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第81回 最近の輸入車試乗記
2017.2.27

2017年2月にJAIA(日本自動車輸入組合)主催の第37回輸入車試乗会が大磯で行われ、元RJC会長で、現在多摩川スピードウェイの会会長でもある片山光夫氏と何台かの輸入車を試乗することが出来たので、片山氏のコメントとともにご紹介したい。以前にも述べたがこの輸入車を一同に集めた試乗会は欧米でも例がないもので、関係者のご尽力に深く感謝するとともに、輸入車の認知拡大が目的であることはいうまでもないが、日本のクルマづくりにとっての大きな警鐘にもなる大変貴重なイベントであり、今後とも是非とも継続されることを望みたい。


海外ブランド新規登録台数の5年の推移
2012年:241,563
2013年:280,540
2014年:290,196
2015年:285,496
2016年:295,114

今回短評を加えるモデルと価格(アルファベット順)
1) Audi A3 Sportback 1.4 TFSI Sport.....................329 万円
4,325×1,785×1,390mm 1,320kg 1.4L直4DOHCターボ 7速Sトロニック 19.5km/L
2) Abarth 124 spider........................................... 388万円
4,060×1,740×1,240mm 1,130kg 1.4L直4 16バルブターボ 6速MT 13.8 km/L
3) Cadllac CT6 プラチナム.......................................998万円
5,190×1,885×1,495mm 1,920kg 3.6LV6DOHC 8AT 
4) Mercedes-Benz E220 Avantgarde Sports............750万円
4,950×1,850×1,475mm 1,155kg 2.0L直4ターボディーゼル 9AT 21.0km/L
5) Smart BRABUS.........................................317万円
3,550×1,665×1,545mm 1,080kg 2.0L 直4ターボ 6AT 20.6 km/L
6) Volkswagen Tiguan TSI Highline.......................433万円
4,500×1,840×1,675mm 1,570kg 1.4L直4DOHCターボ 6速DSG 16.3 km/L

試乗後の短評

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1)Audi A3 Sportback 1.4 TFSI Sport
(小早川)洋の東西を問わず、数あるブランドの中で「乗ることの楽しい、気持ち良いクルマ」の筆頭に挙げられるのがアウディで、ファミリーカーとしてのA4、A3シリーズの魅力は大きい。A3は2013年にモデルチェンジされた「プレミアムコンパクト」で、今回自動ブレーキシステム、ブレーキやアクセルを自動制御し車間距離と速度を一定に保つアダプティブクルーズコントロールなどは標準装備、メーター内の液晶ディスプレイがオプション設定され(S3 Sportsbackには標準装備)、さらに上級グレードのエンジンは従来の1.8Lから2.0Lに変更された。

試乗車に選択したのはAudi A3 Sportback 1.4 TFSI Sportだったが、走り始めた瞬間から非常に気持ち良いクルマに仕上がっていることを確認した。発進加速、走行中の加速も122psという控えめな出力数値から予測されるもよりはるかに俊足でなめらかだ。唯一気になったのはアイドルストップからのエンジン再始動時間で、スズキのマイルドハイブリッド車のISG(モーター機能付き発電機)による瞬時の再始動との差は大きい。

ステアリング・ハンドリングも、オンセンター付近の気持ち良さと、そこから舵角を与えた時のリニアーなクルマの反応は特筆に値するレベルで、コーナリングも非常に良好だ。試乗車はオプションの18インチタイヤをはいていたが、乗り心地は前席、後席、低速、高速ともに◎を与えられる。

内外装デザインはシンプル&ファンクショナル(機能的)で、オーソドックスだが大変好感が持てるものだ。またアウディのステアリングホイールの触感と握り感はこれまでにも述べてきている通り、世界中のクルマの中のベストといっても良いだろう。Sportbackはハッチバックやステーションワゴンとは一線を画したもので、後席居住性は私のドライビングポジションで膝前にこぶし一つのレベルでぎりぎりだが、取り回しの良さ、価格帯、ハンドルを握ることの楽しさ、気持ち良さも含めて大変魅力的なファミリーカーだ。

(片山)標準の16インチタイヤから扁平の18インチタイヤに変更されたこのスポーツモデルは、FFながら類いまれな走りを見せてくれた。外見は角張ったランプ類が細めでやや弱い印象だが、内装共に地味ながら堅実にまとめられているのはドイツならではである。ナビ画面がメーター間に出るのも未来志向であり、他と一線を画している。タイヤ変更による硬さや突き上げ感も感じることなく、快適なスピード感が得られるのはアウディのDNAであろう。330万円台の価格設定は魅力的である。(小早川注:ベースモデルSportback1.4 TFSIは293万円)

