自動車の真打というような存在として、世に現れたのだ。
 5HPと同時期にイギリスではオースチン・セブンが登場している。オースチンは当初は2気筒を検討
していたが、フランスのシトロエンの動向を見て4気筒に変更したといわれる。元来このサイズなら2気筒と考えてもおかしくなかった。オースチンの場合は4人乗りにしてファミリーカーにもなったが、5HPは2人、もしくは3人乗りだった。後にホイールベースが2350mmのC3に発展するが、それでも3人乗りだった。5HPは直列4気筒を縦置きしているにしても、ノーズが長めの印象で、優雅なスタイルであることがひとつの売りになっていた。5HPは女性ユーザーを意識しており、生活の役には立っても実用本位のファミリーカーではなく、女性が優雅にお買い物などにも行けるような小型車だった。
 とはいえ、5HPはやや大げさにいえばフランスのT型フォードのような存在でもあり、生産台数は計約8万台と、1500万台のT型に比べればささやかではあるが、自動車の普及に貫献した。当初の価格はB2が1万5500フランに対し、6700フランと半額以下であった。
 5HPは黄色がトレードマークだった。フランス語でレモンのことをシトロン(Citron)というが、それをCitroënと掛けたのである。ちなみにドイツのオペルでタイプCをまねした車がつくられたが、それは緑色に塗られたのでアマガエルのあだ名がついた。
 展示モデルは追加設定された3シーターモデル。後席を1座としたそのレイアウトから"トレフル(クローバー)"と呼ばれた有名なモデルだ。1923年製といわれているこの車両は、第2次大戦後に宣教師が日本に持ち込んだもの。宣教師が北海道に移転する際に手放されたとのことで、その後解体業者にポロボ口の状態で置かれていたのをとある修理工場の経営者が譲り受け、約30年前に、彼が1年かけてレストアしたものだという。
 "トレフル"は1925年から1926年半ばにかけてつくられたモデルだ。展示車両は1923年製といわれているが、その疑間を解消すべくプジョー・シトロエン・ジャポンは本国へ間い合わせを試みたが、初期の頃には販売車両のデータが管理されてなかったようで、正確な生産年は特定できなかった。だが、日本にそういう状態で初期の車両が残っていたことに本国も驚き、関心を持っているという。」

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1923年、タイプCの唯一の欠点であった2シーターのみのボディーを拡大すべく、ホイールベースを100mm延長して2350mmとしたタイプC3に3シーターが登場。初期のものは上図のような助手席に折り畳み式のシートを装備し、右後方に後席を1座設置していた。ドライバーシートの後方はトランクルームとなっていた。スペアタイヤは1924年まではボディーの左サイド、その後はリアに移されている。

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1924年10月(1979年にシトロエン創立60周年を記念して発行された画集「GENEALOGIE(系譜)」による。しかし、2004年に発行された「DATES from 1919 to the present day」には1925年10月とある)に登場した3シーターは前席2座、後席1座の本格的なもので、後席の左右にトランクルームが設置されている。シートの配置が上から見るとクローバーの葉に見えることから「Trèfle(トレフル:クローバー・リーフ)」と呼ばれた。スペアタイヤは後部に移されている。展示された個体はこれに近いので1924年以降のモデルか、あるいは1923年から「トレフル」が生産されていたのか確認したくなる。いずれにしても、展示された個体はタイプCではなく、C3ではないだろうか? ホイールベースを確認すれば分かるのだが。

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タイプC3 5HP トルペード「トレフル」。ドアは左ハンドルの場合は右側、右ハンドルでは左側のみに設置されていた。

