三樹書房
トップページヘ
syahyo
第82回 スズキワゴンRスティングレイ(ターボ)
2017.3.27

スズキワゴンRは1993年秋に初代が導入されて以来これまでに440万台が販売され、今回が6代目となる軽ハイトワゴンのパイオニアだ。2月下旬に新型ワゴンRの試乗会があり、今回ここでは取り上げない自然吸気モデルも、「マイルドハイブリッド」によるサポートも含めて日常の足として非常に魅力的な走りのクルマに仕上がっていることを確認したが、私の視点からはスティングレイ(ターボ)のスポーティーで楽しい走り(と経済性)が非常に魅力的で、ISG(モーター機能付き発電機)は今後のスポーティー軽、軽スポーツ、ライトウェイトスポーツなどの爽快な加速感や気持ちの良い走りなどが大切なモデルにも非常に有効な技術ではないかと感じたため、広報車両を借り出し実用燃費も含めて総合商品性の評価を行ったのでご報告したい。

04-dai8201.jpg

04-dai8202.jpg

04-dai8203.jpg

走りと燃費
まず走りと燃費から始めよう。カタログや広報資料には説明がないがターボエンジンは中低速トルクに注力したエンジンに仕上がっているようで、出力アップしたISG(モーター機能付き発電機)と、大幅に容量を増したバッテリー(それでも助手席のシート下に十分収まるサイズ)による加速のアシストも含めて、一般道でこれまでの軽ターボとは一線を画する気持ちの良い走りを体感することができた。ISGの最大の目的はエンジン負荷の軽減による燃費の向上にあるようだが、モーターは極低速で最大トルクが出るため加速時のアシストも明確で、今回横浜往復、千葉君津方面へのドライブなど3日間、これまでの軽では体験したことにない「楽しく気持ち良い」走りを満喫することが出来た。

電動アシストはフルハイブリッドに比べてコスト、重量などの面で大幅に優位であり、今後のスポーティー軽、軽スポーツはもちろん、ライトウェイトスポーツなどにとっても非常に好ましいシステムになるのではないだろうか? 頻度高く行った加速評価を含む一般道が約8割の200km強のドライブでの実用燃費も18.5km/L(満タン法)と自然吸気なみの優れたデータとなった。またISGによるアイドルストップからのエンジン再始動性と振動の少なさは、欧州製の高級車にくらべてもはるかに良好だ。

今回から「マイルドハイブリッド」と呼ぶようになったのはISGの出力アップに伴い、アクセルやブレーキも踏まない場合車速13km/h以下はモーター走行となり、バッテリー残量が3目盛り以上の場合に限るが、発進時のモーターだけによる最長10秒間の「クリープ走行」が出来るようになったからだ。ただし今回の総合評価では(「クリープ走行」の燃費への貢献は不明だが)、ひどい渋滞時を除きクリープ走行の有難みを体感するシーンは正直言ってほとんどなかった。

曲がる・止まる・乗り心地・ロードノイズ
新型ワゴンRのプラットフォーム、ボディー、足回りは、先代に比べて20kgの軽量化が図られる一方で主要構造の全面刷新、高張力鋼板の使用率の拡大などのより剛性が大幅に向上しているようで、走り始めた瞬間から体感できる上に、ハンドリングのリニアリティーも良好で、ワイディング路走行が非常に楽しく箱根などでも是非評価してみたくなった。ただしステアリングのオンセンターがもう一歩クリアーになれば更に好ましいステアリング特性になると思う。ブレーキも制動性、コントロール性共良好で、ロードノイズを含むノイズもそれなりに抑えられている。

乗り心地は60km/h以上ではほぼ不満のないレベルだが、低速時の凹凸路からの突き上げは是非改善してほしい。借り出した広報車の空気圧は正規の2.4kgf/cm2だったので、2.0まで落としてみたが、つきあげ感は満足行くレベルにはならなかった。タイヤ特性、ダンパー特性などを見直して低速時の凹凸路からの突き上げを改善すれば、少々燃費が悪化してもトータルとしての商品魅力が大きく改善されると確信する。また今回の試乗中に2度ほど全く予測しない周辺環境でブザーが鳴り、瞬間だがブレーキアシスト機能が働くシーンに出会ったが、私には前方や側方に障害物があったとは認識できなかったので、障害物認識が過剰なケースがないかどうかメーカーには是非検証をおすすめしたい。

04-dai8204.jpg

04-dai8205.jpg

04-dai8206.jpg

04-dai8207.jpg

04-dai8208.jpg

04-dai8209.jpg

内外装デザイン
「パーソナルスペースと実用スペースを融合した」というエクステリアデザインには今回賛否両論があった。特にワゴンRの外観スタイルをここまで先代モデルに近似したものにする必要はなかったのではないかというのが正直な印象だ。一方でスティングレイの外観スタイルはそれなりの個性と存在感がつくり込まれているように思うのだが、せっかくここまでスポーティーなクルマに仕上がっているターボモデルの外観は、下部をツートーンにするなどして「クロスオーバーイメージ」を取り入れるなど他機種との差別化を推奨したい。