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2) Abarth 124 spider
(小早川)イタリアブランドが作り上げた、マツダロードスター兄弟車アバルト124スパイダーの試乗は楽しみだった。プラットフォームはロードスターと共通だが外板は別仕立てで、半世紀前のフィアット124スパイダーの面影を秘めた外観スタイルとなっている。全長はアバルト124スパイダーの方が145mm長い。ロードスターの外観が好きかアバルトの方が好きかは個人により意見が分かれるところだろう。私の軍配はロードスターに上がる。内装デザインは一見するとロードスターと同一のように見えるが、インパネアッパー、メーターバイザーなどは専用のようだ。オプションパックの装着された試乗車は随所に「アバルト」を感じるものに仕上がっており、アバルトファンにとって魅力的な1台になることは間違いない。

エンジンはロードスターの出力131ps の1.5L自然吸気エンジン(RFは2Lだが)に代わり、フィアット製の1.4Lマルチエアーターボエンジン(出力170ps)が搭載されており、中速~高速の加速はロードスターより明らかに良好で、イタリー製のメインサイレンサーによるスポーツサウンドもなかなか魅力的だがもう一歩ドライなサウンドがほしいと思うのは私だけだろうか? 市街地での加速や低速時の回転上昇などは高速重視のトルク特性に起因するためか今一歩だ。アバルト仕様でありながら6ATが選べるのはうれしい。カタログ燃費はロードスターの方がかなり良いが、遠からず実用燃費、総合商品性も含めて比較評価を行ってご報告したい。

オープン時の外気の巻き込みが少なく真冬でもオープンエアーを楽しめることと、ソフトトップの開閉の容易さ、走行中に開閉できることはロードスターともども称賛に価するものだ。ステアリング・ハンドリングは直進安定性、コーナリング中のステアリングのリアクションはともに良好だが、ロードスターよりも大径の17インチタイヤにも起因してか市街地走行中の路面の凹凸のドライバーへの伝達が気になった。

(片山)日本製の骨組みにイタリアンスポーツのボディーデザインはアグレッシブさを表面に出し、赤いサソリのエンブレムがイタリアの血を誇示する。ビルシュタインのショックアブソーバーやブレンボのブレーキなどが盛り込まれ、マツダオリジナルからの変更を強調しているが、ソフトトップなどマツダが改良を重ねてきた特徴は残されており、使い勝手は非常に良い。試乗した印象は伝統的なスポーツカーらしさが残っており、マニュアル車388万円、オートマチック車399万円という値段設定は昔からのアバルトファンを悩ませるだろう。

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3)Cadllac CT6 プラチナム
(小早川)トランプ大統領の思いとは裏腹に、アメリカの自動車メーカーの日本市場に対する思い入れは薄く、フォードの撤退も含めて日本市場におけるアメリカ車の存在感が非常に乏しいのが残念だ。今回試乗したCadllac CT6 プラチナムは『世界をリードする全く新しいラグジャリー』、『フルサイズプレステージセダンで失われていた俊敏、ダイナミック、情熱をかき立てるパーフォーマンス』、『極上の室内空間とデザイン』を目標に開発されたクルマで、トヨタセンチュリーとクラウンの中間、日産シーマに非常に近いディメンジョンだ。アメリカ市場でこのクラスのクルマで運転手付きというケースはほとんどないと思うので、まさにフルサイズのファミリーセダンだ。

外観スタイルは近年のキャデラックのアイデンティティーをキープ、オーソドックスながら好感がもてるものになっている。内装のデザイン、質感も悪くない。本国には2LターボのFRもあるが、試乗したモデルは3.6 LV6の4WDで、動力性能をはじめ、車体の剛性感、ハンドリングを含む動的質感などは十分満足のゆくもので、高速、ワインディング路などでの走り味も良好だ。アメリカのフリーウェーを走る上では全く不満はなさそうだが、20インチタイヤにも起因してか低速の凹凸路では同日同じコースで評価した複数の欧州車に及ばなかった。4WDゆえにスタッドレスをはかせたい人も少なくないはずであり、20インチタイヤのコストペナルティーはかなりなものになりそうだ。またカメラにより後方の映像を映したバックミラーは老眼の私には映像の距離が近すぎてぼやけてしまい、せっかくの装備だが、標準ミラーに切り替えて運転せざるを得なかった。

Cadllac CT6 プラチナムは価格も1000万円近いこともあり日本における販売台数は限られるだろうが、アメリカ市場も含めて欧州製や、日本製の高級ファミリーカーにはない魅力の更なるつくり込みが大きな課題だと思う。

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4)Mercedes-Benz E220 Avantgarde Sports
(片山)今回試乗したのは2.0Lディーゼルターボが搭載されたモデルで、試乗時間中全くディーゼルらしさを感じさせないほど完成度は高かった。デザインは重厚で、定評のあるメルセデスベンツの質感に加え、最先端の安全装置や、ドライバーアシスト装置などが装備され、基本価格750万円に恥じない充実したものとなっている。室内デザイン、座席の質感と乗り心地はこのクラスの車としては標準的だが高いレベルに保たれている。

