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第76回 ニッサン セレナ
2016.9.27

8月末に新型ニッサンセレナの発表会が行われ、その後短時間だが試乗する機会がもてたので今回は新型セレナを中心にご紹介したい。初代セレナが導入されたのが1991年、6年ぶりのフルモデルチェンジとなる今回が5代目だ。セレナはこれまでに150万台が販売された日産自動車の国内における基幹車種だけに、このところあまりにも新車導入が少なかった日産の力の入れ方も半端ではない。新型セレナは小型ミニバンクラストップの室内の広さと使いやすさが最大のセールスポイントで、プロパイロットと呼ばれる高速道路上での同一車線自動運転システムがミニバンクラスで初めて投入された。8,000台という月販目標達成は容易ではないだろうが、これから述べるようにその完成度は高く、日産の業績への貢献は間違いないだろう。

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日本のミニバン市場
国内市場は税金をはじめ車庫規制や車庫スペースなど一家で複数の車両を保有する上での障害が非常に高い。加えて近居率が高く家族の交流も欧米に比べて多いことにも起因してかミニバンのシェアーが非常に高い市場だ。ちなみに2016年の1月~6月のミニバンのトップ10の販売台数は以下の通りだ。

1. トヨタシエンタ    61,054台
2. トヨタヴォクシー   44,377
3. ニッサンセレナ    36,216
4. ホンダステップワゴン 28,699
5. トヨタノア      25,129
6. トヨタエスクァイヤ  23,029
7. トヨタヴェルファイア 21,388
8. ホンダフリード    18,190
9. トヨタアルファード  17,454
10. ホンダオデッセイ   17,427

ニッサンセレナの直接の競合車はトヨタのヴォクシー、ノア、ホンダのステップワゴンなどになるが、2015年に12年ぶりにモデルチェンジしたコンパクトミニバン、トヨタシエンタの販売台数は注目に値するもので、加えて9月半ばには新型のホンダフリードが発表、発売となり(月販目標は6,000台)ミニバン市場の競争は一段と激化しそうだ。

私の愛車もミニバン
そういう私も3年前に娘一家と同居することになったのをきっかけに7年乗り続けたRX-8からゴルフトゥーランに乗り換えた一人で、ゴルフトゥーランには大変満足している。我が家の車庫は全高1,800mmを超えるクルマは格納できないので、セレナやノア、ヴォクシー、ステップワゴンなどはたとえ気に入っても選択肢には入らない。ちなみにゴルフトゥーランの全高は旧型が1,670mm、新型が1,660mmだ。周辺住宅の車庫の状態を見てみると、屋外駐車、屋根下駐車など1,800mmを超える全高でも対応できるケースが多いが、2~3割程度は1,800mmを超えるクルマの格納ができないところがあるようで、トヨタシエンタの販売が非常に好調な理由は、価格や経済性はもちろんだがコンパクトなサイズ(全高1,675mm)もあるに違いない。新型ホンダフリードはデザイン、機能、価格、燃費など旧型よりはるかに魅力的なモデルに仕上がっており(全高は1,695mm)、シエンタにもろにぶつかるだけではなく、ワンクラス上のミニバンとの競合も十分に考えられるため、新型セレナにとっても決して楽観は許されない相手だ。

日産の基幹車種セレナ
日産はかつて国内シェアー30%という目標を掲げていたが、近年は北米、中国などへの注力と比較して日本への対応が後手に回っていることは否めず、7月の登録車のシェアーは7.9%にとどまっている。その中でセレナは1991年に導入されて以来国内市場の基幹車種として安定した販売台数を維持してきた。初代は年平均34,000台、2代目は53,000台、3代目は71,000台、4代目は83,000台としり上がりに台数を伸ばしており、5代目の月販目標は8,000台で、日産の中ではノートに次ぐ量販車種だ。

新型セレナのアピールポイント
新型セレナのコンセプトは"ビッグ、イージー、ファン"で、クラストップの室内の広さ、使いやすさによって家族みんなが楽しめるのが最大のアピールポイントだ。旧型に比べて室内長が180mm伸びるとともに、2列目シートの前後スライド(標準は570mmで一部車種は690mm)に加えて一部グレードでは左右が横スライドも可能で、また3列目シートにも一部グレードにスライド機構がつくなど、シートアレンジの多様性が大きな魅力だ。2列目シートのシートベルトをシートに内蔵することにより3列目への出入りも非常に容易で、3列目シートからドアの開閉が出来る機能も設定されている。シートの居住性も全席とも大変良好だ。