一方の内装デザインには◎を与えたい。室内幅が先代に比べて60mmも拡大されたというのは驚きで、センターメーターの採用と水平基調のダッシュボードによる車幅感は、軽自動車に乗っていることを忘れるほどだ。内装の質感のつくり込みも非常に好感が持て、ヘッドアップディスプレイを含めてメーターの視認性も良好だ。ステアリングホイールの形状、触感も悪くない。ただしNAVIとオーディオのコントロール性には△を付けざるを得ないのが残念だ。

04-dai8210.jpg

04-dai8211.jpg

04-dai8215.jpg

04-dai8213.jpg

居住性と使い勝手
室内居住性と使い勝手にも◎が与えられる。後席の膝前スペースはアメリカのフルサイズカーよりも明らかに優れており、トランプ大統領を座らせアメリカ車と比較させてみたい衝動にかられる。後席には160mmのスライド機能、シートバックには3段のリクライニング機能があり、更にリアシートバックを倒すとワンタッチでほぼフラットな荷室となり、助手席の前倒し機構も使うと、大人が足をまっすぐ延ばして寝ることもできるスペースとなる。またコストはほとんどかかっていないだろうが、濡れた傘の水滴が外に流れるようなガイドのついたアンブレラホルダーは実に良いアイディアだ。雨の後の傘の室内における収納に困った経験を持つ人は多いはずだし、常時傘を収納しておくのにも大変便利だ。助手席クッションを持ち上げるとかなりな物置スペースが実現するのもいい。シーンに応じて室内の色々な使い方が可能なことは本当にうれしい。前後シートも◎とはいかなくとも、サイズ、着座感、ホールド感とも悪くない。

ワゴンRスティングレイハイブリッド(ターボ)への期待
3日間、軽自動車の運転がこれほど楽しめるとは期待していなかった。ただしこのクルマが単なる「ワゴンRのターボバージョン」にとどまっているように思えるのが残念だ。そこで以下を提案したい。まずネーミング上の工夫をして別格な価値を持ったモデルであることを表してはどうだろう? おすすめはワゴンR SS(スマートスポーツ)などだ。次に一目でそのモデルの差別化できるように上部と下部をツートーンにし、クロスオーバー風のイメージにしてはどうだろうか? このような差別化をはかることにより「単なる高性能バージョンの軽自動車に乗っている」というイメージが払しょくできると思うし、私自身の保有願望にも明確に結びつくからだ。

一方で、他メーカーもISGの価値を是非十分に検証してみてほしい。フルハイブリッドに比べてはるかにシンプル、軽量、安価な電動アシストによる低速領域の大幅トルク向上による走りと燃費への貢献はこれからのスポーティーカー、ライトウェイトスポーツカーにとっては得難いものだと思うからだ。

試乗車グレード ワゴンRスティングレイHYBRID T
・全長 3,395 mm
・全幅 1,475 mm
・全高 1,650 mm
・ホイールベース 2,460 mm
・車両重量 800 kg
・エンジン 水冷直列3気筒インタークーラーターボ(DOHC 12バルブVVT)
・排気量 658cc、圧縮比 9.1
・エンジン最高出力 64ps(47kW)/6,000rpm、
・エンジン最大トルク 98Nm(10.0kg・m)/ 3,000rpm、
・モーター最高出力 3.1ps(2.3kW)/1,000rpm
・モーター最高トルク 50Nm(5.1kg・m)/100rpm
・駆動方式 FF
・変速機 副変速機付きCVT
・タイヤ 165/55R15
・タンク容量 27L
・JC08モード燃費 28.4 km/L
・試乗車車両本体価格 1,658,880円(消費税込)

このページのトップヘ
BACK NUMBER

【編集部より】 車評オンライン休載のお知らせ

第128回 私のクルマ人生における忘れがたき人々 ポール・フレールさん

第127回 私のクルマ人生における忘れがたき人々 大橋孝至さん

第126回 コンシューマーレポート「最良のクルマをつくるブランドランキング」

第125回 三樹書房ファンブック創刊号FD RX-7

第124回 日本自動車殿堂入りされた伊藤修令氏とR32スカイラインGT-R

第123回 日本自動車殿堂(JAHFA)

第122回 コンシューマーレポート信頼性ランキング

第121回 マツダ MX-30

第120回 新型スズキハスラー

第119回 急速に拡大するクロスオーバーSUV市場

第118回 ダイハツTAFT

第117回 私の自動車史 その3 コスモスポーツの思い出

第116回 私の自動車史 その2 幼少~大学時代の二輪、四輪とのつながり

第115回 私の自動車史 その1 父の心を虜にしたMGK3マグネット

第114回 マツダ欧州レースの記録 (1968-1970) その2

第113回 マツダ欧州レースの記録 1968-1970 その1

第112回 私の心を捉えた輸入車(2020年JAIA試乗会)