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画集「GENEALOGIE(系譜)」に載っていた1922年シトロエン5CVタイプC トルペード 。エンジンは856cc(ボア×ストローク:55×90mm)直列4気筒2ベアリング、SV(サイドバルブ)11hp/2100rpm。冷却はサーモサイフォン(熱対流)方式で冷却ファン、ウォーターポンプは装着されていない。点火方式はバッテリー、コイルとディストリビューターによる。トランスミッションは3速MT。サスペンションは前後とも1/4楕円スプリングのリジッド。フットブレーキはトランスミッションのアウトプットシャフトプーリーに、そしてサイドブレーキはリアホイールドラムに作用した。サイズはホイールベース2250mm、全長3200mm、全幅1400mm、全高(トップを上げた状態)1550mm、トレッド前後とも1180mm、車両重量543kg。タイヤは650×80。最高速度60km/h、燃費14.3km/ℓ、オイル消費量400km/ℓ。ボンネットサイドのルーバーは初期のモデルは3本であった。

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画集「GENEALOGIE(系譜)」に載っていた1925年シトロエン5CVタイプC3 トルペード「トレフル」。1923年に登場したタイプC3はエンジンの点火方式がマグネトーに変更されているが、基本スペックはタイプCと同じ。サイズはホイールベース2350mm、全長3250mm、全幅1400mm、全高(トップを上げた状態)1650mm、トレッド前後とも1180mm、車両重量580kg。タイヤは715×115。最高速度60km/h、燃費14.3km/ℓ。スペアタイヤは1924年まではボディーの左サイドに装着されていたが、1925年には後部に移されている。展示車はこのモデルに近いが、スペアタイヤを左サイドと後部の両方に装着している。

下の6点は1923年ごろ発行されたシトロエン10HP タイプB-2と5HP タイプCのカタログ。

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下の9点は上のカタログに差し込まれていた写真だが、すべて10HPのもので5HPは含まれていない。上から5枚目はランドレータイプのタクシー。デリバリーバンや救急車もあり、多種多様なモデルがラインアップされていた。最後の1枚は、1922年に初めてクルマによるサハラ砂漠横断に成功した、B2ベースのハーフトラック。

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上の6点はシトロエン創業当時の工場の様子。

以上で5HP関連の紹介を終わりますが、取りあえず5HP以外の展示車両の写真を紹介し、折をみて1モデルずつ改めて紹介したいと思います。

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1952年トラクションアヴァン 11BL。

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1955年2CV AZ。

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1990年2CV/6 スペシャル。

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1968年DS21。

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1970年AMI 8。

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1975年SM。

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1974年GSビロトール。

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1987年CX 25GTI。

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1986年BX 16TRS。

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1998年XM Exclusive。

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1997年Xantia SX。

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2008年C6。

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2017年C4カクタス。

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タイプH(年式不明)。

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最近のモデルたち。

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シトロエン関連オフィシャルグッズの売店。筆者が購入したのは広告集「100 YEARS OF CITROËN ADVERTISING」(5000円)でした。

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上の2点はブックショップとその中身。

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「PHOTO CARNIVAL」の看板を掲げたこのこじんまりとしたボックスはフォトスタジオ! シトロエンのホーロー看板と共に写真を撮って、後で送り届けてくれる。筆者も撮っていただいた。


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執筆者プロフィール

1937年(昭和12年)東京生まれ。1956年に富士精密機械工業入社、開発業務に従事。1967年、合併した日産自動車の実験部に移籍。1970年にATテストでデトロイト~西海岸をクルマで1往復約1万キロを走破し、往路はシカゴ~サンタモニカまで当時は現役だった「ルート66」3800㎞を走破。1972年に海外サービス部に移り、海外代理店のマネージメント指導やノックダウン車両のチューニングに携わる。1986年~97年の間、カルソニック(現カルソニック・カンセイ)の海外事業部に移籍、うち3年間シンガポールに駐在。現在はRJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)および米国SAH(The Society of Automotive Historians, Inc.)のメンバー。1954年から世界の自動車カタログの蒐集を始め、日本屈指のコレクターとして名を馳せる。著書に『プリンス 日本の自動車史に偉大な足跡を残したメーカー』『三菱自動車 航空技術者たちが基礎を築いたメーカー』『ロータリーエンジン車 マツダを中心としたロータリーエンジン搭載モデルの系譜』(いずれも三樹書房)。そのほか、「モーターファン別冊すべてシリーズ」(三栄書房)などに多数寄稿。

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