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第97回 ニッサン セレナ e-POWER
2018.11.27

2代目ニッサン ノートは2012年9月に導入されたが、2016年11月のマイナーチェンジ時に追加されたe-POWERが好評を博し、導入後6年も経た今日コンパクトカーのベストセラーの位置を確保している。そのe-POWERの第2弾として導入されたのがセレナe-POWERだ。5代目セレナは2016年8月に導入され、2018年2月にe-POWERが追加されて以来ミニバンのベストセラーとなっている。今回そのセレナe-POWERを評価する機会に恵まれたので、私の目から見たセレナe-POWERの魅力、更には電動化の動きの中におけるe-POWERの今後を予測してみたい。

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e-POWERとは?
e-POWERを一言でいえば、エンジンで発電してモーターだけで走る「発電機式電気自動車」で、EVとの最大の違いは発電のためのエンジンを積んでいるため充電の心配なく、モーターのみで継続して走行できることだ。セレナe-POWERは基本的にはノートe-POWERと同じモーター、同じ1.2L3気筒エンジンを活用、ノートより500kg以上も重い車両重量をカバーするために、モーター出力を25%、バッテリー容量を20%、エンジン出力を7%アップしているが、後述のように実に活発な走行が可能で登坂路も含めてエンジン発電のみで不足なく走れるというのは大変魅力的だ。 e-POWERの現在の比率はノートで6割、セレナで4割とのこと。

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セレナe-POWERのパワーユニットレイアウト
1.8kWh(セル数96個)のリチューイオンバッテリーをフロントシート下とセンターコンソール下に分けて搭載、320 Nmのモーターと1.2Lの3気筒エンジン(62Kw)がセレナの全長を伸ばさずにエンジンルームに収まっていることが分かる。

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セレナとはどのようなミニバンか?
セレナにe-POWERが追加されたのは2018年2月、近年7万台から8万台で推移してきたセレナの年間販売台数が今年は10万台近いレベルに到達しそうで,トヨタのノア・ボクシーを抑えて年間ベストセラーミニバンの位置も確保することになるだろう。

セレナは全長が4.7m前後の3列シートコンパクトミニバンで、全幅は5ナンバーに入るものと、3ナンバーのものがあり、2WDと4WDがあるが、 e-POWERは今のところ2WDのみだ。エンジンはスマートシンプル(S)ハイブリッド車とガソリン車が直列4気筒2Lエンジン(最高出力150ps)であるのに対して、e-POWERの発電用エンジンは最高出力84psの直列3気筒1.2Lだ。モーター駆動のため静止状態から最高トルク(320N・m)で駆動が可能で、1.7トンを超えるクルマを実に爽快に加速してくれる。JC08燃費は、Sハイブリッド車とガソリン車がグレードにより15.0から17.2km/Lだが、e-POWERは26.2km/Lと大幅に良い数値になっている。価格帯はSハイブリッド車/ガソリン車が約243万円~301万円、e-POWERは約296万円~340万円だ。

セレナe-POWERの試乗の印象
まず脱帽したのは静止状態からフルトルクの期待できるモーターならではの走りと静かさだ。S(スマート)モードでの加速の良さに驚いたが、ECOモードでも十分に満足のゆく走りをみせてくれた。静粛な走行が可能なのは、モーター駆動であることが最大の要因であることは言うまでもないが、遮音膜をはさんだフロントグラス、新構造の遮音材を採用したセンターカーペット、エンジン音の侵入を防ぐためのインシュレーター面積の拡大など随所に配慮がなされているため静粛性が高く、走行中のセカンドシート、サードシートの人達との車内のコミュニケーションが容易なことも大きな魅力だ。


ワンペダルドライブ
またECOモードとSモードで可能なe-POWERドライブ(ワンペダルドライブ)は、アクセルペダルを戻すことにより0.15Gまでの減速をしてくれるため、一旦慣れると運転することが実に快適で楽しいだけでなく、通常のクルマに比べてブレーキを踏む機会が70%も減るという。私の約100kmの走行ではほとんどブレーキを踏まなかった。今回は評価出来ていないが、雪が積もった路面や氷結した路面での走行時にブレーキではなく、回生による減速であるために、減速時のタイヤスリップを防げることのメリットが大きいことも予測されるので、日産には是非積雪地帯におけるe-POWERと一般車の事故率の統計を取り、比較してみることをお勧めしたい。

実測燃費
高速を主体とした小林さんの150kmと私の100kmを合わせた約250kmの走行では高速道路の比率が高いことも影響してか実測燃費は17.2km/Lとカタログ燃費には及ばなかったが、このクラスのミニバンとしてはなかなかの燃費で、市街地走行の比率がもっと高い場合にはこれよりかなり良い燃費になるはずだ。充電時は最も燃費率のよい2,000~2,500rpmでエンジンを回すので、エンジンで駆動するより燃費に有利であることはいうまでもない。一方で高速連続走行時には5,000rpm近く回す必要があるようなので、欧州のオートバーンやアメリカのフリーウェイの走行にはあまり向いていないものと思う。

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ミニバンとしての使いやすさ
セレナの大きな魅力の一つはパッケージングの良さと使い勝手だ。3列目の居住性も良好で、2列目は二人掛けのキャプテンシートなので非常に快適で、シートを中央に寄せれば超ロングスライドも可能となる。前席中央のコンソールもウォークスルーが可能な高さにおさえられており、車内の移動も容易だ。随所に設置された小物収納スペースも便利で、ニッサンが「デュアルバックドア」と呼ぶ窓部分だけを跳ね上げられるバックドアにより狭い空間での小物の出し入れも容易だ。セレナを一言でいえば非常に使い勝手のよいミニバンだ。