この車の2Lディーゼルターボエンジンは、全長約5m重量約2トンの大型ボディーをFR形式でちゅうちょすることなく動かし、加速する。以前多くのメルセデス車で感じた、ドライブシミュレータのような接地感の貧弱さも解消されており、日本の細いワインディングロードを苦も無く走り抜けるのはさすがである。9速の電子制御自動トランスミッションも実にスムーズで、爆発的な加速感は無いものの、高速走行においても全くストレスのない走りが体感できた。

運転して唯一マイナスに感じたのはAピラーとサイドミラーの取り付け部が太く大きく設計されているため、ドライバーの右手下の視界が大きく損なわれることで、狭い道での運転には神経質にならざるを得ない。JC08燃費は21.0キロでこのクラスの車としては破格の経済性と言える。

このクラスの車の購買層は、経済性を主な選択ポイントとして捉えることはなさそうだが、軽油1リッターあたり約20キロ走る経済性は購買を決めるうえで大きなメリットである。

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5)smart BRABUS
(片山)スマートBRABUS(ブラバス)はメルセデスベンツ日本から昨年末に発表されたシティコンパクトsmartのスポーティー版である。三気筒0.9Lエンジンは変わらないものの、ターボの最適化、シフトスピードが向上した6速デュアルクラッチトランスミッション、サスペンションのチューニングなどが施されたBRABUSはスポーツの名に恥じない車に仕上がっている。

試乗車はforfour(フォーフォー)と呼ばれる4人乗り仕様であったが、後席はやや狭く、子供専用と考えるべき。外観は丸まったデザインだが、一目見てスマートとわかる独特のもの。内装は丸いメーター類が散りばめられた感じで統一性に欠け、品質感は高くない。座席は174センチ、70キロ弱の筆者には窮屈感は無く自然になじめ、ペダルやステアリングホイールの位置などもごく自然だ。しかしステアリングホイールは太く、硬いプラスティック風の材質は手になじまない。

走ってまず感じたのは車全体が小気味よく反応することで、初期のスマートから大きく脱皮した。短いホイールベースでも直進性はしっかりしており、高速道路でも全く不安はない。エンジンとトランスミッションのレスポンスも申し分なく、狭いワインディングを走り抜けるのが楽しい。燃費もJC08で20.6キロと発表されており、このサイズとしては標準的だ。今では数少ないRRのパワートレインは加速時にメリットが体感できるが、静粛性としっとりとした乗り心地はこの車の売りではない。

BRABUSには試乗した4人乗りモデルに加え、二人乗りのfortwoと、オープントップのcabrioの三つのモデルがあり、それぞれにtailor madeプログラムと呼ばれる数多くのオプションの選択肢が用意されている。試乗車の基本価格は税抜きで約288万円と、若い共働き夫婦の趣味として収まる範囲内だろう。

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6)Volkswagen Tiguan TSI Highline
(小早川)VWティグアンは2007年に初代が導入されたドイツの最量販SUVで、これまでに280万台以上が販売されてきた。その2代目となる今回のモデルは2016年初頭に欧州市場、2017年1月に日本市場に導入されたもので、VWの生産モジュールMQBの第5弾だ。今回導入されたのは1.4L・TSI+6DSGの前輪駆動で、気筒休止システム、アイドルストップ機能がつく。価格は Comfortline、Highline、R-Lineの3グレードがそれぞれ360万円、433万円、463万円だ。全車目下4WDやディーゼル(TDI)の設定は無い。

旧型に比べて全長70mm、全幅30mmとやや成長したがマツダCX-5と非常に近いディメンジョンのSUVだ。外観スタイルは旧型よりシャープ&スポーティーで、なかなか好感の持てるものに変身、内装デザインも造形、質感ともに向上した。Highline以上には「アクティブインフォディスプレイ」が標準装備され、メータークラスター内にナビゲーション機能が入るのも魅力だ。室内居住性、中でも後席の居住性、荷物の積載性は非常に良好だ。また各種の先進安全技術やデジタルカーライフの充実も見逃せない。

このクルマも走り出した瞬間から気持ち良さを感じた。1.5トンを超える車重だが、1.4Lのインタークラー付きターボエンジンと6速DSGの組み合わせによる走りは非常に良好で、加えて18インチタイヤをはいているにも関わらず、あらゆる速度領域で路面からの不要な突き上げを全く感じない実に快適な乗り心地だ。ステアリングのオンセンターから舵角を与えた場合のクルマの反応が実にリニアーで気持ちが良く、総じて非常に魅力的なSUVだ。新型CX-5との相対比較を是非実施して皆様にご報告したい。

(片山)地味なデザインのティグアンはVWならではの改良を積み重ねて、前モデルを上回る完成度を見せてくれた。最も印象的だったのはエンジンとトランスミッションの見事に調和のとれたスムーズさである。SUVに設定されたこのモデルは決してスポーティーな車ではないが、レスポンス良く静かにスムーズにワインディングロードを駆け抜けてゆくのは不思議な快感であった。外装、内装共にフォルクスワーゲン風が充満していて、これを快感と思うか重圧と思うかは意見が分かれるだろう。433万円付近に設定された値段も少し重荷に感じるのは筆者だけではないはずだ。

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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