利便性への配慮はシートアレンジに限らない。バックドアが二分割されているため(デュアルバックドア)限られたスペースでの荷物の出し入れや荷物のこぼれ落ちを防ぎたい場合などに便利だし、足先の操作にセンサーが反応し自動でスライドドアが開閉するハンズフリーオートスライドドアもハイウェイスターGの標準装備、ハイウェイスターにオプション装備となるがとても便利だ。USBソケットは各列に2個ずつ、最大6個まで装着可能だ。オプションだがミニバンクラス世界初の同一車線自動運転技術(プロパイロット)の装着も連休などの渋滞走行時や長距離ドライブなどには大変便利であり、導入初期の装着率は7割とのこと、セレナの魅力ポイントの一つとなっていることは間違いない。

内外装デザイン
新世代の日産デザインの象徴ともいえるVモーションのフロントグリル、側面のシュプールライン、躍動感のある局面などなかなかスタイリッシュな外観スタイルに仕上がっている。中でもハイウェイスターはフロント周りやサイドシル周りの彫が深く一段と魅力的だ。内装デザインもインパネデザイン、メーターデザイン、下部のフラットなステアリングホイールなど好感が持てる上に質感も高い。スリムなAピラー、三角窓、高さを抑えたメーターフードなどによりドライバー席からの前方視界が非常に良好である上に、セカンドシートのシートベルト処理、ヘッドレストの小型化など前方視界に対する配慮は2列目、3列目の乗員にとっても大変うれしいポイントだ。ミニバンの後方視界は往々にして課題だが、今回パッケイージオプションとして採用されたスマート・ルームミラーは車両後方に装着されたカメラ映像をミラーに写しだすもので、夜間、雨天時にもクリアな後方視界が得られる価値は大きい。ただし老眼だが運転時には老眼鏡かけない私には画像が近いため画像に焦点を合わせるのが一寸難しいことは一言申し添えておきたい。

走りと燃費
2L直4エンジン、CVT、スマートハイブリッドなどは基本的にはキャリーオーバーだが、エンジンの圧縮比が11.2から12.5にアップされ、最高出力は147から150psになった。最高トルクは21.4から20.4 kgmになったが、走りは総じて不足のないレベルが実現されており、CVTのラバーバンドフィールも気にならない。モード燃費は16.0から17.2km/Lに向上、ジェネレーターをアシストモーターとしても活用するスマートハイブリッドは走りの上でこそ体感はほとんどないが、燃費にもそれなりに貢献しているはずだ。スズキのSエネチャージ同様アイドルストップからのエンジン再始動が非常にスムーズで早いのがいい。

曲がる・止まる・乗り心地・ロードノイズ
プラットフォームとサスペンションも基本的にはキャリーオーバー(前モデルと同じ)だが、各部の補強で車体剛性アップされるとともに再チューニングされており、低速では軽く、高速ではしっかりとした操舵フィールで、クルマの動きもリニアで気持ち良く、操縦安定性能は十分に満足できるレベルにある。ほとんどのモデルが195/65 15インチタイヤをはいていることは乗り心地にも大きく貢献しているはずで(ハイウェイスターGというモデルだけが16インチタイヤ)、「オーバーサイズタイヤシンドローム」を批判し続けている私として大いに拍手を送りたいポイントだ。特に3席目の乗り心地も非常に良好でごつごつ感がないのも15インチタイヤに負うところが大きいと思う。ロードノイズもリアホイルハウス内の吸音ライナーのはりつけとも相まってか非常に静かだ。またサイズが大きくなるほど費用がかさむタイヤ交換や冬用タイヤへの履き替えなどが安価なのもうれしい。

一言でいえば
新型セレナを一言でいえば、小型ミニバンクラストップの室内の広さと使いやすさに加えて内外装デザイン、プロパイロットのオプション設定、さらには走る・曲がる・止まるなどの走行性能の良さなどなかなか魅力的なモデルであり今後も国内の日産を支える基軸車種となることは間違いなさそうだ。一方でトヨタシエンタ、ホンダフリードなどのコンパクトミニバンとの食い合いがどのようになるか今後の動向が非常に興味深い。

試乗車グレード ニッサン セレナG(2WD)
・全長 4,690 mm
・全幅 1,695 mm
・全高 1,875 mm
・ホイールベース 2,860 mm
・車両重量 1,680 kg
・エンジン DOHC筒内燃料噴射直列4気筒
・排気量 1,997cc
・圧縮比 12.5
・最高出力 150ps(110kW)/6,000
・最大トルク 200Nm(20.4kgf・m)/ 4,400rpm
・モーター最高出力2.6ps(1.9kw)
・モーター駆動用電池 鉛酸電池
・駆動方式 FF
・変速機 CVT
・タイヤ 195/65R15
・タンク容量 55L
・JC08モード燃費 16.6 km/L
・試乗車車両本体価格 2,847,960円(消費税込)

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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