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内外装デザイン
セレナの外観デザインは競合車のホンダのステップワゴンやトヨタのノア、ボクシーに比べて突出しているとは言えないがミニバンとしてなかなか好感の持てるもので、e-POWERの差別化のためにフロントグリルにブルーのアクセントをいれるとともに、専用デザインのホイールとリアサイドスポイラーを設定、リヤコンビに横3本のアクセントを加え、e-POWER専用色としてミントホワイトパールも設定している。内装デザインも機能性とデザインの両立をはかったもので大変好感が持てる。


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セレナe-POWERで改善してほしいところ
セレナe-POWERは総じて乗り心地の良いクルマに仕上がっているが、住宅地などでの低速の凹凸路での突き上げが一寸気になる。また非常に静かなクルマに仕上がっているのだが、粗粒路におけるロードノイズはもう一歩だ。もっともこれらはセレナe-POWERに限った話ではなく、多くの日本車にも共通した課題だが。また後述の小林さん御指摘のミラーの全幅には私も全く同感で、人と車が共存している狭い道路では左側の通行人が非常に気になった。ミラー自身のサイズは変えずに、片側20mmから30mm程度出っ張りを少なくするだけで安心感は大幅に向上すると思うので是非早急に対応してほしい。

e-POWERの今後への期待
ノートe-POWER導入時に非常に魅力を感じたが、セレナe-POWERの体験により私の「発電機式電気自動車」に対する関心と期待は一層拡大した。日産自身もセレナe-POWERの開発と販売を通してe-POWERの将来性に対する自信と予見が拡大したのではないだろうか?2020年までに電動車の比率を40%に、2025年までには日産の全販売台数(国内?)の50%をe-POWERにすると公言している。EV用電池の革命が起こるまでは、充電が必要ないことに加えてEVに比べて重量、コストのメリットが非常に大きいので、e-POWERが電動車の主流になっても不思議ではない。EVとe-POWERの両方を市販している日産としては難しい面もあろうが、是非試算してみてほしいのはEVとe-POWER の"Well to wheel"(油田からタイヤを駆動するまで)の二酸化炭素の排出量の比較だ。

シングルロータリーエンジンを活用したマツダ版e-POWERへの期待
最後に一言付け加えておきたいのが、マツダのロータリーエンジン(RE)をレンジエクステンダーに活用した「発電機式電気自動車」だ。数年前にデミオにシングルREを搭載したクルマに試乗し、改めてREのコンパクトさと、振動のなさを感銘したが、つい先日マツダが2020年までにREレンジエクステンダーの商品化を考えていることを公言したことを非常にうれしく思っている。REが再び着目されるようになることは間違いないが、マツダにおいても是非ワンペダルドライブを検討してほしい。また「発電機式電気自動車」へのREの活用に加えて次世代REスポーツカーも実現することを心から願っている。


小林謙一氏の試乗記
最後に三樹書房・グランプリ出版社長/RJC会員の小林謙一氏の試乗記で締めくくりたい。
『セレナe-POWERを高速道路中心に(約9割)約150km試乗したが、最初に感じたのは室内が静かなことだった。タイヤからのロードのノイズがなくエンジン音はほとんど室内に入らない。乗り心地に関しては、道路の段差に対してもしなやかでおさまりよく、しっとりした乗り心地であった。フロントシートのサイズ、クッション性も良好で、2列目、3列目シートのサイズも十分な大きさであり、このクラスのミニバンの中でも後席の乗り心地も最上位だと感じた。運転席からの前・後方の視界は良好だが、フロントの見切りはあまり良くない。また176cmの筆者にとっては運転席左側の足元がせまく感じた。一番気になった点はドアミラーの左右の張り出しで、狭い道でのすれ違いの際にかなり神経を使った。家族で使うことも多いクルマなので、できればミラー部分はこのままに、外寸を数センチけずれば市街地での運転はもっとしやすくなるだろう。ぜひ検討してほしい。ハンドリングは適度な重さがあり正確で、握りやすいグリップにも好感が持てた。メーター類も文字・数字も大きくて見やすい、スイッチ類は全て手の届く範囲にあり操作性も良い。ワンペダルドライブも当初は若干違和感があったが、すぐに慣れることができ、適切な減速力のおかげでブレーキペダルに足を踏みかえる必要がなくなる。これは、良い意味でスムーズな運転と安全性にも寄与するだろう。今回の試乗では、新型セレナが十分に熟成を重ねてきたことを再確認した。広く静かな室内と共に良好な乗り心地など、家族などでのロングドライブにも疲れない最適な一台であるといえる。』

セレナ e-POWER ハイウェイスターV(試乗車)
・全長 4,770 mm
・全幅 1,740 mm
・全高 1,865 mm
・ホイールベース 2,860 mm
・車両重量 1,760 kg

発電用エンジン
・直列3気筒
・排気量 1,198 cc
・圧縮比 12.0
・最高出力 84 ps(62 kW)/6,000rpm、(モーター136ps)
・最大トルク 103 Nm(10.5 kgf・m)/ 3,200~5,200rpm ( モーター)
モーター
・最高出力 136ps(100 kW)
・最大トルク 320 Nm(32.6 kgf・m)
・動力用電池種類 リチュームイオン電池

・駆動方式 2WD
・タイヤ 195/65R15
・タンク容量 レギュラーガソリン55L
・JC08モード燃費 26.5 km/L
・車両本体価格(消費税込み) 3,404,160円

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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