第111回 東京オートサロンの魅力

第110回 RJC カーオブザイヤー

第109回 私の2019カーオブザイヤーマツダCX-30

第108回 大きな転換期を迎えた東京モーターショー

第107回 世界初の先進運転支援技術を搭載した新型スカイライン

第106回 新型ダイハツタントの商品開発

第105回 躍進するボルボ

第104回 伝記 ポール・フレール

第103回 BMW M850i xDrive Coupe

第102回 日産DAYZ

第101回 Consumer Reports

第100回 2019年JAIA試乗会

第99回 東京モーターショーの再興を願う

第98回 2019年次 RJCカーオブザイヤー

第97回 ニッサン セレナ e-POWER

第96回 クロスオーバーSUV

第95回 大幅改良版 マツダアテンザ

第94回 新型スズキジムニー(その2)

第93回 新型スズキジムニー

第92回 おめでとうトヨタさん! & RINKU 7 DAYレポート

第91回 名車 R32スカイラインGT-Rの開発

第90回 やすらかにおやすみ下さい 山本健一様(最終回)

第89回 安らかにおやすみ下さい 山本健一様(その3)

第88回 やすらかにおやすみください。山本健一様(その2)

第87回 ”やすらかにおやすみください。山本健一様”

【編集部より】 車評オンライン休載のお知らせ

第86回 ルノールーテシア R.S.

第85回 光岡自動車

第84回 アウディQ2 1.4 TFSI

第83回 アバルト124スパイダー(ロードスターとの同時比較)

第82回 スズキワゴンRスティングレイ(ターボ)

第81回 最近の輸入車試乗記

第80回 マツダRX-7(ロータリーエンジンスポーツカーの開発物語)の再版によせて (後半その2)

第79回 RX-7開発物語再版に寄せて(後編その1)

第78回 RX-7開発物語の再版によせて(前編)

第77回 ダイハツムーヴキャンバス

第76回 ニッサン セレナ

第75回 PSAグループのクリーンディーゼルと308 SW Allure Blue HDi

第74回 マツダCX-5

第73回 多摩川スピードウェイ

第72回 ダイハツブーン CILQ (シルク)

第71回 アウディA4 セダン(2.0 TFSI)

第70回 マツダデミオ15MB

第69回 輸入車試乗会で印象に残った3台(BMW X1シリーズ、テスラモデルS P85D、VWゴルフオールトラック)

第68回 新型VW ゴルフトゥーラン

第67回 心を動かされた最近の輸入車3台

第66回 第44回東京モーターショー短評

第65回 ジャガーXE

第64回 スパ・ヒストリックカーレース

第63回 マツダロードスター

第62回 日産ヘリテージコレクション

第61回  りんくう7 DAY 2015

第60回 新型スズキアルト

第59 回 マツダCX-3

第58回 マツダアテンザワゴン、BMW 2シリーズ、シトロエングランドC4ピカソ

第57回 スバルレヴォーグ&キャデラックCTSプレミアム

第56回 ホンダ グレイス&ルノー ルーテシア ゼン

第55回 車評コースのご紹介とマツダデミオXD Touring

第54回 RJCカーオブザイヤー

第53回 スバルWRX S4

第52回 メルセデスベンツC200

第51回 スズキスイフトRS-DJE

第50回 ダイハツコペン

第49回 マツダアクセラスポーツXD

第48回 ホンダヴェゼルハイブリッド4WD

第47回 ふくらむ軽スポーツへの期待

第46回 マツダアクセラスポーツ15S

第45回  最近の輸入車試乗記

第44回 スズキハスラー

論評29 東京モーターショーへの苦言

第43回 ルノールーテシアR.S.

論評28 圧巻フランクフルトショー

論評27 ルマン90周年イベント

第42回 ボルボV40

第41回 ゴルフⅦ

第40回 三菱eKワゴン

論評26 コンシューマーレポート(2)

論評25  コンシューマーレポート(1)

第39回  ダイハツムーヴ

第38回 第33回輸入車試乗会

第37回 マツダアテンザセダン

第36回 ホンダN-ONE

第35回 スズキワゴンR

第34回 フォルクスワーゲン「up!」

第33回 アウディA1スポーツバック

第32回 BRZ、ロードスター、スイフトスポーツ比較試乗記

第31回 シトロエンDS5

第30回 スバルBRZ

第29回 スズキスイフトスポーツ

第28回 SKYACTIV-D搭載のマツダCX-5

論評24   新世代ディーゼル SKYACTIV-D

第27回 輸入車試乗会 

論評23 モーターショーで興味を抱いた5台

論評22 これでいいのか東京モーターショー

論評21 日本車の生き残りをかけて

執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

関連書籍
ポルシェ911 空冷・ナローボディーの時代 1963-1973
車評 軽自動車編
トップページヘ